竜と王と剣と盾~改訂版

刹那玻璃

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始まりのご挨拶から……ぼっこぼこです(笑)

国を支える存在ほど、私はなく、公に生きねばなりません(覚悟が必要です)。

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落ち着いた頃、すいの祖父ヴィクトローレは、周囲を見回し、あやを示す。

「綾ちゃんだっけ? 来て。それに、順番に診察させて貰えないかな? ルゥにんーと……セイラ。私が安全だって解るように、一緒に来て。でも、ルゥはともかくセイラ! 私の術具には絶対に触らないように! 清雅せいが従姉上も、絶対やめてね!」
「えぇぇー! ズールーイー!」
「ズルくない! 術具は繊細なの! 壊されたら直すのに、どれだけの時間がかかると思うの! お金は良いけど、時間は困るの!」

 ヴィクトローレは、キッとにらむ。

「前に、セイラがこっちに逃走する時に壊した探索器。直すのに国庫28年分と最近までかかったんだよ! そのお金は、誰が払ったと思うの!」
「知らなーい」

 真顔で答えるセイラに、

「カズール家だよ! もう、リオンは胃に穴開けて血を吐くし、シエラと良いセイラと良い、どうして破壊するの! ……まぁ、私の術具だったら困ったし、ぶっちゃけ命ないけど。あれ、王家のだから良いけど……」

こちらも真顔で答えるヴィクトローレ。

「良いんですか? ヴィク叔父上!」

 真面目に突っ込んだシュティーンに、

「だって、あのお陰で、そこのバカ国王の行方不明減ったじゃない。あれ、あのバカの愛用のものだったし~?」
「ま、まぁ、そうですけど……」
「それに、一応形ばかりは、セイラの実家であるカズールが返済したってことになってるけど、セイラの暴走を止めなかったから、バカの小遣い全部、隠してるのから一切合財取り上げたからね。これも動けなかったと」

ヴィクトローレは義弟を見ると、振り返り、

「順番に診察するよ。男の方はフィア頼んだよ?」
「はい、叔父様。じゃぁ……向こうに」



 家の家主であるシエラの妻の清泉いずみにより案内された部屋で、

「あ、脱がなくて良いから。手だけ出して……それと……」

首を傾げヴィクトローレは、細身の儚げな女性を見る。

「確か……シュウの奥さんの瑞波みずはどのだっけ? 最初にみせて」

 びくーんと硬直する瑞波に、

「大丈夫よ? みーちゃん。手だけ出して?」

セイラが手を取り、握ると差し出す。

 ヴィクトローレは、そっと手を握る。
 すると、ポゥ……っと淡く仄かに光る。

「……瑞波どの? 自分の体調の悪さ、シュウに言った?」
「……え、あの……」

 俯き小さく首を振る様子に、

「駄目だよ? 君は隠しちゃいけない。どうして隠すの? こんなに幸せなことを、隠すのはかえって君の負担になるし、お腹の赤ん坊たちにもそれが伝わるんだよ?」
「えっ!」

周囲に驚きの声が響く。
 しかし、瑞波は、

「む、息子の前に一人……そして、その後にも……流産して、私の前では元気なそぶりでも、悲しむ夫や息子に……また、悲しませたりしたくなくて……」
「というか、いるんだから。今、現にお腹に宿ってるんだよ? 赤ん坊たち。いつ言うつもりだったの?」

 ヴィクトローレが問いかける横で、セイラは、

「あの……ヴィク兄様? 赤ん坊たちって……身籠っているの?」
「そうだよ。う~ん、そうだね、月齢、シェールドの月だと3ヶ月? もう少しで安定期」

答えるヴィクトローレに、

「赤ん坊たちって……一人じゃ……」
「ないよ? だって、ピンクのオーラと青のオーラ混じってるから、双子以上? 3つ子? う~ん。双子までなら何とか助産師の資格も持ってるから、サポートできるけど、無理かなぁ……? 王家の専属医の方にお願いしようね。向こうに渡るまで、寝ていて。赤ん坊に少しずつ、シェールドの空気を慣れさせるから、大丈夫。寝てるだけだよ?」

パチンっと指を鳴らすと、瑞波はグラッと倒れかかる。
 器用にその体を支えたルゥが、そっと横たえる。

「だ、大丈夫ですか……?」

 いつもは好戦的で、お転婆なそぶりをする清雅に、横たわった瑞波のお腹に手をかざしたヴィクトローレは、けろっと、

「大丈夫だよ? 流産ってセイラも、清雅も経験していないから解らないと思うけれど、母体が悪いんじゃない。安定期に入る前……特に母体に着床して日を待たずに流産って言うのは、赤ん坊に理由があるんだよ。瑞波の今までの流産って、どこかにぶつけたとか転んだとかじゃないんでしょ?」
「え、えぇ……」

清雅は頷く。

「じゃぁ、胎児……子供側に何かがあったんだよ。ちゃんと子宮に留まれなかった理由が。だから、瑞波が不安に思うことはないの。それよりも、不安がる瑞波を安心させる事が必要で、向こうでも落ち着くまでは、リラックスするように音楽を聴いたり、色々とカウンセラー……心配事を聞いてくれる人と話したりすると良いと思う。カウンセラーじゃないけど、うちのアンも解ると思うよ? 瑞波の気持ちが」
「えっ? アンお姉さまが?」

 目を見開くセイラに、ヴィクトローレは寂しげに苦笑する。

「……親しく……信頼していた女官がアンを利用しようとした。初産で不安がるのにつけこんで、主治医のアルス様の居ない隙に、他国で医学を学んだと言う弟に引き合わせ、陣痛促進剤を飲んで意識不明。しかも、その時傍にいなかった私や先代陛下、皇后陛下の許可を得ず、勝手に帝王切開。子供も息をしていない、アンの意識は回復しない……ちょうど近くにいた竜王ヴァーソロミュー殿下が、アルス様を呼びに行き、先代陛下や私が、赤ん坊の息を取り戻す間に、飛んで来たアルス様がアンの手術をして、命をとりとめた。でも、出血が多く、その上陣痛促進剤は他国から無断で持ち込んだ認可していない薬で、通常の20倍飲まされていて、意識は一月以上戻らず、その上卵巣も片方傷つけられていて……」

 周囲は息を飲む。

「女官は、自分の弟が、主である当時の王太女であるアンの出産を手助けしたと言うことで箔をつけ、開業医として将来を……と思ったのだろうけれど、その弟は元々外科医。出産に立ち会ったこともなければ、薬の配合、量の知識もない医者の卵。その身の程をわきまえない行動によって、国は王太女を失いかけ、王太女の赤ん坊も死の縁に追いやろうとした。その医者の卵は資格を剥奪され、姉である女官は職を失い、最終的には息子の地位を高めたいと、娘に命じた父親は爵位を取り上げられた。アンも跡継ぎがいない王の長女だったから、王太女としての地位は保たれた……けれど、陛下の命令で、次の王になるのはお前ではない。安易に事を考える……幾ら親しい仲の女官とはいえ、主治医が決まっているのに、他の医師の話を簡単に信じ込み、薬を飲むなど言語道断だと、叱責の上に息子を育てる為という名目で無期限謹慎。ちなみに今も続いてるよ。出歩けるのは、私の実家であるマルムスティーン家のシェールダム邸宅と、私の私邸のみ」
「そ、そんな……事で……? 傷ついたのは、アン王女殿下ですよね……?」

 一応、清雅も真面目な顔で問いかける。

「そんなことじゃないんだよ? 公と私を王族は区別できない。解るでしょう? 君もそれ相当の修羅場や裏取引、命のやり取りだって経験しているはず。それを忘れるのは命の危険に繋がると常々私も、先代陛下も口にしていた。それなのに安易に……解っているはずなのに……。王は孤独だ。それを支えるのは伴侶。その伴侶が急務で居ない隙にそんなことを……。どれだけ悔やんだか……どれだけ歯がゆいか、情けないか……そして、慰め程、アンを苦しめるものはない! 次にやってはいけないよと言えると思う? 成人した妻のプライドと自尊心を、これ以上粉々に打ち砕くものはない! だから言っているの! シュウに私の二の舞だけはさせたくないし、この愛おしい命を必死に守ろうとする瑞波を、アンの二の舞にだけはさせたくない! 解る? だから、一人で抱え込んではいけないんだ!」

 ヴィクトローレの言葉に、清雅は黙り込む……そして、

「その通りですね。ヴィクトローレ様」
「ヴィクと呼び捨てでいいよ。姉上と呼ぶから」

話している間も、癒しと安寧の術をかけ続けつつ、苦笑する。

「……ゴメンね? 激しく言って……でも、解って欲しい。ここは、閉鎖的な空間……。でも、私たちの世界は広大で幼稚な考え方をする、全く国を思いやれない人間が治める事によって、国が……簡単に潰されてしまっては困るんだよ。ここのように小さい……『井の中の蛙』では、シェールドでは生きていけない! 簡単に隙を見せない。そして、家族の結束と伴侶への信頼度。それが大事だ。利用されては元も子もない。良いね?」
「えぇ、ヴィク。解っているわ。じゃぁ……瑞波のことは、その王家の専属医師の方にお願いします。私もそれなりにサポートするし、ヴィクたち……にもお願いします。私はシェールドの事は知っていても、それは父やシエラに聞いた一部分……表向き。深い部分は知らない。だから、お願いします。私はこんな性格で、暴走するけれど……それでも、母であり妻であり祖母。家族を守るのが、支えるのが役目です」
「信じて。私たちは敵ではないし、姉上たちは私の家族。絶対に守るから」

 その言葉に、周囲は大きくうなずいた。

 しばらくして、ルゥに瑞波を託したヴィクトローレは、綾を手招きする。
 警戒しつつ近づいた綾に、ヴィクトローレは微笑む。

「大丈夫だよ? 叔父さんは、はっきり言って綾に敵わない」
「……え?」

 目を丸くする綾に、ヴィクトローレは、

「見えていないのかもしれないけれど、綾は風の精霊の守護を持っている。それに、水も土も……精霊は、清らかな心の澄んだ人を好む。素直で正直で、優しい人を。君が命じれば、精霊はこの世界を壊すことだってできる」
「それは困る! そんなことになれば、皆が……家族や人々、いやそれだけではない! この景色に、美しい空にキラキラと輝く水面、風は優しくそよぐし、大地は芽吹き、根を張り葉を伸ばし、花を咲かせる!!その景色を失うなんて嫌だ! それに、見えないけれど、私を好きだといってくれる精霊たちに、そんな悲しいことをさせたくない!」

綾は叫ぶと周囲を見回す。

「大好きだ! だから、寄り添ってくれるだけで良い……仲良くして欲しい! それだけで充分、私は幸せなんだ!」
「……その意思の強さが、私にはないの。これだけの精霊たちを愛し、愛されるって……どれだけグランディアの人って恐ろしいんだろう……」

 呟くヴィクトローレの衣を引っ張る。

「ん? どうしたの? 六槻むつき?」
「んとね? 一杯ぶわーで、凄いのなぁに? おじいちゃんにお姉ちゃんに、女の子に、お兄ちゃん……」

 指で順番に示す。

「あぁ……六槻は見える子なんだね? おじいちゃんは土の精霊、空のお姉ちゃんは風の精霊、女の子は草木の精霊たちだね。お兄ちゃんは火の精霊。水の傍のお姉ちゃんは水の精霊だね」
「水の精霊? お姉ちゃんいないよ? 大きい竜さんだよ?」
「は? 竜さん? 翼のある?」
「ううん。長い蛇さんより大きいの」

 身ぶり手振りで説明するが、いくら博識でもそういう深い部分は理解していないヴィクトローレは、

「ゴメンね? 六槻。叔父さんは詳しくなくて……後で、フィアと一緒に、その竜さんに会いに行っても良いかな?」
「うん!」

頷く少女にほっとし、綾に向き直ると、

「手を出して?」

躊躇いがちに出した手の小ささと、こわばっているため冷たいそれにぎょっとし、

「手を温めたりしないの?」
「……何時も冷たいから……」

小さな拳を引こうとするのを、そっと握り、

「手先足先の冷えは血行が悪くて、女性の繊細な体を弱らせるもと。ちゃんと温めておくこと。簡単なマッサージ……こんな風に運動すると少しは違うからね?」
「そうなのか……?」
「そう。それとこの手も、癒す事ができる。少し時間はかかるけれど、ものを握ったり出来るように手伝ってあげるよ。時間にイライラしたり、一度出来るようになっても、翌日には元に戻ったりもあるかもしれないけれど……どうする?」

義理の叔父に預けた自分の小さい拳を見ていた綾は、顔をあげる。

「お願いします! 私は、やりたいことがたくさんある! 諦め続けてきた夢もある! 幾ら時間がかかっても、この両手が動き、夢を叶えたい!」
「うん、解った。じゃぁ頑張ろう! まずは、向こうに戻ってから、この手の組織を元に戻す術を組み上げるから、少し時間がかかるけれど、良いね? 焦らず、まずは向こうの世界を楽しむこと」
「はい!」

 綾の頭を撫で、マッサージを勧めると、

「次は……」

ヴィクトローレは、名前を呼んだ。
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