そうしたなかでセブンが今回のような「とにかくボリューム重視」の商品を投入した狙いはどこにあるのか。前出・渡辺氏はいう。
「数年前から物価がどんどん上昇してラーメンは1000円超えが普通になってしまった今、もはや消費者もこのセブンの新商品を見て『高い』とは感じないでしょう。パスタも飲食店で食べると結構な値段がしますし、米も値上がりしているなか、『700円台でパスタもご飯も唐揚げも入っていて、お腹いっぱいになれるんだから、いいんじゃない?』と感じる消費者は多いと思います。
近年コンビニ各社は女性向けの商品や健康志向の商品、高付加価値の商品の拡充に力を入れて、それがトレンドになっていましたが、その一方で『質よりも量重視で、とにかくお腹を満たしたい』というニーズに沿う商品が手薄になっていました。ですが、コンビニの来店客数は年間164億人(2024年/日本フランチャイズチェーン協会の調べ)にも上り、要するに日本国民のすべての層が頻繁に来店しているので、あらゆるニーズに対応しなければならないのに、コンビニ側は『女性向け』『健康志向』に偏ってしまっていました。そのミスマッチにコンビニ各社が気がつき始めて、揺り戻しが起きているということなのかもしれません。セブンに関していえば、少し前にインスパイア系ラーメンのような商品が非常に売れていたので、『こういう商品もあったほうがいいよね』と気がついたのかもしれません。
円安や天候要因により原材料費も人件費も物流費も全て上がっているので価格を値上げせざるを得ないわけですが、それでも飲食店で食べるよりは安いですし、女性もボリューム重視の商品を買うケースはあるので、一定の売上は見込めます。これまでコンビニ各社は『お弁当に加えて惣菜とデザートに飲料も買ってもらって客単価の上昇を狙う』という戦略を立ててきましたが、消費者の実質賃金が下がって家計が苦しくなっていることもあり、もうそれが無理になってしまった。お客側からみて“一つ買うだけで済む”商品を投入していく必要があり、また、そうした商品は選ばれやすい環境になりつつあります。
消費者の価格に対する意識の変化というのも大きいと思います。平成デフレの時代は激しい価格競争で、企業はとにかく安く売ることを競っていたわけですが、その結果どんどん国民の実質賃金が下がって、どれだけサービス残業しても報われない人が多く生まれ、国民の生活が苦しくなっていきました。その時代と比べれば、原材料価格や人件費の値上がりという要因も重なって『値上げは仕方ないよね』という認識が世間的に共有され、適正な価格に上がっていくというのは良いことだと思います」
前日のとおりセブン以外のコンビニでも量重視の弁当類は目立つ。ファミリーマートは大盛のご飯と唐揚げ、コロッケ、焼肉などが入った「てんこ盛弁当」(638円)などを、ローソンは炒飯、焼ラーメン炒飯、焼き豚、鶏の唐揚げが入った「炒飯&焼ラーメン」(697円)などを販売していた。
気になるのが今回の「背脂にんにくマヨ 唐揚げ&ペペロンチーノ」のクオリティと価格を勘案した価格妥当性をどう評価できるのかという点だが、実食したコンビニチェーン関係者はいう。
「まず、見た目以上に量が多いです。ペペロンチーノだけでパスタ一人分の分量があり、これだけでお腹いっぱいになる人もいるでしょう。唐揚げもかなり大ぶりなので、ペペロンチーノで一食、にんにく醤油を和えたご飯で一食、唐揚げと別途用意したご飯で一食と、計3食分を賄えるほどです。その意味ではコスパとしては100点満点です。一方、味付け的には全てがニンニクがきいていて想像どおりの味ではあるものの“そこそこ美味しい”ので、これで十分という人も多いでしょう。個人的には、唐揚げとご飯が似たような味なので一緒に食べるとややくどく感じるため、唐揚げは取り置きしておいて、別の一食分として普通の白米と食べたほうがよいと思います。いずれにせよ、ボリュームと美味しさ、700円台という価格を総合的に考えれば『非常に優秀』と評価できます」
(文=Business Journal編集部、協力=渡辺広明/消費経済アナリスト)