竜と王と剣と盾~改訂版

刹那玻璃

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神聖な閉鎖空間から、現実世界へ帰還です。

自分の体と頭のなかが、付いていかず、困惑していたりします。

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「貴方が、エイね!」

 お目目クリクリ、顔立ちは自分の幼い頃とうり二つ、しかし瞳は真紅に、髪はストレートだが純白の抜けるように白い肌の少女。
 顔立ちがそこそこ、妻の異母弟の一人娘で、自分の従兄弟の孫に当たる六槻むつきに似ていると言うのは……。

「えっと……清野さやのに戻ってしまったんでしょうか?」
「ボケは、雲英きらに似ちゃったのね、貴方」
「雲英……兄上の幼名……。兄上をご存知なのですか!」

 体を起こそうとするが起こせず、困惑する。

「やめときなさい。エイ。あたしは貴方の幼名知らないから、シエラに聞いたって言う愛称を言ってるけど、敵じゃないから」
「こら、フィン。病人だよ。主治医から直々にお願い致しますと頼まれたんだから、休ませなさい」
「ヴィズ……でもね?」

 静かに……落ち着いた雰囲気の男性が顔を覗かせる。

「大丈夫かい? 君は、もう10日も眠りっぱなしだったんだよ。ここが風と水に守られた土地だったから良かったものの、最初は呼吸も浅くて、このフィンも取り乱して泣き通しだったんだ」
「ち、違うわよ! 汗だもん!」
「はいはい、それよりも、驚かせて申し訳ないね。清影せいえい。私はヴィズ。君の主治医のアルスの曾祖父。アルスの弟がルドルフ。それだけでも相当の年寄りだね」

 クスクス笑うその男は、水色と言うべきか透明に近い抜けるような蒼い髪と、感情の余り表さない蒼い瞳をしていた。
 顔立ちは……、

幸矢こうや……孫達の……」
「あぁ、アルドリーたちかい? アルドリーたちの祖母のセリカの兄が、ルドルフだからねぇ……」
「で、でしたら、何で……六花りっか姉上ですよね? 六花姉上もヴィズ様……ですか? 貴方もお若いのですか? 私は死んでしまった……とか?」
「それはないわね」

 アハハ!

六花ことフィンは笑う。

「年は言いたくないけど、あたしは生きてるもの。それにヴィズだって生きてるわよ? それに貴方だって、普通グランディアの人間だったら、もう生きてない年よ? 何で生きてるかって考えたことはないの?」
「あ、え、そ……そうですね。でも、妻も生きてますし……」
「貴方の奥さんって、マルムスティーンの血を引いたハーフでしょ? マルムスティーンはしぶといんだから。グランディアの人間なんて本当に繊細よ?」
「じゃぁ、何で私は……」

 ヴィズは、横になったままの清影をみる。

「君は昔から、清められた水、清められた土地、清められた炎、聖なる風の中で生きていたんじゃないのかな? そういったものは、元々持っている能力を強める働きもあるし、君自身聖なる術士みたいだね。ヴィクターに術などは習ったかな?」
「元々、精霊に愛される子供だったそうです。それと言霊ことだま使いです」
「言霊?」
「はい、グランディアでは言葉に魂が宿ると言われていて、災いを避けたり、その言葉は別の意味にも用いられるから避けると言った信仰があります。例えば『想い』は『重い』。『意志』は『石』と言う感じです」
「あぁ……それは、強力な術だね。それに、聖地に住めば住む程、成長も止まり、年を取るのが緩やかになる。今、君の年齢は30代程度だね」

 考え込み、

「妻と娘が暴れるし、シエラもやんちゃですので若いのは助かるんですが、18になる孫がいるんです。威厳がないと……」

真面目に答える清影に、二人は大爆笑する。

「これか……これが本来の、グランディアの考え方なんだ!」
「そうそう。堅苦しくてね~」
「それに、姉上……兄上は、こちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「魂?」
「違います。肉体です。埋葬されている場所に……歌姉さんの遺骸を。遺言なんです……。『魂になってでも、絶対に地の果てまで追いかけてやる! でも、雲英は絶対に逃げるから、縛り付けてでも良いから、一緒に埋葬して頂戴!』って」

 フィンは顔をひきつらせる。

「歌らしいといえばらしいけど、そこまで愛されてるのか、恨まれてるのか……雲英も不憫?」
「一応、『結婚は出来なかったけど、旦那は雲英だけよ!』だそうです。義父上は襲われたそうで……」

 視線をそらせる。

「……うん。あれは、襲われる。マルムスティーン家の図太さないからね。フィンの兄の墓は、マルムスティーンの一族の墓の一角にある。義父のヴィクターに聞いておきなさい」
「それと……赤ん坊のお墓を、マルムスティーンに大丈夫ですか?」
「赤ん坊?」

 二人は首を傾げる。

「……53年前に……生まれた長男です。金色の髪で瞳がグリーンでした。生まれて、泣き出したその場で……奪われ、命を……」

 ボロボロと涙を流す。

「初めての子でした。妻とも名前を決めていて、清輝しんきと……。金色の髪で何故悪いんでしょう? 緑の瞳で……姉上も純白で深紅の瞳の何が悪いのか……荒れ狂った言霊を制御してくれたのは、義父のヴィクターの『清輝のような、可哀想な子供を二度と作らない為に、ただ、髪の色が違うってだけで命を失うような子供を、当然のように思う人間を減らす為に、努力しなさい』と言う言葉でした。でも、5年後に生まれた清秀せいしゅうは、同じく金髪で瞳も緑……難産と、妻が怯えるからと周囲から遠い所で出産し、義父の術を使って、耳にピアスをつけて色を変えました。その後の娘は漆黒でしたが……向こうの世界に、一人置いておくのは心残りで……」
「……マルムスティーンよりも、カズールの人間に頼んで、そちらに埋葬しなさい。マルムスティーンは図太いし、赤ん坊なら大らかなカズールの人間が守ってくれるよ」
「生きていたら……ひ孫も生まれていたかもしれない……。私が甘かった。私が……もっと強ければ……」

 ペシン!

 清影の両方の頬を叩き、挟むようにして見つめる。

「清輝は、エイを恨んでないわ! 逆に『お父さん、泣かないで』って言ってる! 見てみなさい!」

 姉に顔を動かされ見ると、首を傾げた赤ん坊が見える。

「今度、生まれ変わるそうよ。何度か生まれ変わる機会があったのだけど、嘆く貴方達……家族の傍にいたいって、嫌がっていたのですって。そうしたら、貴方の近い赤ん坊に生まれ変わることになったって。お父さんに挨拶したいですって」

 ヴィズは触れられるのか、赤ン坊を抱き上げると、清影の傍に寄せて、そっとその手を手に当てる。

「……清輝……私が、お前を束縛していたんだね……生まれ変わるのを、50年も……すまない……50年もあったら、もっと優しいいい親の元で……」

『おとうしゃん……だいしゅき……待っててね?』

 赤ん坊はニコッと笑うと、すぅぅっと消えていった。

「清輝に幸せを……」
「さぁ? それは、新しい親が努力すればいいことだわ。それよりも貴方よ。随分疲れてるじゃないの。この聖水の湧き出す神殿の部屋で10日も寝ていて、体は起こせない、喋れるけれど、ボーって何? もうしばらく寝てなさい! ここには清秀とその奥さんもいるから大丈夫よ!」
「はぁ……でも、妻が、娘が……。あぁ! 私の錦鯉と盆栽、他にも大事な大事な……可愛がっている雉に尾長鶏おながどり尾長鶏、金魚に蛍に……水墨画や茶器、生け花の道具類が……もう駄目だ……」

 呟き、意識を失った清影に、

「きゃぁぁ! エイ! エイ? 大丈夫!」
「一時的な気絶だけど……大変だねぇ、この子」
「いやぁ! 何でこんなにまともに育ったの?お父様ならもっと図太いし、お母様は見た目は儚いけど、ドンと来やがれ! 受けてたったらぁ! だったのに!」

妻の一言に、

「グランディアの民が、見た目とは違うことが、今更だけどよーく解ったよ」
「あら、これだけ図太くないと、貴方の妻でいられる訳がないでしょ?」

フィンはウインクをしたのだった。



 そして数日後、奇妙な顔をして清影の診察をしたアルスが、

「お前の嫁が又暴れてたのに、急にぶっ倒れたって聞いたんで行ってみたら、妊娠してた。まだ、お前はここに拘束と言うか強制入院。外に出ても、迷ってここに戻ってくるようになっている。完全に元気になるまではここにいることだ。それと、お前の可愛がっていた生き物は、ロイド家のセインティアと言って、シエラの側近になるが繊細で学者肌の大人しい、お前と同年代の男が面倒を見ている。元々生き物が好きで、騎士の一族の人間だが、学者として騎士の館の教官となっている。シルゥの親友だから仲良くなれるだろう」
「雉に金魚、錦鯉に子犬達……あぁよかった……! で、妊娠って、誰がですか? あぁ! 清輝! 元気そうで良かった……」

持って来て貰った最愛の盆栽を抱き締め、はらはらと涙を流す清影に呆れつつ告げる。

「お前の嫁! 何か、ものすごく暴れてたのが、ちょっとだけしか暴れないから、おかしいって周囲が言うんで、見に行った」
「……ま、孫と同じ年の、息子~! 娘のようにならないようにびしびしと! でも……金髪碧眼……可愛いでしょうねぇ……」



 この後、生まれた息子に、

「清輝! お前は可愛いのに、そんなに可愛いのに! 何でそんなに無表情なの……ニコってしなさい。可愛いから、ね?」
「父上、親馬鹿全開って、その年で変ですよ? 僕は勉強に行ってきます」
「待ちなさい! 一人で行っちゃだめです! 行くなら……お父さんが付いていきます!」
「父上は母上の破壊活動を阻止してて下さい。僕は大丈夫です」

と言う親馬鹿になったのだった。
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