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「……キラリ、準備はいいか。扉の向こうには、我が国の全貴族と……招かれざる『元婚約者』が待っているぞ」
晩餐会場の巨大な扉の前で、アルベルト様が少しだけ緊張した面持ちで私を見つめました。
今日の彼は、私の特別マッサージと新作の「真珠パウダー入り乳液」のおかげで、もはや歩く芸術品のような輝きを放っていますわ。
「あら、アルベルト様。緊張して肩に力が入ると、デコルテのラインが台無しですわよ? ……さあ、開けてちょうだい。私の『輝き』で、彼らの網膜を焼き尽くして差し上げますわ!」
扉が開かれた瞬間、光と熱気が押し寄せてきました。
ですが、それ以上に強烈だったのは、会場中の視線です。
「……見て、あの女性……。あれが噂のルミナス公爵令嬢?」
「追放されたと聞いていたが、あんなに神々しい美貌だったかしら……」
ざわめく群衆の中を、私はアルベルト様のエスコートで優雅に歩き出しました。
背筋をピンと伸ばし、顎を数ミリ上げ、視線は遠くの「美の地平線」を見つめる。
これが、社交界を支配する「悪役令嬢(改め、美の女神)」の歩法ですわ。
「……キラリ!?」
不意に、聞き覚えのある、少しばかり情けない声が聞こえました。
視線を向けると、そこには……まあ、なんてこと!
数週間前よりも、随分と「鮮度」の落ちたレオン様と、装飾過多で品のないミナさんが立っていました。
「レオン様。お久しぶりですわね。……あら、そのお顔。王宮の乾燥は、私の想像以上に深刻なようですわね」
「貴様……! なぜ、隣国の国賓としてここにいる! 追放された身で、何をしに来た!」
レオン様は驚愕のあまり、手に持っていたグラスを震わせています。
その隣で、ミナさんが顔を真っ赤にして叫びました。
「そうよ! 追放された悪女が、こんな華やかな場所に顔を出すなんて! アルベルト閣下、騙されてはいけません! この女は、私のドレスを破いた恐ろしい女なんですのよ!」
私は扇をパチンと閉じ、ミナさんを哀れみの目で見つめました。
「ミナさん。そんなに大声を出すと、口角の横に深い『怒りジワ』が刻まれますわよ? せっかくの若さが、その醜い嫉妬のせいで腐敗し始めていますわ」
「な……腐敗!? 失礼ね!」
「失礼なのはあなたの肌管理ですわ。……それよりレオン様。あなた、眉間のシワがさらに深くなりましたわね。事務仕事が溜まっているのでしょう? 老廃物が溜まった顔を人前に晒すなんて、一国の王子として恥ずかしくありませんの?」
「だ、黙れ! あの日以来、書類が山積みで……いや、そんなことはどうでもいい! 戻ってこい、キラリ! 貴様のあの『色分け付箋』がないと、何が重要なのかサッパリ分からんのだ!」
レオン様が、あろうことか大勢の前で私の腕を掴もうとしました。
……ですが、その手は届きません。
アルベルト様が、氷のように冷たい手捌きで、私の前に立ち塞がったからです。
「レオン王子。……我が国の国賓に、無作法な真似は慎んでもらおうか」
「アルベルト……! これは我が国の国内問題だ! そいつは、私の婚約者……だった女だぞ!」
「『だった』。……過去形だな。ならば今の彼女は、自由な一人の女性だ。そして、我が王家が全力を挙げて守るべき、至高の『美の象徴』でもある」
アルベルト様の言葉に、会場中から感嘆の声が上がりました。
彼は私の腰を優しく抱き寄せ、レオン様を冷徹に見下ろしました。
「君が捨てた原石は、私の国でダイヤモンドとして覚醒した。……今さら返せなどと、寝言はベッドの中で言うんだな」
「……っ! お、おのれ……!」
レオン様が顔を真っ赤にして絶句している間に、私はそっと彼の耳元へ近づきました。
「レオン様。最後に一つだけ助言を。……そのクマ、温めたタオルと冷やしたタオルを交互に当てると、少しはマシになりますわ。……まあ、今の私には、もう関係のないことですけれど。オーホッホッホッホ!」
私は高笑いを残し、アルベルト様と共に優雅にその場を去りました。
背後で、悔しさに震えるレオン様と、地団駄を踏むミナさんの気配を感じましたが、私の視線はもう、次なる「美のステージ」へと向けられていたのです。
「……キラリ。少しやりすぎではないか?」
「あら、アルベルト様。美しさは時に残酷な刃(やいば)なのです。……さあ、次はあそこの王妃様の元へ行きましょう。彼女の『美肌悩み相談』の続きが待っていますわ!」
晩餐会は、私の独壇場となりました。
かつての婚約者の後悔など、私の輝く未来を彩るための、ほんの些細な「隠し味」に過ぎなかったのですわ。
晩餐会場の巨大な扉の前で、アルベルト様が少しだけ緊張した面持ちで私を見つめました。
今日の彼は、私の特別マッサージと新作の「真珠パウダー入り乳液」のおかげで、もはや歩く芸術品のような輝きを放っていますわ。
「あら、アルベルト様。緊張して肩に力が入ると、デコルテのラインが台無しですわよ? ……さあ、開けてちょうだい。私の『輝き』で、彼らの網膜を焼き尽くして差し上げますわ!」
扉が開かれた瞬間、光と熱気が押し寄せてきました。
ですが、それ以上に強烈だったのは、会場中の視線です。
「……見て、あの女性……。あれが噂のルミナス公爵令嬢?」
「追放されたと聞いていたが、あんなに神々しい美貌だったかしら……」
ざわめく群衆の中を、私はアルベルト様のエスコートで優雅に歩き出しました。
背筋をピンと伸ばし、顎を数ミリ上げ、視線は遠くの「美の地平線」を見つめる。
これが、社交界を支配する「悪役令嬢(改め、美の女神)」の歩法ですわ。
「……キラリ!?」
不意に、聞き覚えのある、少しばかり情けない声が聞こえました。
視線を向けると、そこには……まあ、なんてこと!
数週間前よりも、随分と「鮮度」の落ちたレオン様と、装飾過多で品のないミナさんが立っていました。
「レオン様。お久しぶりですわね。……あら、そのお顔。王宮の乾燥は、私の想像以上に深刻なようですわね」
「貴様……! なぜ、隣国の国賓としてここにいる! 追放された身で、何をしに来た!」
レオン様は驚愕のあまり、手に持っていたグラスを震わせています。
その隣で、ミナさんが顔を真っ赤にして叫びました。
「そうよ! 追放された悪女が、こんな華やかな場所に顔を出すなんて! アルベルト閣下、騙されてはいけません! この女は、私のドレスを破いた恐ろしい女なんですのよ!」
私は扇をパチンと閉じ、ミナさんを哀れみの目で見つめました。
「ミナさん。そんなに大声を出すと、口角の横に深い『怒りジワ』が刻まれますわよ? せっかくの若さが、その醜い嫉妬のせいで腐敗し始めていますわ」
「な……腐敗!? 失礼ね!」
「失礼なのはあなたの肌管理ですわ。……それよりレオン様。あなた、眉間のシワがさらに深くなりましたわね。事務仕事が溜まっているのでしょう? 老廃物が溜まった顔を人前に晒すなんて、一国の王子として恥ずかしくありませんの?」
「だ、黙れ! あの日以来、書類が山積みで……いや、そんなことはどうでもいい! 戻ってこい、キラリ! 貴様のあの『色分け付箋』がないと、何が重要なのかサッパリ分からんのだ!」
レオン様が、あろうことか大勢の前で私の腕を掴もうとしました。
……ですが、その手は届きません。
アルベルト様が、氷のように冷たい手捌きで、私の前に立ち塞がったからです。
「レオン王子。……我が国の国賓に、無作法な真似は慎んでもらおうか」
「アルベルト……! これは我が国の国内問題だ! そいつは、私の婚約者……だった女だぞ!」
「『だった』。……過去形だな。ならば今の彼女は、自由な一人の女性だ。そして、我が王家が全力を挙げて守るべき、至高の『美の象徴』でもある」
アルベルト様の言葉に、会場中から感嘆の声が上がりました。
彼は私の腰を優しく抱き寄せ、レオン様を冷徹に見下ろしました。
「君が捨てた原石は、私の国でダイヤモンドとして覚醒した。……今さら返せなどと、寝言はベッドの中で言うんだな」
「……っ! お、おのれ……!」
レオン様が顔を真っ赤にして絶句している間に、私はそっと彼の耳元へ近づきました。
「レオン様。最後に一つだけ助言を。……そのクマ、温めたタオルと冷やしたタオルを交互に当てると、少しはマシになりますわ。……まあ、今の私には、もう関係のないことですけれど。オーホッホッホッホ!」
私は高笑いを残し、アルベルト様と共に優雅にその場を去りました。
背後で、悔しさに震えるレオン様と、地団駄を踏むミナさんの気配を感じましたが、私の視線はもう、次なる「美のステージ」へと向けられていたのです。
「……キラリ。少しやりすぎではないか?」
「あら、アルベルト様。美しさは時に残酷な刃(やいば)なのです。……さあ、次はあそこの王妃様の元へ行きましょう。彼女の『美肌悩み相談』の続きが待っていますわ!」
晩餐会は、私の独壇場となりました。
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