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主人公・龍左衛門は、品川の茶家見川(さけみがわ)に面した船宿・『鯉志(こいし)』で船頭を勤める粋な若者だ。
彼の両親は、十年前(1774年)に茶家見川の洪水に巻きこまれ、そろって行方不明になっていた。
かつて『茶家見川、二十五町(約二千七百二十五メートル)に店百軒』とうたわれたこの川は、武州金沢藩(神奈川県横浜市)の申し立て……洪水ばかり起こしている……で一度埋めたてられた。それが、明和の大火(西暦1772年)を境に防火帯としての価値が再認識され、ちょうど十年前に復活したという経緯を持っている。
龍左衛門の両親が犠牲となったのは、皮肉にも、川を掘りかえす工事の終盤に起きた事故であった。
そんな時に、龍左衛門は一人の河童と知りあった。両親の遺体が中々見つからなかった彼に、河童は船頭としての手ほどきを行い、新たな人生のきっかけをもたらした。
両親の行方不明から、十年後(1784年)。
初秋の黄昏時に、その日の仕事を終えた龍左衛門は、河童から相撲に誘われた。
相撲の誘いを断った龍左衛門だが、土俵代わりに使っている廃神社に、若く美しい女性が住みついていると聞かされた。
河童と別れて『鯉志』に戻った彼は、いつものように女将のおふみに労われ、店の看板をしまおうとした。
その時、一人の客が舟を出してほしいと頼んで来た。武家の女性とすぐ分かる彼女は、河童が語っていた神社のそれで、かつて茶家見川の川舟改役を勤めていた櫛田家の娘であった。
渋るおふみに対し、櫛田は、自分の生死を賭けた仇討ちが目的だと語った。というのも、彼女には恋人がいたのに、櫛田を置いて婿養子に出されてしまった。納得出来ない二人は駆け落ちを計画していたが、婿養子先にばれてしまい、手討ちにされてしまったのである。
恋人の仇……桐塚 重斎(きりづか じゅうさい)は、武州金沢藩の末席家老。幕閣に働きかけ、茶家見川を埋めたて、そして掘り返させた張本人であった。
※完結保証。約十一万五千字です。
※最終話は十月二十八日(火)の夜十時十分に公表されます。
文字数 116,192
最終更新日 2025.10.28
登録日 2025.10.17
主人公・銅吉(どうきち)は、品川に住む若き戯作者である。彼は、幼いころのお百度参りがきっかけで銭霊(ぜにだま)に取りつかれていた。銭霊は、彼に危機が迫ると、前触れなく程度に応じた銭を与える。
折しも田沼時代の絶頂期。銅吉は売れっ子戯作者として名を馳せているが、ここ数ヶ月は思うように筆が進まない。そこへ、銭霊が十両もの大金を部屋の天井からもたらした。
近年にない大きな危機を悟った銅吉は、少しでも功徳があればと願い、十両をそっくり寄進するべく近所にある寺……松森寺(しょうしんじ)に向かう。そこは、まだ幼かった彼が、流行り病にかかった両親のためにお百度参りをした寺である。しかし、善行虚しく両親は死んだ。松森寺とは、孤児となった彼が、大人になるまで世話になった場所でもあった。
銅吉が、こっそりと十両を寺の裏庭に投げいれようとした時。突然現れた一匹の三毛猫が、小判を一枚くわえた。そして、彼に対して『銭霊に見こまれただけあって、うまそうだねぇ。せいぜい頑張りな』と語り、すぐに消えた。
その日の晩、隣の部屋に住む魚の行商人・太助(たすけ)が部屋まで飲みにきた。銅吉は、彼から幽霊が出ると噂になっている墓場について聞かされる。すなわち新たな作品の題材を予期させられた。
これこそ、銭霊が警告する危機の発端であった。
第11回歴史・時代小説大賞にて『お江戸あやかし賞』を受賞しました! ありがとうございます!
文字数 116,402
最終更新日 2025.06.12
登録日 2025.05.30
アンは箱庭造りを唯一の趣味とする子爵令嬢。そして、公爵家四男・イリグムの婚約者だ。にもかかわらず、アンは彼からまるで無視されていた。それというのも、イリグムは博打と流行と自由恋愛にだけ興味のあるろくでなしの怠け者だったからだ。
アンは、実家をでてイリグム邸に住んでいた。ここ何年も、公爵家の人間にふさわしくなるため訓練を重ねている。しかし、侍女兼メイド頭のサバルにさえ冷たくあしらわれる始末。
そんな日々のなか、イリグム邸の中庭で会った不思議な銀髪の少年・ケムーレはアンを裏庭の廃品倉庫に連れていった。そこには彼女の運命をがらりと変える魔法の箱庭があった。ケムーレは魔法の箱庭に宿った精霊であり、箱庭好きのアンを気に入っていた。
一方。イリグムは新たな婚約者としてエランを迎え、アンに無実の罪をきせて婚約破棄のうえ追放した。アンはケムーレに助けられ、どうにか公爵家を脱出できた。
そこでケムーレは姿を消してしまった。
文字数 51,118
最終更新日 2023.10.21
登録日 2023.10.16
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