〈衝撃〉ベトナムのコメは「キロ100円」 どうしてそんなに安いのか?日本人も知るべきベトナム農業の実情

2025.11.22 Wedge ONLINE

 クイさんの経営は、第1期作が主軸(全面積で実施)で、第2期作は限定的に5 haのみ実施している。コメどころのベトナム南部で広く行われている完全な二期作とは異なる「部分二期作」体制だが、今年は台風の影響で二期作目の面積が例年より小さいそうだ。最近では付加価値の高い日本型の品種を栽培している。

 1月中旬に播種し6~7月に収穫、6月下旬に播種したものは9月中旬から10月に収穫する。基本はクイさん一人で作業し、播種期や収穫期には、1~3日間だけ数人雇っているという。「全面積を二期作にするほどの労働力・水利・機械稼働体制が整っていないため、段階的に一部圃場で試みている形態」とクイさんは話す。

クイさんの収穫後の圃場

 なぜ、50ヘクタールもの規模を一人で運営できるのか? クイさんは現在、機械を持たず外部に作業を委託しており、トラクターやドローン散布なども依頼している。「数年前までは自前で機械を持っていたが、維持費や手間を考え外部委託に切り替えた」と理由を語る。

 ベトナムでは、このように農機具を持たず、所有するのは倉庫のみという農家が多いらしい。日本では数ヘクタールの経営でも重労働だが、ベトナムでは外部委託サービスが高度に発達しており、その分、少人数でも大規模経営が成立している。

倉庫を案内するクイさん

 農作業を100ha以上の大規模農家に委託し、自身は機械作業以外の栽培に専念する。今回、野菜農家も訪問したが、農機具を所有せず、必要な時に農家組合から有償で借りる方法だった。

 コメの店頭価格が1キロ100円であることを考えると、クイさんのような生産者の出荷価格は1キロ40~50円程度とみられる。この価格差は、流通コストの小ささや委託作業による低コスト構造を如実に示している。

 タイなど他のコメ産地との国際競争などの影響もあり、稲作を維持するうえでは、安価にしなければならないのだろう。若年層が農業を離れており、周辺農家の年齢層は50代以上がほとんどとなっているという。

 それでも、労働費や農薬散布費用も外部委託で効率化し、経営しているのだ。クイさんは「必ずしも収入は高くない」と言いながらも、素敵な玄関兼応接室がある立派な家に住んでいる。

 このように、「機械を持たない農家」の存在はタイなどアジア諸国でも見られる傾向で、低コスト化を実現しているのだ。彼らはコメの輸出などでしのぎを削っており、コストダウンを図っている。

ベトナムから見える日本のコメの将来

 ベトナム産のコメはシンガポールやオーストラリアでも非常に安く売られている。筆者が2025年2月に訪問したオーストラリアメルボルンでは日本から輸入された高品質なジャポニカ米と混ぜて食べている人もいるとのことだった(『「コメに700%の高関税」米報道官“批判”へ持っておくべき心構え、「日本産米をもっと食べたいけど、値段が…」オーストラリアで見たコメ消費の現実』)。

 こうした低価格化の厳しい国際競争を踏まえると、いくら日本が現時点の800~950円/kg前後の米価から低価格化を図っても、輸出競争は容易ではないことが想像される。逆に、こうした安価なコメが日本に入ってくれば、多くの一般消費者は喜んで買う可能性があり、その点が国内市場では大きな課題になるに違いない。

外部委託しているドローン作業(クイさん提供)

 日本では生産者も行政担当者も海外事情をあまり知らないことが問題であり、今後、政策面でもそうした国際的な視点を取り入れる必要がある。

 50haもの規模の農家が機械をほとんど所有しないで、コストダウンを徹底し機械作業を外部委託している合理的な考え方は日本も見習える点だ。また、直播でドローンを播種から収穫までフル活用している点もスマート農業の利用という点で参考になる。