21 / 28
21
しおりを挟む
「お嬢様、とんでもない厚顔無恥……失礼、ルミナス王国からの使者が到着いたしました。あろうことか、お嬢様が持ち出した資産の『全額返還』を要求しております」
セバスが、まるで汚物でも見るかのような指つきで、一通の公式文書を差し出しました。
私はちょうど、アルベルト様と並んで「新作・薔薇の滴ヘアオイル」のテイスティング……もとい、香りの確認をしていたところです。
「返還請求? まあ、レオン様ったら。ついに国の金庫が空っぽになって、私の『おやつ代』にまで手を出そうというのかしら」
私は扇をパチンと閉じ、優雅に立ち上がりました。
隣でアルベルト様が、氷のような冷たい笑みを浮かべています。
「キラリ、気にする必要はない。君が持ち出したのは、君の正当な私有財産だろう?」
「ええ、もちろんですわ! 私が夜な夜な、美肌を削ってまでこなした『事務代行』の報酬ですから」
私たちは連れ立って、謁見の間へと向かいました。
そこにいたのは、ルミナス王国の財務官。
かつて私の前で「数字が合わない!」と泣きついていた、あの哀れな男です。
……あら、以前より一段と髪が薄くなって、頭皮が乾燥しておりますわね。
「ルミナス公爵令嬢キラリ様! ……いえ、現在は隣国の……その。殿下より言伝がございます! 『お前が持ち逃げした公費を今すぐ返せ、さもなくば国際問題にする』と!」
財務官は震える声で叫びましたが、その視線は私の背後に立つアルベルト様の威圧感に泳いでいます。
「公費? 失礼ね。あれは私が十数年にわたり、王宮の無駄遣いを削減し、適切な資産運用で増やした『純利益』の一部に過ぎませんわ。……セバス、例の『美の明細書』を」
「はっ、こちらに」
セバスが差し出したのは、数メートルにも及ぶ長いスクロールでした。
私はそれを財務官の足元へ放り投げました。
「よく見てちょうだい。第一項、レオン様の婚約者として受けた『精神的苦痛および肌荒れへの慰謝料』。第二項、王宮の書類整理における『高度専門職としてのコンサルティング費用』。……そして第三項! 私の高笑いによって王宮の邪気を払った『除霊・清掃代』ですわ!」
「じょ、除霊代……!? そんな名目で金を取る令嬢がいるか!」
「ここにいますわ。……さらに言わせていただければ、私が去った後、あなたたちが私の『事務メソッド』を無断で使用していることへの『知的財産使用料』も加算しておりますのよ?」
財務官は、その膨大な請求額の合計を見て、膝から崩れ落ちました。
それは、私が持ち出した額の三倍以上に跳ね上がっていたからです。
「……計算によれば、むしろルミナス王国側が私に不足分を支払うべきですわね。……どうします? 今すぐ支払うか、それとも私の『美容指導』を一ヶ月間、不眠不休で受けて身を清めますか?」
「き、キラリ様の美容指導!? あの……『魂まで剥がされる』と噂の……っ、ひいいい!」
財務官は、私の笑顔に「死の宣告」を見たのか、返還請求書を握りつぶして逃げ出そうとしました。
そこへ、アルベルト様が静かに一歩前へ出ました。
「……ルミナス王国へ伝えろ。キラリは私の妻になる女性だ。彼女の資産に手を出すことは、我が公爵家、ひいてはこの隣国への宣戦布告と見なす。……返還してほしいのは、こちらの方だ」
「な、何を返還せよと……?」
「彼女が費やした貴重な時間だ。……一秒ごとに、金貨千枚で計算してもいいぞ?」
アルベルト様の冷徹な脅しに、財務官は白目を剥いて卒倒しました。
セバスが慣れた手つきで、彼をゴミ袋……ではなく、袋詰めにして運び出していきます。
「アルベルト様、素敵ですわ! ……でも、一秒で金貨千枚は、少し私の『時給』としては安すぎませんこと?」
「……これ以上上げると、あの国が物理的に消滅してしまうからな」
私たちは顔を見合わせ、満足げに微笑みました。
レオン様、お気の毒様。
あなたの「美しくない」企みは、私の完璧な論理と、アルベルト様の圧倒的な武力(と愛)によって、塵一つ残さず粉砕されましたわ。
「ふふ、これでまたお肌の透明感が増しましたわね。……さて、セバス! 勝利のシャンパン……いえ、特製の『血行促進ハーブソーダ』を持ってきなさい!」
「かしこまりました。……ルミナス王国の金庫の心配より、今夜のディナーのメニューを心配することにいたしましょう」
高笑いと共に、私たちの平和な(?)日常は続いていくのでした。
オーホッホッホッホ!
セバスが、まるで汚物でも見るかのような指つきで、一通の公式文書を差し出しました。
私はちょうど、アルベルト様と並んで「新作・薔薇の滴ヘアオイル」のテイスティング……もとい、香りの確認をしていたところです。
「返還請求? まあ、レオン様ったら。ついに国の金庫が空っぽになって、私の『おやつ代』にまで手を出そうというのかしら」
私は扇をパチンと閉じ、優雅に立ち上がりました。
隣でアルベルト様が、氷のような冷たい笑みを浮かべています。
「キラリ、気にする必要はない。君が持ち出したのは、君の正当な私有財産だろう?」
「ええ、もちろんですわ! 私が夜な夜な、美肌を削ってまでこなした『事務代行』の報酬ですから」
私たちは連れ立って、謁見の間へと向かいました。
そこにいたのは、ルミナス王国の財務官。
かつて私の前で「数字が合わない!」と泣きついていた、あの哀れな男です。
……あら、以前より一段と髪が薄くなって、頭皮が乾燥しておりますわね。
「ルミナス公爵令嬢キラリ様! ……いえ、現在は隣国の……その。殿下より言伝がございます! 『お前が持ち逃げした公費を今すぐ返せ、さもなくば国際問題にする』と!」
財務官は震える声で叫びましたが、その視線は私の背後に立つアルベルト様の威圧感に泳いでいます。
「公費? 失礼ね。あれは私が十数年にわたり、王宮の無駄遣いを削減し、適切な資産運用で増やした『純利益』の一部に過ぎませんわ。……セバス、例の『美の明細書』を」
「はっ、こちらに」
セバスが差し出したのは、数メートルにも及ぶ長いスクロールでした。
私はそれを財務官の足元へ放り投げました。
「よく見てちょうだい。第一項、レオン様の婚約者として受けた『精神的苦痛および肌荒れへの慰謝料』。第二項、王宮の書類整理における『高度専門職としてのコンサルティング費用』。……そして第三項! 私の高笑いによって王宮の邪気を払った『除霊・清掃代』ですわ!」
「じょ、除霊代……!? そんな名目で金を取る令嬢がいるか!」
「ここにいますわ。……さらに言わせていただければ、私が去った後、あなたたちが私の『事務メソッド』を無断で使用していることへの『知的財産使用料』も加算しておりますのよ?」
財務官は、その膨大な請求額の合計を見て、膝から崩れ落ちました。
それは、私が持ち出した額の三倍以上に跳ね上がっていたからです。
「……計算によれば、むしろルミナス王国側が私に不足分を支払うべきですわね。……どうします? 今すぐ支払うか、それとも私の『美容指導』を一ヶ月間、不眠不休で受けて身を清めますか?」
「き、キラリ様の美容指導!? あの……『魂まで剥がされる』と噂の……っ、ひいいい!」
財務官は、私の笑顔に「死の宣告」を見たのか、返還請求書を握りつぶして逃げ出そうとしました。
そこへ、アルベルト様が静かに一歩前へ出ました。
「……ルミナス王国へ伝えろ。キラリは私の妻になる女性だ。彼女の資産に手を出すことは、我が公爵家、ひいてはこの隣国への宣戦布告と見なす。……返還してほしいのは、こちらの方だ」
「な、何を返還せよと……?」
「彼女が費やした貴重な時間だ。……一秒ごとに、金貨千枚で計算してもいいぞ?」
アルベルト様の冷徹な脅しに、財務官は白目を剥いて卒倒しました。
セバスが慣れた手つきで、彼をゴミ袋……ではなく、袋詰めにして運び出していきます。
「アルベルト様、素敵ですわ! ……でも、一秒で金貨千枚は、少し私の『時給』としては安すぎませんこと?」
「……これ以上上げると、あの国が物理的に消滅してしまうからな」
私たちは顔を見合わせ、満足げに微笑みました。
レオン様、お気の毒様。
あなたの「美しくない」企みは、私の完璧な論理と、アルベルト様の圧倒的な武力(と愛)によって、塵一つ残さず粉砕されましたわ。
「ふふ、これでまたお肌の透明感が増しましたわね。……さて、セバス! 勝利のシャンパン……いえ、特製の『血行促進ハーブソーダ』を持ってきなさい!」
「かしこまりました。……ルミナス王国の金庫の心配より、今夜のディナーのメニューを心配することにいたしましょう」
高笑いと共に、私たちの平和な(?)日常は続いていくのでした。
オーホッホッホッホ!
0
あなたにおすすめの小説
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる