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宗良side~『木蘭の涙』
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今日は、時々顔を見せる松浦友介が、一人の青年を連れて姿を見せた。
「こんばんは。ようこそ」
「お久しぶりです」
話す二人の後ろで気後れしたように立ち尽くすのは、きりっとした顔立ちでしっかりとした印象だが、まだまだいきがっている雰囲気もある青年……いや、まだ未成年らしい。
「お子さんですか?」
「いえ、上の娘の幼馴染みの宗良君です。高校を卒業して、医学部に進学したんですよ」
「初めまして、田仲宗良です」
「ようこそ。宗良くん。どうぞ」
マスターはカウンターに案内しながら微笑む。
かかっているのは、STARDUST REVUEのアルバムである。
「では、まだお酒は駄目ですね」
「そうですね」
「じゃぁ、お二人に……」
グラスを用意すると、シェーカーを用い手慣れた手つきで作り始める。
何かを言いたくて言い出せなさそうな友介に、ただ、その言葉を拒絶とまでは言わないにしろ聞きたくないと視線をそらす宗良に、
「……あ、曲が変わりますね」
カクテルにチェリー等を飾り付けながら、マスターは告げる。
「……この曲は……」
友介は、言葉をつまらせる。
「『木蘭の涙』です」
「……」
「……夢でも……逢えないのに……」
宗良は呟く。
「あいつは、勝手に手紙だけ残して……! しかも『大好きだった。さよなら』って……返事も聞かないで!」
ボロボロと涙を流す。
「病気のことも知らなかった。知ってても、俺は友見名の傍にいたかった! いたかった……」
「宗良くん……」
「俺の思いは、皆、子供の頃のただの切ない思い出だって、恋愛じゃないって、言うけど……笑うけど……! 俺は……手紙だけ残して逝った、返事を聞いてくれなかった友見名を腹はたってるけど、大好きだった! ただの幼馴染みじゃなくて、本当に特別だったんだ!」
袖で涙をぬぐおうとするまだまだ少年に、おしぼりを渡す。
「それが解る前に、思いが特別だって実を結ぶ前に……友見名は……いなくなった。最後の顔も見てない。ただ、お揃いのマフラーとチョコレートだけ。それにシロも……友見名を追いかけて……俺を置いて……」
堪えきれなくなったのか、号泣する少年の背中を叩く友介。
「シロ……?」
「私の娘は、捨てられている子犬や子猫を拾って帰る子で……10年前に拾って、宗良くんの家に貰われていった子です。娘は、6年前逝きました」
「……そう……でしたか。辛いことを思い出させてしまって……」
「いいえ、娘が……友見名が逝ってから、私も妻も本当に生きているのか分からなくなって、でも、宗良くんとシロが毎日会いに来てくれて……妻は喜んで……。その上、宗良くんは医師になると……友見名の夢だったから代わりにと……」
声をつまらせる。
「娘が逝ってから子供がもう一人生まれました。でも、下の娘を愛していても、友見名を思い出すんです……無力だった自分を責めるんです」
「……」
項垂れる友介をみつめ、告げる。
「お二人とも……カクテルをどうぞ……」
「あの、宗良くんは……」
「大丈夫ですよ。ノンアルコールです」
鼻をすすった宗良に、新しく暖かいものと冷たいおしぼりにティッシュの箱を差し出す。
「目が真っ赤ですね。使ってください」
「ありがとうございます……女々しいって、解ってても……」
「女々しいどころか、宗良くんは本当にいい男ですよ。友介さんのお嬢さんのこと、愛犬のことを本当に思っていて……今はまだ辛いでしょうが、きっとこのカクテルのようにと思います」
宗良の瞳はカクテルを見る。
「このカクテルに、名前があるのですか?」
「えぇ……『サマー・デライト』と言います。悲しみも苦しみもじっと耐え、春にはきっと木蘭の花は咲くでしょう。そして、このカクテルのように……頑張って下さいね。それがきっと友見名さんとシロも見て喜びますよ」
「……はい」
カクテルに手を伸ばし、そっと宗良は呟き、口をつけた。
きっと……伝えたかった言葉は、空に届いている筈……。
「こんばんは。ようこそ」
「お久しぶりです」
話す二人の後ろで気後れしたように立ち尽くすのは、きりっとした顔立ちでしっかりとした印象だが、まだまだいきがっている雰囲気もある青年……いや、まだ未成年らしい。
「お子さんですか?」
「いえ、上の娘の幼馴染みの宗良君です。高校を卒業して、医学部に進学したんですよ」
「初めまして、田仲宗良です」
「ようこそ。宗良くん。どうぞ」
マスターはカウンターに案内しながら微笑む。
かかっているのは、STARDUST REVUEのアルバムである。
「では、まだお酒は駄目ですね」
「そうですね」
「じゃぁ、お二人に……」
グラスを用意すると、シェーカーを用い手慣れた手つきで作り始める。
何かを言いたくて言い出せなさそうな友介に、ただ、その言葉を拒絶とまでは言わないにしろ聞きたくないと視線をそらす宗良に、
「……あ、曲が変わりますね」
カクテルにチェリー等を飾り付けながら、マスターは告げる。
「……この曲は……」
友介は、言葉をつまらせる。
「『木蘭の涙』です」
「……」
「……夢でも……逢えないのに……」
宗良は呟く。
「あいつは、勝手に手紙だけ残して……! しかも『大好きだった。さよなら』って……返事も聞かないで!」
ボロボロと涙を流す。
「病気のことも知らなかった。知ってても、俺は友見名の傍にいたかった! いたかった……」
「宗良くん……」
「俺の思いは、皆、子供の頃のただの切ない思い出だって、恋愛じゃないって、言うけど……笑うけど……! 俺は……手紙だけ残して逝った、返事を聞いてくれなかった友見名を腹はたってるけど、大好きだった! ただの幼馴染みじゃなくて、本当に特別だったんだ!」
袖で涙をぬぐおうとするまだまだ少年に、おしぼりを渡す。
「それが解る前に、思いが特別だって実を結ぶ前に……友見名は……いなくなった。最後の顔も見てない。ただ、お揃いのマフラーとチョコレートだけ。それにシロも……友見名を追いかけて……俺を置いて……」
堪えきれなくなったのか、号泣する少年の背中を叩く友介。
「シロ……?」
「私の娘は、捨てられている子犬や子猫を拾って帰る子で……10年前に拾って、宗良くんの家に貰われていった子です。娘は、6年前逝きました」
「……そう……でしたか。辛いことを思い出させてしまって……」
「いいえ、娘が……友見名が逝ってから、私も妻も本当に生きているのか分からなくなって、でも、宗良くんとシロが毎日会いに来てくれて……妻は喜んで……。その上、宗良くんは医師になると……友見名の夢だったから代わりにと……」
声をつまらせる。
「娘が逝ってから子供がもう一人生まれました。でも、下の娘を愛していても、友見名を思い出すんです……無力だった自分を責めるんです」
「……」
項垂れる友介をみつめ、告げる。
「お二人とも……カクテルをどうぞ……」
「あの、宗良くんは……」
「大丈夫ですよ。ノンアルコールです」
鼻をすすった宗良に、新しく暖かいものと冷たいおしぼりにティッシュの箱を差し出す。
「目が真っ赤ですね。使ってください」
「ありがとうございます……女々しいって、解ってても……」
「女々しいどころか、宗良くんは本当にいい男ですよ。友介さんのお嬢さんのこと、愛犬のことを本当に思っていて……今はまだ辛いでしょうが、きっとこのカクテルのようにと思います」
宗良の瞳はカクテルを見る。
「このカクテルに、名前があるのですか?」
「えぇ……『サマー・デライト』と言います。悲しみも苦しみもじっと耐え、春にはきっと木蘭の花は咲くでしょう。そして、このカクテルのように……頑張って下さいね。それがきっと友見名さんとシロも見て喜びますよ」
「……はい」
カクテルに手を伸ばし、そっと宗良は呟き、口をつけた。
きっと……伝えたかった言葉は、空に届いている筈……。
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