「現在の市場で目立つのは“供給ショック”です。建築費と人件費がかつてないほど上がり、デベロッパーは売り出し価格を下げられない。それにもかかわらず実需は価格についてこられないため、『価格は高いが売れ行きは鈍い』という矛盾が発生しているのです。
販売戸数の減少は、価格下落の前兆ではありません。むしろ逆で、デベロッパーが利益率を守るために供給を絞っている状態です。当面、価格は高止まりしたまま、販売数だけが細っていく局面が続くと見ています」(不動産ジャーナリスト・秋田智樹氏)
首都圏以外の地域と比較すると、首都圏の異常さは際立つ。
●関西圏
平均価格は6000~7000万円台。上昇局面ではあるが、首都圏のように1億円を超えるケースは限定的だ。
●名古屋圏
平均価格は5000万円台半ば。地域経済が安定しているため堅調だが、価格高騰は比較的穏やか。
●地方中核都市
札幌・福岡・仙台などは移住者増加や外国資本流入で高騰気味だが、平均価格は5000~8000万円台が中心。首都圏とは2~3倍の開きがある。
この対比を踏まえると、東京23区の価格1.5億円という水準がいかに突出しているかが理解できる。
「全国と比べると、東京23区の価格の上がり方は完全に別次元です。関西や名古屋では所得と価格のバランスがまだ成立していますが、東京は所得の伸びが鈍い一方で価格だけが極端に上がっている。
その背景には、富裕層マネーの集中と、構造的な供給不足があります。投機的な需要が減っても、富裕層と外資の需要が残っているため、価格は下がりにくい。短期的な調整はあっても、下落トレンドが続く可能性は高くありません。むしろ、一般層が新築から完全に離れ、中古や郊外へのシフトが加速する“居住の二極化”が強まると見ています」(同)
不動産協会が公表した「購入後1年間の転売規制指針」は、短期転売目的の買い手を減らす効果がある。ただし、これは価格の引き下げにはつながりにくい。
なぜなら、供給不足、建築費高騰、高所得層の堅調な需要、という3つが重なり、“価格を押し下げる要因がほとんど存在しない”からだ。むしろその影響は、即完売物件の減少、販売期間の長期化、投機需要より実需中心への回帰など、需給バランスの正常化に作用する。
新築が買えない層は、中古マンションに向かう。すでに中古市場では、中心部の中古、築浅物件、リフォーム済み物件などが高騰し、価格上昇が続いている。
これは、リフォーム・リノベーション産業や中古流通業界を活性化させる。一方で、賃貸市場も家賃上昇圧力が強まるなど、都市生活全体に影響が波及しつつある。
「新築価格が一般層の手に届かなくなると、中古市場に大きな波が押し寄せます。今起きているのは、『新築が買えない → 中古へ流れる → 中古価格も上がる』という連鎖的な高騰です。
加えて、リフォーム市場や仲介事業が活性化し、住宅関連産業はむしろ拡大している。しかしこれは“健全な成長”ではなく、新築が買えない社会構造の歪みの裏返しです。少子化で住宅需要が減るという一般論とは対照的に、都市部ではむしろ住宅不足が加速しています。この二極化は、今後10年の住宅市場の最重要テーマになるでしょう」(同)
今後の動向として短期~中期の価格見通しは、以下3つのシナリオが中心となる。
① 高値維持(最有力)
供給減・建築費高騰・富裕層需要の集中により、価格は当面高止まり。
② 部分的な調整(可能性あり)
初月契約率の低下が続けば、都心以外の物件や駅距離のある物件は価格見直しが進む。
③ 局所的バブル崩壊(低確率)
急激な金利上昇が起きた場合のみ可能性はあるが、現状は極めて限定的。
首都圏マンション市場は、いま「価格は下がらず、販売数だけが減る」という未経験の局面に入りつつある。
●建築費は下がらない
●供給は細る一方
●富裕層需要は強い
●投機筋は減っても価格は落ちない
●中古市場が高騰し周辺産業が拡大
●都市生活にまで影響が波及
つまり、価格は高止まりしたまま、購入できる層が二極化し、都市構造そのものに変化を促すフェーズに突入したのだ。
2020年代後半の首都圏マンション市場は、単なる住宅価格の問題ではなく、「都市にどう住むか」という社会的テーマを突きつけているといえるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)