一方、リンガーハットは異なるアプローチで成功を収めた。同社は冷凍「長崎ちゃんぽん」の製造に専用ラインを整備し、冷凍状態でも麺の食感や野菜の風味を損なわない製法を追求。ロードサイドに多い店舗特性上、都市部の顧客との接点が限られていたが、ECと量販店展開によって「リンガーハットに行けない人」を顧客化することに成功している。
両社に共通するのは「ストック需要」の掘り起こしという発想だ。外食チェーンはこれまで「わざわざ行く場所」として消費者に認識されてきた。しかしECと冷凍技術の進化は、ブランドを「いつでも家にある存在」へと昇華させる可能性を開いた。冷凍庫の中に吉野家があれば、忙しい夜に牛丼が食べたくなったとき、消費者は店舗ではなく冷凍庫に手を伸ばす。これは「機会損失の回収」ともいえる戦略的意義を持つ。
「冷凍食品市場は近年、質の向上と消費者意識の変化によって急拡大しています。かつての『手抜き食』というイメージは払拭されつつあり、外食ブランドの冷凍品は『本物の味』を家庭で再現できる付加価値商品として認知されています」(同)
くら寿司のEC戦略が際立つのは、「モノを売る」から「コトを売る」へのシフトにある。同社の「おうちでくら寿司」セットは、シャリとネタを分けて届けることで、家庭での「手巻き寿司体験」というエンターテインメントを提供する。単なる食事の調達ではなく、家族の食卓に非日常の体験を持ち込む設計だ。
ラインナップの多様性も特筆に値する。店舗では提供が難しい高級食材——国産の冷凍うなぎや専門スイーツ——をEC限定で展開することで、客単価を大幅に引き上げる「まとめ買い」戦略を実現している。5個・10個単位のセット販売は、送料コストを分散させつつ、消費者に「まとめて買ったほうがお得」という心理を働かせる効果がある。
くら寿司の戦略は、ファミリー層への訴求という観点でも優れている。子どもと一緒に手巻き寿司を作るという「参加型の食体験」は、SNSとの親和性も高く、UGC(ユーザー生成コンテンツ)による自然な拡散を生みやすい。商品そのものがマーケティングツールになっているともいえる。
各社の成功事例を横断的に見ると、オンラインならではの勝ちパターンは三つに集約される。
第一の原則は「メニュー選定の精度」だ。 冷凍に向かない食材・調理法は問答無用で排除し、「冷凍だからこそ美味しい」あるいは「冷凍しても劣化しにくい」素材を積極的に採用することが出発点となる。モスのライスバーガー、吉野家の牛肉、リンガーハットのちゃんぽんスープ——成功商品には必ず、冷凍との相性を見極めた開発の知恵がある。モスライスバーガー〈のり弁〉においても、海苔の噛み切りやすさとくずれにくさを両立した海苔巻きスタイルを採用するなど、冷凍・レンジアップ後の食体験を緻密に設計している。
第二の原則は「限定性による希少価値の創出」だ。 「店舗では食べられない」という希少性が、送料というハードルを越える動機になる。ECと店舗を同じ商品で埋めてしまえば、消費者は安価な店舗購入を選ぶ。ECにしかない価値を設計することが、チャネルの住み分けに直結する。
第三の原則は「まとめ買いを前提とした価格・パッケージ設計」だ。 1個単位での販売は送料負けしやすく、消費者の購入ハードルも高い。モスライスバーガー〈のり弁〉も5個入りセットを基本単位としており、一回あたりの物流コストを下げながら、消費者には「まとめ買いの合理性」を提示している。定期購入(サブスクリプション)との組み合わせも、LTV(顧客生涯価値)向上に有効な手段として注目されている。