今、映画の都ハリウッドが揺れている。ことの発端は、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーが身売りを考えたことにある。
傘下に動画配信サービスのHBO Maxや報道ケーブルテレビ局のCNNを抱え、「ハリー・ポッター」や「バットマン」など優良コンテンツを数多く持ち、「風と共に去りぬ」「マトリックス」など世界的ヒット作を生み出してきたワーナーの歴史はハリウッドの歴史とも言える。この老舗スタジオの行方に業界関係者だけでなくウォールストリートを含め多くに人々が関心を持たないわけにはいかなかった。
以前からワーナー買収に関心を示していた同じく老舗スタジオを源流にもつパラマウント・スカイダンスが買収案を提示しワーナーに接触していたが、結局12月5日に1997年創業のストリーミング大手Netflixが現金と自社株合わせて総額720億ドル(約11兆円)で買収することで合意がなったと発表された。
この買収にはニュース報道で有名なCNNテレビなどは含まれず、主に映画製作スタジオとケーブルテレビのHBO、そしてそのストリーミングであるHBO Maxを買収するというものであった。これによってNetflixは、世界的大作映画を作成・配給することが可能となると共に、ストリーミングにおいて強みをもつHBO Maxを取り込むことで、ストリーミング業界において一気にトップに立つことになるとみられた。米国のストリーミングにおいて約2割のシェアをもち、Amazon Primeとトップシェアをめぐってしのぎを削るNetflixが、13%のシェアをもつHBO Maxを飲み込むことで、圧倒的トップの座を確保しようというものと受け止められた。
実現すればストリーミング市場の30%以上を占めるという大型買収のため、次は米欧当局、特に米国の独占禁止を取り締まる機関が認めるかに関心が移った。1911年にセオドア・ルーズベルト大統領がロックフェラーのスタンダード石油の独占を咎めた件や、それ以降の1945年にアルミニウム大手アルコアの独占を大きな市場シェアを占めているだけで独占としたなど、米国の独占禁止の歴史は長く、米国民の独占に対する拒否感は強い。
独占を強める今回の買収に、多くの人々が懸念を表明した。俳優で活動家のジェーン・フォンダは、「エンターテインメント業界全体を脅かす…(中略)…壊滅的なビジネス取引」と批判した。僅かな企業による業界の支配は、ハリウッドの職を減らし、労働者の交渉力を低下させ、ひいては表現の自由を定めた合衆国憲法修正第一条を脅かすというのである。
マサチューセッツ州選出の連邦上院議員(民主党)のエリザベス・ウォーレンは、この買収を「独占禁止法の悪夢」と呼び、独占が進めば選択肢が減り、価格は上がって国民にとって良くないと反対を表明した。Netflixが普及を図っていた当初は一月7ドル99セントだったのが、いまや倍以上に値上がりしており、この買収が成功して、消費者の選択肢が減れば、もっと値上がりするだろうと批判した。
そのような中、トランプ大統領は、市場のシェアが大きいことが問題になりうると、Netflixによる買収にくぎを刺すような発言をした。ウォーレン議員と言えば民主党の中でも左派に属し、トランプ大統領とは対極にある人物でこれまで何度も対立してきた。そのトランプが、寡占は良くないとしてウォーレンと同じようなことを言ったのである。