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「……ふう。今夜の晩餐会、なかなかの成果でしたわ。見てください、セバス。私の肌、これほど多くの視線という名の『光の刺激』を浴びたというのに、一点の曇りもありませんわ!」
「お嬢様、流石でございます。隣国の貴婦人方の半分は、すでにお嬢様の信者と化しておりますな。……しかし、あのレオン王子の顔色といったら……。まるで腐りかけのナスビのようでした」
晩餐会が終わり、私は王宮の静かなバルコニーで夜風に当たっていました。
月明かりは最高の天然スポットライト。
私は手鏡を取り出し、自分の顔を左右から入念にチェックしました。
うん、完璧。
皮脂の分泌量も、毛穴の引き締まり具合も、まさに芸術的と言わざるを得ません。
「……キラリ。ここにいたのか」
背後から、低く心地よい声が聞こえました。
振り返ると、そこにはアルベルト様が立っていました。
今夜の彼は、私が選んだミッドナイトブルーの正装が実によく似合っています。
……ただ、少しばかり眉間のシワが気になりますわね。
「あら、アルベルト様。お疲れ様でした。……ですが、そんなに深刻な顔をしないでちょうだい。せっかくのイケメン……いえ、至高の造形が台無しですわよ? ほら、深呼吸して表情筋を緩めて」
「……君は、いついかなる時も『美』のことばかりだな。……レオン王子のあのような惨態を見ても、心は動かなかったのか?」
「動きましたわよ? ……『ああ、あの方のスキンケア、私がいなくなってから絶望的に放置されているのね』という悲しみに。彼は自分の価値を自分で下げているんですもの。自業自得ですわ」
私は冷淡に言い放ち、鏡をポーチにしまいました。
レオン様への情など、一滴の保湿ローションほどの価値もありません。
それよりも、私の目の前にいるこの「最高の素材」の方が、はるかに重要です。
「……そうか。ならば、安心した」
アルベルト様が一歩、私に近づきました。
夜風に乗って、彼がつけている私の特製コロン――「冷静沈着な森の香り」がふわりと漂います。
彼は私の目を真っ直ぐに見つめ、大きな手で私の肩を優しく掴みました。
「キラリ。私は決めた。君を二度と、あのような無能な男のもとへは返さない。……いや、この国から出すつもりもない」
「あら。……それは、私の美容製品の輸出を禁止するということですの? それは困りますわ。私の美学は国境を越えて……」
「違う! 製品の話をしているのではない!」
アルベルト様が珍しく声を荒げました。
あら、血管が浮き出ていますわ。血圧が上がると肌の赤みの原因になりますのに。
彼は深く溜息をつき、少しだけ顔を赤らめて言い直しました。
「……私は、君という人間そのものを求めている。君のその、突き抜けたポジティブさも、異常なまでの美への執着も……そして、時折見せる誰よりも純粋な瞳もだ。……私の妻として、この国で共に歩んでほしい」
「……」
沈黙が流れました。
バルコニーに吹き抜ける風の音だけが聞こえます。
……妻?
つまり、隣国の公爵夫人になる、ということかしら。
「……アルベルト様」
「……なんだ。返事を聞かせてくれ」
「公爵夫人になれば……。この王宮の、あの広大な鏡の間を、私の専用ルームにしてもよろしいのかしら? それから、庭園の半分を薬草園……美容植物の栽培基地に改造する許可もいただけますの?」
「……え、あ、ああ。そんなことでいいのなら、好きにするがいい」
「さらに! 隣国の軍隊の訓練メニューに、毎朝の『リズミカル・リンパマッサージ』を組み込んでも?」
「……それは、兵士たちの同意が必要だが……。君の願いなら、前向きに検討しよう」
私はパッと顔を輝かせ、アルベルト様の胸に飛び込みました。
……もちろん、ドレスがシワにならない程度の、絶妙な角度で。
「決まりですわ! 公爵夫人……なんて響きの良い肩書きかしら! それがあれば、私の美容帝国はさらに強固なものになりますわ。……アルベルト様、あなたを世界で一番『美しい公爵』に育て上げて差し上げます!」
「……ああ。……いや、プロポーズの返事としては少しズレている気がするが……。まあ、君らしいな」
アルベルト様は苦笑しながら、私の背中に手を回しました。
彼の心臓の音が、トクトクと力強く響いています。
……ああ、いい筋肉ですわ。
大胸筋がしっかりしていると、姿勢が良くなり、顔の弛み防止に繋がりますもの。
「よし、セバス! 聞こえていたかしら!? 明日から忙しくなりますわよ! まずは私の『公爵夫人仕様・特別集中美容プログラム』の作成ですわ!」
「……かしこまりました、お嬢様。……いえ、これからは公爵夫人とお呼びすべきですな。……アルベルト閣下、覚悟してください。お嬢様の愛(美容指導)は、時に死を覚悟するほど激しいものですぞ」
「……すでに身をもって知っている。……だが、望むところだ」
月明かりの下、私たちは(主に私が一方的に)愛を……いえ、美への誓いを交わしたのでした。
こうして、追放された悪役令嬢は、隣国の公爵夫人という最強の「美の拠点」を手に入れたのです。
……ですが、話はこれで終わりではありません。
私の「婚約破棄」をきっかけに始まったこの騒動は、やがて国全体を巻き込む「大美容戦国時代」へと突入していくのでした。
「お嬢様、流石でございます。隣国の貴婦人方の半分は、すでにお嬢様の信者と化しておりますな。……しかし、あのレオン王子の顔色といったら……。まるで腐りかけのナスビのようでした」
晩餐会が終わり、私は王宮の静かなバルコニーで夜風に当たっていました。
月明かりは最高の天然スポットライト。
私は手鏡を取り出し、自分の顔を左右から入念にチェックしました。
うん、完璧。
皮脂の分泌量も、毛穴の引き締まり具合も、まさに芸術的と言わざるを得ません。
「……キラリ。ここにいたのか」
背後から、低く心地よい声が聞こえました。
振り返ると、そこにはアルベルト様が立っていました。
今夜の彼は、私が選んだミッドナイトブルーの正装が実によく似合っています。
……ただ、少しばかり眉間のシワが気になりますわね。
「あら、アルベルト様。お疲れ様でした。……ですが、そんなに深刻な顔をしないでちょうだい。せっかくのイケメン……いえ、至高の造形が台無しですわよ? ほら、深呼吸して表情筋を緩めて」
「……君は、いついかなる時も『美』のことばかりだな。……レオン王子のあのような惨態を見ても、心は動かなかったのか?」
「動きましたわよ? ……『ああ、あの方のスキンケア、私がいなくなってから絶望的に放置されているのね』という悲しみに。彼は自分の価値を自分で下げているんですもの。自業自得ですわ」
私は冷淡に言い放ち、鏡をポーチにしまいました。
レオン様への情など、一滴の保湿ローションほどの価値もありません。
それよりも、私の目の前にいるこの「最高の素材」の方が、はるかに重要です。
「……そうか。ならば、安心した」
アルベルト様が一歩、私に近づきました。
夜風に乗って、彼がつけている私の特製コロン――「冷静沈着な森の香り」がふわりと漂います。
彼は私の目を真っ直ぐに見つめ、大きな手で私の肩を優しく掴みました。
「キラリ。私は決めた。君を二度と、あのような無能な男のもとへは返さない。……いや、この国から出すつもりもない」
「あら。……それは、私の美容製品の輸出を禁止するということですの? それは困りますわ。私の美学は国境を越えて……」
「違う! 製品の話をしているのではない!」
アルベルト様が珍しく声を荒げました。
あら、血管が浮き出ていますわ。血圧が上がると肌の赤みの原因になりますのに。
彼は深く溜息をつき、少しだけ顔を赤らめて言い直しました。
「……私は、君という人間そのものを求めている。君のその、突き抜けたポジティブさも、異常なまでの美への執着も……そして、時折見せる誰よりも純粋な瞳もだ。……私の妻として、この国で共に歩んでほしい」
「……」
沈黙が流れました。
バルコニーに吹き抜ける風の音だけが聞こえます。
……妻?
つまり、隣国の公爵夫人になる、ということかしら。
「……アルベルト様」
「……なんだ。返事を聞かせてくれ」
「公爵夫人になれば……。この王宮の、あの広大な鏡の間を、私の専用ルームにしてもよろしいのかしら? それから、庭園の半分を薬草園……美容植物の栽培基地に改造する許可もいただけますの?」
「……え、あ、ああ。そんなことでいいのなら、好きにするがいい」
「さらに! 隣国の軍隊の訓練メニューに、毎朝の『リズミカル・リンパマッサージ』を組み込んでも?」
「……それは、兵士たちの同意が必要だが……。君の願いなら、前向きに検討しよう」
私はパッと顔を輝かせ、アルベルト様の胸に飛び込みました。
……もちろん、ドレスがシワにならない程度の、絶妙な角度で。
「決まりですわ! 公爵夫人……なんて響きの良い肩書きかしら! それがあれば、私の美容帝国はさらに強固なものになりますわ。……アルベルト様、あなたを世界で一番『美しい公爵』に育て上げて差し上げます!」
「……ああ。……いや、プロポーズの返事としては少しズレている気がするが……。まあ、君らしいな」
アルベルト様は苦笑しながら、私の背中に手を回しました。
彼の心臓の音が、トクトクと力強く響いています。
……ああ、いい筋肉ですわ。
大胸筋がしっかりしていると、姿勢が良くなり、顔の弛み防止に繋がりますもの。
「よし、セバス! 聞こえていたかしら!? 明日から忙しくなりますわよ! まずは私の『公爵夫人仕様・特別集中美容プログラム』の作成ですわ!」
「……かしこまりました、お嬢様。……いえ、これからは公爵夫人とお呼びすべきですな。……アルベルト閣下、覚悟してください。お嬢様の愛(美容指導)は、時に死を覚悟するほど激しいものですぞ」
「……すでに身をもって知っている。……だが、望むところだ」
月明かりの下、私たちは(主に私が一方的に)愛を……いえ、美への誓いを交わしたのでした。
こうして、追放された悪役令嬢は、隣国の公爵夫人という最強の「美の拠点」を手に入れたのです。
……ですが、話はこれで終わりではありません。
私の「婚約破棄」をきっかけに始まったこの騒動は、やがて国全体を巻き込む「大美容戦国時代」へと突入していくのでした。
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