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第一章……ゲームの章
24……vier und zwanzig(フィーアウントツヴァンツィヒ)
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雨が、小降りとなっていた。
いや、ざーざーと降っていたそれが、霧のような小雨に変わったのである。
雨で器などを洗っていたアストリットは、薪の近くに戻ってくる。
「ディさま。皆は寝ていますか?」
犬たちは馬とロバの側に、そして狼たちとDracheたちはディーデリヒの周りに集まっていた。
「風は強くないけど、雨が冷たくて温度を奪うから、アナスタージウスたちが傍で寝てくれる。こっち」
「えっと、ディさま……一応、従者のつもりですから……」
「風邪を引いたら困る。それに……」
『オカアチャン……』
エッダがモゾモゾと顔を出す。
狼と言うよりも、子犬のように丸い目で甘えるように訴える。
「……分かりました。えっと、ディさま。こ、交代で起きますからね。起こしてくださいね?」
「分かった」
「って言って、いつも起こしてくださらない」
「ほら、暖かいから」
子狼とドラッヘを挟んで、反対側に潜り込む。
そうすると、背中には狼たちが守るように丸くなった。
「いつもありがとう。皆。お休みなさい」
そう言うと、小さくあくびをし、
「ディさま、良いですか? 起こしてくださいね?」
「あぁ。分かった。お休み」
その言葉に目を閉じて寝息が聞こえる。
「……寝つきがいいなぁ。疲れたのか」
『と言うより、番と思われてないね~?』
「こら、番とか言うな。リューン」
『じゃぁ、伴侶』
「どこで覚えてくるんだ」
ディーデリヒは髪をかきあげる。
多分アストリットは、雨水を貯めるためにいくつか空いた器を並べていた。
明日の朝、湯を沸かし、お互い身を清めるのだろう。
翌日、空き家に移動して火を起こし、溜めた水を沸かすと普段通り、自分は男だからババッと終わらせたのだが、そうすると残念そうな顔になる。
「ディさま。髪が濡れてます。よく拭きましょう。風邪を引きますよ?」
本人も長い髪を拭いながら、告げる。
「髪を伸ばしているのは、ファッション……身綺麗にしていると言うよりも、首を狙われないようにしていると聞きました。でも、折角なんですから、くしゃくしゃはやめましょう」
「でも、アスティやカーシュ程綺麗でもないしな、この髪」
「何を言ってるんですか。この地域はくせ毛の強い茶色が多いのに、ディさまは金色ですよ」
「それをいうならアスティの髪の方が……」
「アストリットはこの色ですけど、私は黒い髪と瞳なので。もっとキリッとしてますよ。アストリットは儚げな感じです。残念でしたね。ディさま。中がこんなお転婆で」
笑う顔はいつもの無表情ではなく、お転婆……と言うより、可愛らしい。
「お転婆というのは、アナスタージウス達と遊ぶことか? もっとお転婆というか、陰湿な嫌がらせなら実家で日常茶飯事あったぞ。あまり丈夫じゃないフィーを湖に突き落として、助けを求める姿を笑ってみてるのとか、俺の部屋に入って貴金属を盗み、書類を破り……とかな。知ってるか? フィーがアスティに慣れている……父上や母上に懐いているのは、4年前……俺とカーシュが騎士として中央に出向く時に、ほぼ放置して面倒を見ない両親達に殺されたらと思って、預かっていただいたんだ。あのフレデリックは一緒に行ったが、テオは残った」
「……えと、カーシュお兄様とディさまは問題なさそうですが、あの方は問題山積だったのではありませんか?」
「よく分かったな。戦いの時にあいつはお腹が痛いと逃げ出して、倉庫の隅に怯えて泣いてたんだ。あれならまだテオの方がマシだとカーシュは怒り、師匠となる部隊長に、『あれは私の弟ではありません。弟は私の代わりに領地を守ることに専念しております。父に私たちをよろしくと頼まれたかと思いますが、役に立たないものは切り捨て、後方部隊に回してください。あれをここに置くと士気が落ちます』と訴え、フレデリックは塔の清掃などをさせられるようになった。カーシュの意見は正しいが、それで余計にフレデリックはカーシュを妬み、羨み、何度か毒を盛ろうとした。止めたが」
瞬瞬は思い出したように、リュックを引き寄せ、本を取り出すと見せる。
「ディさま……どの毒ですか?」
「これは?」
「Japanの文字ですが、絵が鮮明です。チェーザレ・ボルジアのカンタレラという毒はここにはありませんが、製法はある程度わかります」
「チェーザレ……?」
「えっと……Cesare・Borgiaですね。イタリア語でCesare・Borgia、duca di Valentino。ヴァレンティーノ公チェーザレ。教皇アレクサンデル6世の息子です。約100年程前のイタリアの政治家であり軍人、元は枢機卿だったはずです」
ディーデリヒは考え込む。
「cantarellaと言う毒を用い、政敵を毒殺したのです。ご存知ではなかったですか?」
「と言うか、教皇が結婚していたと言うのが……」
「正式な結婚ではなかったのです。私生児になりますが、教皇は権力がありますから。他に何人か子供がいましたが、特に可愛がっていた二人の息子の一人を自分の後の教皇に望み、もう一人は表舞台……権力をと望んだのですよ。でも、兄のチェーザレは賢い上に策略を練るのに優れた人間で、教皇は枢機卿に。もう一人の息子フアンを政界に……でも、フアンは教皇に可愛がられていたものの、兄ほど出来た……賢い人間ではなく、人に恨まれ殺され、代わりに、枢機卿を降りたチェーザレが権力を握ったのです。その裏にはカンタレラと言う毒で次々に政敵……父親の敵を殺していったとか。妹がルクレツィア・ボルジアですね。フランス語で『Femme・fatale』……運命の女性……もしくは悪女とも言われています。でも、彼女の生涯は不明な点が多いのですが……『ファムメ・フィタル』と読むそうですよ」
「彼女が?」
「いえ、自分の人生を変えた女性のこともそう呼ぶのでしょうね。ルクレツィアは親や兄の命令で政略結婚を繰り返し、その相手が政敵に殺されたり、大怪我を負い看病している時に毒殺されたりと不幸続きだったそうです。その為後世『悪女』と。反面、美貌で知られ、その美しさに『運命の人』と。見方によって違うのでしょう……本当は食べ物を取るときに調べたらいいのですが、アナスタージウス達が止めてくれるのです。毒だと。特にキノコは毒が多いのでありがたいです」
ページをめくり示す。
そこには鮮やかなキノコの絵がある。
「……これは……!」
「毒キノコです。それに簡単な見分け方として、派手な色をしたキノコは毒があり、地味な色は食べられるそうです。でも、本当に詳しくないと口に出来ませんね」
「すごいな……この文字さえ読めれば、気をつけることもできるのに……」
「時間があれば教えましょうか?」
「頼む!」
本を受け取り、熱心にページをめくるディーデリヒにくすくす笑う。
「ディさま。私はちょっと寝ますが、起こしてくださいね」
「あぁ、絵を見ているだけでも面白いな……これは」
集中して見ているディーデリヒを見て、あくびをかみ殺すと、
「おやすみなさい」
と目を閉じた。
翌日目を覚ますと、ディーデリヒは目の前でスゥスゥと眠っており、アナスタージウス達が、
『ネテシマッタ。オコサナイデヤッテクレ』
と告げたのだった。
いや、ざーざーと降っていたそれが、霧のような小雨に変わったのである。
雨で器などを洗っていたアストリットは、薪の近くに戻ってくる。
「ディさま。皆は寝ていますか?」
犬たちは馬とロバの側に、そして狼たちとDracheたちはディーデリヒの周りに集まっていた。
「風は強くないけど、雨が冷たくて温度を奪うから、アナスタージウスたちが傍で寝てくれる。こっち」
「えっと、ディさま……一応、従者のつもりですから……」
「風邪を引いたら困る。それに……」
『オカアチャン……』
エッダがモゾモゾと顔を出す。
狼と言うよりも、子犬のように丸い目で甘えるように訴える。
「……分かりました。えっと、ディさま。こ、交代で起きますからね。起こしてくださいね?」
「分かった」
「って言って、いつも起こしてくださらない」
「ほら、暖かいから」
子狼とドラッヘを挟んで、反対側に潜り込む。
そうすると、背中には狼たちが守るように丸くなった。
「いつもありがとう。皆。お休みなさい」
そう言うと、小さくあくびをし、
「ディさま、良いですか? 起こしてくださいね?」
「あぁ。分かった。お休み」
その言葉に目を閉じて寝息が聞こえる。
「……寝つきがいいなぁ。疲れたのか」
『と言うより、番と思われてないね~?』
「こら、番とか言うな。リューン」
『じゃぁ、伴侶』
「どこで覚えてくるんだ」
ディーデリヒは髪をかきあげる。
多分アストリットは、雨水を貯めるためにいくつか空いた器を並べていた。
明日の朝、湯を沸かし、お互い身を清めるのだろう。
翌日、空き家に移動して火を起こし、溜めた水を沸かすと普段通り、自分は男だからババッと終わらせたのだが、そうすると残念そうな顔になる。
「ディさま。髪が濡れてます。よく拭きましょう。風邪を引きますよ?」
本人も長い髪を拭いながら、告げる。
「髪を伸ばしているのは、ファッション……身綺麗にしていると言うよりも、首を狙われないようにしていると聞きました。でも、折角なんですから、くしゃくしゃはやめましょう」
「でも、アスティやカーシュ程綺麗でもないしな、この髪」
「何を言ってるんですか。この地域はくせ毛の強い茶色が多いのに、ディさまは金色ですよ」
「それをいうならアスティの髪の方が……」
「アストリットはこの色ですけど、私は黒い髪と瞳なので。もっとキリッとしてますよ。アストリットは儚げな感じです。残念でしたね。ディさま。中がこんなお転婆で」
笑う顔はいつもの無表情ではなく、お転婆……と言うより、可愛らしい。
「お転婆というのは、アナスタージウス達と遊ぶことか? もっとお転婆というか、陰湿な嫌がらせなら実家で日常茶飯事あったぞ。あまり丈夫じゃないフィーを湖に突き落として、助けを求める姿を笑ってみてるのとか、俺の部屋に入って貴金属を盗み、書類を破り……とかな。知ってるか? フィーがアスティに慣れている……父上や母上に懐いているのは、4年前……俺とカーシュが騎士として中央に出向く時に、ほぼ放置して面倒を見ない両親達に殺されたらと思って、預かっていただいたんだ。あのフレデリックは一緒に行ったが、テオは残った」
「……えと、カーシュお兄様とディさまは問題なさそうですが、あの方は問題山積だったのではありませんか?」
「よく分かったな。戦いの時にあいつはお腹が痛いと逃げ出して、倉庫の隅に怯えて泣いてたんだ。あれならまだテオの方がマシだとカーシュは怒り、師匠となる部隊長に、『あれは私の弟ではありません。弟は私の代わりに領地を守ることに専念しております。父に私たちをよろしくと頼まれたかと思いますが、役に立たないものは切り捨て、後方部隊に回してください。あれをここに置くと士気が落ちます』と訴え、フレデリックは塔の清掃などをさせられるようになった。カーシュの意見は正しいが、それで余計にフレデリックはカーシュを妬み、羨み、何度か毒を盛ろうとした。止めたが」
瞬瞬は思い出したように、リュックを引き寄せ、本を取り出すと見せる。
「ディさま……どの毒ですか?」
「これは?」
「Japanの文字ですが、絵が鮮明です。チェーザレ・ボルジアのカンタレラという毒はここにはありませんが、製法はある程度わかります」
「チェーザレ……?」
「えっと……Cesare・Borgiaですね。イタリア語でCesare・Borgia、duca di Valentino。ヴァレンティーノ公チェーザレ。教皇アレクサンデル6世の息子です。約100年程前のイタリアの政治家であり軍人、元は枢機卿だったはずです」
ディーデリヒは考え込む。
「cantarellaと言う毒を用い、政敵を毒殺したのです。ご存知ではなかったですか?」
「と言うか、教皇が結婚していたと言うのが……」
「正式な結婚ではなかったのです。私生児になりますが、教皇は権力がありますから。他に何人か子供がいましたが、特に可愛がっていた二人の息子の一人を自分の後の教皇に望み、もう一人は表舞台……権力をと望んだのですよ。でも、兄のチェーザレは賢い上に策略を練るのに優れた人間で、教皇は枢機卿に。もう一人の息子フアンを政界に……でも、フアンは教皇に可愛がられていたものの、兄ほど出来た……賢い人間ではなく、人に恨まれ殺され、代わりに、枢機卿を降りたチェーザレが権力を握ったのです。その裏にはカンタレラと言う毒で次々に政敵……父親の敵を殺していったとか。妹がルクレツィア・ボルジアですね。フランス語で『Femme・fatale』……運命の女性……もしくは悪女とも言われています。でも、彼女の生涯は不明な点が多いのですが……『ファムメ・フィタル』と読むそうですよ」
「彼女が?」
「いえ、自分の人生を変えた女性のこともそう呼ぶのでしょうね。ルクレツィアは親や兄の命令で政略結婚を繰り返し、その相手が政敵に殺されたり、大怪我を負い看病している時に毒殺されたりと不幸続きだったそうです。その為後世『悪女』と。反面、美貌で知られ、その美しさに『運命の人』と。見方によって違うのでしょう……本当は食べ物を取るときに調べたらいいのですが、アナスタージウス達が止めてくれるのです。毒だと。特にキノコは毒が多いのでありがたいです」
ページをめくり示す。
そこには鮮やかなキノコの絵がある。
「……これは……!」
「毒キノコです。それに簡単な見分け方として、派手な色をしたキノコは毒があり、地味な色は食べられるそうです。でも、本当に詳しくないと口に出来ませんね」
「すごいな……この文字さえ読めれば、気をつけることもできるのに……」
「時間があれば教えましょうか?」
「頼む!」
本を受け取り、熱心にページをめくるディーデリヒにくすくす笑う。
「ディさま。私はちょっと寝ますが、起こしてくださいね」
「あぁ、絵を見ているだけでも面白いな……これは」
集中して見ているディーデリヒを見て、あくびをかみ殺すと、
「おやすみなさい」
と目を閉じた。
翌日目を覚ますと、ディーデリヒは目の前でスゥスゥと眠っており、アナスタージウス達が、
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