自転車が回転して、世界が変わった日〜鶴姫

刹那玻璃

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安成の出陣

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 船に乗る前に安舍やすおくは、安成やすなりを初めとする武将を集める。

「これを見るように」
「……これは何ですかな?」

 首を傾げるのも無理はない。
 安舍が開いたのは、今までに見たことのない地図。

「これは真鶴まつると、安成の父、亀松かめまつが作ったもの。方角はこちらが北。そしてこちらが社である。解るか?」
「これが地図ですかい?」
「変な形ですなぁ……」

 覗き込む武将たち。

「それにこれは何じゃ?」
「港の記号です。上陸の可能性の高い場所ともいいます。こちらにおられない安房やすふさ殿が使いそうな場所も父の覚えている限り、海側からの印を。私は馬でこの島を巡っていますので、父の言葉を確認し、ここを記しました」
「で、この印は?」
「危険な場所です。ここに今いない者の屋敷です」

 安成は説明する。

「この島は周囲が波に囲まれていても、安房殿や、この印のついた家の人間が敵を招き入れるようであっては困ると、兵を割きこちらを囲むべきかと思います」
「そなたが行くか?」

 毎回船に酔い、その上最近、鶴姫をめとった安成を嘲るように声が飛ぶ。

「私は一軍を預かるもの。では、そなたが囲まれるといい」
「何ぃ?」
「静かに!戦いの前に士気が上がるのは構わないが、諍いは止めよ!」

 安舍は間に入り、怒りに満ちた周囲を沈める。

「良いか?諍いをしたとして、何が残る?それよりも、この大山積神のおられる島を守らねばならない!良いか?我らは神のご加護がある!参るぞ!負けはせぬ!」
「はっ!」
「では、参るぞ!」

 立ちあがり安舍は指示し、動き始める。

「孤高ではなく、一人一人が協力しあい、敵を打ち払え!」
「はっ!」
「では、安成!」
「はっ!」

 安舍の前に膝をつく。

「勝てと言うことは言わぬ。だが、この神の島を守るぞ。良いか?」
「はっ!」

 頭を下げる。

「この島に侵入しようとする不審者を、追い払って見せまする!では!」
「頼んだ」

 頭を下げ、船に乗り込む。
 グラッと揺れるが足を踏みしめ、声をあげる。

「皆の者!安舍さまのおっしゃられたとおり、敗けはならぬが勝たずとも良い!ただ、一人一人が十分な働きをすることが重要だ!行くぞ!我らには神の加護がある!」

 安成は、胸に納めた遊亀ゆうきから預かったものを押さえ、繰り返した。

「敗けはせぬ!追い払うのだ!行くぞ!」



 船が漕ぎ出されていく。
 その様子を身を隠しながら、遊亀はさきとともに見送っていたのだった。
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