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第一章……ゲームの章
21……ein und zwanzig(アインウントツヴァンツィヒ)
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「……雅臣さん……が、好き……」
アストリットの唇が、小さく動き囁く。
「マサオミ……?」
「何だ?」
「人の名前か?」
ディーデリヒは一番反応する。
「好きだって……誰なんだ!」
「こらこら……ディ。寝てるんだから起こさない!」
「そうだよ、ディ兄貴。寝言、寝言」
カシミールとテオドールが慌てて抑え込む。
「だ、だが!」
「落ち着いてって……全く……」
「自覚遅すぎで、男の嫉妬ってコエェ~」
「そうそう。それに、マサオミ……って、瞬の知り合いじゃない?」
「そうだよ~……」
アストリットのまぶたが震えて、目を覚ます。
「……あ、ディさま……お兄さま、テオお兄様」
「瞬……」
「アスティ。大丈夫? 起き上がれる?」
ディーデリヒの言葉を遮るように、カシミールは笑う。
「は、はい。ディさま。すみませんでした」
「……マサオミって誰?」
「えっ?」
「マサオミって、誰?」
瞬は硬直する。
頭の中がぐるぐるする。
「え、えっと……し、知り合い、です……」
目の前のディーデリヒの声をあてている声優さんとは言いにくい。
それに理解できないだろう……。
「ふーん……。で、好きなんだ……」
頬を赤くして、硬直した。
高嶺の花そのものの雅臣に憧れている。
初恋かもしれない。
しかし、その雅臣の声で問い詰められる、どれほど精神力が必要だろう。
「あ、あ、憧れの人……で……」
「ふーん……」
「じゅ、10年前に、初めて知って……」
「10年?」
「はい。えっと、歳はわ、私よりに、20位上の……」
顔を赤らめる瞬に、3人は愕然とする。
「えっ? アスティの20上って……30代……父上と同じくらいだよね?」
「えっ、お父様って、まだそんなにお若いんですか?」
長兄を見る。
「はぁ? アスティ。僕が生まれた時は母上は16、父上17だよ」
「……え、えぇぇぇ! 雅臣さん……多分38……」
「じいさんじゃないか」
テオドールの言葉に半泣きになりながら、カバンから取り出した写真を見せる。
「おじいちゃんじゃありません! ま、雅臣さんです! テオお兄さまのその眼鏡は、雅臣さんが下さったんです!」
写真の中には、ゆるく巻いた天然パーマの髪をまとめ、照れたようにはにかむ美男がいた。
メガネはもちろんかけられていて、よく似合っている。
そして次の写真は、金髪に碧眼の美男子と並んで写真を撮っている。
二人は少年のように笑っていた。
三枚目は、童顔の青年とやんちゃな青年の言い合いを仲裁して……ため息をついている。
「2枚目は、一緒にいるのがグレートブリテンの貴族の方です。3枚目が、こちらの方が25歳くらい、こちらがディさまと変わらない歳で、雅臣さんの甥だそうです」
「……は? この人が30後半? ……うちの親父とは、似ても似つかぬ若い人だな……」
「黒に近い茶色の髪と瞳……『Japan』の人の特徴だけど……でも、中肉中背と聞いているけれど……」
「……ん? これは?」
カバンからはみ出ていた手帳を見つけ、テオドールは出すと、
「いやぁぁぁ! テオお兄ちゃん! やめて!」
「何で? ん? 黒髪で黒い目のお人形……」
「あ、その胸元……アスティが行方不明になって、見つけた時に着ていた服だ」
ディーデリヒは指摘する。
クリクリとした丸い潤んだ瞳をした小さいが整った顔、アストリットは美貌の持ち主だが、可愛らしい少女である。
「……見ないで~! 返して~! 酷い!」
「可愛いよ? これ、アスティ……瞬でしょう?」
「……アスティよりも、不細工っていうんでしょう……」
半泣きの妹と写真を見て、
「アスティは見慣れてるけど、瞬は本当に可愛いよ。あぁ、似てると思ったけど、フィーのお人形に似てる!」
「うんうん。似てる。可愛い」
「ディ。どう思う?」
「……綺麗……かな」
「う、嬉しい……ちがぁぁう!」
雅臣の声で言われて一瞬、呟いたが、必死に写真と手帳を取り戻そうとする。
「返して! 大事なものなの! お願いだから返して!」
「この中から……あれ落ちた!」
テオドールの手から落ちた写真やメモの束に、真っ青になる。
かがみこみ取ろうとした3人の手を振り払い、自分で集めると、目に涙を溜め、3人を睨む。
「ディ……ディさまも、お兄さまも、テオお兄様も……だ、大嫌い! 雅臣さんを馬鹿にして……からかって……もう、知らない! 顔も見たくない!」
その言葉に呆然とする兄の手の写真と手帳も取り戻し、涙をぬぐいながら走り去っていった。
「姫さま? どうされましたか?」
声がするが、アスティの返事はなく、遠ざかっていったのだった。
その日の晩、家族が集まっての夕食だったが、
「あの……父上、母上……アスティは?」
「それが分からないんだよ」
困惑した様子でエルンストは答え、
「泣き腫らした目で厨房に現れて私たちと、ディーデリヒのペットたちの食事を用意すると、そのままペット達の元にいったのだそうだ。皆がどうしたのかと問いかけると、口を開かずただ首を振るだけで……」
「一体、どうしたのでしょうね……」
「お母様、フィーも心配です」
エリーザベトとフィーは顔を見合わせるのだった。
アストリットの唇が、小さく動き囁く。
「マサオミ……?」
「何だ?」
「人の名前か?」
ディーデリヒは一番反応する。
「好きだって……誰なんだ!」
「こらこら……ディ。寝てるんだから起こさない!」
「そうだよ、ディ兄貴。寝言、寝言」
カシミールとテオドールが慌てて抑え込む。
「だ、だが!」
「落ち着いてって……全く……」
「自覚遅すぎで、男の嫉妬ってコエェ~」
「そうそう。それに、マサオミ……って、瞬の知り合いじゃない?」
「そうだよ~……」
アストリットのまぶたが震えて、目を覚ます。
「……あ、ディさま……お兄さま、テオお兄様」
「瞬……」
「アスティ。大丈夫? 起き上がれる?」
ディーデリヒの言葉を遮るように、カシミールは笑う。
「は、はい。ディさま。すみませんでした」
「……マサオミって誰?」
「えっ?」
「マサオミって、誰?」
瞬は硬直する。
頭の中がぐるぐるする。
「え、えっと……し、知り合い、です……」
目の前のディーデリヒの声をあてている声優さんとは言いにくい。
それに理解できないだろう……。
「ふーん……。で、好きなんだ……」
頬を赤くして、硬直した。
高嶺の花そのものの雅臣に憧れている。
初恋かもしれない。
しかし、その雅臣の声で問い詰められる、どれほど精神力が必要だろう。
「あ、あ、憧れの人……で……」
「ふーん……」
「じゅ、10年前に、初めて知って……」
「10年?」
「はい。えっと、歳はわ、私よりに、20位上の……」
顔を赤らめる瞬に、3人は愕然とする。
「えっ? アスティの20上って……30代……父上と同じくらいだよね?」
「えっ、お父様って、まだそんなにお若いんですか?」
長兄を見る。
「はぁ? アスティ。僕が生まれた時は母上は16、父上17だよ」
「……え、えぇぇぇ! 雅臣さん……多分38……」
「じいさんじゃないか」
テオドールの言葉に半泣きになりながら、カバンから取り出した写真を見せる。
「おじいちゃんじゃありません! ま、雅臣さんです! テオお兄さまのその眼鏡は、雅臣さんが下さったんです!」
写真の中には、ゆるく巻いた天然パーマの髪をまとめ、照れたようにはにかむ美男がいた。
メガネはもちろんかけられていて、よく似合っている。
そして次の写真は、金髪に碧眼の美男子と並んで写真を撮っている。
二人は少年のように笑っていた。
三枚目は、童顔の青年とやんちゃな青年の言い合いを仲裁して……ため息をついている。
「2枚目は、一緒にいるのがグレートブリテンの貴族の方です。3枚目が、こちらの方が25歳くらい、こちらがディさまと変わらない歳で、雅臣さんの甥だそうです」
「……は? この人が30後半? ……うちの親父とは、似ても似つかぬ若い人だな……」
「黒に近い茶色の髪と瞳……『Japan』の人の特徴だけど……でも、中肉中背と聞いているけれど……」
「……ん? これは?」
カバンからはみ出ていた手帳を見つけ、テオドールは出すと、
「いやぁぁぁ! テオお兄ちゃん! やめて!」
「何で? ん? 黒髪で黒い目のお人形……」
「あ、その胸元……アスティが行方不明になって、見つけた時に着ていた服だ」
ディーデリヒは指摘する。
クリクリとした丸い潤んだ瞳をした小さいが整った顔、アストリットは美貌の持ち主だが、可愛らしい少女である。
「……見ないで~! 返して~! 酷い!」
「可愛いよ? これ、アスティ……瞬でしょう?」
「……アスティよりも、不細工っていうんでしょう……」
半泣きの妹と写真を見て、
「アスティは見慣れてるけど、瞬は本当に可愛いよ。あぁ、似てると思ったけど、フィーのお人形に似てる!」
「うんうん。似てる。可愛い」
「ディ。どう思う?」
「……綺麗……かな」
「う、嬉しい……ちがぁぁう!」
雅臣の声で言われて一瞬、呟いたが、必死に写真と手帳を取り戻そうとする。
「返して! 大事なものなの! お願いだから返して!」
「この中から……あれ落ちた!」
テオドールの手から落ちた写真やメモの束に、真っ青になる。
かがみこみ取ろうとした3人の手を振り払い、自分で集めると、目に涙を溜め、3人を睨む。
「ディ……ディさまも、お兄さまも、テオお兄様も……だ、大嫌い! 雅臣さんを馬鹿にして……からかって……もう、知らない! 顔も見たくない!」
その言葉に呆然とする兄の手の写真と手帳も取り戻し、涙をぬぐいながら走り去っていった。
「姫さま? どうされましたか?」
声がするが、アスティの返事はなく、遠ざかっていったのだった。
その日の晩、家族が集まっての夕食だったが、
「あの……父上、母上……アスティは?」
「それが分からないんだよ」
困惑した様子でエルンストは答え、
「泣き腫らした目で厨房に現れて私たちと、ディーデリヒのペットたちの食事を用意すると、そのままペット達の元にいったのだそうだ。皆がどうしたのかと問いかけると、口を開かずただ首を振るだけで……」
「一体、どうしたのでしょうね……」
「お母様、フィーも心配です」
エリーザベトとフィーは顔を見合わせるのだった。
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