27 / 95
第一章……ゲームの章
23……drei und zwanzig(ドライウントツヴァンツィヒ)
しおりを挟む
旅をするのに必要なのは足、体力、そして……ライターとマッチである。
「わぁぁ! またそれか!」
特にライターに怯えるのは、獣たちではなくディーデリヒ。
「と言うか、ディさま。普段は使わないでしょう? 私が偶然、持っていたもので、あとはマッチ」
「な、なんで使うんだ?」
見慣れないものが苦手なディーデリヒである。
一応、火を常に起こしておく松明もいいが、ディーデリヒが連れて来た猟犬のカミル、カスパル、クラウス、アーダは大丈夫だが、神経質な馬や狼の一家はやはり警戒するため、夜や暗くなった時以外付けない。
火をつける為には、この時代、鉄の硫化物である塊状の黄鉄鉱や白鉄鉱……火打ちがねに、火打ち石と呼ばれる硬い石を削るように打ちつけて赤熱した火花を出し、その火花をある種のキノコの消し炭などの火口に移して火をおこす技術が1万年以上も古くからあり、それを利用していたのだが、湿度の高い今日のように雨の降る時などには火はうまくつかず、時間がかかった。
そして、アストリット……瞬は、慣れない火打ち石をうまく使えず、普段、ディーデリヒが器用に付けてくれるのを待っているが、今回のように大降りや湿気の多い時だと、何度火打ち石を打っても火花だけ散り湿った枝に火はつかない。
持って来ていた水よけシートをテントのように上に張り、なるべく皆が濡れないようにするには、早く火をつけてしまいたかったのである。
一応、旅の間野営もするので、枯れ枝や薪になるようなもの、食べれそうなハーブなどは移動中に収集しているが、濡れたところに座るのはごめんと、下にはバッグの中にあったレジャーシートを広げ、荷物など濡れないようにし、自分たちは石や薪の上に座る。
犬たちは穴を掘って、濡れた部分をどかして定位置に座る。
馬は一般では高級なもので盗まれてはいけないと、犬たちが守っている。
そして。
ガサガサ……。
姿を見せたのは狼たち。
アナスタージウスの家族が、狩りをしてきたらしい。
自分たちの分でいい、それに干し肉もあると言うのだが、律儀に時々大物を捉えてくるのだが……。
ぽて、ぽて、ぽて……。
大物のシカとともに現れたアナスタージウスたちの後ろから、ヒョロとした狼の子供が姿を見せる。
やせ細り、足なども傷だらけでかなり弱っている。
『イタカラ、ヒロッタ。マドカ、ゴハン』
アナスタージウスが、ビクビク怯える3匹を前に押し出す。
その間に、ディーデリヒがさばく。
いつもはそのまま食べる狼たちだが、最近はそのまま食べるより、人間が食べれる部分と食べれない部分を分けてもらい、食べられない部分や余り物を瞬にスープにしてもらい、それと残った肉を食べる方が美味しい上に翌日が元気になると解ったらしく、ディーデリヒがさばくのを待つ。
ちなみにさばいた後の革はなめして、次の街で売るのである。
スープは馬やロバも口にして、翌日に備えるようになった。
「まぁ、いらっしゃい。ご飯食べる?」
プルプル怯える3匹をアナスタージウスがぽいぽいぽいと投げ、火に近づけてはいけないと受け止める。
「大丈夫?残り物だけど少し温めたものがあるの、食べましょう」
朝の残り物のスープを暑いか確認し、
「大丈夫ね。はい、器は一つ。食べてちょうだい」
しかし、警戒心の強い狼の子は後ずさろうとしたが、上からアナスタージウスが器に顔を突っ込むと、
『オイシイ。ミンナタベロ。オナカガスイテイルンダロウ』
子狼を見て促す。
クルクルとお腹が鳴っていた狼たちは、我慢できなくなったらしく器に頭を突っ込み食べ始める。
すると、3匹の周囲に光が広がり、しばらくして消える。
そして、皿まで舐めた3匹は口の周りを舐め、手で顔を洗おうとして、傷がなくなっているのに驚いたように、アナスタージウスと瞬を見る。
「良かったね。まだあげてもいいけれど、一気に食べるとお腹壊しちゃうから、おやすみしようね」
『オトウチャン……』
子狼がアナスタージウスを見る。
『ワタシハ父ジャナイ』
『オトウチャンハ? オカアチャン……』
うなだれて座り込み、人間の赤ん坊のように泣き出しそうになる。
『アー、オマエノ父ハでぃーでりひ、母ハ瞬ダ。』
「アナスタージウス?」
『オマエタチノ母ノ瞬ノ側ニイロ。ワタシタチハ家族ダ』
『オカアチャン?』
『オカアチャン……』
上目遣いで見上げる子狼に、ほだされる。
「はい。じゃぁ、一番はだあれ?」
『アーイ』
『チガウモン』
『……ネンネ』
上二匹は普段から好奇心が旺盛、しかし一番小さい、満腹でよろよろ……あくびをしている子は……。
「あぁ、女の子ね。二匹は男の子。じゃぁ、貴方はエッダ、貴方はエルマー、エーミールね」
『……エッダ……ネンネ』
くぅぅ……
目を閉じて寝いる。
名前はこっちがいいと言い合って飛び跳ねていた二匹も疲れたのか、エッダに寄り添い丸くなって眠る。
少し濡れている毛をタオルで拭い、火を確認しつつ、料理の材料とテントから滴り落ちる水を集めておいた器から鍋に砂が入っていないか確認しつつ移し、途中で買ったポットとカップ、みんなの器を準備し、まずは馬に水に濡れないようにしていた干し草を桶に入れる。
「いつもありがとう」
餌や水は与えられるようになったが、まだ毛の手入れはダメなので、声をかけてその横にいるロバのエルゼに干し草に好物のハーブを混ぜる。
もしゃもしゃと食べるエルゼに声をかけて、今度は主人のそばにいる犬たちと狼たちを見る。
そして、
「アナスタージウスたちは、ディさまが言うように、自分で毛を乾かすだろうけど……このおチビちゃんは大丈夫かしら……」
食事を食べ疲れを眠りで癒す3匹に思いつき、料理の時には外す自分のマントをかけておいた。
「よし……」
保存食の中身を確認していると、ディーデリヒが戻ってくる。
最初は、肉の生々しさに驚いたが、最近は、
「今日はどこのお肉ですか?」
「柔らかい部分は、アナスタージウスたちにお礼に置いておいた。貰ったのはモモの肉。それと、解体した時に出た部分だよ。で、何で腸なんか……」
「今日、ディさまは言ったでしょう? 二、三日、動かない方がいいって。だから、干し肉もいいですが、燻製を作ろうかと思って。燻製の肉とソーセージ。前は茹でたものでしたけど、燻製の方がいいかもと思って」
「君は何でも挑戦するんだね……それに……」
「あ、生臭いので、ちゃんと洗ってきてください! 石鹸はあそこですよ」
お手製の石鹸はハーブを入れている。
「本当に、結婚したらいい奥さんになるよ、君は。それに、皮をなめすなんて手が黒くなるのに、よくするね」
この時代の皮のなめし方法は『タンニンなめし』と言われる方法である。
タンニンは柿渋、茶、ワインなどの植物の中にある渋みのことで、これを用いてなめすことで、切り口が茶褐色、型崩れしにくく丈夫、染色しやすい、吸湿性に富む、使い込むほど艶や馴染みがでる革が出来る。
よく皮革製品で「飴色になる」と表現されるが、それはこのタンニンなめしによるものである。
手縫いを用いるような鞄等には、タンニンなめしの材料が用いられる。
だが、工程の手間もあり高コストである。
しかし、当時はこれが一般的である。
「でも、雨が降るので、腐りやすくなりますね……」
「そういう時には、近くの村で売るのさ。安価でも買い取って貰った方がいい」
「じゃぁ、ディさま。私の作った石鹸とか、ハーブとか売れませんか? 荷物になりそうで……」
「そうだな……それか、次の大きな街に行ったら、手紙と一緒に城に送ればいい。カーシュやテオが喜ぶさ」
「……そうでしょうか……あ、少しだけ、情報があったことお伝えします」
俯き、料理に専念する瞬に、
「そうだ、皮ではなく、これからの時期は冷えるから、毛皮にしないか?」
「毛皮。でも、手間がかかりませんか?」
「皮や毛の部分はそのままで、身の部分をギリギリまで削いで、広げて干すんだ」
「そうなんですね。でも、時間はかかりませんか?」
「燃えないように、焚き火の近くで干すようにすれば、大丈夫だろう」
「……そうですね」
ディーデリヒは石鹸で手を洗い、テントの屋根から落ちてくる雨水を貯めておいた水でゆすぐ。
そして水は一回捨てて、また貯めておくようにした。
水は貴重で、飲み水だけでなく、今回のように洗ったり料理に使い、火を消したりもできる。
皮の水筒に入れて移動もできる。
どこに泉があるかも大切だが、飲める水かは、一番安全なのは降り始めてすぐの水ではなく、しばらく降ってからの水だと瞬は言った。
「それか、一回沸騰させたものですね。安全です」
「瞬は賢いな……」
「実際経験したことはありませんが、聞いたんです。でも、暖かくしてくださいね。ディさま。すぐ脱がない」
「着替えだけはさせてくれ。血の匂いは獣を呼ぶ、ん?」
上着を脱ぎ、それを一旦石鹸で洗うとゆすぎ絞り干す。
そして自分の荷物から上着と、干していたマントを被る。
すると瞬のマントがあり、ちょっと覗くと、ピスピスと鼻を鳴らしながら眠っている子狼。
「これは……」
「女の子がエッダ、そしてエルマーとエーミールです」
『……オカアチャン……?』
「お母さん……?」
「アナスタージウスがこの子たちに、父親はディさまで、母親は私だと言い聞かせて……お母さんって言うんです。どうしたの? エッダ」
『エルマーとエーミールにトンされた。イヤ』
這うようにして近づくと、甘えるようにスリスリとする。
「エッダ。お母さんは、皆のご飯を作っているから、ディさま……お父さんのところに行きなさい」
『オトウチャン……イヤ!』
「熱いわよ?」
「こらこら、危ないからこっち」
ディーデリヒは、小さい獣を抱き寄せる。
「エッダだったか? 火は熱い。火傷したら大変だ。あぁ、リューン、ラウ。どこにいたんだ?」
『雨がしばらく続くってラウ言うから、見てきた』
『おウチある。いない』
「近くに家があるのか? 瞬どうする?」
「今日はこのままで、明日移動しましょうか。もう日が陰っているし……」
「そうだな。エッダ。寒いか?」
プルプル震える子狼を、甘やかすように撫でる。
「瞬。塩辛くない、前に作った燻製の肉はあったかな?」
「あぁ、これですか?」
細長く切って燻製にした肉を差し出すと、一本取り、小さくしてエッダに与える。
「まだ、歯が生えそろっていないから舐めるといい」
膝の上でハムハムとしていたエッダは、そのままスヤスヤ眠ってしまう。
「本当に歯も生え始め位かな……生え始めるとやたらかみかみするんだ」
「じゃぁ、ご飯は柔らかいものと、味を覚えさせるために燻製ですね」
「今日はどうだい?」
「そうですね。先に皆の分を作った後に、ライ麦のパンがあるので、肉を焼いてサンドイッチにしましょう。スープと途中で、ベリーを取りましたし」
「……あぁ、パンは炙るとカリカリで、美味しくなるな。それにソースが美味しい」
瞬は笑う。
「同じような食べ物じゃ飽きるでしょ? 美味しいものを食べましょう? ね? ラウちゃんはどうかしら?」
しばらくして出来上がった瞬スペシャルスープを二人は配り、そして自分たちの食事を作ると、
「頂きます」
と食べ始めたのだった。
「わぁぁ! またそれか!」
特にライターに怯えるのは、獣たちではなくディーデリヒ。
「と言うか、ディさま。普段は使わないでしょう? 私が偶然、持っていたもので、あとはマッチ」
「な、なんで使うんだ?」
見慣れないものが苦手なディーデリヒである。
一応、火を常に起こしておく松明もいいが、ディーデリヒが連れて来た猟犬のカミル、カスパル、クラウス、アーダは大丈夫だが、神経質な馬や狼の一家はやはり警戒するため、夜や暗くなった時以外付けない。
火をつける為には、この時代、鉄の硫化物である塊状の黄鉄鉱や白鉄鉱……火打ちがねに、火打ち石と呼ばれる硬い石を削るように打ちつけて赤熱した火花を出し、その火花をある種のキノコの消し炭などの火口に移して火をおこす技術が1万年以上も古くからあり、それを利用していたのだが、湿度の高い今日のように雨の降る時などには火はうまくつかず、時間がかかった。
そして、アストリット……瞬は、慣れない火打ち石をうまく使えず、普段、ディーデリヒが器用に付けてくれるのを待っているが、今回のように大降りや湿気の多い時だと、何度火打ち石を打っても火花だけ散り湿った枝に火はつかない。
持って来ていた水よけシートをテントのように上に張り、なるべく皆が濡れないようにするには、早く火をつけてしまいたかったのである。
一応、旅の間野営もするので、枯れ枝や薪になるようなもの、食べれそうなハーブなどは移動中に収集しているが、濡れたところに座るのはごめんと、下にはバッグの中にあったレジャーシートを広げ、荷物など濡れないようにし、自分たちは石や薪の上に座る。
犬たちは穴を掘って、濡れた部分をどかして定位置に座る。
馬は一般では高級なもので盗まれてはいけないと、犬たちが守っている。
そして。
ガサガサ……。
姿を見せたのは狼たち。
アナスタージウスの家族が、狩りをしてきたらしい。
自分たちの分でいい、それに干し肉もあると言うのだが、律儀に時々大物を捉えてくるのだが……。
ぽて、ぽて、ぽて……。
大物のシカとともに現れたアナスタージウスたちの後ろから、ヒョロとした狼の子供が姿を見せる。
やせ細り、足なども傷だらけでかなり弱っている。
『イタカラ、ヒロッタ。マドカ、ゴハン』
アナスタージウスが、ビクビク怯える3匹を前に押し出す。
その間に、ディーデリヒがさばく。
いつもはそのまま食べる狼たちだが、最近はそのまま食べるより、人間が食べれる部分と食べれない部分を分けてもらい、食べられない部分や余り物を瞬にスープにしてもらい、それと残った肉を食べる方が美味しい上に翌日が元気になると解ったらしく、ディーデリヒがさばくのを待つ。
ちなみにさばいた後の革はなめして、次の街で売るのである。
スープは馬やロバも口にして、翌日に備えるようになった。
「まぁ、いらっしゃい。ご飯食べる?」
プルプル怯える3匹をアナスタージウスがぽいぽいぽいと投げ、火に近づけてはいけないと受け止める。
「大丈夫?残り物だけど少し温めたものがあるの、食べましょう」
朝の残り物のスープを暑いか確認し、
「大丈夫ね。はい、器は一つ。食べてちょうだい」
しかし、警戒心の強い狼の子は後ずさろうとしたが、上からアナスタージウスが器に顔を突っ込むと、
『オイシイ。ミンナタベロ。オナカガスイテイルンダロウ』
子狼を見て促す。
クルクルとお腹が鳴っていた狼たちは、我慢できなくなったらしく器に頭を突っ込み食べ始める。
すると、3匹の周囲に光が広がり、しばらくして消える。
そして、皿まで舐めた3匹は口の周りを舐め、手で顔を洗おうとして、傷がなくなっているのに驚いたように、アナスタージウスと瞬を見る。
「良かったね。まだあげてもいいけれど、一気に食べるとお腹壊しちゃうから、おやすみしようね」
『オトウチャン……』
子狼がアナスタージウスを見る。
『ワタシハ父ジャナイ』
『オトウチャンハ? オカアチャン……』
うなだれて座り込み、人間の赤ん坊のように泣き出しそうになる。
『アー、オマエノ父ハでぃーでりひ、母ハ瞬ダ。』
「アナスタージウス?」
『オマエタチノ母ノ瞬ノ側ニイロ。ワタシタチハ家族ダ』
『オカアチャン?』
『オカアチャン……』
上目遣いで見上げる子狼に、ほだされる。
「はい。じゃぁ、一番はだあれ?」
『アーイ』
『チガウモン』
『……ネンネ』
上二匹は普段から好奇心が旺盛、しかし一番小さい、満腹でよろよろ……あくびをしている子は……。
「あぁ、女の子ね。二匹は男の子。じゃぁ、貴方はエッダ、貴方はエルマー、エーミールね」
『……エッダ……ネンネ』
くぅぅ……
目を閉じて寝いる。
名前はこっちがいいと言い合って飛び跳ねていた二匹も疲れたのか、エッダに寄り添い丸くなって眠る。
少し濡れている毛をタオルで拭い、火を確認しつつ、料理の材料とテントから滴り落ちる水を集めておいた器から鍋に砂が入っていないか確認しつつ移し、途中で買ったポットとカップ、みんなの器を準備し、まずは馬に水に濡れないようにしていた干し草を桶に入れる。
「いつもありがとう」
餌や水は与えられるようになったが、まだ毛の手入れはダメなので、声をかけてその横にいるロバのエルゼに干し草に好物のハーブを混ぜる。
もしゃもしゃと食べるエルゼに声をかけて、今度は主人のそばにいる犬たちと狼たちを見る。
そして、
「アナスタージウスたちは、ディさまが言うように、自分で毛を乾かすだろうけど……このおチビちゃんは大丈夫かしら……」
食事を食べ疲れを眠りで癒す3匹に思いつき、料理の時には外す自分のマントをかけておいた。
「よし……」
保存食の中身を確認していると、ディーデリヒが戻ってくる。
最初は、肉の生々しさに驚いたが、最近は、
「今日はどこのお肉ですか?」
「柔らかい部分は、アナスタージウスたちにお礼に置いておいた。貰ったのはモモの肉。それと、解体した時に出た部分だよ。で、何で腸なんか……」
「今日、ディさまは言ったでしょう? 二、三日、動かない方がいいって。だから、干し肉もいいですが、燻製を作ろうかと思って。燻製の肉とソーセージ。前は茹でたものでしたけど、燻製の方がいいかもと思って」
「君は何でも挑戦するんだね……それに……」
「あ、生臭いので、ちゃんと洗ってきてください! 石鹸はあそこですよ」
お手製の石鹸はハーブを入れている。
「本当に、結婚したらいい奥さんになるよ、君は。それに、皮をなめすなんて手が黒くなるのに、よくするね」
この時代の皮のなめし方法は『タンニンなめし』と言われる方法である。
タンニンは柿渋、茶、ワインなどの植物の中にある渋みのことで、これを用いてなめすことで、切り口が茶褐色、型崩れしにくく丈夫、染色しやすい、吸湿性に富む、使い込むほど艶や馴染みがでる革が出来る。
よく皮革製品で「飴色になる」と表現されるが、それはこのタンニンなめしによるものである。
手縫いを用いるような鞄等には、タンニンなめしの材料が用いられる。
だが、工程の手間もあり高コストである。
しかし、当時はこれが一般的である。
「でも、雨が降るので、腐りやすくなりますね……」
「そういう時には、近くの村で売るのさ。安価でも買い取って貰った方がいい」
「じゃぁ、ディさま。私の作った石鹸とか、ハーブとか売れませんか? 荷物になりそうで……」
「そうだな……それか、次の大きな街に行ったら、手紙と一緒に城に送ればいい。カーシュやテオが喜ぶさ」
「……そうでしょうか……あ、少しだけ、情報があったことお伝えします」
俯き、料理に専念する瞬に、
「そうだ、皮ではなく、これからの時期は冷えるから、毛皮にしないか?」
「毛皮。でも、手間がかかりませんか?」
「皮や毛の部分はそのままで、身の部分をギリギリまで削いで、広げて干すんだ」
「そうなんですね。でも、時間はかかりませんか?」
「燃えないように、焚き火の近くで干すようにすれば、大丈夫だろう」
「……そうですね」
ディーデリヒは石鹸で手を洗い、テントの屋根から落ちてくる雨水を貯めておいた水でゆすぐ。
そして水は一回捨てて、また貯めておくようにした。
水は貴重で、飲み水だけでなく、今回のように洗ったり料理に使い、火を消したりもできる。
皮の水筒に入れて移動もできる。
どこに泉があるかも大切だが、飲める水かは、一番安全なのは降り始めてすぐの水ではなく、しばらく降ってからの水だと瞬は言った。
「それか、一回沸騰させたものですね。安全です」
「瞬は賢いな……」
「実際経験したことはありませんが、聞いたんです。でも、暖かくしてくださいね。ディさま。すぐ脱がない」
「着替えだけはさせてくれ。血の匂いは獣を呼ぶ、ん?」
上着を脱ぎ、それを一旦石鹸で洗うとゆすぎ絞り干す。
そして自分の荷物から上着と、干していたマントを被る。
すると瞬のマントがあり、ちょっと覗くと、ピスピスと鼻を鳴らしながら眠っている子狼。
「これは……」
「女の子がエッダ、そしてエルマーとエーミールです」
『……オカアチャン……?』
「お母さん……?」
「アナスタージウスがこの子たちに、父親はディさまで、母親は私だと言い聞かせて……お母さんって言うんです。どうしたの? エッダ」
『エルマーとエーミールにトンされた。イヤ』
這うようにして近づくと、甘えるようにスリスリとする。
「エッダ。お母さんは、皆のご飯を作っているから、ディさま……お父さんのところに行きなさい」
『オトウチャン……イヤ!』
「熱いわよ?」
「こらこら、危ないからこっち」
ディーデリヒは、小さい獣を抱き寄せる。
「エッダだったか? 火は熱い。火傷したら大変だ。あぁ、リューン、ラウ。どこにいたんだ?」
『雨がしばらく続くってラウ言うから、見てきた』
『おウチある。いない』
「近くに家があるのか? 瞬どうする?」
「今日はこのままで、明日移動しましょうか。もう日が陰っているし……」
「そうだな。エッダ。寒いか?」
プルプル震える子狼を、甘やかすように撫でる。
「瞬。塩辛くない、前に作った燻製の肉はあったかな?」
「あぁ、これですか?」
細長く切って燻製にした肉を差し出すと、一本取り、小さくしてエッダに与える。
「まだ、歯が生えそろっていないから舐めるといい」
膝の上でハムハムとしていたエッダは、そのままスヤスヤ眠ってしまう。
「本当に歯も生え始め位かな……生え始めるとやたらかみかみするんだ」
「じゃぁ、ご飯は柔らかいものと、味を覚えさせるために燻製ですね」
「今日はどうだい?」
「そうですね。先に皆の分を作った後に、ライ麦のパンがあるので、肉を焼いてサンドイッチにしましょう。スープと途中で、ベリーを取りましたし」
「……あぁ、パンは炙るとカリカリで、美味しくなるな。それにソースが美味しい」
瞬は笑う。
「同じような食べ物じゃ飽きるでしょ? 美味しいものを食べましょう? ね? ラウちゃんはどうかしら?」
しばらくして出来上がった瞬スペシャルスープを二人は配り、そして自分たちの食事を作ると、
「頂きます」
と食べ始めたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる