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「……納得がいかん。どうしても納得がいかんぞ!」
セドリック皇太子は、修道院の回廊の柱を拳で叩きました。
視線の先には、中庭の噴水を囲んで華やかに談笑する美女たちの姿。
中心に座るのは、もちろんローズマリー。
その両隣を、リリアンと隣国のエレオノーラ姫が固め、背後には凛々しいカトリーヌが控えています。
それはまさに、神話に描かれる女神の集いのような絶景でした。
「殿下、そんなところで柱と格闘してどうされたのですか? 衛兵たちが不審な目で見ていますよ」
通りがかったアンが、冷めた目でセドリックを見上げました。
「アン! 貴様からも言ってやれ! あいつ……ローズマリーは、私の婚約者だったのだぞ! それがどうだ。今は私に挨拶一つせず、あのように女たちとばかり……」
「殿下。婚約破棄されたのは殿下ご自身ではありませんか。それに、お嬢様は今、非常に多忙なのです。北方全土から集まった美容相談の返信と、リリアン様たちの『美の管理』で、殿下の顔を思い出す暇さえ惜しいのだとか」
「思い出す暇さえ惜しいだと!? この私の……王国一の美男子と謳われた、私の顔をか!」
セドリックは髪をかき乱しました。
これまでは、ローズマリーが付きまとってくるのが鬱陶しくて仕方がありませんでした。
しかし、いざ彼女の視界から自分が完全に消え去り、代わりに自分以上の美女たちが彼女の寵愛(?)を一身に受けているのを見ると、得体の知れない焦燥感が込み上げてくるのです。
「……見ていろ。ローズマリーに、私の存在感を刻み込んでやる!」
一時間後。
私はリリアン様の鎖骨のラインがいかに芸術的かを説法していましたが、背後から漂ってきた異様な香りに鼻をひくつかせました。
「……何かしら、この強烈なムスクの香りは。せっかくのリリアン様の微かな花の香りがかき消されてしまいますわ」
「お嬢様、あちらをご覧ください。……何か、すごいのが来ましたよ」
アンが指差した先には、金糸をふんだんに使ったド派手な衣装に身を包み、前髪をこれでもかとセットしたセドリック殿下が、モデルのような歩き方で近づいてくる姿がありました。
「フッ……ローズマリー。良い天気だな。私の今日の装い、貴様の審美眼で評価してみるがいい」
殿下は噴水の縁に片足をかけ、夕陽を背に浴びてポーズを決めました。
私は無言で立ち上がり、殿下の方へ歩み寄りました。
「……ほう。ようやく私に関心を持ったか。さあ、どこからでも褒めるがいい。この衣装、特注なのだぞ」
私は殿下の顔の数センチ先まで近づき、じっとその瞳を覗き込みました。
「殿下……」
「なんだ、ローズマリー」
「……邪魔ですわ」
「……は?」
「光ですわ、光! 殿下がそこに立つせいで、リリアン様の左頬に当たる絶妙な反射光が遮られてしまいましたわ! 今すぐ三歩下がって、そのまま地面に伏せなさい! 貴方は影絵の道具にすらなっていませんわよ!」
セドリック殿下のポーズが、カチリと凍りつきました。
「……邪魔? 私が? この最高の衣装を着た、私がか?」
「ええ! それにその香水、つけすぎですわ! 美しさとは引き算の美学。今の貴方は、砂糖をぶちまけた揚げ菓子のようなしつこさです。カトリーヌ様! この不審者を速やかに、風通しの良い場所へ連れて行ってください!」
「承知した。殿下、行きましょう。今の貴方は……正直、見ていられません」
カトリーヌ様に首根っこを掴まれ、ズルズルと引きずられていく皇太子。
彼は去り際に「ローズマリー! いつか後悔させてやるからな! もっと私を見ろ! 私を評価しろーー!」と、もはや愛の告白なのか何なのか分からない絶叫を響かせていました。
「……ローズマリー様。セドリック様、少しお可哀想ですわ」
リリアンが苦笑いしながら言いました。
「リリアン様は慈悲深いですわね。ですが、美しさに妥協は禁物です。……さて、気を取り直して。次はエレオノーラ様のその艶やかな指先に、北方の氷水を一滴だけ乗せた『静寂の美』を模索しましょうか!」
「ええ、楽しみだわローズマリー」
美女たちは再び、自分たちだけの世界へと没入していきました。
回廊の陰で、セドリックは悔し涙に暮れていました。
「……なぜだ。なぜあいつは、私にはあんなに厳しいのだ……。リリアンにはあんなに甘いのに……」
それは恋の嫉妬というより、一人の「素材」としての敗北感。
ローズマリーに認められないことが、これほどまでに自尊心を削るとは、セドリックは思いもしませんでした。
彼の「美の迷走」は、さらに加速していくのでした。
セドリック皇太子は、修道院の回廊の柱を拳で叩きました。
視線の先には、中庭の噴水を囲んで華やかに談笑する美女たちの姿。
中心に座るのは、もちろんローズマリー。
その両隣を、リリアンと隣国のエレオノーラ姫が固め、背後には凛々しいカトリーヌが控えています。
それはまさに、神話に描かれる女神の集いのような絶景でした。
「殿下、そんなところで柱と格闘してどうされたのですか? 衛兵たちが不審な目で見ていますよ」
通りがかったアンが、冷めた目でセドリックを見上げました。
「アン! 貴様からも言ってやれ! あいつ……ローズマリーは、私の婚約者だったのだぞ! それがどうだ。今は私に挨拶一つせず、あのように女たちとばかり……」
「殿下。婚約破棄されたのは殿下ご自身ではありませんか。それに、お嬢様は今、非常に多忙なのです。北方全土から集まった美容相談の返信と、リリアン様たちの『美の管理』で、殿下の顔を思い出す暇さえ惜しいのだとか」
「思い出す暇さえ惜しいだと!? この私の……王国一の美男子と謳われた、私の顔をか!」
セドリックは髪をかき乱しました。
これまでは、ローズマリーが付きまとってくるのが鬱陶しくて仕方がありませんでした。
しかし、いざ彼女の視界から自分が完全に消え去り、代わりに自分以上の美女たちが彼女の寵愛(?)を一身に受けているのを見ると、得体の知れない焦燥感が込み上げてくるのです。
「……見ていろ。ローズマリーに、私の存在感を刻み込んでやる!」
一時間後。
私はリリアン様の鎖骨のラインがいかに芸術的かを説法していましたが、背後から漂ってきた異様な香りに鼻をひくつかせました。
「……何かしら、この強烈なムスクの香りは。せっかくのリリアン様の微かな花の香りがかき消されてしまいますわ」
「お嬢様、あちらをご覧ください。……何か、すごいのが来ましたよ」
アンが指差した先には、金糸をふんだんに使ったド派手な衣装に身を包み、前髪をこれでもかとセットしたセドリック殿下が、モデルのような歩き方で近づいてくる姿がありました。
「フッ……ローズマリー。良い天気だな。私の今日の装い、貴様の審美眼で評価してみるがいい」
殿下は噴水の縁に片足をかけ、夕陽を背に浴びてポーズを決めました。
私は無言で立ち上がり、殿下の方へ歩み寄りました。
「……ほう。ようやく私に関心を持ったか。さあ、どこからでも褒めるがいい。この衣装、特注なのだぞ」
私は殿下の顔の数センチ先まで近づき、じっとその瞳を覗き込みました。
「殿下……」
「なんだ、ローズマリー」
「……邪魔ですわ」
「……は?」
「光ですわ、光! 殿下がそこに立つせいで、リリアン様の左頬に当たる絶妙な反射光が遮られてしまいましたわ! 今すぐ三歩下がって、そのまま地面に伏せなさい! 貴方は影絵の道具にすらなっていませんわよ!」
セドリック殿下のポーズが、カチリと凍りつきました。
「……邪魔? 私が? この最高の衣装を着た、私がか?」
「ええ! それにその香水、つけすぎですわ! 美しさとは引き算の美学。今の貴方は、砂糖をぶちまけた揚げ菓子のようなしつこさです。カトリーヌ様! この不審者を速やかに、風通しの良い場所へ連れて行ってください!」
「承知した。殿下、行きましょう。今の貴方は……正直、見ていられません」
カトリーヌ様に首根っこを掴まれ、ズルズルと引きずられていく皇太子。
彼は去り際に「ローズマリー! いつか後悔させてやるからな! もっと私を見ろ! 私を評価しろーー!」と、もはや愛の告白なのか何なのか分からない絶叫を響かせていました。
「……ローズマリー様。セドリック様、少しお可哀想ですわ」
リリアンが苦笑いしながら言いました。
「リリアン様は慈悲深いですわね。ですが、美しさに妥協は禁物です。……さて、気を取り直して。次はエレオノーラ様のその艶やかな指先に、北方の氷水を一滴だけ乗せた『静寂の美』を模索しましょうか!」
「ええ、楽しみだわローズマリー」
美女たちは再び、自分たちだけの世界へと没入していきました。
回廊の陰で、セドリックは悔し涙に暮れていました。
「……なぜだ。なぜあいつは、私にはあんなに厳しいのだ……。リリアンにはあんなに甘いのに……」
それは恋の嫉妬というより、一人の「素材」としての敗北感。
ローズマリーに認められないことが、これほどまでに自尊心を削るとは、セドリックは思いもしませんでした。
彼の「美の迷走」は、さらに加速していくのでした。
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