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(大変だああああ! 明日! 明日、あのイケメン領主様がお茶を持ってくるって言った! 社交! それはすなわち地獄の別名!)
私は朝日と共に飛び起き、修復したばかりのベッドの上で転げ回った。
公爵邸にいた頃は、ラーナが横で「お姉様は今、お腹が痛いので喋れません」と勝手に嘘をついて追い返してくれていたが、今は代弁者がいない。
(どうしよう、どうしよう! おもてなしなんて、教科書でしか読んだことないよ! まずは掃除……は終わってるから、飾り付け!?)
私は杖を振り回し、屋敷中のカーテンを新品の最高級シルク(の、魔力再現版)に作り替えた。
ついでに、殺風景だったリビングに大理石の彫像と、二十人は座れる無駄に豪華な円卓を召喚する。
(……うん、完璧。これでおもてなしの形は整ったはず!)
だが、客観的に見れば、その部屋は「ラスボスが勇者を待ち構える謁見の間」のような威圧感を放っていた。
(次は、お茶菓子だわ。クッキー……魔法で焼けるかな?)
私はキッチンへ走り、適当な小麦粉(魔力で生成)と砂糖(魔力で生成)をボウルに入れた。
本来なら手で混ぜるべきだが、コミュ障の私は効率を重視する。
「……結合、発熱、成形」
ボウルの中身が猛烈な勢いで回転し、凄まじい光を放ち始めた。
(あ、ちょっと魔力密度を上げすぎたかも。まあ、栄養満点ってことで!)
チン、という軽快な音(空気を振動させて鳴らした)と共に焼き上がったのは、黄金色に輝き、時折パチパチと放電している「高濃度魔力クッキー」だった。
(よし、見た目はちょっと光ってるけど、味はきっと美味しいはず!)
私はそれを皿に盛り付け、震える手で円卓の真ん中に置いた。
そして約束の時間。
ドォォォン!!
(……あ。玄関、直してなかった)
昨日私が吹き飛ばしたままの玄関から、カイル公爵がひょっこりと顔を出した。
「……やあ。相変わらず豪快な出迎えだね、ルミール嬢」
(ひいいいい! 来た! 本物が来た! 顔がいい! 眩しい!)
私は緊張のあまり、椅子の背もたれを指が食い込むほど強く掴んだ。
私の顔面は、喜びと恐怖が混ざり合った結果、「不法侵入者を今すぐ八つ裂きにして庭の肥やしにしようと企む魔女」の表情を完成させていた。
「……座れ」
(「どうぞ、お掛けになってください。粗末な家ですが歓迎します」って言いたいのに! なんで二文字しか出ないの!)
カイルは一瞬、豪華すぎる円卓と、その上に鎮座する光り輝くクッキーを見て絶句した。
「(……なんだこの部屋は。昨日までは廃屋だったはずなのに、今は王宮の特別室より豪華じゃないか。それに、あのクッキー……一つ食べたら魔力回路がオーバーヒートしそうだぞ)」
カイルは苦笑しながら、持参したティーポットと茶葉をテーブルに置いた。
「……お言葉に甘えて、座らせてもらうよ。すごいクッキーだね、これは君の手作りかな?」
(……あ。褒められた!? これ、褒められたんだよね!? 嬉しい! 魔法で作ったなんて言えないけど、一生懸命魔力を込めたのは事実だよ!)
私は嬉しさのあまり、カイルをじっと見つめてしまった。
(喜んでくれたかな? 毒入りだと思われてないかな? 美味しいよ、それ!)
私の内面の期待とは裏腹に、向けられた視線は「食べなければ命はないぞ」という無言の脅迫にしか見えない。
「……食え」
(あああ、促し方が強引すぎる! これじゃ拷問だよ!)
カイルは覚悟を決めたようにクッキーを一枚手に取ると、ゆっくりと口に運んだ。
「…………っ!?」
カイルの体がビクンと跳ね、彼の瞳に銀色の火花が散った。
(えっ!? まずかった!? それとも、やっぱり放電が強すぎた!?)
「……はは、これはすごいな。一口食べただけで、枯渇しかけていた僕の魔力が全回復したよ。君は一体、何者なんだ?」
(えっ、魔力回復? あ、そうか、私、魔力密度を極限まで高めちゃったから、最高級のポーションみたいな効果になっちゃったんだ!)
私はホッとして、思わず深いため息をついた。
「……ふぅ」
(よかったぁ。毒じゃなかったんだ。お口に合って何よりです、領主様!)
しかし、その溜息はカイルには「フン、その程度の魔力で驚くとは、未熟者が」という鼻笑いに聞こえたらしい。
「(……怖い。顔は本当に怖いが、心の中は『よかったぁ』と『てへっ』の嵐だ。このギャップ、中毒になりそうだ)」
カイルは楽しそうに笑いながら、手際よくお茶を淹れ始めた。
立ち上る芳醇な香りが、殺伐とした(見た目だけの)部屋を包み込む。
(……お茶の匂い。落ち着く。あ、そういえば領主様、なんで私の名前を知ってたんだろう。聞かなきゃ。でも、なんて聞けばいいの?)
私は葛藤の末、眉間にこれ以上ないほどの深い皺を寄せ、絞り出すような声で言った。
「……名、なぜ」
(「私の名前をどこでお聞きになったのですか?」って聞きたいだけなのに、なんか「名乗れ、さもなくば死を」みたいなニュアンスになっちゃった!)
カイルは淹れたてのお茶を私の方に差し出しながら、悪戯っぽく微笑んだ。
「君の名前? ああ、王都で有名な『氷の悪女』の噂だよ。でも、実際に会ってみると、噂とは随分違うみたいだね」
(……噂通り、性格が悪くて怖い女だと思われてるよね、やっぱり)
私は悲しくなって、俯いた。
だが、カイルの手が、そっと私の机の上の手に触れた。
「(そんなに悲しまないでくれ。僕には聞こえているよ。君の、そのやかましくて可愛らしい、本当の声がね)」
カイルの心の声は、私には届かない。
ただ、彼の手の温かさに、私の顔は(外見だけは)真っ赤に怒り狂ったような色に染まるのだった。
私は朝日と共に飛び起き、修復したばかりのベッドの上で転げ回った。
公爵邸にいた頃は、ラーナが横で「お姉様は今、お腹が痛いので喋れません」と勝手に嘘をついて追い返してくれていたが、今は代弁者がいない。
(どうしよう、どうしよう! おもてなしなんて、教科書でしか読んだことないよ! まずは掃除……は終わってるから、飾り付け!?)
私は杖を振り回し、屋敷中のカーテンを新品の最高級シルク(の、魔力再現版)に作り替えた。
ついでに、殺風景だったリビングに大理石の彫像と、二十人は座れる無駄に豪華な円卓を召喚する。
(……うん、完璧。これでおもてなしの形は整ったはず!)
だが、客観的に見れば、その部屋は「ラスボスが勇者を待ち構える謁見の間」のような威圧感を放っていた。
(次は、お茶菓子だわ。クッキー……魔法で焼けるかな?)
私はキッチンへ走り、適当な小麦粉(魔力で生成)と砂糖(魔力で生成)をボウルに入れた。
本来なら手で混ぜるべきだが、コミュ障の私は効率を重視する。
「……結合、発熱、成形」
ボウルの中身が猛烈な勢いで回転し、凄まじい光を放ち始めた。
(あ、ちょっと魔力密度を上げすぎたかも。まあ、栄養満点ってことで!)
チン、という軽快な音(空気を振動させて鳴らした)と共に焼き上がったのは、黄金色に輝き、時折パチパチと放電している「高濃度魔力クッキー」だった。
(よし、見た目はちょっと光ってるけど、味はきっと美味しいはず!)
私はそれを皿に盛り付け、震える手で円卓の真ん中に置いた。
そして約束の時間。
ドォォォン!!
(……あ。玄関、直してなかった)
昨日私が吹き飛ばしたままの玄関から、カイル公爵がひょっこりと顔を出した。
「……やあ。相変わらず豪快な出迎えだね、ルミール嬢」
(ひいいいい! 来た! 本物が来た! 顔がいい! 眩しい!)
私は緊張のあまり、椅子の背もたれを指が食い込むほど強く掴んだ。
私の顔面は、喜びと恐怖が混ざり合った結果、「不法侵入者を今すぐ八つ裂きにして庭の肥やしにしようと企む魔女」の表情を完成させていた。
「……座れ」
(「どうぞ、お掛けになってください。粗末な家ですが歓迎します」って言いたいのに! なんで二文字しか出ないの!)
カイルは一瞬、豪華すぎる円卓と、その上に鎮座する光り輝くクッキーを見て絶句した。
「(……なんだこの部屋は。昨日までは廃屋だったはずなのに、今は王宮の特別室より豪華じゃないか。それに、あのクッキー……一つ食べたら魔力回路がオーバーヒートしそうだぞ)」
カイルは苦笑しながら、持参したティーポットと茶葉をテーブルに置いた。
「……お言葉に甘えて、座らせてもらうよ。すごいクッキーだね、これは君の手作りかな?」
(……あ。褒められた!? これ、褒められたんだよね!? 嬉しい! 魔法で作ったなんて言えないけど、一生懸命魔力を込めたのは事実だよ!)
私は嬉しさのあまり、カイルをじっと見つめてしまった。
(喜んでくれたかな? 毒入りだと思われてないかな? 美味しいよ、それ!)
私の内面の期待とは裏腹に、向けられた視線は「食べなければ命はないぞ」という無言の脅迫にしか見えない。
「……食え」
(あああ、促し方が強引すぎる! これじゃ拷問だよ!)
カイルは覚悟を決めたようにクッキーを一枚手に取ると、ゆっくりと口に運んだ。
「…………っ!?」
カイルの体がビクンと跳ね、彼の瞳に銀色の火花が散った。
(えっ!? まずかった!? それとも、やっぱり放電が強すぎた!?)
「……はは、これはすごいな。一口食べただけで、枯渇しかけていた僕の魔力が全回復したよ。君は一体、何者なんだ?」
(えっ、魔力回復? あ、そうか、私、魔力密度を極限まで高めちゃったから、最高級のポーションみたいな効果になっちゃったんだ!)
私はホッとして、思わず深いため息をついた。
「……ふぅ」
(よかったぁ。毒じゃなかったんだ。お口に合って何よりです、領主様!)
しかし、その溜息はカイルには「フン、その程度の魔力で驚くとは、未熟者が」という鼻笑いに聞こえたらしい。
「(……怖い。顔は本当に怖いが、心の中は『よかったぁ』と『てへっ』の嵐だ。このギャップ、中毒になりそうだ)」
カイルは楽しそうに笑いながら、手際よくお茶を淹れ始めた。
立ち上る芳醇な香りが、殺伐とした(見た目だけの)部屋を包み込む。
(……お茶の匂い。落ち着く。あ、そういえば領主様、なんで私の名前を知ってたんだろう。聞かなきゃ。でも、なんて聞けばいいの?)
私は葛藤の末、眉間にこれ以上ないほどの深い皺を寄せ、絞り出すような声で言った。
「……名、なぜ」
(「私の名前をどこでお聞きになったのですか?」って聞きたいだけなのに、なんか「名乗れ、さもなくば死を」みたいなニュアンスになっちゃった!)
カイルは淹れたてのお茶を私の方に差し出しながら、悪戯っぽく微笑んだ。
「君の名前? ああ、王都で有名な『氷の悪女』の噂だよ。でも、実際に会ってみると、噂とは随分違うみたいだね」
(……噂通り、性格が悪くて怖い女だと思われてるよね、やっぱり)
私は悲しくなって、俯いた。
だが、カイルの手が、そっと私の机の上の手に触れた。
「(そんなに悲しまないでくれ。僕には聞こえているよ。君の、そのやかましくて可愛らしい、本当の声がね)」
カイルの心の声は、私には届かない。
ただ、彼の手の温かさに、私の顔は(外見だけは)真っ赤に怒り狂ったような色に染まるのだった。
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