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次男坊はこういう方々から非常に愛されています。
腹黒への仕返しの仕返しは、恐ろしい魔王がするそうです。
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姉達の出迎えと、実家に用があると女装して出ていった月英とは入れ違いに、馬に乗った使者が降り立った。
「や、夜分に申し訳ありませんっ。諸葛様。諸葛孔明さまは、おいでですか?」
いつになく緊張した声色の使者の声に、孔明は部屋を出て入り口まで出ていく。
「馬家の李玖さんですね? こんばんは」
使用人もおらず、均と馬家の兄弟は寝室に下がっていた為、一番懐いている自分の部屋の牀で琉璃が眠っている。
琉璃は神経質で敏感だが、今日は疲れたのかすぐにスヤスヤと寝入っていた。
「お久しぶりです。諸葛様。突然の訪問、大変申し訳ございませんっ」
顔馴染みになっている馬家の使者は、いつになく固い表情をしている。
「いえ、大丈夫ですよ? それよりも一体どうしましたか? 義兄上や皆さんに何か? 姉は、先程入れ違いに龐家の晶瑩姉の元に行きましたが……お会いしませんでしたか?」
馬家の使用人である青年に対しても腰が低く、丁寧で親切な孔明に、好感を持っていた彼は、震える声で答える。
「ご、ご存知かもしれませんが、紅瑩奥様は……実は……」
「どうしたの? 騒々しい」
姿を見せた均と季常と幼常の、特に季常の顔に青年は蒼白になる。
「四若君、五若君……」
「だから、仲常兄上から書簡が届いたんでしょう? 私宛?」
手を伸ばそうとする季常から、書簡を後ろに隠す。
その様子に、
「何、それ」
「よ、四若君にはけして渡すなと、他の若君と旦那様方からの命令でございます」
「どー言う訳? じゃぁ、何しに来たの」
機嫌が悪くなる季常を、ポンポンと叩き宥めた孔明は、
「じゃあ、私宛だね? 戴いても構いませんか?」
「かしこまりました」
書簡を手にした孔明は、黙々と義兄の書簡に目を通し、ある部分で目を見開く。
「えっ! 流産? 姉上が?」
「……えっ?」
2人が目を見開く。
「……『急に長兄と奥方が……離縁したのは、噂や季常達に聞いたと思いますが、子供が出来なかったと言うのは表向きの理由で、本当は快活で愛らしい紅瑩に対する度々嫌がらせに、姉の悋気。そして、紅瑩に毒を盛った為です』」
淡々と文字をたどる孔明は、無表情で続ける。
「『紅瑩は孔明……君が知っての通り毒の耐性がある。だから大丈夫だった、紅瑩の命は……しかし、お腹に宿っていた赤ん坊は助からなかった。紅瑩は……あのしっかりとしていた紅瑩が、数日間部屋にこもり、ずっと赤ん坊の死を哀しみ、泣き続けた。犯人は姉に命じられた姉付きの侍女。しかし、侍女は毒の事は余り知識はない。誰に聞いたと問い詰めても答えなかったが……使われた毒は、屋敷の中の一ヵ所で栽培されていたものを使っていた。それを栽培していたのは』……」
孔明は顔を上げ見る。
「季常……?」
「……私が薬草研究の為、様々な草花を栽培しているのはご存知でしょう?」
笑顔のまま淡々と答える。
「では、君とその侍女が付き合っていたと言うのは?」
「まぁ、こう言うところでお話しさせて戴くのは、控えるような関係でしたね」
言い放つ季常に、孔明はフッと溜め息を漏らし……敬弟を見下ろす。
「ようく解ったよ……琉璃が君を敬遠するのが。琉璃は素直で、正直で、直感的だ。そんな琉璃が一瞬にして君を見抜いた……それが、これなんだね?」
「今、#敬兄#__けいけい__#敬弟の誓いを取り止めますか? 結構ですよ?」
にたぁ……
本性を露(あらわ)にした季常を見つめ、首を振る。
「そのつもりはないよ。今、本性を知ったところで、見捨てるなんてするつもりはないよ」
「そうなんですか?」
心持ち目を開いた季常に優しく続ける。
「だから、今は、だよ」
孔明は微笑む。
傲然と……今までの温厚な仮面から冷酷な、酷薄な眼差しで見下ろす。
「今はね、その時ではないんだ、季常……私がね? 君を見捨てる時は、君が生きたいと足掻く時……私達兄弟がこの地に来るまで、流離い、彷徨ったあの苦しみを味わう時に、見捨ててあげるよ。心配しないで? 助けてあげないし、君の家族に恨まれようが、先に手を出したのは君だからね。君を苦しみの中、死なせてあげるよ」
「光栄です。兄上の手で死ねるとは……」
孔明の眼差しを受けとめ、嬉しそうに笑う季常に、
「誰が私の手を使うと言ったの? 君は君の策略に自分から飛び込んで死ぬんだよ。滑稽な程見事にね」
はははっ!
孔明は楽しげに笑う。
嘲笑うと言うものに近い。
「最初に会った頃から、君の死はうっすらと見えていたよ。君は自分がどんなに愛されているか、どんな人を愛したか解らない。そして、愛した人にも憎まれて逝く事になる。君がそこらの雑魚と見下し、見棄てていた人々や無理矢理戦いに引きずり込まれ、苦しみ息絶えていった兵士と同じように、血みどろになり、大地をはいずり回って……少しでも、その惨めな末路を替えてあげたいと思ったけれど、やめにしたよ。星に従って生きるが良い。傍には居ないけれど、遠くで君の死を聞いてあげるから」
「それは楽しみです。兄上。兄上の星読みが外れ、私が年老いて死ぬ姿をお見せしますよ、必ず。そして、先に逝く貴方の傍で酒を飲み、その死を喜んで差し上げましょう」
フフフッ……
こちらは含み笑いで返す。
「多分兄上は、働きすぎでポックリ逝きそうですからね。葬儀の支度はお任せあれ」
「それは楽しみだ、ありがとう。私は君の葬儀の準備はしないつもりだよ。安心して」
二人の会話に茫然自失の幼常の横をすり抜け、均は、
「ありがとう、李玖さん。これはほんの少しだけど受け取って。それと、姉様がいる龐家に行って頂戴ね? ここはこれだから」
少々の銭を握らせ、急いで龐家に行くように勧める。
「は、はい。ありがとうございます。失礼します!」
青年は頭を下げ、脱兎の如く逃げていく。
そして均は、どちらともが黒い何かを体から吹き出す二人を振り返り、
「兄様、そろそろ琉璃が気配がないのに気づく頃よ。そんな顔でいると、泣くわよ」
「あ、そうだった。では、季常に幼常。お休み。特に季常。素敵な夢が見れるように祈ってるよ」
孔明の言葉に、季常は、
「兄上の方こそ、まだ幼子に手を出さないで下さいね? 女っ気がないからと言っても、月英兄上だけじゃなく、そちらまでいくと変態ですよ」
「……ほ、ほぉ……早急に命を失いたいのかな? 季常は」
笑い、季常に近づこうとする孔明を慌てて部屋の方に押しながら、均は幼常に怒鳴る。
「早く部屋に連れて行きなさいよ! この、ボケ!」
「あ、はい。に、兄ちゃん、戻ろ」
いがみ合う二人は引き離され、扉が閉じたのだった。
「や、夜分に申し訳ありませんっ。諸葛様。諸葛孔明さまは、おいでですか?」
いつになく緊張した声色の使者の声に、孔明は部屋を出て入り口まで出ていく。
「馬家の李玖さんですね? こんばんは」
使用人もおらず、均と馬家の兄弟は寝室に下がっていた為、一番懐いている自分の部屋の牀で琉璃が眠っている。
琉璃は神経質で敏感だが、今日は疲れたのかすぐにスヤスヤと寝入っていた。
「お久しぶりです。諸葛様。突然の訪問、大変申し訳ございませんっ」
顔馴染みになっている馬家の使者は、いつになく固い表情をしている。
「いえ、大丈夫ですよ? それよりも一体どうしましたか? 義兄上や皆さんに何か? 姉は、先程入れ違いに龐家の晶瑩姉の元に行きましたが……お会いしませんでしたか?」
馬家の使用人である青年に対しても腰が低く、丁寧で親切な孔明に、好感を持っていた彼は、震える声で答える。
「ご、ご存知かもしれませんが、紅瑩奥様は……実は……」
「どうしたの? 騒々しい」
姿を見せた均と季常と幼常の、特に季常の顔に青年は蒼白になる。
「四若君、五若君……」
「だから、仲常兄上から書簡が届いたんでしょう? 私宛?」
手を伸ばそうとする季常から、書簡を後ろに隠す。
その様子に、
「何、それ」
「よ、四若君にはけして渡すなと、他の若君と旦那様方からの命令でございます」
「どー言う訳? じゃぁ、何しに来たの」
機嫌が悪くなる季常を、ポンポンと叩き宥めた孔明は、
「じゃあ、私宛だね? 戴いても構いませんか?」
「かしこまりました」
書簡を手にした孔明は、黙々と義兄の書簡に目を通し、ある部分で目を見開く。
「えっ! 流産? 姉上が?」
「……えっ?」
2人が目を見開く。
「……『急に長兄と奥方が……離縁したのは、噂や季常達に聞いたと思いますが、子供が出来なかったと言うのは表向きの理由で、本当は快活で愛らしい紅瑩に対する度々嫌がらせに、姉の悋気。そして、紅瑩に毒を盛った為です』」
淡々と文字をたどる孔明は、無表情で続ける。
「『紅瑩は孔明……君が知っての通り毒の耐性がある。だから大丈夫だった、紅瑩の命は……しかし、お腹に宿っていた赤ん坊は助からなかった。紅瑩は……あのしっかりとしていた紅瑩が、数日間部屋にこもり、ずっと赤ん坊の死を哀しみ、泣き続けた。犯人は姉に命じられた姉付きの侍女。しかし、侍女は毒の事は余り知識はない。誰に聞いたと問い詰めても答えなかったが……使われた毒は、屋敷の中の一ヵ所で栽培されていたものを使っていた。それを栽培していたのは』……」
孔明は顔を上げ見る。
「季常……?」
「……私が薬草研究の為、様々な草花を栽培しているのはご存知でしょう?」
笑顔のまま淡々と答える。
「では、君とその侍女が付き合っていたと言うのは?」
「まぁ、こう言うところでお話しさせて戴くのは、控えるような関係でしたね」
言い放つ季常に、孔明はフッと溜め息を漏らし……敬弟を見下ろす。
「ようく解ったよ……琉璃が君を敬遠するのが。琉璃は素直で、正直で、直感的だ。そんな琉璃が一瞬にして君を見抜いた……それが、これなんだね?」
「今、#敬兄#__けいけい__#敬弟の誓いを取り止めますか? 結構ですよ?」
にたぁ……
本性を露(あらわ)にした季常を見つめ、首を振る。
「そのつもりはないよ。今、本性を知ったところで、見捨てるなんてするつもりはないよ」
「そうなんですか?」
心持ち目を開いた季常に優しく続ける。
「だから、今は、だよ」
孔明は微笑む。
傲然と……今までの温厚な仮面から冷酷な、酷薄な眼差しで見下ろす。
「今はね、その時ではないんだ、季常……私がね? 君を見捨てる時は、君が生きたいと足掻く時……私達兄弟がこの地に来るまで、流離い、彷徨ったあの苦しみを味わう時に、見捨ててあげるよ。心配しないで? 助けてあげないし、君の家族に恨まれようが、先に手を出したのは君だからね。君を苦しみの中、死なせてあげるよ」
「光栄です。兄上の手で死ねるとは……」
孔明の眼差しを受けとめ、嬉しそうに笑う季常に、
「誰が私の手を使うと言ったの? 君は君の策略に自分から飛び込んで死ぬんだよ。滑稽な程見事にね」
はははっ!
孔明は楽しげに笑う。
嘲笑うと言うものに近い。
「最初に会った頃から、君の死はうっすらと見えていたよ。君は自分がどんなに愛されているか、どんな人を愛したか解らない。そして、愛した人にも憎まれて逝く事になる。君がそこらの雑魚と見下し、見棄てていた人々や無理矢理戦いに引きずり込まれ、苦しみ息絶えていった兵士と同じように、血みどろになり、大地をはいずり回って……少しでも、その惨めな末路を替えてあげたいと思ったけれど、やめにしたよ。星に従って生きるが良い。傍には居ないけれど、遠くで君の死を聞いてあげるから」
「それは楽しみです。兄上。兄上の星読みが外れ、私が年老いて死ぬ姿をお見せしますよ、必ず。そして、先に逝く貴方の傍で酒を飲み、その死を喜んで差し上げましょう」
フフフッ……
こちらは含み笑いで返す。
「多分兄上は、働きすぎでポックリ逝きそうですからね。葬儀の支度はお任せあれ」
「それは楽しみだ、ありがとう。私は君の葬儀の準備はしないつもりだよ。安心して」
二人の会話に茫然自失の幼常の横をすり抜け、均は、
「ありがとう、李玖さん。これはほんの少しだけど受け取って。それと、姉様がいる龐家に行って頂戴ね? ここはこれだから」
少々の銭を握らせ、急いで龐家に行くように勧める。
「は、はい。ありがとうございます。失礼します!」
青年は頭を下げ、脱兎の如く逃げていく。
そして均は、どちらともが黒い何かを体から吹き出す二人を振り返り、
「兄様、そろそろ琉璃が気配がないのに気づく頃よ。そんな顔でいると、泣くわよ」
「あ、そうだった。では、季常に幼常。お休み。特に季常。素敵な夢が見れるように祈ってるよ」
孔明の言葉に、季常は、
「兄上の方こそ、まだ幼子に手を出さないで下さいね? 女っ気がないからと言っても、月英兄上だけじゃなく、そちらまでいくと変態ですよ」
「……ほ、ほぉ……早急に命を失いたいのかな? 季常は」
笑い、季常に近づこうとする孔明を慌てて部屋の方に押しながら、均は幼常に怒鳴る。
「早く部屋に連れて行きなさいよ! この、ボケ!」
「あ、はい。に、兄ちゃん、戻ろ」
いがみ合う二人は引き離され、扉が閉じたのだった。
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