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さすがは、歴史マニアの嫁です。
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翌朝、話を聞いた浪子は、
「誰か。威鎧を」
「いえ、胴丸で良いと思います」
「遊亀?胴丸は……」
「威鎧は古い上に重いですし、身動きができないでしょう」
「知っとるんかね?鎧を⁉見せたことないのに。でも、知っとるかね?九郎判官様の……」
遊亀は、
「八艘飛びですね?知ってますが、それは伝説です。それに、判官……源義経の『判官びいき』のお話は、突拍子もないものも多いです。時代が英雄を産み出すと言います。九郎判官は、歴史学的に人々が生み出した、作り上げた英雄に近いものがあります。三国志での関羽や、諸葛亮と同じです。確か、九郎判官は、伝説だと大陸に渡ったと言うものはありませんか?」
「あるわ。神風が二度吹いた。うちらのご先祖の河野の当主が、見たんや」
「あれは台風です」
「たいふう?」
呆気に取られる浪子に、紙に漢字で『台風』と書く。
「これは元々、外の国の言葉の『タイフーン』をそのまま漢字で現したものとも言います。大きな嵐で、南から北東にこんな風に半円を書くように移動する、竜巻を大きくしたものと思って下さい」
紙には、何かの模様のようなものを描くとその上を線が動く。
「これが、大陸が攻めてきた地域です。そして、時期的にこう動くのですよ」
「ここは……」
「筑紫近辺の大体の地図です。伊予のある四国地方はここで、この島はこの点ですね。こっちに安芸の厳島神社のある……こんな感じです。ここに京の都……北はこう、なので、こう来るんですよ」
呆然と見いる母に、安成は、
「母上?遊亀は……自分の世界に入っているから。それと胴丸で」
「大丈夫なんかね⁉腕や、守らないかん所が……」
「それやったらお母さん‼うちが頑張りました‼」
じゃーん‼
と取り出したものをにこにこと、
「籠手です‼衝撃に耐えられるように‼丈夫に作ってます‼」
「……竹で編んで……こんなんで⁉」
「いえ、これを重ねて、上に厚目の布を。本当は最高に丈夫なものが良いでしょうが、あれじゃ、敵に矢を射てくれと言ってるようなものです。重いですし逃げられませんよ。それよりも身軽に動くのなら、これに、所々針金を入れるので十分だと思います」
「母上。一応、遊亀は間違ってないから……」
恐る恐る伝える。
「一回、着て走らされていかんかった……。それに『八艘跳び行け』って飛んだり転がったり……戦う前にあつぅていかんわ」
「安成‼武士が、何を……」
「お母さん?本当にこれは邪魔で、重さもあるので、海の戦いには不利やわ。海の戦いには、俊敏さと身動きのとれる上下に、とっさの判断で動くことが多いのだとお父さんも言ってたんです。この鎧は、戦いに勝った時、戻ってくる時に見せるもので、着るのは時間もかかるし、いけんと思います。それに、お父さん位筋肉が着いていれば大丈夫ですけど、安成君、見映えせえへんけん、やめた方がエェと思うんです」
「なっ‼遊亀は俺にもっと体力に筋肉をつけろと?」
遊亀はにやっと笑い、頭を人差し指で叩く。
「持久力にここもな?ボケの父親やったら、生まれてくる子が可哀想なわ」
「何?体力なら……」
「アホンダラァ‼こがいなところで、言うな‼ボケェ‼」
スパーンと夫の頭を、横に置いていた棒で叩く。
「暑さで、頭の中までおかしなっとるんか‼しゃんとせんかや‼」
「いったぁぁ‼遊亀が、嫁が……鬼嫁に……」
「アホか‼伊予の国に鬼北って言うとこがあって、そこで募集しとるわ‼こがいなんで、鬼嫁言うな‼本当にそれでよう、戦場に行く言うてほざく余裕があるわ‼お母さんも、安成君を心配して言うてくれよるんやで?判っとんのか?」
ちなみに、竹の籠を編んだ余りの竹である。
ニヤニヤと嬉しそうにその部分を残していたので、安成が聞くと、満面の笑みで、
「尺八作ろか思おて。琴はこれからお腹が邪魔になるし……篳篥とか横笛とか……」
「それなら確か……」
家に……と言いかけた安成に、
「いけんのよ‼そう言えば、うち、笛系はいけんかった‼高音が響かないけんのに、ヒョロリロ~って。お父さんが『耳がつんぼになる‼』言うて……『目が見えんのに、耳がつんぼになったら、どがいするんぞ‼』言われたんよ」
その言葉に顔がひきつる。
「……遊亀?歌で良いです。存分に……」
「いや、うちはもっと芸がないんはいかんのやないかな~思って、増やそうかと……」
「いえ、今できることを存分に腕を磨いて下さい。代わりに凶器は持たんといて……子供に『お母さんは怖い‼』言われたら嫌やと思わん?」
「いや、何でもできる、お母さんの方がエェと思うんで……」
「いやいや‼」
必死に止める。
ここで止めておかねば、やる……遊亀は、完璧主義者だ。
「俺が補助する‼そっち方面は‼遊亀は大好きな勉強を‼」
「やったぁ‼言質とった‼とことん極めようやないか‼ほんなら、安成君。攻めてくるアホを蹴散らして、勝っといで」
「ゆ、遊亀さん?」
「ひゃっほー‼父上にお願いして、昔の大事な書物とかを落ち着いたら読みたいなぁって……ウフウフウフ……どんな発見があるんやろ……楽しみやわ‼」
夫がこれから戦場にたつと言うのに、にやーっとだらしのない、いや、うっとりとした表情で、遠い目をしている。
「遊亀?遊亀?おーい‼戻ってこい‼俺が、旦那が戦場に‼」
「ウフフ……鏡も見たいし、あぁ……屋島の戦いの後に判官さんが奉納したんも近くで見たいし……あぁ、実家がお宝の山‼何て幸せなんやろう……」
戦の前だと言うのにいつも通りの息子夫婦の様子に、ため息をついた母、浪子だった。
「誰か。威鎧を」
「いえ、胴丸で良いと思います」
「遊亀?胴丸は……」
「威鎧は古い上に重いですし、身動きができないでしょう」
「知っとるんかね?鎧を⁉見せたことないのに。でも、知っとるかね?九郎判官様の……」
遊亀は、
「八艘飛びですね?知ってますが、それは伝説です。それに、判官……源義経の『判官びいき』のお話は、突拍子もないものも多いです。時代が英雄を産み出すと言います。九郎判官は、歴史学的に人々が生み出した、作り上げた英雄に近いものがあります。三国志での関羽や、諸葛亮と同じです。確か、九郎判官は、伝説だと大陸に渡ったと言うものはありませんか?」
「あるわ。神風が二度吹いた。うちらのご先祖の河野の当主が、見たんや」
「あれは台風です」
「たいふう?」
呆気に取られる浪子に、紙に漢字で『台風』と書く。
「これは元々、外の国の言葉の『タイフーン』をそのまま漢字で現したものとも言います。大きな嵐で、南から北東にこんな風に半円を書くように移動する、竜巻を大きくしたものと思って下さい」
紙には、何かの模様のようなものを描くとその上を線が動く。
「これが、大陸が攻めてきた地域です。そして、時期的にこう動くのですよ」
「ここは……」
「筑紫近辺の大体の地図です。伊予のある四国地方はここで、この島はこの点ですね。こっちに安芸の厳島神社のある……こんな感じです。ここに京の都……北はこう、なので、こう来るんですよ」
呆然と見いる母に、安成は、
「母上?遊亀は……自分の世界に入っているから。それと胴丸で」
「大丈夫なんかね⁉腕や、守らないかん所が……」
「それやったらお母さん‼うちが頑張りました‼」
じゃーん‼
と取り出したものをにこにこと、
「籠手です‼衝撃に耐えられるように‼丈夫に作ってます‼」
「……竹で編んで……こんなんで⁉」
「いえ、これを重ねて、上に厚目の布を。本当は最高に丈夫なものが良いでしょうが、あれじゃ、敵に矢を射てくれと言ってるようなものです。重いですし逃げられませんよ。それよりも身軽に動くのなら、これに、所々針金を入れるので十分だと思います」
「母上。一応、遊亀は間違ってないから……」
恐る恐る伝える。
「一回、着て走らされていかんかった……。それに『八艘跳び行け』って飛んだり転がったり……戦う前にあつぅていかんわ」
「安成‼武士が、何を……」
「お母さん?本当にこれは邪魔で、重さもあるので、海の戦いには不利やわ。海の戦いには、俊敏さと身動きのとれる上下に、とっさの判断で動くことが多いのだとお父さんも言ってたんです。この鎧は、戦いに勝った時、戻ってくる時に見せるもので、着るのは時間もかかるし、いけんと思います。それに、お父さん位筋肉が着いていれば大丈夫ですけど、安成君、見映えせえへんけん、やめた方がエェと思うんです」
「なっ‼遊亀は俺にもっと体力に筋肉をつけろと?」
遊亀はにやっと笑い、頭を人差し指で叩く。
「持久力にここもな?ボケの父親やったら、生まれてくる子が可哀想なわ」
「何?体力なら……」
「アホンダラァ‼こがいなところで、言うな‼ボケェ‼」
スパーンと夫の頭を、横に置いていた棒で叩く。
「暑さで、頭の中までおかしなっとるんか‼しゃんとせんかや‼」
「いったぁぁ‼遊亀が、嫁が……鬼嫁に……」
「アホか‼伊予の国に鬼北って言うとこがあって、そこで募集しとるわ‼こがいなんで、鬼嫁言うな‼本当にそれでよう、戦場に行く言うてほざく余裕があるわ‼お母さんも、安成君を心配して言うてくれよるんやで?判っとんのか?」
ちなみに、竹の籠を編んだ余りの竹である。
ニヤニヤと嬉しそうにその部分を残していたので、安成が聞くと、満面の笑みで、
「尺八作ろか思おて。琴はこれからお腹が邪魔になるし……篳篥とか横笛とか……」
「それなら確か……」
家に……と言いかけた安成に、
「いけんのよ‼そう言えば、うち、笛系はいけんかった‼高音が響かないけんのに、ヒョロリロ~って。お父さんが『耳がつんぼになる‼』言うて……『目が見えんのに、耳がつんぼになったら、どがいするんぞ‼』言われたんよ」
その言葉に顔がひきつる。
「……遊亀?歌で良いです。存分に……」
「いや、うちはもっと芸がないんはいかんのやないかな~思って、増やそうかと……」
「いえ、今できることを存分に腕を磨いて下さい。代わりに凶器は持たんといて……子供に『お母さんは怖い‼』言われたら嫌やと思わん?」
「いや、何でもできる、お母さんの方がエェと思うんで……」
「いやいや‼」
必死に止める。
ここで止めておかねば、やる……遊亀は、完璧主義者だ。
「俺が補助する‼そっち方面は‼遊亀は大好きな勉強を‼」
「やったぁ‼言質とった‼とことん極めようやないか‼ほんなら、安成君。攻めてくるアホを蹴散らして、勝っといで」
「ゆ、遊亀さん?」
「ひゃっほー‼父上にお願いして、昔の大事な書物とかを落ち着いたら読みたいなぁって……ウフウフウフ……どんな発見があるんやろ……楽しみやわ‼」
夫がこれから戦場にたつと言うのに、にやーっとだらしのない、いや、うっとりとした表情で、遠い目をしている。
「遊亀?遊亀?おーい‼戻ってこい‼俺が、旦那が戦場に‼」
「ウフフ……鏡も見たいし、あぁ……屋島の戦いの後に判官さんが奉納したんも近くで見たいし……あぁ、実家がお宝の山‼何て幸せなんやろう……」
戦の前だと言うのにいつも通りの息子夫婦の様子に、ため息をついた母、浪子だった。
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