●この記事のポイント
・トライアルGOが首都圏展開で小型スーパー業界の勢力図を塗り替える可能性がある。
・同店の特徴は、従来のスーパーとは異なるバックヤードレス方式でコストを大幅削減できることにある。
・まいばすけっととの競合が激化し、中小スーパーの淘汰が加速
トライアルホールディングスが今秋から首都圏で展開する予定の小型スマートストア「トライアルGO」が注目を集めている。同社は2025年7月1日に西友の全株式を取得し、その物流網と製造拠点を活用して一気に関東圏を攻略する方針だ。小型店舗市場で先行するイオン系列の「まいばすけっと」との競争が激化するとみられるが、流通アナリストの中井彰人氏に両社の戦略について詳しく話を聞いた。
●目次
「トライアルは基本的にITに非常に関心のあるオーナーが作った会社で、IT装備によって差別化しようという発想があります」と中井氏は説明する。
同社のルーツは創業時から続くIT活用の取り組みにある。「もともと一般的なトライアルでも、カードを提示すれば、カート自体に決済機能が付いていて、バーコードを読ませるとその時点でどんどん集計されていき、出るときに清算しますという仕組みを導入していました」
これは「セルフレジのカート版みたいなもの」で、顧客が店内を回りながら商品をスキャンし、最後に一瞬で決済を完了できる。「今ではイオンの一部店舗でも似た仕組みが導入されているが、大手ではない地方企業だった時からそういうことをずっと研究して実証実験してきている」という。
中井氏は、トライアルを「ITでガチガチに武装して勝負する特殊なスーパー」と評価し、「今やイオンかトライアルかというぐらいIT分野で進んでいる国内では素晴らしい企業」だと述べた。
トライアルGOの最大の特徴は無人決済システムだ。「顔認証で登録をすると、全部袋に入れてそのまま持って出ても決済がそのまま済んでしまう。何もしないで店を出られるという仕組み」を実現している。
これはアマゾンゴーの日本版のようなもので、小型店舗ながら従来のコンビニ等とは一線を画すサービスを提供する。
「普通のスーパーだとバックヤードが店の3分の1ぐらいを占めるが、トライアルGOはコンビニの跡地にも出店できる。バックヤードをほとんど使わないからこそ、都内の高い賃料の場所でも効率的な経営が可能」だと中井氏は分析する。
日本のスーパーマーケット業界の構造的問題について、中井氏は興味深い指摘をする。
「日本では魚を生で食べる文化があり、昔から鮮度にうるさい客が多い。そのため『いま切りました。いまパック詰めしました』と見せないと客が離れてしまう国だったので、各店舗で加工作業を行うようになった」
この結果、「欧米のスーパーは集中センターで加工したものを各店舗に配送するが、日本ではそれをやらなかった。店を増やせば増やすほど効率が良くなるはずのチェーンストアで、規模の利益が働かない」という非効率な構造が生まれた。
「どこのスーパーも全部バックヤードで作業をしているので、ものすごく労働分配率が高い。ドラッグストアなど生ものを扱わない小売業と比べて10%ぐらい人件費率が高い」
この構造的問題により、「人件費が上がった瞬間に一発で収益が悪化する。大手も含めて基本的にスーパーマーケット業界は今、青息吐息の状況」だという。