「残業したくないんですよね」「それって僕の仕事ですか?」「飲み会ダルいんで行きたくないです」「そのやり方タイパ悪くないですか?」
指示は素直に聞かず、指導をすれば「それってパワハラですよね?」と口答え。世間は「価値観のアップデート」を強いてきて、Z世代への指導はどんどん弱腰になってしまう。好き勝手にふるまうZ世代部下のおかげで、職場の空気は弛緩する一方です。つけあがってさらにモンスター化するZ世代部下は、あらゆる職場に出現し、管理職を困らせています。そんな現状に、ビジネスライターの黒坂岳央さんは「Z世代を甘やかしてはならない」と警鐘を鳴らします。Z世代部下にかき回された職場を正常化するために、Z世代を甘やかさない、毅然としたコミュニケーションを身につけましょう。
今、日本全国で「Z世代部下を叱れない上司」が増えている。何か注意をすれば「それってパワハラですよね?」と返され、少し負荷をかければ「メンタルが不調なので休みます」と連絡が来る。困りきって答えを求めた書店の棚には、「新しい世代の価値観を尊重しよう」「否定せずに話を聞こう」といった口当たりのいい本が並んでいる。結局どうしていいかわからないまま、多くの管理職が、腫れ物に触るようにZ世代と接し、言葉を選び、顔色をうかがい、疲弊しきっているのが現状だ。
しかし、それをしても当のZ世代部下は仕事に励むわけでもない。上司が苦しんでいる傍ら、羽を伸ばしているだけだ。会社の利益も労働生産性も上がっていない。一体、これは何の罰ゲームなのか? はっきり言って「若者へ理解を示す、物分かりのいい上司」とは「Z世代部下にとって都合のいいコマ」をきれいに言い換えた言葉に過ぎない。それは単なる「事なかれ主義」、厳しく言うと「逃げ」である。そのまま放置すれば問題は解決するどころか、ますます悪化するだけだ。
では、どうすればいいか? そのファーストステップとして、まずはZ世代の実態を正確に理解することだ。彼らとて宇宙人などではなく、同じ人間である。
Z世代とは一般に、1990年代中盤から2010年代初頭に生まれたデジタルネイティブを指す。彼らの特徴を一言で言うと、コスパ・タイパ主義。意味のない苦労を嫌い、組織への帰属意識よりも個人の「ありのまま」を大切にする傾向があると言われる。
対称的に筆者を含め、現在管理職のボリュームゾーンにあるのは「就職氷河期世代」で、彼らとは価値観が真逆に近い。若手時代に「正社員になれるだけありがたいと思え」「嫌なら辞めろ、代わりはいくらでもいる」と突き放された経験を持つ人も多いはずだ。
理不尽な長時間労働や叱責に耐え、泥水をすすってキャリアを築き上げてきた世代である。筆者は「正社員になるならプライベートの充実は諦めろ。定時退社がしたければ派遣かバイトになれ」と言われたことがある。特段珍しくない。それが当たり前の時代だったのだ。
それが今はどうだ。少子化による人手不足を背景に、若者は「労働者様」として崇められている。かつて「嫌なら辞めろ」と言われた我々が今、「どうか辞めないでください」と、自分より遥かに経験の浅い若者に頭を下げている。この状況に、強烈な違和感と理不尽さを覚えるのは、あなたが被害妄想に囚われているからではない。かつてと比べて社会構造そのものがあまりにも違うのだ。
Z世代の特徴として、「失敗を極端に恐れる」「傷つくことを回避したがる」という点が挙げられる。小学校の頃からクラスのLINEグループがあり、SNSで他人の目に晒されて育った彼らにとっては、他人からの評価が最重要で、否定されることは死に等しい恐怖なのかもしれない。だからこそ、彼らは「叱らない上司」を歓迎する。自分のやることを全肯定してくれて、厳しいフィードバックをせず、心理的安全性が確保されたぬるま湯のような環境。それは彼らにとって、居心地のよいコンフォートゾーンである。
しかし、その「心地よさ」には毒が含まれている。ビジネスの現場において、未熟な新人が何の矯正も受けずに成果を出すことなどあり得ない。箸の持ち方を教わらなかった子供が、大人になって恥をかくのと同じだ。「叱られないこと」は、短期的には快楽だが、長期的には「社会人としての死」が待っている。
一体どういうことだろうか? 若い彼らもいずれ年を取る。仮に30代、40代になっても新人のようなミスを繰り返し、基礎的な作法も身についていないなら、もはや「救えない中年」だ。当然、重要なプロジェクトなど任されるはずもない。
同期や後輩が成果を出していく中で、自分だけが取り残される。その時になって初めて、彼らはこう言うだろう。「我々は見捨てられた世代だ」と。そんな未来は当人だけでなく、上司であるあなたも会社も望んでいないはずだ。
だが、もしあなたが「ハラスメントと言われるのが怖い」「嫌われたくない」という保身から口をつぐむならば、あなたは部下をその絶望的な未来へ突き落としていることになる。厳しく聞こえるかもしれないが、それは部下に対する「育児放棄(ネグレクト)」と同じだからだ。
「怒る」は感情の発散という自分の利益追求行為だが、「叱る」は相手の行動に関心を持ち、エネルギーを使って正しい道へ修正を促す利他的な行為という点で大きく異なる。また、言うまでもないことだが、新人教育は上司の「仕事」である。「君にはもう期待していない」と見捨て、戦力外通告を出すことは、その責任を放棄するということに他ならない。結果として彼らを「市場価値のない人材」へと追い込んでいる現実にはもっと自覚的であるべきだ。