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「――以上の通り、我がレオンハルト王国の次期予算案において、王立庭園の維持費を三割削減し、その分を……コホン、我ら貴族院の福利厚生に充てることを提案いたします」
王宮の会議室。
脂ぎった顔の財務卿が、自信満々に書類を叩いた。
周囲の文官たちは、明らかに不満げな顔をしながらも、誰も口を出せずにいる。
なぜなら、この部屋の最上席には、あの「氷の王子」カイル殿下が鎮座しているからだ。
カイル殿下は、肘をつき、細い指先でこめかみを軽く押さえながら、財務卿をじっと見つめている。
……沈黙。
分厚いカーテンが閉め切られたかのような、重苦しい静寂が部屋を支配する。
財務卿の額から、だらりと冷や汗が流れた。
「い、いかがでしょうか、殿下。この案であれば、貴族たちの支持も盤石かと……」
「……」
カイル殿下が、ゆっくりと瞬きをした。
そして、視線を財務卿の足元から頭のてっぺんまで、値踏みするように動かす。
「……(スッ)」
殿下が、机の上の予算案を、指先でわずか数ミリだけ押し戻した。
その瞬間、私は待ってましたとばかりに一歩前へ出る。
私の新しい仕事、「特別通訳官(自称:ツッコミ担当)」の出番である。
「お言葉ですが、財務卿。殿下は今、呆れすぎて言葉も出ないと仰っていますよ」
「な、何だと!? 貴様、新入りの分際で殿下の御心を……!」
「いいえ、分かりますとも。殿下の今の視線の動きは、『貴様の脳みそは、その突き出た腹の中に詰まっている脂肪以下の価値しかないのか?』という痛烈な皮肉です」
「な……っ!?」
財務卿が絶句する。
私は構わず、殿下の無言をさらに加速させて翻訳していく。
「続けて殿下はこう仰っています。『庭園は民に開放された数少ない憩いの場だ。そこを削って自分たちの懐を肥やすなど、王家の犬ですらない。ただの寄生虫だ。寄生虫には殺虫剤が必要だが、貴様の場合は予算ではなく、即刻の解雇通知がお似合いだ』……とのことです」
「そ、そんな! 殿下、本当ですか!? 私は王国の将来を思って……!」
財務卿が悲鳴を上げてカイル殿下にしがみつこうとする。
殿下は、無表情のまま、スッと椅子を引いて彼の接触を避けた。
「……」
「あ、殿下が追加で仰いました。『触るな、脂が移る。その脂で予算書が汚れたら、貴様の全財産を没収して庭園の肥料にするぞ』。……だそうです。あ、肥料にするのは殿下なりの慈悲だそうですよ。少しは国に貢献できますからね」
私の爆速翻訳に、会議室の文官たちが一斉にざわつき始めた。
今まで殿下の沈黙を「怒り」だと思って震えていた人々が、「なるほど、あれは罵倒だったのか!」と妙に納得した顔をしている。
カイル殿下を見ると、彼は少しだけ目を見開き、私をじっと見つめていた。
(……あ、これ、ちょっと言い過ぎたかしら? でも、彼の目は『もっとやれ』って言っている気がするのよね。……たぶん)
「殿下! この無礼な女の妄言を信じてはなりません! 私は……!」
「……(……)」
カイル殿下が、静かに立ち上がった。
そして、何も言わずに部屋の出口へと歩き出す。
すれ違いざま、彼は財務卿の横でピタリと足を止めた。
「……」
殿下は、財務卿が持っていた予算案を奪い取ると、そのままゴミ箱へと「シュート」した。
完璧な放物線を描いて、ゴミ箱に収まる予算案。
「……(フッ)」
殿下の口角が、ほんの、本当に一ミリだけ上がった。
「あ、殿下。今の『フッ』は、『ゴミ箱がお似合いだ。ついでに貴様も一緒に入っておけ』という意味ですね? 承知いたしました。警備員を呼びましょうか?」
「……っ!!」
カイル殿下は、耳の付け根を少しだけ赤くして、今度こそ爆速で部屋を去っていった。
残されたのは、腰を抜かした財務卿と、拍手喝采を送りたいのを必死で堪えている文官たち。
そして、第一仕事を終えて清々しい気分の私である。
「お嬢様……。今の、流石に『寄生虫』は私の創作が入っていませんでしたか?」
部屋の隅で控えていたアンナが、小声でツッコんでくる。
「いいのよ、アンナ。殿下の沈黙は『無限の解釈』を許容する最高のアートなんだから。それに、あの財務卿の顔、見た? あんなに面白い顔、なかなかお目にかかれないわよ」
私は満足げに頷くと、殿下の後を追って廊下へと飛び出した。
「殿下ー! 待ってください! 次の予定は『偏屈な隣国大使との会談』ですよ! 私の超訳、まだまだ在庫がございますから!」
廊下の向こうで、カイル殿下の歩く速度が少しだけ上がった。
照れているのか、本当に耳が疲れているのか。
どちらにせよ、私の「再就職」は、どうやら天職だったらしい。
王宮の会議室。
脂ぎった顔の財務卿が、自信満々に書類を叩いた。
周囲の文官たちは、明らかに不満げな顔をしながらも、誰も口を出せずにいる。
なぜなら、この部屋の最上席には、あの「氷の王子」カイル殿下が鎮座しているからだ。
カイル殿下は、肘をつき、細い指先でこめかみを軽く押さえながら、財務卿をじっと見つめている。
……沈黙。
分厚いカーテンが閉め切られたかのような、重苦しい静寂が部屋を支配する。
財務卿の額から、だらりと冷や汗が流れた。
「い、いかがでしょうか、殿下。この案であれば、貴族たちの支持も盤石かと……」
「……」
カイル殿下が、ゆっくりと瞬きをした。
そして、視線を財務卿の足元から頭のてっぺんまで、値踏みするように動かす。
「……(スッ)」
殿下が、机の上の予算案を、指先でわずか数ミリだけ押し戻した。
その瞬間、私は待ってましたとばかりに一歩前へ出る。
私の新しい仕事、「特別通訳官(自称:ツッコミ担当)」の出番である。
「お言葉ですが、財務卿。殿下は今、呆れすぎて言葉も出ないと仰っていますよ」
「な、何だと!? 貴様、新入りの分際で殿下の御心を……!」
「いいえ、分かりますとも。殿下の今の視線の動きは、『貴様の脳みそは、その突き出た腹の中に詰まっている脂肪以下の価値しかないのか?』という痛烈な皮肉です」
「な……っ!?」
財務卿が絶句する。
私は構わず、殿下の無言をさらに加速させて翻訳していく。
「続けて殿下はこう仰っています。『庭園は民に開放された数少ない憩いの場だ。そこを削って自分たちの懐を肥やすなど、王家の犬ですらない。ただの寄生虫だ。寄生虫には殺虫剤が必要だが、貴様の場合は予算ではなく、即刻の解雇通知がお似合いだ』……とのことです」
「そ、そんな! 殿下、本当ですか!? 私は王国の将来を思って……!」
財務卿が悲鳴を上げてカイル殿下にしがみつこうとする。
殿下は、無表情のまま、スッと椅子を引いて彼の接触を避けた。
「……」
「あ、殿下が追加で仰いました。『触るな、脂が移る。その脂で予算書が汚れたら、貴様の全財産を没収して庭園の肥料にするぞ』。……だそうです。あ、肥料にするのは殿下なりの慈悲だそうですよ。少しは国に貢献できますからね」
私の爆速翻訳に、会議室の文官たちが一斉にざわつき始めた。
今まで殿下の沈黙を「怒り」だと思って震えていた人々が、「なるほど、あれは罵倒だったのか!」と妙に納得した顔をしている。
カイル殿下を見ると、彼は少しだけ目を見開き、私をじっと見つめていた。
(……あ、これ、ちょっと言い過ぎたかしら? でも、彼の目は『もっとやれ』って言っている気がするのよね。……たぶん)
「殿下! この無礼な女の妄言を信じてはなりません! 私は……!」
「……(……)」
カイル殿下が、静かに立ち上がった。
そして、何も言わずに部屋の出口へと歩き出す。
すれ違いざま、彼は財務卿の横でピタリと足を止めた。
「……」
殿下は、財務卿が持っていた予算案を奪い取ると、そのままゴミ箱へと「シュート」した。
完璧な放物線を描いて、ゴミ箱に収まる予算案。
「……(フッ)」
殿下の口角が、ほんの、本当に一ミリだけ上がった。
「あ、殿下。今の『フッ』は、『ゴミ箱がお似合いだ。ついでに貴様も一緒に入っておけ』という意味ですね? 承知いたしました。警備員を呼びましょうか?」
「……っ!!」
カイル殿下は、耳の付け根を少しだけ赤くして、今度こそ爆速で部屋を去っていった。
残されたのは、腰を抜かした財務卿と、拍手喝采を送りたいのを必死で堪えている文官たち。
そして、第一仕事を終えて清々しい気分の私である。
「お嬢様……。今の、流石に『寄生虫』は私の創作が入っていませんでしたか?」
部屋の隅で控えていたアンナが、小声でツッコんでくる。
「いいのよ、アンナ。殿下の沈黙は『無限の解釈』を許容する最高のアートなんだから。それに、あの財務卿の顔、見た? あんなに面白い顔、なかなかお目にかかれないわよ」
私は満足げに頷くと、殿下の後を追って廊下へと飛び出した。
「殿下ー! 待ってください! 次の予定は『偏屈な隣国大使との会談』ですよ! 私の超訳、まだまだ在庫がございますから!」
廊下の向こうで、カイル殿下の歩く速度が少しだけ上がった。
照れているのか、本当に耳が疲れているのか。
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