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【12話】みんなでピクニック
しおりを挟むガタガタゴトンと揺れる馬車の中。
「……おい。どうしてお前たちまで来ているんだ? 俺が声をかけたのはアンバーだけだぞ」
アンバーの真横に座るリゼリオが、対面へ向けて声を上げた。
声の先には、二人の男女が横並びで座っている。
レイデン公爵家の使用人――ジャックとモルガナだ。
「二人は私が誘いました。せっかくのお出かけですし、大勢で行った方が楽しいと思ったんです」
四人を乗せた馬車の行き先は、レイデン邸より馬車で二時間ほどの場所にある大きな森。
森の奥には、綺麗な湖が広がっているらしい。
その湖が、今回の目的地となっている。
今回のお出かけは、リゼリオの発案によるもの。
先日、「一緒に出掛けないか?」と誘ってくれたのだ。
リゼリオとのお出かけが楽しいと知っているアンバーは、二つ返事で了承する。
そして、こういうピクニックにはみんなで行った方が絶対に楽しいはず、とも思った。
だからこそ、ジャックとモルガナを誘ってみたのだ。
「もしかして、ご迷惑だったでしょうか?」
「いや、そんなことはない……ないのだがな」
どうも歯切れが悪い。
納得いかない部分がある、といった風だ。
「旦那様ったら、心が狭すぎ! ボールス様のおおらかさを、少しは見習った方がいいんじゃないの?」
「そんなつんけんしてたら、アンバーに愛想つかされちまうぜ」
「……好き放題言ってくれる。貴様ら、後で覚えておけよ」
リゼリオは呆れ顔になった。
ぶーぶー言う二人を、怒る訳でも叱る訳でもない。
こなれた対応からは、もはや諦めのようなものが伺える。
きっとこれまでに何度も、同じようなことがあったのだろう。
「リゼリオ様は、二人と仲がよろしいのですね」
今のやり取りを見ているだけでも、それが十分に伝わってきた。
(ちょっと意外ね)
言ったら悪いかもしれないが、リゼリオは人間関係が希薄そうだ。
そんな彼が、使用人である二人と仲良くしているとは思わなかった。
「まぁ、それなりに、な。当主である俺に対して失礼すぎる点を除けば、そこまで悪い奴らではない」
「失礼な態度なんて、一度も取った覚えはないけどね。ジャックもそうでしょ?」
「ああ。俺たちはいつでも、リゼリオを尊敬してるぜ!」
「どの口が言うんだ。白々しいにもほどがある」
そんなやり取りに、アンバーは自然と笑顔になっていた。
二人がいることによって、車内の雰囲気がとても明るいものになっている気がする。
この空間にいるだけでも、とても楽しい気持ちを味わえる。
(二人に声をかけたのは、正解だったようね)
レイデン邸を出発して少ししか時間が経っていないというのに、アンバーは強くそう思った。
目的地である湖に、馬車が到着した。
周囲に人影は見当たらなく、とても静かで落ち着いた場所だ。
「綺麗なところね」
目の前に広がる広大な湖に、アンバーは感動の表情を浮かべた。
水は透き通っており、水底まで肉眼ではっきりと確認できる。
ここがお気に入りだよ、とでも言いたげに、小さな魚たちが伸び伸びと泳いでいた。
見ているだけでも心が安らぐ。
ものすごいリラックス効果を持っていた。
湖を見たジャックとモルガナは、穏やかな笑みを浮かべていた。
きっとアンバーと同じく、この光景に癒されているのだろう。
「昼にしようか。ジャック。シートを広げるから手伝ってくれ」
「おうよ!」
リゼリオとジャックが、湖畔に大きなシートを引いてくれた。
四人はその上に腰を下ろした。
シートの上には、大きなバスケットがそれぞれ二つ乗っている。
バスケットの中には、いっぱいのサンドイッチが入っていた。
朝早くから、アンバーとジャックで作った自信作だ。
「それじゃあ、私とジャックは向こうで食べてくるから」
「え、一緒に食べるんじゃないの? どうして?」
急なモルガナの言葉に、アンバーはきょとんとしてしまう。
「それはね……ふふふ」
アンバーの耳元に口を近づけるモルガナ。
その口元には、小悪魔のような妖艶な笑みが浮かんでいる。
「私とジャックが、そういう関係だからよ」
「そういうって――っ!」
アンバーの顔が真っ赤になる。
言葉の意味に気づいてしまった。
(前々から仲が良いとは思ってたけど、そうだったのね……!)
まさか、そこまでの仲になっているとは思わなった。
自分の鈍感さが恥ずかしい。
「赤くなっちゃって! もうっ、かわいいんだから!」
アンバーの頭を撫でてから、モルガナは立ち上がった。
スタスタとシートの上を歩いていき、遠くへ行ってしまう。
「おい! ちょっと待てって!」
勢いよく立ち上がったジャックは、バスケットの一つを手に持つ。
急いで足を動かし、モルガナの後を追いかけていった。
そうして、シートの上には、アンバーとリゼリオの二人だけという状況が出来上がる。
チラリとリゼリオに視線を向けては、すぐに外す。
アンバーはもじもじしながら、その行動を繰り返していた。
リゼリオと二人きりになったことは、これまでに何度かある。
だから、今さら緊張などしない――はずだった。
しかし先ほどのモルガナの発言が、それを変えてしまった。
彼女が大人な発言をしたせいで、二人きりの状況、というものを意識してしまう。
「美味いな」
サンドイッチを口にしたリゼリオが、笑顔を浮かべる。
「このサンドイッチもアンバーが作ってくれたのか?」
「は、はい! ジャックと一緒に作りました!」
軍隊ばりに気合の入った返事が、おだやかな森の中に響く。
緊張している状態で話しかけられたものだから、大きくビックリしてしまった。
リゼリオの口元が微かに上がる。
元気のよすぎるアンバーの反応が面白くて――と、いった訳ではなさそうだ。
「……あの? どうかいたしましたか?」
「サンドイッチを食べていたら、少し昔のことを思い出してな。君の料理を初めて食べたときのことだ」
「懐かしいですね」
一週間ぶりに屋敷に戻ってきたリゼリオは、ジャックやモルガナと仲良くしているアンバーを見て、目を丸くしていた。
あのときの顔は、アンバーの瞼に今でもしっかりと焼き付いている。
「正直に言おう。あのときの俺は、君のことを信用していなかった。今さらになってしまうが、すまなかった」
「謝らないでください。私も似たようなものでしたから」
ふふん、と得意な顔になったアンバーは、人差し指をピンと立てる。
「ここへ嫁いできた翌日、『変な真似をしようなんて考えるなよ』と、私に言いましたよね。そのとき私リゼリオ様のことを、なんて意地悪な人なんだろう、と思ったんです」
「…………本当にすまなかった」
ガックリと肩を落としたリゼリオは、ずーんと激しく落ち込んでしまった。
そのまま地面に沈み込んでしまいそうになっている。
(冗談で言ったつもりなのに!)
不器用なまでのリゼリオの生真面目さを、すっかり忘れていた。
突き出した手のひらを、あわあわと動かす。
「ごめんなさい! リゼリオ様を責めたい訳ではないんです! 私が言いたいのは、『リゼリオ様は思っていた人とは違った』ということです!」
「つまりそれは、俺が嫌なヤツではなかった――そういうことでいいのか!?」
落ち込んでいたリゼリオは復活。
期待のこもった眩しい眼差しで、アンバーを見つめる。
普段のクールな姿からは想像できないほど、今のリゼリオは必死だ。
そのギャップが面白おかしくて、思わず吹き出してしまう。
「……その反応はどっちなんだ」
「秘密です。考えてみてください」
答えを口にするのは、なんだか恥ずかしい。
それと、単純にいたずらごころが働いてしまった。
少し意地悪だっただろうか。
申し訳ございません、と彼には聞こえないように呟いた。
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