Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)~歴史ゲーム

刹那玻璃

文字の大きさ
26 / 95
第一章……ゲームの章

22……zwei und zwanzig(ツヴァイウントツヴァンツィヒ)

しおりを挟む
 ボロボロと泣きながら自分の荷物を持ち、飛び出したが、母はまだ本調子ではなく料理や城のことも指示しなければいけない。
 そして、こちらもまだ本調子ではないディーデリヒのペット達に、食事を与えなければと動く。

 ディーデリヒに会うと辛いと思ったが、それよりも心配だった。
 ラウと癒しの魔法をかけたものの、どれだけ治っているかと言うのは、アストリットには分からない。
 それに、魔法と食事を与えて元気になった獣もいたが、特に身体を起こせなかった……狼のアナスタージウスが心配だった。

 獣達が怯えてはいけないので、一人で大鍋を必死に持ち、ヨロヨロと向かう。
 先に器や水は持って行っていた。
 それに、他の人を呼ばなかった。
 心の傷はどれほど深いか、目には見えないのだ。

『あ、アスティだ』

 リューンが駆け寄ってくる。

『ご飯? ご飯?』
「えぇ。桃李タオリーやラウ、ロートとヴァイスは?」
『お昼寝。ロートが寒い寒いって。そう?』
「あぁ、ロートは暖かい地域の子だから、でも、4頭でくっついても……」
『アナスタージウス達と固まって寝てる』

 狼の家族にくっついて寝ている姿を想像すると、ふっと微笑ましくなる。

「皆の食事、食べましょうね」
『……何かあった?』

 リューンの声に、ビクッとする。

『何か哀しそう』
「……喧嘩……しちゃった」

 近くの切り株に鍋を置き、リューンの前にしゃがみこむと、我慢していた涙が溢れ出す。
 そして喋り始める。
 自分でも何を言えば良いのか分からないけれど、胸の中に溜まっていたものを吐き出す。
 しばらく泣き続け落ち着いて来ると、ぽつりっと声が漏れた。



『……リューン達は、基本的にディや、主人と思った人の味方。でもね、ゲームではキャラクターをそれとなくサポートするの』



 涙を拭いていると、リューンはこの世界では聞かない言葉を告げた。
 しかも、よく考えると普段と喋り方が違う。
 ハッとすると、リューンは首をかしげる。



『戻りたい? 元の世界に。ゲームの世界だから、何度でも消去してやり直せるよ。まぁ、二度とアスティにはなれない。普通の旅人プレイヤーになって、職業を選んで、色々な地から旅をして、もしくはディ達が戦場に向かう時にすれ違うくらい。でも、本当に自由だよ。ここみたいに束縛ないし、終わりにする?』
「……終わり……?」
『うん。辞めたい時はリューン達に言って。『Eidアイト』……アイルランド語の『geisゲッシュ』……誓約ということで、解除できる。アスティ……マドカの誓約は『大切な命を一つ捧げること』。あぁ、アスティが口にする肉とかも命だけど、それは違うの』

 目を見開く。

「……だ、誰かの命と引き換え……?」
『うん、そうだよ。ほら、あの狼なんてどう?』
「狼……」

 ざっと青ざめる。
 柵の中にいるはずのアナスタージウスが、足を引きずりながら近づいて来るのが見えたのだ。

「な、何で? アナスタージウス! 嫌よ! そ、そんな目で見ないで! 貴方と引き換えなんて考えてない! それだったら私自身が……」
『それは無理。だって、マドカは旅人だもの』

 穏やかな眼差しで自分を見上げるアナスタージウスの首に腕を回し、首を振る。

「嫌! 嫌!」
『何で? ただのゲームの中の生き物じゃない』
「違うもの! ゲームでも、私にとっては現実だもの! アナスタージウスは私の大事な……友達だもの、嫌!」



 しばらく泣いていたアストリットは、涙をぬぐいリューンを見る。

「……リューン……今、私をプレイヤーって……旅人って言ったわよね?」
『えぇ、そうね』
「じゃぁ、旅に出るわ。私も。お父様にお願いする……そして、フィーちゃんやサンディお姉様に頼んで……」
『はぁ? マドカ……アストリットは、旅人じゃないわよ』
「私はアストリットじゃないわ。『結城ゆうき 瞬』だもの。旅人よ」

 アナスタージウスを見ると尋ねる。

「アナスタージウス。私と一緒に旅立ちましょう……お願い」

 アナスタージウスはスリスリと甘えるようにすると、ペロンと涙をぬぐった。

『ダイスキ、マドカ』
「ありがとう……」



 数日後、書き置きを残し、アストリットはアナスタージウスと共に姿を消した。

「アストリット……アスティが!」

 あぁぁ……

嘆くエリーザベトをフィーとカサンドラが支える。

「父上! 行方は? すぐに探さなければ!」
「女の子が一人でなんて!」

 カシミールとテオドールは父に訴えるが、エルンストは、

「本人が行きたいと言ったよ。『世界を知りたいんです。なので、一旦お父様に預けたお金の一部を両替して、いただけませんか? 高額な銀貨を持っていたら、怪しまれると思いますから』と言ってね」
「じ、自分が!」
「そんな! アスティは、まだ15の子供!」
「アスティは子供だけれど、ちゃんと物事を考えられるよ。分かっていないのが兄二人とはね……」

ため息をつく。

「あの子が行きたいと言ったんだ。戻ってくるまで待つことだよ。まぁ、待てずに行った子もいるけどね」

 エルンストは、ただ一人告げた相手がもう、多分見つけているだろうと……娘がどんな行動に出るか、内心見て見たかったと思った。



「うーん……えっと、ねぇ、アナスタージウス? どこに行く? 一応お父様が、アナスタージウスと相性のいい、ロバのエルゼに荷物を載せて行きなさいって言ってくれたけど、まぁ、私は馬にちゃんと乗ったことないものね。エルゼ。重い?」

 ロバの瞳がくるくる動く。
 ロバはあまり好奇心が旺盛ではなく頑固と聞いているが、エルゼは社交的らしい。

「ありがとう。あら? アナスタージウス? どうしたの?」

 チラチラと後ろを見ていたアナスタージウスは、足を止めて後ろを向く。

『キタ、オソイ』
「えっ?」

 森の木々の間からヒョコッと顔を出すのは狼……アナスタージウスと同じ、茶色や灰色の混じった毛色をしている。
 数頭現れた後ろから、飛び出てくるのは猟犬達である。

 青ざめるが、

「皆、こっちに!」
「……遊んでるだけだよ。それに、アナスタージウスの家族はこの犬達と協力して狩をするんだ」

一頭の馬に乗り、もう一頭を引いて現れたのは、ディーデリヒ。
 その馬の背には、ラウとリューンが乗っていた。

 少し手前で降りたディーデリヒを呆然と見上げる。



 なんでここにいるんだろう……。
 それよりもどうして、あんなに自分の言うことを聞かなかったエルゼが、すぐに懐いたのだろう。



 ディーデリヒは、頭を撫でてとやってくる動物達を撫でながら近づく。
 そして、

「な、な、何されるんですかぁぁ!」

一応、女の子の格好では駄目だろうと兄の古着を着て、珍しい色の髪も編んでまとめてフードに隠した。
 皮をなめしたブーツと、あのバッグは目立つのでエルゼにくくりつけ、自分は皮のリュックを背負っている。
 その前に片膝をつき、頭を下げるディーデリヒに悲鳴をあげる。

「な、な、何を、ディ様!」
「すまない。先日……君を泣かせるつもりではなかった。君の心を占める人物に嫉妬してしまった。許してくれないか? アスティ……マドカ」
「え、えっ? し、嫉妬?」

 頭の中でぐるぐるする。



 自分の好きな声優さんはあの人で、あの人が声をあてているのは、目の前のディーデリヒで、そのディーデリヒに……。



「……あぁ。嫉妬した。でも、ものすごく情けないと思った。そうしたら、エルンスト父上にマドカが旅に出ると聞いて……慌てて追いかけて来た」
「あ、あの……どこに行くか決めてないし、ただ地熱の使い道と、Süßkartoffelさつまいもを仕入れに行くつもりなんです」
「一緒に行く」
「でも、ディ様忙しいでしょう? それに……」
「数年も旅をするわけではないのだろう? それにアナスタージウスとロバだけで、自分の身を守れるのか?」

 痛いところを突かれる。

「えっと……ギルドで冒険者登録と、一緒に旅して良い旅人を探すつもりだったんです」
「……マドカ。一言言うが、オオカミを連れた身元不明の子供を、ギルドはすぐに登録を認めないと思うが……」
「お父様に手紙を書いてもらったのです。お母様の遠縁の子供って」
「……ますます危険だ! 忘れているのか? アスティの伯母上は皇后陛下。母上の遠縁の子は皇帝陛下の子供や、中央の貴族の子供たち……こんな辺境に来るはずがない」

 ハッとする。

 そう言えば、アストリットの伯母は皇后陛下、母の兄弟も中央の貴族で、ついでにディーデリヒの亡くなった母上は、代々宰相を排出する一族の現当主の妹……。

「あの、都に行って、ディ様。伯父上に会われます?」
「何で? あぁ、会ってもいいが、会うと即、俺とマドカの結婚式だと思うぞ? で、こちらの地域に戻れなくなると思うが……行くかい?」

 にっこりととんでもないことを言ったディーデリヒに、顔を赤くして首を振る。

「キャンセル! ……Abbrechenアップブレヒェン! 別のところに行きます! ディ様! わ、私は箱入り娘で何も分かりません。一緒に旅して下さい! お、お願いします」
「それでもいいかなと思ったんだけど……」
「良くないです! 絶対、家よりも大きな屋敷の奥で閉じ込められちゃう! せっかく旅に出たのに!」
「それもそうだな……じゃぁ確か、ここから一番近いベルリンに行って、植物や技術について聞いてみよう。でも、あまり好奇心が旺盛では魔女狩りと言って……」
「分かってます! じゃぁ、ディ様のお付きというか、見習いでついていきます」

 ぺこん頭を下げる。



 ディーデリヒと共に、瞬は旅に出ることになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...