AIエージェント競争の次なる焦点は、「どのクラウドが一番賢いか」ではない。「どの企業が自社の知識を安全に、効率的に活用できるか」だ。
AWSがQuick Suiteで描くのは、AIを「知識の整理者」として企業内に埋め込む世界。AIが社員の質問に答えるだけでなく、過去の失敗事例や成功要因を“組織知”として継承する。それは、企業が長年課題としてきた「人材流動化」「属人化」「情報分断」への解決策でもある。
一方で、AIが社内外のデータを統合することで、プライバシーや情報ガバナンスの新たな課題も浮上する。AWSはこれに対し、「データは常に顧客の所有下にある」という原則を明示しており、Quick SuiteのAIが参照するデータはすべて顧客のVPC(仮想プライベートクラウド)内で処理される。他社AIとの最大の違いがここにある。
クラウド戦争の主戦場は、もはやインフラでもSaaSでもない。AIを中心に据えた「企業知の運用プラットフォーム」へと移行しつつある。AWSのQuick Suiteは、その転換点を象徴する存在だ。
これまでAWSは“企業のITの裏側”を支えてきたが、Quick Suiteによって“意思決定の表側”に躍り出ようとしている。AIが企業経営を支援する未来――その中心に再びAWSのロゴがあるかもしれない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)