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「……何ですか、その下品なほどに真っ赤な装束は。それに、鼻を突く野蛮な異臭。これだから北の田舎者は困るのですよ」
スパイス王国の王宮。
黄金と香辛料の香りに満ちた謁見の間で、出迎えたスパイス大臣・サフラン伯爵は、あからさまに鼻を摘まんで私を睨みつけました。
「まあ! サフラン伯爵、ご挨拶ですわね。これは異臭ではなく、情熱の結晶『アルメリア・レッド』の芳香ですわ。貴国の古臭いクミンやコショウの香りに、新しい風を吹き込みに来て差し上げましたのよ?」
私は、トウガラシ繊維を編み込んだ深紅のドレスを翻し、優雅にカーテシーを決めました。
私の背後には、護衛という名の「激辛労働力」こと、シリウス殿下、カイル殿下、レオナルト殿下の三人が、これまた威圧感たっぷりに並んでいます。
「ふん。我が国のスパイスは、歴史と伝統に裏打ちされた芸術品です。貴殿らが持ち込んだその赤い実……トウガラシでしたか? ただ痛いだけの刺激物に、我が国の繊細な味覚が屈するとでもお思いか?」
「サフラン伯爵、言葉を慎め。ロザリアのトウガラシは、単なる刺激物ではない。それは魂を燃やし、停滞した精神を叩き起こす、神の雷(いかずち)だ。私がこの筋肉を手に入れたのも、すべては彼女のトウガラシのおかげなのだぞ!」
シリウス殿下が、正装の袖が弾け飛ばんばかりに力こぶを作って叫びました。
殿下、外交の場で筋肉を誇示するのはおやめくださいまし。
「兄上の情緒的な意見はさておき。伯爵、貴殿は市場独占による怠慢に陥っているようですね。我が国のトウガラシがもたらす経済的衝撃、および脳内麻薬の分泌効率を計算すれば、貴国のスパイス市場が数ヶ月で塗り替えられるのは自明の理ですよ」
カイル殿下が、冷徹な手つきで予測グラフが描かれた書類を伯爵の鼻先に突きつけました。
「ええい、やかましい! 第一王子が泥臭い農夫のようなことを言い、第二王子が詐欺師のような数字を並べるとは! やはり、婚約破棄をされるような悪役令嬢を特使にしたのが間違いだったのだ!」
サフラン伯爵が「婚約破棄」という単語を口にした瞬間、謁見の間の空気が氷点下まで下がりました。
……あら、それは私の逆鱗ですわよ。
「あら。伯爵、今、何とおっしゃいました? 婚約破棄、ですの? ふふ、それは私にとって最大の褒め言葉ですわ。あの自由の日があったからこそ、私はトウガラシという真実の愛に出会えたのですもの」
私は一歩、伯爵へと詰め寄りました。
私のドレスから発せられる微量なカプサイシン成分が、伯爵の粘膜を刺激し始めたようです。
彼は「う、うぐっ、目が……喉が……」と呻きながら後退りしました。
「伯爵。貴方の言う『繊細な味覚』とやらが、本物かどうか試して差し上げましょう。……レオ、例のものを」
「おう! ロザリア! 親善の印として持参した、アルメリア特製『絶望のハバネロ・ディップ』だ!」
レオナルト殿下が、禍々しい赤黒いソースが入った小瓶を差し出しました。
周囲のスパイス王国の貴族たちが、その色と、漏れ出す凶暴な香りに戦慄してざわつきます。
「な、何だそれは! まさか、謁見の場で毒を盛るつもりか!」
「毒? 心外ですわ。これは貴国の最高級クラッカーに添えて召し上がっていただくための、最高級の調味料ですわよ。さあ、スパイスの王を自称するのなら、この程度の刺激、涼しい顔で受け止めてくださるわよね?」
「……ぐ、…………。いいだろう! 受けて立とうではないか! 我が国の誇りにかけて、そんな田舎の泥臭い野菜に負けるはずがない!」
サフラン伯爵は、意地になってクラッカーにたっぷりとソースを塗り、一口で頬張りました。
一秒。
二秒。
三秒。
「………………ッッッッ!!!!!????」
伯爵の顔が、瞬く間に熟しきったザクロのように真っ赤に変色しました。
彼は白目を剥き、言葉にならない絶叫を上げながら、その場に崩れ落ちました。
「火だ! 口の中で火山が噴火した! あ、熱い、痛い、助けてくれぇぇぇ!!」
「まあ、伯爵。繊細な味覚はどうなさいましたの? お顔が大変なことになっていますわよ」
「み、水……。ミルクを……。我が国のスパイスが……負ける……。こんな、こんな暴力的な旨味……、認め……認められるかぁぁ!!」
伯爵は床をのた打ち回り、豪華な絨毯を泥まみれにしながら、必死に水を求めて這いずり回りました。
その醜態を、スパイス王国の国王陛下が上座から呆然と眺めていました。
「……素晴らしい。我が国の重鎮を、一瞬でこれほどまでに情熱的にさせるとは。……ロザリア・フォン・アルメリア。貴女の持ち込んだものは、確かにスパイスを超えた『何か』のようですね」
スパイス国王が、ゆっくりと玉座から立ち上がりました。
「……認めましょう。我が国の伝統的なスパイスは、貴女のトウガラシという新たな刺激と融合することで、さらなる高みへ行けるのかもしれない。……ロザリア、今日から貴女を、我が国の『名誉激辛顧問』として迎えたい!」
「まあ、光栄ですわ、陛下。……ですが、顧問料は高いですわよ? トウガラシの苗の提供と、関税の完全撤廃。これが私の条件ですわ」
「ははは! 面白い。交渉成立だ。……さあ、伯爵をミルクの海に沈めておけ。私たちは、これから最高に刺激的な晩餐会を始めようではないか!」
こうして、スパイス王国の王宮は、わずか数分で私の「激辛帝国」の軍門に降りました。
婚約破棄された元悪役令嬢が、他国の王宮で大臣をのた打ち回らせ、国王と対等に取引をする。
……ふふ。これこそが、私の求めていた「自分らしい断罪」の形かもしれませんわね。
「ロザリア! 次は私の番だ! 陛下に、私の鍛え上げた筋肉とトウガラシの親和性について演説させてくれ!」
「兄上、それはもう十分伝わっていますから、お座りなさい。……ロザリア様、次の市場独占の契約書を作成しました。サインを」
三人の王子に囲まれながら、私はスパイス王国の夜を、トウガラシの色に染め上げていくのでした。
スパイス王国の王宮。
黄金と香辛料の香りに満ちた謁見の間で、出迎えたスパイス大臣・サフラン伯爵は、あからさまに鼻を摘まんで私を睨みつけました。
「まあ! サフラン伯爵、ご挨拶ですわね。これは異臭ではなく、情熱の結晶『アルメリア・レッド』の芳香ですわ。貴国の古臭いクミンやコショウの香りに、新しい風を吹き込みに来て差し上げましたのよ?」
私は、トウガラシ繊維を編み込んだ深紅のドレスを翻し、優雅にカーテシーを決めました。
私の背後には、護衛という名の「激辛労働力」こと、シリウス殿下、カイル殿下、レオナルト殿下の三人が、これまた威圧感たっぷりに並んでいます。
「ふん。我が国のスパイスは、歴史と伝統に裏打ちされた芸術品です。貴殿らが持ち込んだその赤い実……トウガラシでしたか? ただ痛いだけの刺激物に、我が国の繊細な味覚が屈するとでもお思いか?」
「サフラン伯爵、言葉を慎め。ロザリアのトウガラシは、単なる刺激物ではない。それは魂を燃やし、停滞した精神を叩き起こす、神の雷(いかずち)だ。私がこの筋肉を手に入れたのも、すべては彼女のトウガラシのおかげなのだぞ!」
シリウス殿下が、正装の袖が弾け飛ばんばかりに力こぶを作って叫びました。
殿下、外交の場で筋肉を誇示するのはおやめくださいまし。
「兄上の情緒的な意見はさておき。伯爵、貴殿は市場独占による怠慢に陥っているようですね。我が国のトウガラシがもたらす経済的衝撃、および脳内麻薬の分泌効率を計算すれば、貴国のスパイス市場が数ヶ月で塗り替えられるのは自明の理ですよ」
カイル殿下が、冷徹な手つきで予測グラフが描かれた書類を伯爵の鼻先に突きつけました。
「ええい、やかましい! 第一王子が泥臭い農夫のようなことを言い、第二王子が詐欺師のような数字を並べるとは! やはり、婚約破棄をされるような悪役令嬢を特使にしたのが間違いだったのだ!」
サフラン伯爵が「婚約破棄」という単語を口にした瞬間、謁見の間の空気が氷点下まで下がりました。
……あら、それは私の逆鱗ですわよ。
「あら。伯爵、今、何とおっしゃいました? 婚約破棄、ですの? ふふ、それは私にとって最大の褒め言葉ですわ。あの自由の日があったからこそ、私はトウガラシという真実の愛に出会えたのですもの」
私は一歩、伯爵へと詰め寄りました。
私のドレスから発せられる微量なカプサイシン成分が、伯爵の粘膜を刺激し始めたようです。
彼は「う、うぐっ、目が……喉が……」と呻きながら後退りしました。
「伯爵。貴方の言う『繊細な味覚』とやらが、本物かどうか試して差し上げましょう。……レオ、例のものを」
「おう! ロザリア! 親善の印として持参した、アルメリア特製『絶望のハバネロ・ディップ』だ!」
レオナルト殿下が、禍々しい赤黒いソースが入った小瓶を差し出しました。
周囲のスパイス王国の貴族たちが、その色と、漏れ出す凶暴な香りに戦慄してざわつきます。
「な、何だそれは! まさか、謁見の場で毒を盛るつもりか!」
「毒? 心外ですわ。これは貴国の最高級クラッカーに添えて召し上がっていただくための、最高級の調味料ですわよ。さあ、スパイスの王を自称するのなら、この程度の刺激、涼しい顔で受け止めてくださるわよね?」
「……ぐ、…………。いいだろう! 受けて立とうではないか! 我が国の誇りにかけて、そんな田舎の泥臭い野菜に負けるはずがない!」
サフラン伯爵は、意地になってクラッカーにたっぷりとソースを塗り、一口で頬張りました。
一秒。
二秒。
三秒。
「………………ッッッッ!!!!!????」
伯爵の顔が、瞬く間に熟しきったザクロのように真っ赤に変色しました。
彼は白目を剥き、言葉にならない絶叫を上げながら、その場に崩れ落ちました。
「火だ! 口の中で火山が噴火した! あ、熱い、痛い、助けてくれぇぇぇ!!」
「まあ、伯爵。繊細な味覚はどうなさいましたの? お顔が大変なことになっていますわよ」
「み、水……。ミルクを……。我が国のスパイスが……負ける……。こんな、こんな暴力的な旨味……、認め……認められるかぁぁ!!」
伯爵は床をのた打ち回り、豪華な絨毯を泥まみれにしながら、必死に水を求めて這いずり回りました。
その醜態を、スパイス王国の国王陛下が上座から呆然と眺めていました。
「……素晴らしい。我が国の重鎮を、一瞬でこれほどまでに情熱的にさせるとは。……ロザリア・フォン・アルメリア。貴女の持ち込んだものは、確かにスパイスを超えた『何か』のようですね」
スパイス国王が、ゆっくりと玉座から立ち上がりました。
「……認めましょう。我が国の伝統的なスパイスは、貴女のトウガラシという新たな刺激と融合することで、さらなる高みへ行けるのかもしれない。……ロザリア、今日から貴女を、我が国の『名誉激辛顧問』として迎えたい!」
「まあ、光栄ですわ、陛下。……ですが、顧問料は高いですわよ? トウガラシの苗の提供と、関税の完全撤廃。これが私の条件ですわ」
「ははは! 面白い。交渉成立だ。……さあ、伯爵をミルクの海に沈めておけ。私たちは、これから最高に刺激的な晩餐会を始めようではないか!」
こうして、スパイス王国の王宮は、わずか数分で私の「激辛帝国」の軍門に降りました。
婚約破棄された元悪役令嬢が、他国の王宮で大臣をのた打ち回らせ、国王と対等に取引をする。
……ふふ。これこそが、私の求めていた「自分らしい断罪」の形かもしれませんわね。
「ロザリア! 次は私の番だ! 陛下に、私の鍛え上げた筋肉とトウガラシの親和性について演説させてくれ!」
「兄上、それはもう十分伝わっていますから、お座りなさい。……ロザリア様、次の市場独占の契約書を作成しました。サインを」
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