『妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言うので、婚約者も王妃教育も譲りました。ですが三日で王宮が止まりました』

公爵令嬢クラリスは、十年ものあいだ王太子妃になるための教育を受けてきた。

けれど実際に彼女がしていたのは、教育などという可愛らしいものではなかった。

王妃主催の茶会。
隣国大使への根回し。
慈善事業の予算配分。
貴族夫人たちの席次調整。
王太子の失言の後始末。
病がちな王妃に代わる王妃執務院の実務。

すべてを、正式な役職も報酬もないまま、クラリスは黙って支えていた。

そんなある日、妹ミレーヌが笑顔で言う。

「お姉様の仕事くらい、私にもできますわ」

王太子ジュリアスはその言葉を信じ、クラリスとの婚約を解消。
妹ミレーヌを新たな婚約者に選んだ。

クラリスは泣かなかった。
怒りもしなかった。
ただ、王宮の机に置いていた自分の資料をすべて片付け、静かに一礼した。

「では、明日からお願いいたします」

翌日、王宮の朝会が止まった。
二日目、隣国大使が怒った。
三日目、王太子は青ざめた。

そして四日目。
クラリスのもとへ、王弟レオンハルトが訪れる。

「君を連れ戻しに来た。ただし、誰かの婚約者としてではない。この国に必要な人材としてだ」

奪われたのは、婚約者ではなかった。
無償で押しつけられていた責任だった。

これは、王宮を支えていた有能令嬢が、自分の価値を正しく取り戻す物語。

婚約破棄から始まる、実務系令嬢の王宮逆転劇。
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