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宵闇の大森林、浅部。
魔物の出る森の奥に、その宿はある。
温泉宿ジパング。露天風呂と内湯、朝夕二食付き。一泊、銀貨一枚。
敷地の内側に魔物は入ってこられません。
くつろぎの空間を提供しています。
* * *
真田将宗は三十二歳。病気で死んだ。
気がつくと真っ白な部屋にいて、見知らぬ五十人ほどと一緒に選択を迫られた。記憶を捨てて輪廻へ戻るか、記憶を持ったまま異世界で生き直すか。
異世界を選んだ者には転移特典が与えられる。ただし選べない。抽選。しかもガチャガチャ。
一等、聖剣エクスカリバー。
マサムネが引いたのは、八等【迷宮核(小)】だった。
等級は強さ順ではなく、神様側の製造コスト順らしい。安く作れるから八等。夢がない。
地図なし。金なし。食料なし。転移先は無作為。放り出されたのは、魔物のうろつく大森林のど真ん中だった。
そして彼は、たった一つの切り札を使って――風呂を沸かした。
湯気の向こうに広がる巨大な露天風呂。黒い岩を組んだ湯船に、檜造りの内湯。竹垣の向こうには石灯籠まである。
どこの高級旅館だ。
頭を抱えるマサムネの隣で、命の恩人である褐色肌のアマゾネス――女王ペンテシレイアは、当たり前のように服を脱いで湯へ入ろうとしていた。タオルは巻かない。
「風呂に入るのだぞ?」
「だからだよ!」
そして彼女は、そのうち勝手に女将を名乗り始める。
* * *
魔王討伐なし。国盗りなし。使命なし。
あるのは、湯と、飯と、布団だけ。
森で傷ついた冒険者が湯に浸かって発ち、行商人が荷車を停めていき、浴衣姿のアマゾネスたちが食事処を埋め尽くす。
そうして少しずつ、この宿は誰かにとっての「帰ってこられる場所」になっていく。
帰る場所を持たなかった男が、みんなの帰る場所を作っていく話です。
お湯加減は最高です。どうぞ、ごゆっくり。
文字数 27,227
最終更新日 2026.09.17
登録日 2026.09.17
【あらすじ】大学一年生で命を落とし、異世界へ転生した如月怜音(レオン)。現地の人間とうまく馴染めず、伝説の剣「星の剣」だけを相棒に、三年間たったひとりで迷宮に潜り続けていた。
そんな彼が唯一心を許せたのは、通い詰めた娼館のふたりの女性――クールで気高いクラウディアと、明るく人懐っこいミランダ。ふたりを自由にしたい一心で、レオンはある決断をする。「ふたりとも、俺が身請けする」。
不埒だと分かっていても、譲れなかった。三人での新生活が始まったグレイシアの街で、レオンは静かに、けれど誰よりも本気で、ふたりの幸せのために剣を振るう。
盗賊、迷宮の魔物、そして過去に囚われたままの家族――ふたりの笑顔を守るため、レオンの戦いはまだ終わらない。
不器用で、口下手で、でも誰よりも一途な転生者と、ふたりのヒロインが紡ぐ、あたたかい異世界ラブファンタジー。
文字数 107,995
最終更新日 2026.08.05
登録日 2026.07.04
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