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しおりを挟む「お姉ちゃんは遥さんをどういう人だと言ってました?」
ともちゃんの視線から目をそらす。俯いて自分が知りうる情報を整理する。
白沢遥。二十一歳。一月生まれ。二浪。ちーちゃんと二人暮らし。他にも好き嫌いと趣味特技もしっかり覚えている。
それらを言葉にして一つずつ並べていった。何が正解かわからない。もしも間違っていたらどうなるの。それこそ私が私でなくなる。ちーちゃんへの愛も、今まで以上に大きく揺らいでしまう。
「ほとんど、うそですね」
ともちゃんが目を伏せた。
「誕生日や年齢、好みに趣味特技は私の知る遥さんですが、それ以外は全てうそだと思います」
「うそってそんな。本物の白沢遥はどんな人なの?」
「遥さんは、そうですね」
ともちゃんが天井を見上げながら指を折り始めた。
「ここから五分ほど歩いた場所にある、お屋敷に住んでいるんです。華道の白沢流。その次期家元なんですよ」
「華道って生け花とかの?」
「はい。子どもの頃から天才的なセンスで、コンクールの常連だったみたいで」
華道というワードに我が家が脳裏に浮かぶ。玄関横のプランター、それに部屋にあった花々。ちーちゃんが本物の白沢遥に寄せるようにして、用意したのだろうか。
「今も、そこに住んでいるの?」
ともちゃんが強く頷いた。故郷も過去も偽りだらけ。となると私は一体誰なの。私だった記憶はどこにいったの。
「一つ、思い付いたのですが」
縋るようにともちゃんに目を向けた。
「あなたの見た目は確かに遥さんで、艶のある髪も花のヘアピンにも覚えがあります。でも声や話し方は遥さんというより、カナエさんに近い気がするんです」
「前にもそう言っていたわね」
「はい。スギウラカナエさんです」
ともちゃんが膝立ちになり、勉強机の引き出しを開けた。メモ用紙を手にし、そこに杉浦叶と書いた。かなえ、カナエ、叶。呟いてみても記憶は戻りそうにない。
「私のことも覚えていないんですよね?」
ともちゃんがメモ用紙を捲り、高山百紅と大きく書いた。
「ともみって読むんです。今までどおり、ともちゃんでも百紅でも、好きな呼び方でいいですよ」
「じゃあ、ともちゃんで」
「はい。えっと、どこまで話しましたっけ」
ともちゃんが宙に視線を向けた後で、手を打ち鳴らした。
「叶さんのことでしたね」
「ええ」
「ちょっと天然だけど、私やお姉ちゃんの面倒をよく見てくれたんです。お姉ちゃんと幼なじみで、よくうちに泊まりに来ていたんですよ」
ともちゃんが懐かしむように微笑んだ。
「それとなぜか、遥さんとそっくりだったんです。血は全然繋がっていないのに、顔も背丈も、声も時々聞き間違えるくらいで。皆して不思議がっていました」
「その叶さんは今どこに?」
「一年くらい前から姿が見えないんです。お姉ちゃんに聞いても知らないって素っ気ないし、遥さんに聞いてもわからないって」
「遥さん?」
「あなたではない本物の遥さんに、去年聞いたんです」
本物の、遥。はっきりと言われたその一言に視界が揺れた。
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