投資家の評価軸も変わりつつある。パイプラインの“数”ではなく、AIによる開発スピードと成功確率の最適化能力。製薬企業は、もはやAI戦略抜きに語れない。
この進化は、研究所や病院の中だけで完結しない。むしろ真のインパクトは、個人の生活圏に及ぶ。
アップルやグーグルが推進するウェアラブルデバイスが蓄積する心拍、睡眠、血中酸素、活動量。これらが医療特化型AIと結びついたとき、データは単なる数値から医学的行動指針へと変換される。
「今日はプレゼンがあるため、交感神経の負荷を下げる行動を優先すべき」「今週は睡眠負債が蓄積しており、カフェイン摂取は14時が最適」こうした判断を、24時間休まず行う“AI産業医”が、スマートフォンの中に常駐する。
「これは治療市場ではなく、予防・最適化市場の拡張だ。医療費構造そのものが変わる可能性がある」。公衆衛生の学者たちからも、こんな声が漏れる。
世界で100兆円規模ともいわれる予防医療市場は、AIによって初めて本格的に立ち上がろうとしている。
医療は、
・ミスが許されない
・法規制が極めて厳しい
・高度な専門知識が要求される
という、AIにとって最難関の領域だ。
この分野で「AIが実務を完遂できる」ことが証明されれば、その設計思想は必然的に法務、会計、金融、製造、行政へと波及する。
「医療AIは“試金石”だ。ここを突破した技術は、他分野でも通用する」(小平氏)
アンソロピックが示したのは、法的・倫理的制約を前提に、ツールを使いこなすAIという設計図だ。それは数年後、私たちが一緒に働く「同僚AI」の原型にほかならない。
アンソロピックの医療AIが突きつけた問いは明快だ。AIを便利なチャットツールとして使い続けるのか。それとも、実働する労働力として組織に組み込むのかーー。この選択の差は、個人の生産性だけでなく、企業価値、産業競争力、ひいては国家の成長力に直結する。
AIを「検索の延長」や「チャット相手」とみるだけの時代は終わった。これから問われるのは、AI実務家と共に働く覚悟と設計力である。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)