無能な私を捨ててください!と婚約破棄を迫ったら溺愛?

萩月

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「……アリス様。どうして、そこまで私を信じてくださるのですか?」

王宮へ向かう馬車の中。ルルナは、隣に座るアリスティアの端正な横顔を盗み見た。
先ほど別邸で交わした口づけの余韻がまだ残っており、視線を合わせるだけで心臓が跳ねる。
けれど、彼女にはどうしても聞かなければならないことがあった。

「君は、僕が君の『悪役令嬢ごっこ』を単なる遊びだと思っていたのかい?」

アリスティアは窓の外から視線を戻し、ルルナの手を優しく引き寄せた。
その瞳は、いつもの狂信的な輝きではなく、遠い過去を懐かしむような穏やかな光を宿している。

「……君は覚えていないかもしれないけれど。十年ほど前、まだ僕たちが子供だった頃、王宮の裏庭で泣いていた僕を見つけた女の子がいたんだ」

「え……?」

「母上を亡くしたばかりで、王族として『泣くことは許されない』と厳しく育てられていた僕に、その子は言ったんだ。『泣きたい時は、私が代わりに高笑いをしてあげますわ! そうすれば、あなたの泣き声なんて誰にも聞こえませんもの!』ってね」

ルルナの脳裏に、古い記憶の断片がフラッシュバックした。
小さな男の子の横で、泥だらけになりながら、必死に「オーッホッホ!」と叫んでいた幼い自分。

「……あ。あの時の、ひょろひょろだった泣き虫な男の子……」

「……ひょろひょろ。……まあ、当時はそうだったかもしれないね」

アリスティアは苦笑しながら、ルルナの手を強く握りしめた。

「君はあの日からずっと、僕にとっての『盾』だったんだ。僕が弱さを見せられない場所で、君はあえて騒がしく振る舞い、僕への注目を逸らしてくれた。……今回の『悪役令嬢』だってそうだ。君は自分の魔力がないことを理由に、僕が『無能な婚約者を選んだ愚かな王子』と叩かれないよう、自分から嫌われ者になろうとしたんだろう?」

「……っ」

ルルナは言葉を詰まらせた。
王子の真意。それは、ルルナが必死に隠してきた「自己犠牲」のすべてを、彼は最初から理解し、感謝していたということだった。

「ルルナ。僕は君を、魔力があるから愛しているんじゃない。君が僕のために、自分を投げ打ってまで『盾』になろうとしてくれる、その魂の気高さに惚れているんだ。……だから、君がどれほど自分を汚そうとしても、僕の目には世界で一番清らかな女性にしか映らない」

「……アリス様。ずるいですわ。そんなこと言われたら、私……」

「それにね、ルルナ。君が僕を捨てようとするたびに、僕は少しだけ愉しかったんだよ」

「……はい?」

アリスティアの唇が、怪しく吊り上がった。
いつもの、あの「独占欲の塊」としての王子の顔が戻ってくる。

「君が必死に知恵を絞って、僕に嫌われようと画策する。その姿は、誰よりも僕のことを考えてくれている証拠だ。……僕を捨てるために、僕のことばかり考えている君。……ああ、なんて贅沢な独占なんだろうってね」

「……やっぱり変態ですわ。感動を返してくださいまし!」

「ははは! 君にそう言われるのが、一番の褒め言葉だよ」

アリスティアはルルナを抱き寄せ、その髪に深く顔を埋めた。

「魔力が開花しないなんて、些細なことだ。もし開花しなくても、僕が一生、君を守る魔法を使い続ける。……でも、僕は知っているよ。君の本当の力は、誰かを守りたいと願った時にこそ、真実の姿を見
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