婚約破棄を受け入れたら溺愛ルートに突入。没落する暇もありません!

萩月

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「お嬢様、とんでもない厚顔無恥……失礼、ルミナス王国からの使者が到着いたしました。あろうことか、お嬢様が持ち出した資産の『全額返還』を要求しております」

セバスが、まるで汚物でも見るかのような指つきで、一通の公式文書を差し出しました。
私はちょうど、アルベルト様と並んで「新作・薔薇の滴ヘアオイル」のテイスティング……もとい、香りの確認をしていたところです。

「返還請求? まあ、レオン様ったら。ついに国の金庫が空っぽになって、私の『おやつ代』にまで手を出そうというのかしら」

私は扇をパチンと閉じ、優雅に立ち上がりました。
隣でアルベルト様が、氷のような冷たい笑みを浮かべています。

「キラリ、気にする必要はない。君が持ち出したのは、君の正当な私有財産だろう?」

「ええ、もちろんですわ! 私が夜な夜な、美肌を削ってまでこなした『事務代行』の報酬ですから」

私たちは連れ立って、謁見の間へと向かいました。
そこにいたのは、ルミナス王国の財務官。
かつて私の前で「数字が合わない!」と泣きついていた、あの哀れな男です。
……あら、以前より一段と髪が薄くなって、頭皮が乾燥しておりますわね。

「ルミナス公爵令嬢キラリ様! ……いえ、現在は隣国の……その。殿下より言伝がございます! 『お前が持ち逃げした公費を今すぐ返せ、さもなくば国際問題にする』と!」

財務官は震える声で叫びましたが、その視線は私の背後に立つアルベルト様の威圧感に泳いでいます。

「公費? 失礼ね。あれは私が十数年にわたり、王宮の無駄遣いを削減し、適切な資産運用で増やした『純利益』の一部に過ぎませんわ。……セバス、例の『美の明細書』を」

「はっ、こちらに」

セバスが差し出したのは、数メートルにも及ぶ長いスクロールでした。
私はそれを財務官の足元へ放り投げました。

「よく見てちょうだい。第一項、レオン様の婚約者として受けた『精神的苦痛および肌荒れへの慰謝料』。第二項、王宮の書類整理における『高度専門職としてのコンサルティング費用』。……そして第三項! 私の高笑いによって王宮の邪気を払った『除霊・清掃代』ですわ!」

「じょ、除霊代……!? そんな名目で金を取る令嬢がいるか!」

「ここにいますわ。……さらに言わせていただければ、私が去った後、あなたたちが私の『事務メソッド』を無断で使用していることへの『知的財産使用料』も加算しておりますのよ?」

財務官は、その膨大な請求額の合計を見て、膝から崩れ落ちました。
それは、私が持ち出した額の三倍以上に跳ね上がっていたからです。

「……計算によれば、むしろルミナス王国側が私に不足分を支払うべきですわね。……どうします? 今すぐ支払うか、それとも私の『美容指導』を一ヶ月間、不眠不休で受けて身を清めますか?」

「き、キラリ様の美容指導!? あの……『魂まで剥がされる』と噂の……っ、ひいいい!」

財務官は、私の笑顔に「死の宣告」を見たのか、返還請求書を握りつぶして逃げ出そうとしました。
そこへ、アルベルト様が静かに一歩前へ出ました。

「……ルミナス王国へ伝えろ。キラリは私の妻になる女性だ。彼女の資産に手を出すことは、我が公爵家、ひいてはこの隣国への宣戦布告と見なす。……返還してほしいのは、こちらの方だ」

「な、何を返還せよと……?」

「彼女が費やした貴重な時間だ。……一秒ごとに、金貨千枚で計算してもいいぞ?」

アルベルト様の冷徹な脅しに、財務官は白目を剥いて卒倒しました。
セバスが慣れた手つきで、彼をゴミ袋……ではなく、袋詰めにして運び出していきます。

「アルベルト様、素敵ですわ! ……でも、一秒で金貨千枚は、少し私の『時給』としては安すぎませんこと?」

「……これ以上上げると、あの国が物理的に消滅してしまうからな」

私たちは顔を見合わせ、満足げに微笑みました。
レオン様、お気の毒様。
あなたの「美しくない」企みは、私の完璧な論理と、アルベルト様の圧倒的な武力(と愛)によって、塵一つ残さず粉砕されましたわ。

「ふふ、これでまたお肌の透明感が増しましたわね。……さて、セバス! 勝利のシャンパン……いえ、特製の『血行促進ハーブソーダ』を持ってきなさい!」

「かしこまりました。……ルミナス王国の金庫の心配より、今夜のディナーのメニューを心配することにいたしましょう」

高笑いと共に、私たちの平和な(?)日常は続いていくのでした。
オーホッホッホッホ!
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