金融庁が地銀100行を一斉検証…「金利が上がれば銀行は儲かる」通説の誤算

金融庁が警戒する「スマホ時代の取り付け騒ぎ」

 金融庁がここまで踏み込んだ背景には、2023年に経営破綻した米シリコンバレーバンク(SVB)の教訓があるとみられる。SVBは債券含み損の表面化をきっかけに、SNSでの情報拡散とネットバンキングによって短期間で大量の預金が流出し、経営破綻に至った。今年7月に金融庁長官に就任した伊藤豊氏も、資金流出によって短期間で経営が行き詰まるリスクを強く意識していると報じられている。

 金融庁は今月、地銀・信用金庫向けの監督指針改正案も公表した。人口減少や金利上昇の影響を踏まえて将来的な経営の健全性を検証し、必要な自己資本比率を下回る可能性が高い場合には資本増強を求める業務改善命令を発出できる仕組みを明記する内容だ。特定の経営難行だけでなく、地域金融システム全体が連鎖的に不安定化するリスクを未然に防ぐ狙いがうかがえる。

貸し渋り・貸し剥がしという「もう一つのリスク」

 金融アナリストの川﨑一幸氏は、次のように指摘する。

「預金という調達資金が細れば、銀行は自己資本比率や流動性規制を維持するために、貸出のボリュームを圧縮せざるを得なくなる局面が出てくる。地域の中小企業にとっては、新規融資が受けにくくなったり、既存融資の見直しを迫られたりする可能性を念頭に置いておく必要がある」

 もっとも、これは全ての地銀に等しく当てはまる話ではない。経営基盤が堅固で、地域企業との関係性を武器に貸出金利の適正な引き上げを進められる銀行と、預金争奪戦で後手に回る銀行との間で、今後は明暗が分かれていく可能性が高い。実際、金融庁関係者からは「金利の上昇は競争につながり、勝者と敗者が現れる」との見方も伝えられている。

個人・中小企業経営者が今からできる備え

 不安をあおる必要はないが、金利のある世界への移行が地域金融の構造を変えつつあるのは事実であり、個人・事業者双方に一定の備えは有効だろう。

個人の場合:預金保険制度(ペイオフ)による保護は、原則として1金融機関あたり元本1000万円とその利息までである。取引先を一つの地銀に集中させている場合は、複数の金融機関への分散を改めて検討する価値がある。また、金利の高さだけでなく、経営の健全性や情報開示の状況にも目を向けたい。

中小企業経営者の場合:メインバンクを一行に依存する体制は、そのメインバンクの調達環境が悪化した際に自社の資金繰りへ直接影響しかねない。政府系金融機関やメガバンクとの複数取引、コミットメントライン(融資枠)の確保など、資金調達チャネルを分散しておくことがリスク管理として重要になる。

金利のある世界は「淘汰と選別」の時代でもある

 金利のある世界への回帰は、日本経済にとって長期的にはデフレ脱却の象徴であり、歓迎すべき変化である。ただし、それは同時に、預金と貸出の両面で経営規律が問われる「選別の時代」の始まりでもある。金融庁による全地銀100行の一斉検証は、特定の銀行を狙い撃ちするものというよりも、金利上昇という新しい環境に地域金融システム全体が耐えうるかを見極める、いわば「健康診断」に近い取り組みだと理解するのが実態に近いだろう。

 今後も金融庁のヒアリング結果や各行の対応、日銀の追加利上げの動向を注視していく必要がある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト)