CO2を埋めるビジネスが巨大産業に…脱炭素の本命CCS、日本の成長産業になる?

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北海道・苫小牧市のCCS実証実験(資源エネルギー庁HPより)

●この記事のポイント
・政府主導でCCSが実装フェーズに入り、九十九里沖や苫小牧などで大規模プロジェクトが進む。脱炭素を背景に、日本の産業構造を変える新たな基盤技術として注目されている。
・商社やエネルギー大手はCO2輸送・貯留を組み合わせた国際ビジネスを狙い、海外権益の確保を加速。CO2を「貨物」と捉えた越境CCSの構築が、日本の新たな輸出産業の可能性を開く。
・普及の最大の壁は高コストと“純度99%”規制。基準緩和と商社モデルの確立が進めば、日本企業の強みを生かしたCCS産業が本格化し、脱炭素の「新たな成長分野」になり得る。

「脱炭素」はもはやCSRの枠を超え、日本の産業構造そのものを塗り替える巨大ビジネスへと変貌している。その中核に浮上したのが、排出されたCO2を回収し、地中深くに封じ込めるCCS(Carbon Capture and Storage)だ。

 これまで“夢の技術”と揶揄され、採算難が最大の弱点とされてきたCCS。しかし、政府が本腰を入れ、商社・エネルギー企業がこぞって参入を表明したことで、状況は一変した。CCSは今や、「脱炭素コスト」ではなく「新たな輸出産業の芽」という期待を背負い始めている。

 本稿では、最新政策、商社の国際戦略、技術・コストの壁、国際潮流、実現可能性を多角的に検証し、専門家の見解を交えながら、日本発CCS ビジネスの現実解を探る。

●目次

九十九里沖が象徴する「実装フェーズ」への転換

 CCSがいよいよ実装段階へ入ったことを示す象徴が、千葉・九十九里沖の“500万トン規模”の貯留区域指定だ。2024年9月、経済産業省は同海域を国内最大級のCO2貯留候補地として公表し、試掘事業者の募集を開始した。

 これは、複数基の大型石炭火力に相当する年間排出量を一括で埋め込める規模であり、政府が「CCS抜きでは2050年カーボンニュートラルは不可能」と判断したことを如実に物語る。

 北海道・苫小牧では、2016~2019年に行われた実証で累計30万トンを安全に貯留しており、石油資源開発(JAPEX)は新たな試掘に踏み切る計画だ。CCSは今や、実験ではなく社会インフラとして扱われ始めている。

「九十九里沖の決定で、CCSは“政治意志のプロジェクト”になりました。政府は長期的に産業を成立させる腹を括ったといえます」(エネルギー研究・政策アナリストの田代隆盛氏)

 政策面での強烈な後押しは、企業にとって参入リスクを大幅に下げる。特に商社・エネルギー企業は、「規制が整う前に動くことで先行者利益を得られる」と判断している。

商社が描く「ゴミではなく貨物」のビジネスモデル

 国内以上に熱気を帯びているのが、総合商社によるCCS権益争奪戦だ。三井物産、三菱商事をはじめ、エネルギー大手はこぞって海外でのCO2貯留権益確保に走っている。

 その理由は単純だ。日本は地質的に大規模貯留に適した場所が限られているからである。そこで浮上するのが、“CO2を輸出する”という発想だ。日本で回収したCO2を船で運び、マレーシアなどの地質的優位性を持つ地域に埋める「クロスボーダーCCS」である。経産省はすでにマレーシア政府と協力枠組みを締結した。