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宗良side
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同級生で幼馴染み……。
それが定位置で、当たり前だった。
友見名は、世話好きと言うより心配性でお節介な奴で、捨てられている子猫や子犬を拾っては、
「……うえぇぇぇん、宗ちゃん。お家で飼っちゃ駄目だって……」
と顔をグシャグシャにして、泣きながらやって来た。
「じゃぁ、元のところに置いとけって!」
「だって、だってぇ……可哀想だもん……」
しゃくりあげる友見名に、宗良はため息をつく。
いつもそうだ。
友見名の泣き顔には、自分は本当に弱い。
無理矢理渋い顔を作り、
「……解ったよ。一緒に飼い主になってくれる家を探そう」
「ほ、本当?」
うるうるとした目で見つめられ、何度もうなずく。
「本当! ほら、行くぞ!」
手を引っ張り連れていく。
結局、猫は飼い主は見つかったが、子犬は見つからず、両親には怒られたものの、宗良の家で飼うことになった。
時々、友見名はやって来て、一緒に散歩に行く。
「シロ!」
友見名の声が聞こえると、シロと名前をつけた子犬は尻尾を振る。
「わーい。久し振りだね。シロ。元気だった?」
「お前の方が大丈夫かよ。また学校休んで。風邪を引いたのか?」
「うん……大丈夫だよ~! ほら、馬鹿は風邪引かないって言うでしょ?」
「おい、風邪引いてない俺に嫌みか?」
シロのリードを引きながら、睨むとへにゃっと笑う。
「あ、違った? じゃぁ、夏風邪はなんとかが引くって……」
「それも、夏に風邪ひいた俺に……」
「アハハ! 宗ちゃんは馬鹿じゃないよう~! ね? シロ」
普段通り、晩秋の河川敷を歩いていく。
宿題のことや、12月になり、冬休みになったらどうするつもりで、クリスマスに何が欲しいのだと話していると、ふと、思い出したように友見名は振り返る。
「あ、そうだ~! あのね、この間病院に行ったら、ちょっと気になるから12月に検査しましょうって言われたんだ」
「え? 検査?」
「うん。でも多分、お母さんに言われたけど、アレルギーだと思う。だからね? 入院前に遊園地に行こうかと思ってるんだ。宗ちゃんも行こうよ」
「遊園地~?」
「駄目~?」
上目遣いで見つめる幼馴染みに、
「お、お前、わざとやってるだろ~? お前のおねだりに、毎回頷くと思うなよ!」
「……お母さんに特別チケット買って貰ったのに……あの、有名なアトラクション優先で遊べるのに……じゃぁ、良いもん。他の子誘うから……」
「……く、くぅぅぅ……」
友見名が言っているのは、前に二人で帰り道、行きたいと話していた遊園地のニューアトラクションである。
優先券は別途お金がかかる。
それに、普段は2時間以上待たされると噂に聞いていて諦めていたのだ。
「……わ、解った。行く」
「やったぁぁ! 宗ちゃんありがとう! じゃぁね、今度ね? 約束だよ?」
いつも以上に頬を赤くして、喜ぶ友見名を家に送る。
「じゃぁね? シロもまたね? 宗ちゃんもありがとう!」
何度も振り返り手を振る友見名が家に入っていくのを見つめ、シロとゆっくり帰っていったのだった。
当日は、友見名の両親も一緒で4人で向かう。
が、友見名と宗良の楽しみにしていたアトラクションは、二人は必死に遠慮すると言われた。
二人はお土産を選ぶと言い、アトラクションの後に待ち合わせすることにした。
「わーい! 楽しみだね~!」
はしゃぐ友見名に、何処と無く表情の固い二人。
「どうしたんですか?」
「あ、いいや……」
友見名の父の友介は微笑む。
「友見名がいつもよりはしゃいでいるから、大丈夫かなと思ってね?」
「いつもごめんなさいね。宗良君」
頭を下げる母の名緒子に、首を振る。
「いえ、友見名と来たいねって言ってたんです。連れてきてくれてありがとうございます」
「宗ちゃん~? 置いてくよ~!」
「こらぁ! 先に行くな~! ……あ、行ってきます! 後で、待ち合わせの場所に。待て~! 友見名~!」
友見名の背を追いかける宗良を二人は、見送ったのだった。
幾つかのアトラクションをこなすと、宗良はベンチに座り込む。
「おい、何でジェットコースター系ばっかりなんだよ!」
「え~? 面白いもん。宗ちゃん、もしかして絶叫系は嫌いなの~?」
「……き、嫌いじゃない!」
「ほんと~?」
「ホントだ! じゃぁ次は!」
隣に座った友見名は、笑顔からスッと表情を消す。
「う~んとねぇ? 宗ちゃん。お願いがあるの」
「何だ?」
「あのねぇ? 退院したら、またシロと散歩に行こうね?」
「あぁ。風邪引いたら困るから暖かくしろよ。退院したら冬だぞ?」
目を大きくした友見名は、へにゃっと笑った。
「うん。あ、そうだ。入院中に宗ちゃんのマフラー編んであげる~! お揃い!」
「そんなのして歩けるかよ!」
「え~? 一緒が良かったのに」
しゅーんとしょげる幼馴染みに、
「……色違いなら、してやってもいい」
「ほんと?」
「……あぁ。短いのとか、穴が開いてたらしないぞ」
「うん! 頑張るね!」
嬉しそうに……頬を赤くして笑った。
遊びに行った翌日からも入院した友見名の家に、シロと毎日歩いていく。
しかし、名緒子もおらず帰っていく日が続いた。
クリスマスにもプレゼントを用意していたが、渡すことが出来ず、携帯を持たせて貰っていない為、少しでも自宅の電話の近くにと台所のテーブルで宿題をしていた。
年が明けて正月も、声が聞けなかった……。
そして、新学期気分が抜け、周囲が中学校の事を話始めた2月14日、授業中に呼び出しのアナウンスが流れた。
『6年3組の田仲宗良君。至急職員室に来なさい』
何だろう……。
嫌な予感がした。
本当に……ずんっと胸に何かが……。
でも、周囲の視線もあり、遅くなりそうな足を動かして職員室に向かう。
「失礼します」
扉を開けると、重苦しい空気とすすり泣く声……。
「田仲君。松浦さんのお父さんから電話が……」
「友見名……松浦さんの?」
教頭先生に渡された受話器を耳に当てる。
「こ、こんにちは……お久しぶりです。おじさん」
『久し振りだね……宗良君。あのね……友見名が……』
「友見名、元気ですか? 最近……」
『……実は、友見名は今朝……早朝、息を引き取ったんだ』
「え?」
イキヲヒキトッタ……?
イキ、ヲ……?
ヒキトッタ……って……。
言葉が頭の中で混乱し、上手くまとまらない……。
ただ、耳に響くのは……。
『今日……帰りたがっていた家に連れて帰るから、一番会いたがっていた宗良君に会って欲しくて……』
電話の向こうで、友介の声が湿る。
『元気になって、宗良君に会いたいって言ってたんだけどね……ごめんね……』
「……そ、そんな……事……! 何で……言って……!」
『……友見名が、誰にも言わないでくれって……治るから、頑張るって……ごめんね……あ、はい。すぐに! ……ごめんね。友見名が戻ってきたから……』
電話が切れた。
動けなかった……。
ただ、受話器を握りしめて、周囲の先生たちを見る。
「田仲君……受話器を……」
教頭先生が受話器を受けとる。
その時触れた手が、現実を受け止めるようにと言っているように……。
「う、嘘だ……嘘だぁぁぁ!」
職員室を飛び出し、上履きのまま走り出した。
全速力で走り、友見名の家が見えたと思うと、一台の車が通った。
乗っているのは、友介。
その車を追いかけ、目的の家に着くと、車の後部の扉が開いていた。
必死に近づくと、友介が振り返る。
「宗良君……」
「おじさん! 友見名は? 友見名!」
家に運ばれていくのは……。
「友見名ーー!」
手を伸ばす宗良を友介は抱き締める。
「……ごめんね。友見名の体は……友見名の希望で献体されて……見せられないんだ……ごめんね」
「何で……何で!」
すぐに棺に納められた友見名の前で、泣き崩れているのは名緒子。
「おばさん……」
「……ごめんね。宗良君。言えずに、ごめんね」
「……おばさんも、辛かったんでしょ……」
娘の幼馴染みの言葉に、ますます涙を溢れさせる。
そして、思い出したように、
「……そ、宗良君……意識が混濁する前……最後に言っていたの。『宗ちゃん、ありがとう』って。『宗ちゃんに元気になったら自分で渡すから、今は渡さないで』って……で、でも……」
友見名は……もう、渡せ……な、いから……。
震える手で、名緒子は二つの包みを差し出した。
受け取った宗良はしばらく包みを見ていた。
しかし、大きな袋を開けてみた。
綺麗に畳まれた、青とピンクの二本のマフラーだった。
青が宗良の、ピンクが友見名のらしい。
「……もう、一つは……バレンタインチョコなの。絶対にあげるんだって……そう言っていたのに……」
泣きじゃくる名緒子は親族らしい女性に抱えられ、奥に入っていく。
見送った宗良はマフラーを二本首に巻き、バレンタインチョコの入っていると言う袋を開ける。
綺麗に包装されたチョコと、友見名が好きな犬の柄の封筒が入っていた。
「手紙……」
取り出すと、表には、
『宗ちゃんへ』
と書いてあった。
後ろはこれまたシールで貼られていて、開けると便せんを抜きとり開く。
友見名の文字だった。
食い入るように文字をたどり、呟く。
「『好きでした。さよなら』って何だよ! これじゃ言い逃げじゃん! 返事も出来ないじゃないか! それに何で、俺に言わせてくれないんだ? 友見名!」
涙をボロボロ流しながら、宗良は叫ぶ。
何度も何度も、失った存在の大きさと、伝えることが出来なかった思いを、叫び続けるしかなかったのだった。
翌日から、宗良は青いマフラーを、ピンク色のマフラーをシロに巻いて散歩をするようになった。
散歩のコースは一緒。
本当は宗良は躊躇ったが、シロは道を覚えていてその道を歩く。
途中は必ず友見名の家に……。
暖かい時期はマフラーはしないが、毎日同じ道の散歩は続いた……。
もう、彼女はいない……。
それでも宗良の心には生きている……。
それが定位置で、当たり前だった。
友見名は、世話好きと言うより心配性でお節介な奴で、捨てられている子猫や子犬を拾っては、
「……うえぇぇぇん、宗ちゃん。お家で飼っちゃ駄目だって……」
と顔をグシャグシャにして、泣きながらやって来た。
「じゃぁ、元のところに置いとけって!」
「だって、だってぇ……可哀想だもん……」
しゃくりあげる友見名に、宗良はため息をつく。
いつもそうだ。
友見名の泣き顔には、自分は本当に弱い。
無理矢理渋い顔を作り、
「……解ったよ。一緒に飼い主になってくれる家を探そう」
「ほ、本当?」
うるうるとした目で見つめられ、何度もうなずく。
「本当! ほら、行くぞ!」
手を引っ張り連れていく。
結局、猫は飼い主は見つかったが、子犬は見つからず、両親には怒られたものの、宗良の家で飼うことになった。
時々、友見名はやって来て、一緒に散歩に行く。
「シロ!」
友見名の声が聞こえると、シロと名前をつけた子犬は尻尾を振る。
「わーい。久し振りだね。シロ。元気だった?」
「お前の方が大丈夫かよ。また学校休んで。風邪を引いたのか?」
「うん……大丈夫だよ~! ほら、馬鹿は風邪引かないって言うでしょ?」
「おい、風邪引いてない俺に嫌みか?」
シロのリードを引きながら、睨むとへにゃっと笑う。
「あ、違った? じゃぁ、夏風邪はなんとかが引くって……」
「それも、夏に風邪ひいた俺に……」
「アハハ! 宗ちゃんは馬鹿じゃないよう~! ね? シロ」
普段通り、晩秋の河川敷を歩いていく。
宿題のことや、12月になり、冬休みになったらどうするつもりで、クリスマスに何が欲しいのだと話していると、ふと、思い出したように友見名は振り返る。
「あ、そうだ~! あのね、この間病院に行ったら、ちょっと気になるから12月に検査しましょうって言われたんだ」
「え? 検査?」
「うん。でも多分、お母さんに言われたけど、アレルギーだと思う。だからね? 入院前に遊園地に行こうかと思ってるんだ。宗ちゃんも行こうよ」
「遊園地~?」
「駄目~?」
上目遣いで見つめる幼馴染みに、
「お、お前、わざとやってるだろ~? お前のおねだりに、毎回頷くと思うなよ!」
「……お母さんに特別チケット買って貰ったのに……あの、有名なアトラクション優先で遊べるのに……じゃぁ、良いもん。他の子誘うから……」
「……く、くぅぅぅ……」
友見名が言っているのは、前に二人で帰り道、行きたいと話していた遊園地のニューアトラクションである。
優先券は別途お金がかかる。
それに、普段は2時間以上待たされると噂に聞いていて諦めていたのだ。
「……わ、解った。行く」
「やったぁぁ! 宗ちゃんありがとう! じゃぁね、今度ね? 約束だよ?」
いつも以上に頬を赤くして、喜ぶ友見名を家に送る。
「じゃぁね? シロもまたね? 宗ちゃんもありがとう!」
何度も振り返り手を振る友見名が家に入っていくのを見つめ、シロとゆっくり帰っていったのだった。
当日は、友見名の両親も一緒で4人で向かう。
が、友見名と宗良の楽しみにしていたアトラクションは、二人は必死に遠慮すると言われた。
二人はお土産を選ぶと言い、アトラクションの後に待ち合わせすることにした。
「わーい! 楽しみだね~!」
はしゃぐ友見名に、何処と無く表情の固い二人。
「どうしたんですか?」
「あ、いいや……」
友見名の父の友介は微笑む。
「友見名がいつもよりはしゃいでいるから、大丈夫かなと思ってね?」
「いつもごめんなさいね。宗良君」
頭を下げる母の名緒子に、首を振る。
「いえ、友見名と来たいねって言ってたんです。連れてきてくれてありがとうございます」
「宗ちゃん~? 置いてくよ~!」
「こらぁ! 先に行くな~! ……あ、行ってきます! 後で、待ち合わせの場所に。待て~! 友見名~!」
友見名の背を追いかける宗良を二人は、見送ったのだった。
幾つかのアトラクションをこなすと、宗良はベンチに座り込む。
「おい、何でジェットコースター系ばっかりなんだよ!」
「え~? 面白いもん。宗ちゃん、もしかして絶叫系は嫌いなの~?」
「……き、嫌いじゃない!」
「ほんと~?」
「ホントだ! じゃぁ次は!」
隣に座った友見名は、笑顔からスッと表情を消す。
「う~んとねぇ? 宗ちゃん。お願いがあるの」
「何だ?」
「あのねぇ? 退院したら、またシロと散歩に行こうね?」
「あぁ。風邪引いたら困るから暖かくしろよ。退院したら冬だぞ?」
目を大きくした友見名は、へにゃっと笑った。
「うん。あ、そうだ。入院中に宗ちゃんのマフラー編んであげる~! お揃い!」
「そんなのして歩けるかよ!」
「え~? 一緒が良かったのに」
しゅーんとしょげる幼馴染みに、
「……色違いなら、してやってもいい」
「ほんと?」
「……あぁ。短いのとか、穴が開いてたらしないぞ」
「うん! 頑張るね!」
嬉しそうに……頬を赤くして笑った。
遊びに行った翌日からも入院した友見名の家に、シロと毎日歩いていく。
しかし、名緒子もおらず帰っていく日が続いた。
クリスマスにもプレゼントを用意していたが、渡すことが出来ず、携帯を持たせて貰っていない為、少しでも自宅の電話の近くにと台所のテーブルで宿題をしていた。
年が明けて正月も、声が聞けなかった……。
そして、新学期気分が抜け、周囲が中学校の事を話始めた2月14日、授業中に呼び出しのアナウンスが流れた。
『6年3組の田仲宗良君。至急職員室に来なさい』
何だろう……。
嫌な予感がした。
本当に……ずんっと胸に何かが……。
でも、周囲の視線もあり、遅くなりそうな足を動かして職員室に向かう。
「失礼します」
扉を開けると、重苦しい空気とすすり泣く声……。
「田仲君。松浦さんのお父さんから電話が……」
「友見名……松浦さんの?」
教頭先生に渡された受話器を耳に当てる。
「こ、こんにちは……お久しぶりです。おじさん」
『久し振りだね……宗良君。あのね……友見名が……』
「友見名、元気ですか? 最近……」
『……実は、友見名は今朝……早朝、息を引き取ったんだ』
「え?」
イキヲヒキトッタ……?
イキ、ヲ……?
ヒキトッタ……って……。
言葉が頭の中で混乱し、上手くまとまらない……。
ただ、耳に響くのは……。
『今日……帰りたがっていた家に連れて帰るから、一番会いたがっていた宗良君に会って欲しくて……』
電話の向こうで、友介の声が湿る。
『元気になって、宗良君に会いたいって言ってたんだけどね……ごめんね……』
「……そ、そんな……事……! 何で……言って……!」
『……友見名が、誰にも言わないでくれって……治るから、頑張るって……ごめんね……あ、はい。すぐに! ……ごめんね。友見名が戻ってきたから……』
電話が切れた。
動けなかった……。
ただ、受話器を握りしめて、周囲の先生たちを見る。
「田仲君……受話器を……」
教頭先生が受話器を受けとる。
その時触れた手が、現実を受け止めるようにと言っているように……。
「う、嘘だ……嘘だぁぁぁ!」
職員室を飛び出し、上履きのまま走り出した。
全速力で走り、友見名の家が見えたと思うと、一台の車が通った。
乗っているのは、友介。
その車を追いかけ、目的の家に着くと、車の後部の扉が開いていた。
必死に近づくと、友介が振り返る。
「宗良君……」
「おじさん! 友見名は? 友見名!」
家に運ばれていくのは……。
「友見名ーー!」
手を伸ばす宗良を友介は抱き締める。
「……ごめんね。友見名の体は……友見名の希望で献体されて……見せられないんだ……ごめんね」
「何で……何で!」
すぐに棺に納められた友見名の前で、泣き崩れているのは名緒子。
「おばさん……」
「……ごめんね。宗良君。言えずに、ごめんね」
「……おばさんも、辛かったんでしょ……」
娘の幼馴染みの言葉に、ますます涙を溢れさせる。
そして、思い出したように、
「……そ、宗良君……意識が混濁する前……最後に言っていたの。『宗ちゃん、ありがとう』って。『宗ちゃんに元気になったら自分で渡すから、今は渡さないで』って……で、でも……」
友見名は……もう、渡せ……な、いから……。
震える手で、名緒子は二つの包みを差し出した。
受け取った宗良はしばらく包みを見ていた。
しかし、大きな袋を開けてみた。
綺麗に畳まれた、青とピンクの二本のマフラーだった。
青が宗良の、ピンクが友見名のらしい。
「……もう、一つは……バレンタインチョコなの。絶対にあげるんだって……そう言っていたのに……」
泣きじゃくる名緒子は親族らしい女性に抱えられ、奥に入っていく。
見送った宗良はマフラーを二本首に巻き、バレンタインチョコの入っていると言う袋を開ける。
綺麗に包装されたチョコと、友見名が好きな犬の柄の封筒が入っていた。
「手紙……」
取り出すと、表には、
『宗ちゃんへ』
と書いてあった。
後ろはこれまたシールで貼られていて、開けると便せんを抜きとり開く。
友見名の文字だった。
食い入るように文字をたどり、呟く。
「『好きでした。さよなら』って何だよ! これじゃ言い逃げじゃん! 返事も出来ないじゃないか! それに何で、俺に言わせてくれないんだ? 友見名!」
涙をボロボロ流しながら、宗良は叫ぶ。
何度も何度も、失った存在の大きさと、伝えることが出来なかった思いを、叫び続けるしかなかったのだった。
翌日から、宗良は青いマフラーを、ピンク色のマフラーをシロに巻いて散歩をするようになった。
散歩のコースは一緒。
本当は宗良は躊躇ったが、シロは道を覚えていてその道を歩く。
途中は必ず友見名の家に……。
暖かい時期はマフラーはしないが、毎日同じ道の散歩は続いた……。
もう、彼女はいない……。
それでも宗良の心には生きている……。
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