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第一章……ゲームの章
瞬
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瞬は、意識を飛ばしたもののどことなく、ディーデリヒのあの眼差しがどことなく、声をあてている丹生雅臣に似ていると思った。
丹生雅臣……七色の声を持つ天才声優とも呼ばれる。
高校を卒業して、事務所が経営する専門学校に志願し受験日に出向いたのだが、試験前にスカウトされ、半年後にある映画の再アテレコにチャレンジすることになった。
『アーサー王物語』……子役で元々人気のあったイングランドの俳優ガウェイン・ルーサー・ウェインと、その幼馴染で、同じく子役から美貌で知られていたヴィヴィアン・マーキュリーが出演していることも知られていた。
共に顔立ちだけではなく演技力に、そしてお互い、時代背景から自ら勉強し直したほどの勉強家。
ガウェインもヴィヴィアンは名家の出身で、ガウェインは後に首相になる政治家の父、ヴィヴィアンはボランティアやイベント業を起こす大会社の令嬢で、母が名家の令嬢なのだが、用意された小道具ではこの映画には合わないと、どちらもが実家の宝物を出して貰い、完全に美術館に寄贈されてもおかしくない武器や装飾品などを貸し出したのだと言う。
実は、当初日本にこの映画が入った頃、アーサー王が主役であり、壮大な伝説の前半部と言うことで、吹き替えの声優は美声ではあるものの、ガウェイン演ずるランスロットを、成長した騎士の声で当てた。
そしてヴィヴィアンの演ずるグィネヴィア王妃の声を、こちらも妖艶な大人の女性の声で当てた。
しかし、当時のガウェインもヴィヴィアンもまだ20になっておらず、その上、来日して試写会挨拶で流暢な日本語で挨拶した声と、流された声は全く違和感が残ると不評を買い、字幕版は売れたが吹き替え版は売れなかった。
ちなみに、瞬は父が持っていた字幕版と、当初の吹き替え版を順番に聞いた。
そして、子供ながらものすごく変だなぁと思った。
そして、名前も知らない新人が声を当てるのかとクレームもあったらしいが、再び吹き替え版が日本で上演されると聞き、声を聞いたガウェイン自身が取材を受けた。
テーブルにつき挨拶をすると、ニコっと笑い、
「最初、彼の声を聞いて、僕が演じた時以上にかっこいいランスロットになるかもしれないと確信しました。彼の声で、映画の中の僕が再びどのような形で蘇るのかと思うと本当にドキドキしています……それよりも、雅臣に負けたらどうしよう」
と話す様子が映画の前に流され、同じく、声の吹き替えを清純な声優に変更されたヴィヴィアンが、横に座りからかうように、
「あら、ウェイン。もう無理よ。あの作品はもう雅臣のものだもの。私は先に見せて貰ったけれど、雅臣が喋っているのを聞いて動いている感じだわ。戻ってこないわよ」
「あぁぁ、雅臣~! こんなこと言われてるよ~!」
「ふふっ。さぁ、皆さん。新しい、声という絵の具で色が染まりなおしたこの映画を楽しんで頂戴ね?」
「そうだね。新たな命を吹き込んでくれた、雅臣達に祝福を……」
と、手を振る二人の後に、始まった映画は度肝を抜くものだった。
雅臣は新人ながら、本人の動きや口の動きに合わせセリフを言い、少し背伸びをしようとしている若い青年騎士を生き生きと演じた。
そしてその声の甘さと張りと艶に一気に話題が広がり、リバイバル上映だというのに映画館が立ち見が出るほど一杯になった。
その後、DVDも飛ぶように売れ、続編も吹き替えをし、名実ともに不動の地位を手にした。
ガヴェインの別の作品……日英合作の映画では本人役で出ていたのだが、その吹き替えも担当した。
しかしガウェインに、
「臣~! もうこれ以上、僕を作らないで~! 僕はかっこよくないから! 臣が喋ると、僕が色っぽいって、こっちでは僕、偽物扱いだよ? 色気ないウェインだって」
と、訴えられたらしいが、雅臣は、
「ほぼ地声です~。ウェイン兄さんの声って、あまり作らなくていいので楽です」
「そんなに手抜きなの!」
「違いますよ。ウェイン兄さんが人間として尊敬できて、二人目の兄のように思っていて、大好きだからです!」
と返したらしい。
実は、瞬は個人的に雅臣と縁がある。
小学校の時にファンレターを送り、そして約四年間ファンレターを送っているのだ。
優しい雅臣は忙しい中、メッセージカードや手紙を返してくれた。
大好きで……大好きで……今回、このゲームのディーデリヒを演じることになったことも、
『今までは吹き替えや、物語性の強いものだけど、今回は選択制の強いゲームで、とても声を多く吹き込んだんだ。瞬ちゃんに沢山聞いてもらえると嬉しいな。それと、僕が演じるディーデリヒの親友二人の一人、カシミールは弟分の高凪光流で、テオドール役の一条那岐は実は、僕の甥になります。同じ事務所の後輩で、努力してこの役を掴みました。初のチャレンジです。聞いてやってください』
と手紙を送ってくれた。
その中に、3人一緒の写真にサインがあった。
確か、声優雑誌に載っていたプロフィールによると、一条那岐は20歳。
雅臣は今年38歳。
那岐は成人しているわりにやんちゃ坊主という感じで、1枚目はふざけて叔父に抱きつくのを、光流に蹴り飛ばされている。
2枚目は普通に笑っている写真だがリラックスしている。
優しい……雅臣……。
大好きだ……。
親子ほど年が離れていても……自分が16だって分かっていても……。
手の届かない人であっても……。
「……雅臣さん……が、好き……」
今、気がついた……。
丹生雅臣……七色の声を持つ天才声優とも呼ばれる。
高校を卒業して、事務所が経営する専門学校に志願し受験日に出向いたのだが、試験前にスカウトされ、半年後にある映画の再アテレコにチャレンジすることになった。
『アーサー王物語』……子役で元々人気のあったイングランドの俳優ガウェイン・ルーサー・ウェインと、その幼馴染で、同じく子役から美貌で知られていたヴィヴィアン・マーキュリーが出演していることも知られていた。
共に顔立ちだけではなく演技力に、そしてお互い、時代背景から自ら勉強し直したほどの勉強家。
ガウェインもヴィヴィアンは名家の出身で、ガウェインは後に首相になる政治家の父、ヴィヴィアンはボランティアやイベント業を起こす大会社の令嬢で、母が名家の令嬢なのだが、用意された小道具ではこの映画には合わないと、どちらもが実家の宝物を出して貰い、完全に美術館に寄贈されてもおかしくない武器や装飾品などを貸し出したのだと言う。
実は、当初日本にこの映画が入った頃、アーサー王が主役であり、壮大な伝説の前半部と言うことで、吹き替えの声優は美声ではあるものの、ガウェイン演ずるランスロットを、成長した騎士の声で当てた。
そしてヴィヴィアンの演ずるグィネヴィア王妃の声を、こちらも妖艶な大人の女性の声で当てた。
しかし、当時のガウェインもヴィヴィアンもまだ20になっておらず、その上、来日して試写会挨拶で流暢な日本語で挨拶した声と、流された声は全く違和感が残ると不評を買い、字幕版は売れたが吹き替え版は売れなかった。
ちなみに、瞬は父が持っていた字幕版と、当初の吹き替え版を順番に聞いた。
そして、子供ながらものすごく変だなぁと思った。
そして、名前も知らない新人が声を当てるのかとクレームもあったらしいが、再び吹き替え版が日本で上演されると聞き、声を聞いたガウェイン自身が取材を受けた。
テーブルにつき挨拶をすると、ニコっと笑い、
「最初、彼の声を聞いて、僕が演じた時以上にかっこいいランスロットになるかもしれないと確信しました。彼の声で、映画の中の僕が再びどのような形で蘇るのかと思うと本当にドキドキしています……それよりも、雅臣に負けたらどうしよう」
と話す様子が映画の前に流され、同じく、声の吹き替えを清純な声優に変更されたヴィヴィアンが、横に座りからかうように、
「あら、ウェイン。もう無理よ。あの作品はもう雅臣のものだもの。私は先に見せて貰ったけれど、雅臣が喋っているのを聞いて動いている感じだわ。戻ってこないわよ」
「あぁぁ、雅臣~! こんなこと言われてるよ~!」
「ふふっ。さぁ、皆さん。新しい、声という絵の具で色が染まりなおしたこの映画を楽しんで頂戴ね?」
「そうだね。新たな命を吹き込んでくれた、雅臣達に祝福を……」
と、手を振る二人の後に、始まった映画は度肝を抜くものだった。
雅臣は新人ながら、本人の動きや口の動きに合わせセリフを言い、少し背伸びをしようとしている若い青年騎士を生き生きと演じた。
そしてその声の甘さと張りと艶に一気に話題が広がり、リバイバル上映だというのに映画館が立ち見が出るほど一杯になった。
その後、DVDも飛ぶように売れ、続編も吹き替えをし、名実ともに不動の地位を手にした。
ガヴェインの別の作品……日英合作の映画では本人役で出ていたのだが、その吹き替えも担当した。
しかしガウェインに、
「臣~! もうこれ以上、僕を作らないで~! 僕はかっこよくないから! 臣が喋ると、僕が色っぽいって、こっちでは僕、偽物扱いだよ? 色気ないウェインだって」
と、訴えられたらしいが、雅臣は、
「ほぼ地声です~。ウェイン兄さんの声って、あまり作らなくていいので楽です」
「そんなに手抜きなの!」
「違いますよ。ウェイン兄さんが人間として尊敬できて、二人目の兄のように思っていて、大好きだからです!」
と返したらしい。
実は、瞬は個人的に雅臣と縁がある。
小学校の時にファンレターを送り、そして約四年間ファンレターを送っているのだ。
優しい雅臣は忙しい中、メッセージカードや手紙を返してくれた。
大好きで……大好きで……今回、このゲームのディーデリヒを演じることになったことも、
『今までは吹き替えや、物語性の強いものだけど、今回は選択制の強いゲームで、とても声を多く吹き込んだんだ。瞬ちゃんに沢山聞いてもらえると嬉しいな。それと、僕が演じるディーデリヒの親友二人の一人、カシミールは弟分の高凪光流で、テオドール役の一条那岐は実は、僕の甥になります。同じ事務所の後輩で、努力してこの役を掴みました。初のチャレンジです。聞いてやってください』
と手紙を送ってくれた。
その中に、3人一緒の写真にサインがあった。
確か、声優雑誌に載っていたプロフィールによると、一条那岐は20歳。
雅臣は今年38歳。
那岐は成人しているわりにやんちゃ坊主という感じで、1枚目はふざけて叔父に抱きつくのを、光流に蹴り飛ばされている。
2枚目は普通に笑っている写真だがリラックスしている。
優しい……雅臣……。
大好きだ……。
親子ほど年が離れていても……自分が16だって分かっていても……。
手の届かない人であっても……。
「……雅臣さん……が、好き……」
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