このほかにVertex AIの新機能として、AIエージェントを簡単に本番環境にデプロイできるフルマネージド ランタイムの「Agent Engine」なども発表された。
グーグルが無償で公開するADKとは、どのようなものなのか。ソフトウェアエンジニアで合同会社Hundreds代表の大塚あみ氏は次のように解説する。
「グーグルのADKは、AIエージェントを簡単に作成・運用できる開発ツールです。?このキットを使えば、複数のAIが連携してタスクをこなす『マルチエージェントシステム』を効率的に構築できます。エージェントとは、人間に代わって作業や判断を自動で行ってくれるAIの仕組みです。例えば、問い合わせ対応やスケジュール調整、データ分析などを自動で行い、人間が何度も同じことを繰り返したり、複雑な判断をしたりする手間を省いてくれます。ADKは、これらのエージェント同士の連携を簡単に実現できる仕組みです」
グーグルが無償で公開する目的・背景は何であると考えられるか。
「グーグルがADKを無償で公開する背景には、生成AIを組み込んで開発する環境であるADKを開発者に提供することで、自社の生成AIモデル『Gemini』やクラウドサービス『Vertex AI』を普及させ、Google Cloudの利用促進を図ることにあるでしょう。ADK自体は無料ですが、GeminiやGoogle Cloudなど関連サービスの多くは有料です。使いやすい無料ツールを提供することで、多くの人にグーグルのAIサービスを使ってもらい、結果的にグーグルの売り上げを増やすことを目指しています。このように、基本ツールを無料で提供し、関連するサービスを有料にすることで利益を出す戦略を、経営の世界では『オープン・クローズド戦略』と呼びます」(大塚氏)
では、グーグルが無償で公開することにより、世界のAIアシスタント開発に何か影響をおよぼす可能性はあるのか。
「ADKが無償で公開されると、これまで専門的な知識や多くの費用が必要だったAIアシスタント開発が、より多くの企業や個人でも簡単に行えるようになります。さらに、OpenAIも似たような開発ツールである『Agent SDK』を公開しています。このように有力な企業が競争することで、AIアシスタントの開発費用が下がったり、開発環境が良くなったりすることが期待できます。その結果、カスタマーサポート、教育、医療、製造などさまざまな分野で、AIアシスタントの活用がますます進んでいくでしょう」(大塚氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=大塚あみ/合同会社Hundreds代表)