ホムンクルス

ふみ

文字の大きさ
66 / 97
-6-

66

しおりを挟む
「どうしてって……」
 声を張り上げようとして、遥の淀んだ瞳に声をなくした。
「ずっと叶が好きだったの。叶以外どうだって良かった。言い寄ってくる男たちも、叶に比べれば道に転がっている小石と大差なかったわ」
「小石って、そんな」
 こちらを見つめる瞳にうまく考えがまとまらない。
「叶がいれば何もいらない。地位も名誉も全て捨てて添い遂げたっていい。それほどまでに、愛しているの」
 恐らくは愛の告白なのだろう。多くの不安を抱きながらも、想いが伝わるようにと願った詩。
 千夏との恋を終わらせた今なら、違う受け取り方ができたのかもしれない。だけどそんなことはなかった。
 耳の奥に届くことはあってもそこから先へは進まない。心に触れることは決してない。遥と恋人になるなど、想像すらできなかった。
「愛しているのなら、どうしてそんな素振りを見せなかったの? ちゃんと口で言ってくれなきゃわかんないよ」
 脳を拒否する方へ切り替え、遥の揚げ足を取った。
「怖かったのよ」
 遥が体を起こした。
「もしも告白が失敗して、話せないほど気まずくなったら死んだ方がいい。だから告白するチャンスをずっと待っていたわ。初めて会った頃から、ずっと」
 私を見つめる遥の口元が綻んだ。
「それがやっと来てくれたのよ。汚いけど、ちーちゃんに傷付けられた今なら、私を頼ってくれると思ったから告白したの」
 弱った心の隙間に入り、愛の矢印を向けさせる。そこまでして私が欲しかったんだ。
 何ごとも完璧で高嶺の花である遥が、何もない私に恋をしてくれた。それは素直に嬉しい。価値を見出せないでいた私の人生に、明かりを灯してくれたといっても過言ではない。
 しかし、それでも受け入れるわけにはいかなかった。
「ずるいと思われてもいい。卑しいと思われたっていい。でもね、一つだけわかってほしいの。この気持ちにうそはない。心の底から叶を愛しているのよ」
 遥の唇が真一文字に結ばれた。頬を滑る涙を拭わず、呼吸を乱しながらこちらを見下ろしている。答えは初めから決まっている。それなのに、口にしてはいけない雰囲気にのまれた。
 そうしてどのくらいたっただろう。遥のしゃっくりが治まった頃、またも遥に先を越された。突然パジャマを脱ぎだすという突飛な行動によって。
「な、何してるのっ」
 目に映った遥の下着姿から顔を背けた。だけど見たくないものほど脳裏に残り易い。陶器のような肌と燃えるように赤い下着、鼻息荒くした表情まで鮮明に焼き付いている。
「よそ見をしないで」
 顔を強引に戻された。しかし目は決して開けない。まぶたも無理やり開けられる恐怖はあったものの、遥はそれ以上触れてこなかった。その代わりに聞こえた衣擦れの音。一瞬だけ思案した後ですぐに理解が追い付いた。
「全部、脱いだわ」
 耳元に落ちた甘い誘惑。再びこちらに覆い被さった遥をどかそうと腰に手を回したものの、遥の喘ぎ声に手を離してしまった。
「せっかちさん。捕まえなくても逃げないのに」
「そうじゃなくてっ。いいから離れて、お願い」
「嫌」
 遥の吐息が耳に触れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

処理中です...