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遊亀がマウンテンバイク、安成は馬で。
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それから数日、薬師の許可も得て、起きることが出来るようになった遊亀は、
「ねえねえ、さきちゃん。あのさ、うち……私が持ってきてたと思うんだけど、こーんなの、なかった?」
「えっ? えと、安成に聞いてみますわ」
安成を呼び、
「ねえねえ、安成君。私が倒れてた所に、丸い車が二つついたの、なかった?」
「あ、ありますよ。皆怖がって、そこに」
棟の軒先に立て掛けてあった物に、
「あぁぁ! あったぁ! 大丈夫かなぁ……」
あちこちを確認し、
「よっし! いってやるか!」
と、乗ろうとした時に、
「遊亀殿……それはやめられては……」
と安成に制止される。
「何で?」
「着物の裾が……乱れます」
「あ、そっかそっか……」
部屋に戻り、物陰で着替えをした……着ていたものは、綺麗に洗われていた……遊亀は、
「ヨーシ! これで、島一周するか!」
「あの……女人の方は、足を見せるのは……」
「見せてないじゃん。靴下履いてるし。それに、そんな細かいこといってると……ハゲるよ?」
「なっ!」
けらけら笑いながら、マウンテンバイクに乗ると、
「さーて、行ってきます!」
「お待ち下さい! 着いていきます!」
「結構早いよ? 二人乗りじゃないから、ムリムリ」
「馬に乗りますので!」
「おぉ、馬かぁ……んじゃ、行こっか」
走り出す。
馬が後を追いかける。
大山祇神社の回りは楠の巨木が多く、そして、しばらく走ると海に出る。
その周囲を走っていく。
「へぇー。こういう感じなんだ。水軍って言っても、普通の船がついて……」
「交易もありますし、商人が。他には社に参拝される方も……」
「ふんふん……。まぁ、そうだよね。あれだけの宝物があるんだもん」
「宝物! 知っておられるのですか?」
「うん。鎧に大刀……他には鏡だね。斉明天皇の奉納された鏡があったと思うよ。他には源頼朝、源義経……」
言いながら走る。
「何故です? 私にも解らないことを! それに、あの鏡は……別の名前が刻まれていたはずです!」
「一回先に天皇……になられて退位。最初の天皇としてのお名前が皇極天皇。宝皇女、もしくは宝女王が諱。和風諡号は天豊財重日足姫天皇。後に天皇になられた中大兄皇子、大海人皇子の母。中大兄皇子は天智天皇、大海人皇子は天武天皇になる。他に聞きたいことは?」
「何で! あれは秘宝で!」
「だから、うちは、未来から来たんやって」
マウンテンバイクを停めると、馬を見上げる。
「うちは、2017年からきたんよ。ここは、伊予側や……こっちに行くと今治……その右が河野氏が治める地域がある。この反対側……ずっといったら、安芸……厳島神社がある。そこには平清盛の納めたお宝がある。そこのも、ここのも、博物館言うて、後世に遺しておくことと、保管する為の施設があり、お金を払ったら、その幾つかを見せて貰えるんよ。やけん知っとる」
「……本当に……ですか? 私が死ぬと言った! ……それは本当ですか?」
遊亀は苦笑する。
「人間、いつかは死ぬんよ。それに大体、50年生きるんよ。それに、うちが知っとるのは、伝説言うたやろ?」
「でも、二年後に!」
「それは本当に伝説でしかない。本当や。1963年に、鶴姫の研究をした人がおる。その人は3年研究と伝説、資料を元に本を書いた。それが、一気に広まった。『日本のジャンヌ・ダルク』ってな」
「じゃんぬだるく?」
安成の顔を見上げる。
「ジャンヌ・ダルクは、100年程前の、ここからずっと西の国の聖女や。『オルレアンの乙女』とも言われとって、神の声を聞いた言うて、二つの国が争っている自分の国を救う為にって戦場に立ったんよ。やけどなぁ……最初は皆信用せえへん。で、一番信用してほしい主にすら信用されずに、最初は自分の部下を上に座らせて、他の部下に隠れとった。でも、ジャンヌは見つけ出して、『神の声を聞き、助けに参りました』ってな。劣勢やった軍も、戦いは知らないけれど、周囲を鼓舞して勝利をもたらす少女を、敬うようになった」
遠い目をする。
「でも、最初は有利だった敵が、劣勢になるにつれて、戦うんはやめようって、その代わり、ジャンヌを悪魔……魔物や言うて噂を流した。で、味方はジャンヌに黙って休戦協定を結んで、ジャンヌを敵国に……。邪魔になったんよ。休戦になったら、戦いの鼓舞なんてされたないし、で、火炙りの刑で生きたまま焼け死んだ……。最後まで、苦しみながらも神の名を呼んだって……年は19才」
「……!」
驚く安成に、苦笑する。
「まぁ、国は平穏になったわ、でも、ジャンヌに従っとった人には、失った存在の大きさに苦悩する。ジル・ド・レ言うて、一番ジャンヌを敬愛しとった剣士は気違いになって……他にもな。それに、ジャンヌを敬愛する民衆の声に宗教の上の人が、神の為に生きた言うて『聖人』に列せられたけど、火炙りやで? 名前だけ、称号もろても意味ない。うちはそう思た。で、ジャンヌ・ダルクの生涯を調べた。で、それと共に、鶴姫の生涯も調べたけど……曖昧やったわ」
「曖昧?」
「伝説や、言うたやろ? それに、ジャンヌのように皆の前で公開処刑とは違う。書簡を読んで、伝説があった、それでこう書かれていた、だから。じゃぁ、曖昧や。それに初っぱなからぶっとんだのは、恋人であるあんたが死んだって知らせを聞いて、身を清めて入水自殺したって言う鶴姫が、他の男と駆け落ち。ついでに、あんたも抜けとる。あぁ、これじゃぁ、違うわ~思た」
アハハ!
笑う遊亀に、安成は、
「一応、ある程度は出来ますよ! 剣とか! 学問とか! でも、船に酔うんです!」
「あ、うちも一緒や。聞いたで~。子供に多いんやと。耳の奥に三半規管ってのがあって、船が揺れたりすると、体の重心が動く。それがいかん思って無意識に直すんや。やけん、波が荒いとそれが激しくなって、気持ちが悪なるんで。でも、大人になったら治るらしいんやけど……まだお子様やったんや?」
「成人してます! 何言うんですか!」
食って掛かる青年に、にっと笑うと、親指を示す。
「ここの付け根に、酔いを一時的に止めるツボがあるんや。そこをぎゅって押さえるか、紐で一時的に押さえとくとエエよ。それに、ずっと締めとったらいかん。それに、船に乗る為に出る直前に食べたら特にいかん。四半時前に食べておく。それと、お腹も絞めすぎたら苦しいで……そこら辺と、度胸やな!」
「度胸……」
「あぁ、女は度胸、男は愛嬌って言うしなぁ……」
「何か、逆のような気がするんですが?」
「そうやっけ? 安成君は愛嬌があって、可愛い可愛い」
「子供扱いせんといて下さい!」
ムカッとする青年に、遊亀はヒラヒラと手を振る。
「昔は、袖を振ったら求愛の印言うたけど、うちは男苦手なんよ。安成君は男じゃない。その間は、色々教えたげらい。それまで、な? ……ほんじゃな~!」
走り始めたマウンテンバイクに、追いかけ損なった安成は、
「……何か、腹立つ……」
と呟いた。
彼の心に灯ったものの名は……何と言うのだろう……。
「ねえねえ、さきちゃん。あのさ、うち……私が持ってきてたと思うんだけど、こーんなの、なかった?」
「えっ? えと、安成に聞いてみますわ」
安成を呼び、
「ねえねえ、安成君。私が倒れてた所に、丸い車が二つついたの、なかった?」
「あ、ありますよ。皆怖がって、そこに」
棟の軒先に立て掛けてあった物に、
「あぁぁ! あったぁ! 大丈夫かなぁ……」
あちこちを確認し、
「よっし! いってやるか!」
と、乗ろうとした時に、
「遊亀殿……それはやめられては……」
と安成に制止される。
「何で?」
「着物の裾が……乱れます」
「あ、そっかそっか……」
部屋に戻り、物陰で着替えをした……着ていたものは、綺麗に洗われていた……遊亀は、
「ヨーシ! これで、島一周するか!」
「あの……女人の方は、足を見せるのは……」
「見せてないじゃん。靴下履いてるし。それに、そんな細かいこといってると……ハゲるよ?」
「なっ!」
けらけら笑いながら、マウンテンバイクに乗ると、
「さーて、行ってきます!」
「お待ち下さい! 着いていきます!」
「結構早いよ? 二人乗りじゃないから、ムリムリ」
「馬に乗りますので!」
「おぉ、馬かぁ……んじゃ、行こっか」
走り出す。
馬が後を追いかける。
大山祇神社の回りは楠の巨木が多く、そして、しばらく走ると海に出る。
その周囲を走っていく。
「へぇー。こういう感じなんだ。水軍って言っても、普通の船がついて……」
「交易もありますし、商人が。他には社に参拝される方も……」
「ふんふん……。まぁ、そうだよね。あれだけの宝物があるんだもん」
「宝物! 知っておられるのですか?」
「うん。鎧に大刀……他には鏡だね。斉明天皇の奉納された鏡があったと思うよ。他には源頼朝、源義経……」
言いながら走る。
「何故です? 私にも解らないことを! それに、あの鏡は……別の名前が刻まれていたはずです!」
「一回先に天皇……になられて退位。最初の天皇としてのお名前が皇極天皇。宝皇女、もしくは宝女王が諱。和風諡号は天豊財重日足姫天皇。後に天皇になられた中大兄皇子、大海人皇子の母。中大兄皇子は天智天皇、大海人皇子は天武天皇になる。他に聞きたいことは?」
「何で! あれは秘宝で!」
「だから、うちは、未来から来たんやって」
マウンテンバイクを停めると、馬を見上げる。
「うちは、2017年からきたんよ。ここは、伊予側や……こっちに行くと今治……その右が河野氏が治める地域がある。この反対側……ずっといったら、安芸……厳島神社がある。そこには平清盛の納めたお宝がある。そこのも、ここのも、博物館言うて、後世に遺しておくことと、保管する為の施設があり、お金を払ったら、その幾つかを見せて貰えるんよ。やけん知っとる」
「……本当に……ですか? 私が死ぬと言った! ……それは本当ですか?」
遊亀は苦笑する。
「人間、いつかは死ぬんよ。それに大体、50年生きるんよ。それに、うちが知っとるのは、伝説言うたやろ?」
「でも、二年後に!」
「それは本当に伝説でしかない。本当や。1963年に、鶴姫の研究をした人がおる。その人は3年研究と伝説、資料を元に本を書いた。それが、一気に広まった。『日本のジャンヌ・ダルク』ってな」
「じゃんぬだるく?」
安成の顔を見上げる。
「ジャンヌ・ダルクは、100年程前の、ここからずっと西の国の聖女や。『オルレアンの乙女』とも言われとって、神の声を聞いた言うて、二つの国が争っている自分の国を救う為にって戦場に立ったんよ。やけどなぁ……最初は皆信用せえへん。で、一番信用してほしい主にすら信用されずに、最初は自分の部下を上に座らせて、他の部下に隠れとった。でも、ジャンヌは見つけ出して、『神の声を聞き、助けに参りました』ってな。劣勢やった軍も、戦いは知らないけれど、周囲を鼓舞して勝利をもたらす少女を、敬うようになった」
遠い目をする。
「でも、最初は有利だった敵が、劣勢になるにつれて、戦うんはやめようって、その代わり、ジャンヌを悪魔……魔物や言うて噂を流した。で、味方はジャンヌに黙って休戦協定を結んで、ジャンヌを敵国に……。邪魔になったんよ。休戦になったら、戦いの鼓舞なんてされたないし、で、火炙りの刑で生きたまま焼け死んだ……。最後まで、苦しみながらも神の名を呼んだって……年は19才」
「……!」
驚く安成に、苦笑する。
「まぁ、国は平穏になったわ、でも、ジャンヌに従っとった人には、失った存在の大きさに苦悩する。ジル・ド・レ言うて、一番ジャンヌを敬愛しとった剣士は気違いになって……他にもな。それに、ジャンヌを敬愛する民衆の声に宗教の上の人が、神の為に生きた言うて『聖人』に列せられたけど、火炙りやで? 名前だけ、称号もろても意味ない。うちはそう思た。で、ジャンヌ・ダルクの生涯を調べた。で、それと共に、鶴姫の生涯も調べたけど……曖昧やったわ」
「曖昧?」
「伝説や、言うたやろ? それに、ジャンヌのように皆の前で公開処刑とは違う。書簡を読んで、伝説があった、それでこう書かれていた、だから。じゃぁ、曖昧や。それに初っぱなからぶっとんだのは、恋人であるあんたが死んだって知らせを聞いて、身を清めて入水自殺したって言う鶴姫が、他の男と駆け落ち。ついでに、あんたも抜けとる。あぁ、これじゃぁ、違うわ~思た」
アハハ!
笑う遊亀に、安成は、
「一応、ある程度は出来ますよ! 剣とか! 学問とか! でも、船に酔うんです!」
「あ、うちも一緒や。聞いたで~。子供に多いんやと。耳の奥に三半規管ってのがあって、船が揺れたりすると、体の重心が動く。それがいかん思って無意識に直すんや。やけん、波が荒いとそれが激しくなって、気持ちが悪なるんで。でも、大人になったら治るらしいんやけど……まだお子様やったんや?」
「成人してます! 何言うんですか!」
食って掛かる青年に、にっと笑うと、親指を示す。
「ここの付け根に、酔いを一時的に止めるツボがあるんや。そこをぎゅって押さえるか、紐で一時的に押さえとくとエエよ。それに、ずっと締めとったらいかん。それに、船に乗る為に出る直前に食べたら特にいかん。四半時前に食べておく。それと、お腹も絞めすぎたら苦しいで……そこら辺と、度胸やな!」
「度胸……」
「あぁ、女は度胸、男は愛嬌って言うしなぁ……」
「何か、逆のような気がするんですが?」
「そうやっけ? 安成君は愛嬌があって、可愛い可愛い」
「子供扱いせんといて下さい!」
ムカッとする青年に、遊亀はヒラヒラと手を振る。
「昔は、袖を振ったら求愛の印言うたけど、うちは男苦手なんよ。安成君は男じゃない。その間は、色々教えたげらい。それまで、な? ……ほんじゃな~!」
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