では、ナンバー2に求められる能力とは何かということなのですが、これは1つ、とても大切なものがあります。ナンバー2が、トップより優れていないといけないポイントが1つだけあるのです。
多くの会社を見てみても、トップのほうがナンバー2よりも、ほぼすべての分野で優れているというケースがほとんどです。事業を作る力とか、営業力とか、商品を生み出す力とか、顧客志向の高さとか、ビジョンを描く力とか、決断力とか、実行力とか、人を巻き込む力とか、たいていの場合トップのほうがナンバー2よりも優れています。
とりわけ経営者は「なんとかする力」の高い人が多いので、どんな問題が起こっても、たいていなんとかする力を持っています。そうした、圧倒的な総合力を持つトップに対して、ナンバー2が超えていないといけない力が1つだけあるのです。なんだと思いますか?
それは、危機感です。つまり、いかに心配性かということです。ナンバー2の危機感がトップを超え、トップ以上に心配性だと、組織運営のいろんなことがうまくいきやすいのです。
そもそもトップは、基本的に危機感も高いものです。業績悪化のシグナルや、顧客の満足度が下がっているとか、商品の品質が悪くなっている、従業員の満足度が下がっている、離職の可能性がある等、そういった様々な危機に関して感度が高く、常に高い危機感を持っています。
そのため、ナンバー2の危機感が低いと、最悪のコミュニケーションになります。
社長がナンバー2に「あれどうなっている?」と質問した際、ナンバー2の危機感が低いと、「大丈夫だと思います。心配には及びません」と安心させようと問題ないことをアピールしがちです。
すると、「本当か?」と心配になった社長が実際に現場に行って確認すると、社長が恐れていたことがすでに起きていて、「これはまずい!」といろいろな手を打ち始めます。そして、危機感の低いナンバー2に対して、「なんでこれが把握できていないんだ!」「なんでこの現状に手を打たないんだ!」「スピードが遅い!」と怒りが湧いたりして、さらに厳しく当たるようになります。ナンバー2が楽観的だと、社長をより心配性にしてしまうのです。
ナンバー2の危機感がトップよりも高い場合は、どうでしょうか。
「あれどうなっている?」と質問したときに、「社長が気になった点はどこですか? 社長が気になったということは、何か問題があるかもしれません。調べてみます」と現場にすっ飛んでいき、現場で問題を発見したら、即、社長に連絡し、「社長が感じられた通り、非常にまずいことが起きていました。それに対して、〇〇、〇〇、〇〇という手を打とうと思いますがよろしいでしょうか」というように、社長の危機感を先回りして対応をします。
そうなると社長は安心し、「いやいや、早めに発見できてよかった。そこまでする必要はないから、あとは任せるね」とよりナンバー2を信頼し、良い関係が築けていくのです。
楽観的でないとしても、トップを心配させないためにあえて悪い情報は伝えないということはよくあります。
現場に口を出さないでほしい。もっと信頼して任せてほしい。そう思うからこそ、社長から指摘を受けても「大丈夫です」と言ってしまうのです。細かく介入されるくらいなら、情報を少なめにして口を出さないようにしよう。そう考えてしまうのもわかります。
そうして、現場の不具合や問題を報告せず、「大丈夫です」「うまくいっています」「改善してきています」と言ってしまうのですが、それが経営者の目には危機感の低さに映ります。
結果として、社長はナンバー2に対して、「経営の大事なポイントを重要視しない」「すぐに動かない」「悪い状況に蓋をして、いい報告しかしない」と考えるようになります。これでは、ナンバー2とトップの関係性は、悪くなる一方です。
実際、私の支援先で、ナンバー2によって人格も組織づくりもガラッと変わった経営者がいます。
その経営者は元々、厳しい方でした。現場に求める基準が高く、ああしなさいこうしなさいと細かく指示を出すタイプ。基準が下がることを嫌い、やれていないことがあると、できるようになるまで細かく進捗を確認します。
数年間にわたって、いろいろな方がこの会社のナンバー2に就いたのですが、あまりの厳しさに続かず、専務、本部長などナンバー2の役職に就いた方が、入っては辞め入っては辞めを繰り返す状況が続いていました。経営者自身は、顧客志向も高く、社員想いで、人の育成にも力を入れている人格者なのですが、基準を下げることができず、どうしても厳しくしてしまうのです。
そのとき、社員からあがっていた意見は、「トップダウンが強すぎる」「もっと現場を信頼してほしい」「現場に口を出しすぎる」「任せてくれない」「褒めてくれない」と、いわゆるダメ社長と言わんばかりの評判でした。
そんな会社に、ある部長が入ってきて、すべてが一変しました。
この部長、危機感のコントロールが抜群にうまい方で、経営者が疑問に思ったり不安に思ったりするだろうところを前もって確認し、すぐに手を打つのです。この方が入社して以来、あれほど現場に口を出し、細かく、厳しく部下に当たっていた経営者が、人が変わったように、現場を信頼し、任せ、うまくいったらねぎらうようになったのです。
経営者の性格が変わったわけではありません。誰かが変えようとしたわけでもありません。ナンバー2の危機感が経営者よりも高かっただけで、組織の体質がガラッと変わり、経営者自身も大きく変わったのです。
最初に、女性が男性よりも心配性だということを言いました。家庭内において、基本的に奥さんは、旦那さん以上に危機感があるものです。家族の問題のあらゆる局面に気を配り、多くの心配の種を抱えています。
そうした奥さんに対してどう接するべきか。会社組織における社長とナンバー2の関係そのまま家庭に置き換えてみると、解決策もおのずと見えてくるのではないでしょうか。少なくとも、心配性の奥さんに対し、楽観的に「考えすぎ」「心配しすぎ」「大丈夫だろう」と言ってしまうのは悪手でしかないのは言うまでもありません。
次回は、どのような会話を心がければいいか、その方法についてさらに具体的に述べていきます。