婚約破棄の翌日から、辺境で簿記を教えてきた三年後——「戻ってきてくれ」と言われても、もう王都の帳簿は動きません
侯爵令嬢フェリシテは、婚約破棄を告げられた翌日、供もつけず辺境の小さな町に向かった。持っていたのは簿記の教本一冊。三年後、王都から元婚約者バルドが馬車で訪れる。「戻ってきてくれ。あの件は誤解だった」。フェリシテが案内した町は、三年前とは別物だった。商家三十二軒、全て簿記が行き届き、通帳が整い、納税が正確。町長が笑う。「先生がいなくなったら、うちの町、来月から税務報告ができなくなるんですよ」。バルドは気づく——王都の主要取引先の帳簿も、ここで習った商人たちが回している。「戻ってくれ」は「王都経済を終わらせてくれ」と同義だった。フェリシテは首を振った。「わたくしは、振り返らない方ですの」。
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お読みいただき、ありがとうございます! 「犬は痩せていて」の一行を拾い上げてくださって、書き手としてこれ以上なく嬉しいです。あの一文は、三年前の到着の朝と物語の結びで対になるよう仕込んだ町の体温計のような描写で、そこに気づいていただけたのは本望でした。そして何より――帳簿が読めないせいで搾取され余計な出費をしていた人たちが、少しずつ自分の頭で考えるようになっていく。その変化の切なさこそ、この物語で一番描きたかったところです。フェリシテが残したのは数字の技術ではなく、自分で考える力だった――そう読み取って「しみじみおもしろかった」と言ってくださり、本当にありがとうございました。