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第4章
【番外編】神に見捨てられた一族2
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階段を降りていくと、奥に向かう長い道がある。
所々に、明かり玉を置く燭台のようなものがあり、ラインハルトは持ってきていた小さい方の明かり玉を置いていく。
ポゥ……ッ
と手のひらから離れた玉が優しい黄色に輝く。
周囲が見えるが、汚れはほとんど見えない。
石はきちんと組まれ、通路となっているが奥の先は見えない。
「あの、この奥は……」
「さぁな。だが、この上の家にお前の家族が住む。ここに何かがあって、売ったりしたら困るからな」
「あの……私も、その一員ですが……」
「手伝ってくれよな? カーティスは上を調べてるし、ルシアンは危険な術を二回使って死にかけて寝込んでるし、アルフレッドは娘が熱を出して仕事しながら看病だ。それと手伝ってくれたら、アマーリエ様にお願いしてやる」
ラインハルトは、じっとフランシスを見る。
「本当は、公爵家の令嬢に死を言い渡した場合、獄中で自害か毒を煽らせるかだ。だが、お前の両親や兄妹は公開処刑を求めた。先程の死者は処刑執行人の夫婦。彼らはフェリシアが捕らえられてから一月、世話をした。その間に度々王子とお前の妹が牢獄に来て、暴力を振るったり、髪を切り刻んだりしたそうだ。フェリシアは彼らに本当に親切にして貰ったそうだ。フェリシアも親切にしてくれた夫婦にお礼を言い、身の回りのものを自分が死んだ後に何かの足しにして欲しいと手渡した。しかし、恩を返したいのに返せず、ギロチンでフェリシアの首が落ち、それを受け止めた夫婦は絶望したんだ。その日の夜に命を絶った」
「……っ!」
フランシスは息を呑む。
フランシスは知っている。
フェリシアは国民に慕われた聖女である。
度々街に赴き、不便なことを聞き、もしくは病に苦しむ人に手を伸ばし、視線を合わせ優しく話しかけ癒す。
貴族の中で高位の令嬢だが、それを鼻にかけず、質素なワンピースで街を行き来する……心配したのは、国王や王子より人気が高いこと。
彼女は熱心に人々の為に努力をしているが、彼らにとっては邪魔になるのではないか……。
その心配が当たったこと、しかも、自分の妹が陥れたと聞いた時、何とも言いようがなかった。
ただ、その処刑が翻ること、聖女が救われるよう祈るしかなかった。
教会はあまり信じていない。
だが、祈った……それが、実現することはなかった。
その翌日の妹の式など意味はなかった。
聖女を陥れ、死の上に式を行う妹に家族、王子や国王に対する不満、不信感が増していた。
今回呼び出された時、何となく自分の未来が見えた。
妹と家族の行ったことの罪を償わなければならない……仕方がないと思った。
「ん? 何だ?」
奥が薄青く光っている。
ラインハルトは警戒しつつゆっくりと近づく。
すると、
『君達は誰だい?』
微笑むのは、椅子にジャラジャラと鎖で縛られ、手足には重りをつけられた一人の青年。
彼自体から青い光が現れ、広がっている。
ラインハルトは膝をつき、右手で左胸を押さえ頭を下げる。
「申し訳ございません。私は騎士団長ラインハルトと申します」
慌ててフランシスも膝をつき、見様見真似で礼をする。
「私はフランシス・ビョルグと申します」
『あぁ、良いよ。畏まらなくて。僕はバルナバーシュ。まぁ、家族には化け物と呼ばれたけれどね』
大きな瞳はグリーン、髪は金ではなく赤銅色。
顔立ちは童顔……。
『ところでどうしたんだい? 僕はここに閉じ込められて……何年経ったかな……?』
「あの、バルナバーシュ様のお名前は聞いたことがありません。歴史に残っていない程、昔でしょうか?」
『いや、君達は……特に君は色は違えど、僕の父の血をある程度濃く引いているだろう? 父はインマヌエルと言うよ。姉の子孫とも言う。僕の子供達は……もう途絶えたんだね。君たちがここに来ると言うことは』
悲しげな声に、
「バルナバーシュ様。申し訳ございません。そちらに近づいてもよろしいでしょうか?」
ラインハルトはそっと近づき、耳打ちする。
しばらくその声に聞き入っていたバルナバーシュは、次第に険しい顔になる。
ジャラジャラ……
鎖が音を立てる。
『待ってくれないかな? 姉の夫のクヌートが父の跡を継いだけれど、インマヌエル2世とも言うそうだね。あの男が父を殺したんだよ。それに力のない姉を聖女だと言い、僕を魔物だとここに封じ込め、子供達は名前を奪われたんだ! 僕の子供達に、地獄のような行いをさせておいて! そのクヌートの末裔が僕の子供達を全て殺し、その上、本物の聖女を断頭台に送っただって?』
青い光が炎へと変化した!
一瞬、後ずさったラインハルトは、赤ん坊を庇う。
その姿に、バルナバーシュは一瞬ハッとする。
「申し訳ございません。この子はフランシスの子供です。フランシスの両親と兄妹が、聖女である私の姪を断頭台に送りました。ですが、フランシスは私の甥と友人で、学校を出てから家を離れ、街で働いておりました。聖女を殺した罪は一族にと思いますが、まだ幼いこの子と、家と距離を置き地道に働いていたフランシスはお許し下さい。出頭して参りました、彼らを……」
「いえ、許して欲しいとは申せません」
フランシスは頭を下げる。
「申し訳ございません。我が家……特に妹が愚かで、王子に近づき……しかし妹は、神に罪を償うようにと、教会で永遠に恋人である王子と口づけを繰り返しております。そして、家族はこの上で今までバルナバーシュ様のお子様方が苦しんできたことを継ぐことになっています。私もこの後……」
「それはダメだ。フランシス。どうしてここに連れてきたと思う? それに、ここがどこか解っているのか?」
「あの家の地下です」
「違う。ここはあの家から真っ直ぐ進んでいて、王城の北東の塔の地下に続いている。私は幼い時、姉と王城で遊んでいて塔の地下でこの方を見た。塔からは入れない。だからどこかに出入り口があると思っていたんだ。見てみるがいい。この方のいる玉座の後ろは真紅の絨毯だ。それと向こう側のあの遺体は……」
『……父だよ』
バルナバーシュは苦しげに呟く。
『僕の目の前で殺された。すでに僕はこの状態だった』
「バルナバーシュ様……」
『誰か、この僕を解放してくれないか? 子供達を救おうと心を癒そうと、祈り続けた。それなのに……』
次第に目が虚ろになり、ぐったりとする。
『子供たちが全ていないのなら……僕の存在の意味はもうない。ただ、僕は……家族を救いたかっただけなのに……』
「……」
言葉を失う二人。
すると背後から、
「失礼致します」
小さい何かを抱えた細身の青年が、目を伏せゆっくり近づいてくる。
「申し訳ございません。私は国王の異母弟、宰相のアルフレッドと申します。先代王の次男、正妃の息子です」
ゆっくりと頭を下げる。
『先代の正妃の息子が、何故王位に就かない?』
「父の遺言です。父には母が嫁ぐ前に恋人がおり、その間に生まれたのが義兄です。兄の息子が……聖女を断頭台に送りました」
『で、なぜ来たの?』
アルフレッドは近づく。
「……こちらを……ご覧下さい」
包んだ毛布を剥がすと、赤銅色の髪の幼い痩せた少女がすやすやと眠っている。
「この子が、バルナバーシュ様の唯一の末裔……そして、もう一人の聖女です。私が引き取り、娘として育てております。バルナバーシュ様。お願い致します。断頭台に送られた聖女は蘇りました。しかし聖女を穢し、国の民を憎み、国を傾けようとする兄と甥の代わりにどうか、我々に知恵をお貸し下さい」
『自分が王になるのかな?』
「いいえ、なるのは聖女のフェリシアの夫となる人物です。教会も腐りきっています。その膿を出しきります。このアルフィナはまだ幼いです。聖女の力も安定していません。ですので……」
『私の孫娘……』
ジャラジャラとする鎖と重りが移動して、手が伸びる。
そしてそっと、アルフィナの頬を撫でた。
すると、手足の重りをつないだ鎖に手や足枷が砕け散る。
「おや……」
手を握ったり広げたりして確認する。
「それに、どうしてだ? 肉体がある」
「それは分かりませんが、バルナバーシュ様。こちらに……」
ラインハルト達は元来た道を戻っていったのだった。
所々に、明かり玉を置く燭台のようなものがあり、ラインハルトは持ってきていた小さい方の明かり玉を置いていく。
ポゥ……ッ
と手のひらから離れた玉が優しい黄色に輝く。
周囲が見えるが、汚れはほとんど見えない。
石はきちんと組まれ、通路となっているが奥の先は見えない。
「あの、この奥は……」
「さぁな。だが、この上の家にお前の家族が住む。ここに何かがあって、売ったりしたら困るからな」
「あの……私も、その一員ですが……」
「手伝ってくれよな? カーティスは上を調べてるし、ルシアンは危険な術を二回使って死にかけて寝込んでるし、アルフレッドは娘が熱を出して仕事しながら看病だ。それと手伝ってくれたら、アマーリエ様にお願いしてやる」
ラインハルトは、じっとフランシスを見る。
「本当は、公爵家の令嬢に死を言い渡した場合、獄中で自害か毒を煽らせるかだ。だが、お前の両親や兄妹は公開処刑を求めた。先程の死者は処刑執行人の夫婦。彼らはフェリシアが捕らえられてから一月、世話をした。その間に度々王子とお前の妹が牢獄に来て、暴力を振るったり、髪を切り刻んだりしたそうだ。フェリシアは彼らに本当に親切にして貰ったそうだ。フェリシアも親切にしてくれた夫婦にお礼を言い、身の回りのものを自分が死んだ後に何かの足しにして欲しいと手渡した。しかし、恩を返したいのに返せず、ギロチンでフェリシアの首が落ち、それを受け止めた夫婦は絶望したんだ。その日の夜に命を絶った」
「……っ!」
フランシスは息を呑む。
フランシスは知っている。
フェリシアは国民に慕われた聖女である。
度々街に赴き、不便なことを聞き、もしくは病に苦しむ人に手を伸ばし、視線を合わせ優しく話しかけ癒す。
貴族の中で高位の令嬢だが、それを鼻にかけず、質素なワンピースで街を行き来する……心配したのは、国王や王子より人気が高いこと。
彼女は熱心に人々の為に努力をしているが、彼らにとっては邪魔になるのではないか……。
その心配が当たったこと、しかも、自分の妹が陥れたと聞いた時、何とも言いようがなかった。
ただ、その処刑が翻ること、聖女が救われるよう祈るしかなかった。
教会はあまり信じていない。
だが、祈った……それが、実現することはなかった。
その翌日の妹の式など意味はなかった。
聖女を陥れ、死の上に式を行う妹に家族、王子や国王に対する不満、不信感が増していた。
今回呼び出された時、何となく自分の未来が見えた。
妹と家族の行ったことの罪を償わなければならない……仕方がないと思った。
「ん? 何だ?」
奥が薄青く光っている。
ラインハルトは警戒しつつゆっくりと近づく。
すると、
『君達は誰だい?』
微笑むのは、椅子にジャラジャラと鎖で縛られ、手足には重りをつけられた一人の青年。
彼自体から青い光が現れ、広がっている。
ラインハルトは膝をつき、右手で左胸を押さえ頭を下げる。
「申し訳ございません。私は騎士団長ラインハルトと申します」
慌ててフランシスも膝をつき、見様見真似で礼をする。
「私はフランシス・ビョルグと申します」
『あぁ、良いよ。畏まらなくて。僕はバルナバーシュ。まぁ、家族には化け物と呼ばれたけれどね』
大きな瞳はグリーン、髪は金ではなく赤銅色。
顔立ちは童顔……。
『ところでどうしたんだい? 僕はここに閉じ込められて……何年経ったかな……?』
「あの、バルナバーシュ様のお名前は聞いたことがありません。歴史に残っていない程、昔でしょうか?」
『いや、君達は……特に君は色は違えど、僕の父の血をある程度濃く引いているだろう? 父はインマヌエルと言うよ。姉の子孫とも言う。僕の子供達は……もう途絶えたんだね。君たちがここに来ると言うことは』
悲しげな声に、
「バルナバーシュ様。申し訳ございません。そちらに近づいてもよろしいでしょうか?」
ラインハルトはそっと近づき、耳打ちする。
しばらくその声に聞き入っていたバルナバーシュは、次第に険しい顔になる。
ジャラジャラ……
鎖が音を立てる。
『待ってくれないかな? 姉の夫のクヌートが父の跡を継いだけれど、インマヌエル2世とも言うそうだね。あの男が父を殺したんだよ。それに力のない姉を聖女だと言い、僕を魔物だとここに封じ込め、子供達は名前を奪われたんだ! 僕の子供達に、地獄のような行いをさせておいて! そのクヌートの末裔が僕の子供達を全て殺し、その上、本物の聖女を断頭台に送っただって?』
青い光が炎へと変化した!
一瞬、後ずさったラインハルトは、赤ん坊を庇う。
その姿に、バルナバーシュは一瞬ハッとする。
「申し訳ございません。この子はフランシスの子供です。フランシスの両親と兄妹が、聖女である私の姪を断頭台に送りました。ですが、フランシスは私の甥と友人で、学校を出てから家を離れ、街で働いておりました。聖女を殺した罪は一族にと思いますが、まだ幼いこの子と、家と距離を置き地道に働いていたフランシスはお許し下さい。出頭して参りました、彼らを……」
「いえ、許して欲しいとは申せません」
フランシスは頭を下げる。
「申し訳ございません。我が家……特に妹が愚かで、王子に近づき……しかし妹は、神に罪を償うようにと、教会で永遠に恋人である王子と口づけを繰り返しております。そして、家族はこの上で今までバルナバーシュ様のお子様方が苦しんできたことを継ぐことになっています。私もこの後……」
「それはダメだ。フランシス。どうしてここに連れてきたと思う? それに、ここがどこか解っているのか?」
「あの家の地下です」
「違う。ここはあの家から真っ直ぐ進んでいて、王城の北東の塔の地下に続いている。私は幼い時、姉と王城で遊んでいて塔の地下でこの方を見た。塔からは入れない。だからどこかに出入り口があると思っていたんだ。見てみるがいい。この方のいる玉座の後ろは真紅の絨毯だ。それと向こう側のあの遺体は……」
『……父だよ』
バルナバーシュは苦しげに呟く。
『僕の目の前で殺された。すでに僕はこの状態だった』
「バルナバーシュ様……」
『誰か、この僕を解放してくれないか? 子供達を救おうと心を癒そうと、祈り続けた。それなのに……』
次第に目が虚ろになり、ぐったりとする。
『子供たちが全ていないのなら……僕の存在の意味はもうない。ただ、僕は……家族を救いたかっただけなのに……』
「……」
言葉を失う二人。
すると背後から、
「失礼致します」
小さい何かを抱えた細身の青年が、目を伏せゆっくり近づいてくる。
「申し訳ございません。私は国王の異母弟、宰相のアルフレッドと申します。先代王の次男、正妃の息子です」
ゆっくりと頭を下げる。
『先代の正妃の息子が、何故王位に就かない?』
「父の遺言です。父には母が嫁ぐ前に恋人がおり、その間に生まれたのが義兄です。兄の息子が……聖女を断頭台に送りました」
『で、なぜ来たの?』
アルフレッドは近づく。
「……こちらを……ご覧下さい」
包んだ毛布を剥がすと、赤銅色の髪の幼い痩せた少女がすやすやと眠っている。
「この子が、バルナバーシュ様の唯一の末裔……そして、もう一人の聖女です。私が引き取り、娘として育てております。バルナバーシュ様。お願い致します。断頭台に送られた聖女は蘇りました。しかし聖女を穢し、国の民を憎み、国を傾けようとする兄と甥の代わりにどうか、我々に知恵をお貸し下さい」
『自分が王になるのかな?』
「いいえ、なるのは聖女のフェリシアの夫となる人物です。教会も腐りきっています。その膿を出しきります。このアルフィナはまだ幼いです。聖女の力も安定していません。ですので……」
『私の孫娘……』
ジャラジャラとする鎖と重りが移動して、手が伸びる。
そしてそっと、アルフィナの頬を撫でた。
すると、手足の重りをつないだ鎖に手や足枷が砕け散る。
「おや……」
手を握ったり広げたりして確認する。
「それに、どうしてだ? 肉体がある」
「それは分かりませんが、バルナバーシュ様。こちらに……」
ラインハルト達は元来た道を戻っていったのだった。
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