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「……アルベルト様。これが、この国の建国記念祭の会場ですの? ……本気で仰っています?」
隣国の王都、その中央広場に立った私は、扇で口元を覆い、絶望的な溜息をつきました。
目の前に広がっているのは、茶色く薄汚れたテントの群れ、舞い上がる砂埃、そして何より……。
「あの、ステージの装飾……。枯れかけた花と、カビの生えたような色合いのタペストリー。あれは『視覚への暴力』ですわ! 国民の美的感覚を破壊するおつもり!?」
隣に立つアルベルト様が、こめかみを押さえました。
「キラリ、落ち着け。これは我が国の伝統的なスタイルで……。質実剛健を旨とする我が国の気風を表しているのだ」
「質実剛健と貧乏くさいのは違います! それに見てちょうだい、準備をしている兵士たちの肌! 埃と汗で毛穴が悲鳴を上げていますわ! これでは祭りの前に彼らが過労で倒れてしまいます!」
私は決意しました。
このままでは、私が公爵夫人として嫁ぐ国の品格が疑われます。
「……決めましたわ。今年の建国祭のプロデュースは、この私、キラリ・フォン・ルミナスが引き受けます!」
「なっ……!? あと三日しかないのだぞ!?」
「三日もあれば、人の肌は生まれ変わります。祭りの会場ごとき、朝飯前ですわ! ……セバス! 準備はよろしくて!?」
私の背後から、いつの間にか作業着に着替えたセバスが、図面を片手に現れました。
「はっ、お嬢様。すでに資材の手配は完了しております。……今回のテーマは『光と潤いのフェスティバル』でよろしいですな?」
「ええ、完璧よ! さあ、アルベルト様。あなたには実行委員長……いえ、『美の広告塔』になってもらいますわ!」
それからの三日間、王都はかつてない熱狂と混乱の渦に巻き込まれました。
私の号令一下、地味なテントはすべて撤去され、代わりにパステルカラーのシルクで覆われた、優雅なパビリオンが次々と設営されていきました。
「そこの兵士さん! 休憩時間には必ずこの保湿ミストを浴びること! 義務ですわ!」
「出店者の皆様! 油っこい揚げ物は禁止です! 代わりに、お肌に良いハーブティーと、コラーゲンたっぷりのスープを提供しなさい!」
私は会場中を駆け回り、徹底的な「美の指導」を行いました。
最初は戸惑っていた国民たちも、私の開発した試供品(光る泥パックのミニサイズ)が配られると、目の色を変えて協力し始めました。
そして、祭りの前夜。
「……信じられん。これが、いつもの広場か?」
最終確認に訪れた国王陛下が、会場を見て呆然と立ち尽くしました。
そこは、もはや砂埃舞う広場ではありません。
何千もの魔導ランタンがキラキラと輝き、会場全体がほのかなローズの香りに包まれた、夢のような「美のテーマパーク」へと変貌を遂げていたのです。
「陛下、いかがでしょう。これなら、他国の賓客をお招きしても恥ずかしくありませんわ」
私が胸を張ると、陛下は深く頷き、私の手を取りました。
「キラリ嬢……。君は、我が国の救世主かもしれん。……例年、埃っぽくて不評だった祭りが、これほど華やかになるとは」
「お褒めに預かり光栄ですわ。……さて、アルベルト様。明日のパレードの準備はよろしくて?」
私は背後に控えていた、この祭りの「最大の目玉」を振り返りました。
「……キラリ。本当に、この格好で馬に乗らなければならないのか?」
そこには、純白の礼服に、銀糸の刺繍が施されたマントを羽織ったアルベルト様の姿がありました。
私が特別にデザインした、彼の「氷の彫刻」のような美しさを極限まで引き出す衣装です。
ただ、本人は少し恥ずかしそうですが。
「当然ですわ! 国民は、あなたのその美しいお姿を見る権利があります。……それに、その胸元の開き具合。計算し尽くされた『チラ見せ』が、貴婦人方のハートを鷲掴みにするのです!」
「……君の計算高さには、空恐ろしさすら感じるよ」
アルベルト様は諦めたように溜息をつきましたが、その口元はわずかに緩んでいました。
「まあ! 今、笑いましたわね!? その笑顔! その角度で明日もお願いしますわ! 絶対に崩してはなりませんよ!」
「……注文が多いな、私のプロデューサーは」
翌日、開催された建国祭……いえ、「第一回・国際ビューティー・エキスポ」が、空前の大成功を収めたことは言うまでもありません。
煌びやかな会場、美意識の高い屋台、そして何より、先頭を行くアルベルト様の神々しいお姿に、国民は熱狂しました。
この祭りの噂は瞬く間に周辺諸国に広がり、隣国は「世界で最も美しい国」として、その名を轟かせることになったのです。
……え? ルミナス王国からの来賓ですか?
レオン様の代理でいらした宰相閣下が、会場のあまりの輝きに目を回して倒れられたと聞きましたが……。
まあ、日頃のスキンケア不足が原因でしょうね。オーホッホッホッホ!
隣国の王都、その中央広場に立った私は、扇で口元を覆い、絶望的な溜息をつきました。
目の前に広がっているのは、茶色く薄汚れたテントの群れ、舞い上がる砂埃、そして何より……。
「あの、ステージの装飾……。枯れかけた花と、カビの生えたような色合いのタペストリー。あれは『視覚への暴力』ですわ! 国民の美的感覚を破壊するおつもり!?」
隣に立つアルベルト様が、こめかみを押さえました。
「キラリ、落ち着け。これは我が国の伝統的なスタイルで……。質実剛健を旨とする我が国の気風を表しているのだ」
「質実剛健と貧乏くさいのは違います! それに見てちょうだい、準備をしている兵士たちの肌! 埃と汗で毛穴が悲鳴を上げていますわ! これでは祭りの前に彼らが過労で倒れてしまいます!」
私は決意しました。
このままでは、私が公爵夫人として嫁ぐ国の品格が疑われます。
「……決めましたわ。今年の建国祭のプロデュースは、この私、キラリ・フォン・ルミナスが引き受けます!」
「なっ……!? あと三日しかないのだぞ!?」
「三日もあれば、人の肌は生まれ変わります。祭りの会場ごとき、朝飯前ですわ! ……セバス! 準備はよろしくて!?」
私の背後から、いつの間にか作業着に着替えたセバスが、図面を片手に現れました。
「はっ、お嬢様。すでに資材の手配は完了しております。……今回のテーマは『光と潤いのフェスティバル』でよろしいですな?」
「ええ、完璧よ! さあ、アルベルト様。あなたには実行委員長……いえ、『美の広告塔』になってもらいますわ!」
それからの三日間、王都はかつてない熱狂と混乱の渦に巻き込まれました。
私の号令一下、地味なテントはすべて撤去され、代わりにパステルカラーのシルクで覆われた、優雅なパビリオンが次々と設営されていきました。
「そこの兵士さん! 休憩時間には必ずこの保湿ミストを浴びること! 義務ですわ!」
「出店者の皆様! 油っこい揚げ物は禁止です! 代わりに、お肌に良いハーブティーと、コラーゲンたっぷりのスープを提供しなさい!」
私は会場中を駆け回り、徹底的な「美の指導」を行いました。
最初は戸惑っていた国民たちも、私の開発した試供品(光る泥パックのミニサイズ)が配られると、目の色を変えて協力し始めました。
そして、祭りの前夜。
「……信じられん。これが、いつもの広場か?」
最終確認に訪れた国王陛下が、会場を見て呆然と立ち尽くしました。
そこは、もはや砂埃舞う広場ではありません。
何千もの魔導ランタンがキラキラと輝き、会場全体がほのかなローズの香りに包まれた、夢のような「美のテーマパーク」へと変貌を遂げていたのです。
「陛下、いかがでしょう。これなら、他国の賓客をお招きしても恥ずかしくありませんわ」
私が胸を張ると、陛下は深く頷き、私の手を取りました。
「キラリ嬢……。君は、我が国の救世主かもしれん。……例年、埃っぽくて不評だった祭りが、これほど華やかになるとは」
「お褒めに預かり光栄ですわ。……さて、アルベルト様。明日のパレードの準備はよろしくて?」
私は背後に控えていた、この祭りの「最大の目玉」を振り返りました。
「……キラリ。本当に、この格好で馬に乗らなければならないのか?」
そこには、純白の礼服に、銀糸の刺繍が施されたマントを羽織ったアルベルト様の姿がありました。
私が特別にデザインした、彼の「氷の彫刻」のような美しさを極限まで引き出す衣装です。
ただ、本人は少し恥ずかしそうですが。
「当然ですわ! 国民は、あなたのその美しいお姿を見る権利があります。……それに、その胸元の開き具合。計算し尽くされた『チラ見せ』が、貴婦人方のハートを鷲掴みにするのです!」
「……君の計算高さには、空恐ろしさすら感じるよ」
アルベルト様は諦めたように溜息をつきましたが、その口元はわずかに緩んでいました。
「まあ! 今、笑いましたわね!? その笑顔! その角度で明日もお願いしますわ! 絶対に崩してはなりませんよ!」
「……注文が多いな、私のプロデューサーは」
翌日、開催された建国祭……いえ、「第一回・国際ビューティー・エキスポ」が、空前の大成功を収めたことは言うまでもありません。
煌びやかな会場、美意識の高い屋台、そして何より、先頭を行くアルベルト様の神々しいお姿に、国民は熱狂しました。
この祭りの噂は瞬く間に周辺諸国に広がり、隣国は「世界で最も美しい国」として、その名を轟かせることになったのです。
……え? ルミナス王国からの来賓ですか?
レオン様の代理でいらした宰相閣下が、会場のあまりの輝きに目を回して倒れられたと聞きましたが……。
まあ、日頃のスキンケア不足が原因でしょうね。オーホッホッホッホ!
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