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わたくしは、誰なのでしょう?
ルナが俺の娘の彩映になった日……ちぃちゃん目線
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彩映は、ようやく熱が下がり、関節の痛みや、首や顔の腫れも引いてきた。
発疹も薄くなり、痕が残らないと言われほっとした。
まだ、目や耳の心配もあるが、少しずつ前に進んでいけるだろうと日向夏と二人でホッとした。
二人の息子は、ふぅちゃん夫婦に預けていた。
心配ではあったが、上の千夏は両方かかっていたが、風深はまだ麻疹にかかっていない。
一歳で注射済みとはいえ、かかって重症化は勘弁してほしかったし、今の俺たちにはこれ以上の看病は倒れてしまうだろうと思ったからだ。
現に、アルスさまにも、ヴィク伯父上にも、しばらく仕事も休んで、家族でゆっくりした方がいいと言われている。
本当なら、家族にも手助けをしてもらっても良かったのだが、風疹も麻疹も感染症。
仕事があり忙しい家族や、少々高齢の祖父母たちにはきついだろうとも思ったことも理由だ。
今までは、彩映に重湯に近い薄いスープを飲ませていたが、ベッドから起き上がれるようになり、本人がベッドから出たいと言うので、立たせることにした。
すると、立ち上がることも出来ず、俺たちが手を握っても、握り返す力すら失っていた。
筋力も失われたうえに、体力もないのだろう。
アルスさまに相談して、体力をつけるために固形に近い食事を少しずつ増やし、歩いたり運動をして筋力をつけることにした。
少し形のあるものにしようと思っていたら、レクと彗兄によって、幸矢兄から大きな箱が届いた。
開けてみると、手紙も入っており、
『食物アレルギーのある俺が食べられるものを一応、あるだけ入れてるよ。ちなみに俺は、甘いものも劇物になっちゃうから、それは入ってません。あ、蜂蜜は絶対に食べさせちゃダメだよ? ゼリーもゼラチンが入ってるからダメ。蜂蜜に似た甘いものはメープルシロップと甘葛だね』
と書いてある。
『甘葛』とはなんだ?
申し訳ないが、俺は両親はグランディアの生まれで育っているのだが、俺はこちら生まれで、グランディアの言葉も最低限しか読み書きできない。
言葉というものは難しいのだ。
書くのはともかく読みが複雑……。
首を傾げていると、じーっと顔を寄せて見ていた彩映が、
「パパ、アマヅラって書いてます」
「アマヅラ?」
耳が聞こえない娘のために、横に置いていた画用紙に『アマヅラ?』と書く。
すると、大きく頷いて、
「はい、ツルのしょくぶつで、甘いって。えっと……どこかで……えーと……あ、ツルから液体をとって煮詰めるのです! あ、本に書いてました」
返事をする。
すごいな。
記憶も途切れ途切れだというのに、俺の知らない文字も読めるし、説明までできるなんて!
俺は、手紙を置いて高い高いをすると、頭を撫でた。
『パパもしらない、むつかしいことばを読めるなんて!』
『彩映はかしこいな!』
と、紙にも書いて見せ、もう一度撫でる。
すると、ふわふわと頬を赤くして喜ぶ。
うっわ、可愛いわ~! 俺の娘!
と、頬を緩める。
そして、もう一度手紙を確認すると、
『あ、アマヅラだよ。詳しくはじい様に聞いてね。確か作ってるから。他は普通の砂糖でもいいと思う。でも、加減してね。それよりも注意するのは、酒とミリンの入っている食事と、一部の醤油です。六槻は、アルコールを口にすると性格変わるから、口に入れないように周りがしてるけど、俺はいろはと同じアレルギーなので無理です。ちなみに、なんで醤油も注意かというと、ごく稀に、ミリンを入れている醤油があったからです。ちゃんと何が入っているか、確認して食べさせてあげてください。みりんはお酒の加工品というべきものなので、絶対注意です。この箱の中のものは、育てるときにも注意を払ったものばかりなので大丈夫だと思います』
と、記されている。
幸矢兄の文字はじい様が褒めるほど達筆で、読みやすい。
俺たちのようにカクカクとしたものではなく、柔らかく美しい。
俺も、文字を習おうかな……。
これから書くことも増えるだろうし。
その次の紙からは、箱の中のものに数字を割り振っていること、その食品の名前、量、どういう風に料理するものかなども丁寧に書かれていた。
そう、レシピだ!
これだけでも、ものすごく時間がかかってないか?
幸矢兄……すごいな……忙しい人なのに、ここまでしてくれるんだ。
泣けてくる……彩映の元の親と、比較してしまったじゃないか。
あぁ、幸矢兄、比べてごめん。
幸矢兄は、マジで女神の域に達するほど優しい人だ。
俺は従兄弟として尊敬してるし大好きだが、それだけでなく、臣下として改めて絶対の忠誠を誓うとも!
手紙に手を合わせると、彩映も真似をする。
その仕草も可愛い!
デレデレになる俺に、ちょうどレクとふぅちゃんに話に行っていた日向夏が戻ってきて、笑った。
「なに、二人で同じ格好をしているの? 真似っこ遊びかしら?」
言いながら、紙に、
『パパのマネしてるの?』
と書いて見せている。
「ママ! パパね? お手紙読みながら、笑ったり、困った顔になったの」
嬉しそうに話す彩映に、そんな顔してたかな? と首を傾げる。
「パパ、嬉しくて、ありがとうしたの?」
その言葉に、
『いろはのおじさんも』
『食べられないものがあるんだって』
『でも、これはだいじょうぶだから』
『食べてねってとどけてくれた』
『だから、ありがとうしたよ』
と書くと、目を大きくして、
「わぁ……嬉しいのです。わたくしも、ちゃんと、おじさまにありがとうするのです」
また手を合わせ頭を下げる。
あぁ、いい子だ。
日向夏と顔を見合わせ、ほんわかする。
そして、近くにいた彩映の乳母兼メイド長のノエルさんにも、手紙の内容を簡単に説明する。
いくらなんでも、グランディアの文字は読めないはずだからだ。
すると、エプロンのポケットに入れていた手帳に、俺が説明したことを色々と書き込んでいた。
「後で、書き写した……翻訳したものを、君たちと料理長たちに渡すから、情報を共有して欲しい」
「かしこまりました」
しばらくして、オコメのおかゆが届いた。
しかも、鍋はおおじいさま作の土鍋である。
おおじいさまもじい様も、忙しいのに多趣味なことだ。
その土鍋にはピンクの花柄で、茶碗もスプーンも同じ模様。
彩映専用らしい。
うん……何もいうまい。
言うとすれば、みんな、彩映を全力で溺愛しているのだ。
元々、あの元家族のことを抜きにしても、可愛がっていたくらいだ。
少々過保護でも構うまい。
今回の食事は少し水の多いトロトロのおかゆ。
味は他に足さなくても大丈夫だと、ほんの少量塩を入れてもらった。
これは食事を食べさせると聞きつけた彗兄が、手を握りしめ、宣言していた。
「絶対これがお腹に優しくて、一番美味しいから! ほぼ好き嫌いないから! 偏食だった僕ですら、これだけで、他のもの食べられるようになるまで、生きていけたから!」
……おいおい、普段は自分のことは私呼びじゃなかったか?
元々は、僕が標準装備なのか?
それより突っ込みたいのは、これだけで生きていけた?
向こうで何を食って生きていたんだ?
突っ込みたい! いや突っ込んだ!
すると、
「僕、2、3歳まで肉、魚、貝もカニもエビ、生野菜、芋とか大嫌い人間だったから。食べられるの、蒸したり茹でた野菜に、主食くらい?」
「食べられるもの、ほぼないじゃないですか! それ!」
「だって、仕方ないんだよ。うちの父……あ、死んじゃったほうね? めちゃくちゃ辛い食べ物とか、逆にめちゃくちゃ甘いものとか大好きで、もうどんな色や味って表現していいかわからない、闇鍋のようものを離乳食として僕に食べさせてくれてたから。あの人味覚音痴だったから! 激辛スパイス料理や激甘スイーツを混ぜて食べて、平然だったから! 腐った食べ物もおなか壊さなかったし、どんな毒も効かない体質だったらしいよ?」
と答える。
彗兄、それ実の父親のことだよな?
ものすごく変わった、知らない人じゃないよな?
それに、面白おかしく話を作ったり、盛ってないよな?
「本当だって。それに、ある意味一般人から逸脱した人だったから! 術もそこそこ使えるし、使い方がわからないような世界中の暗器収集して、身につけててちょっとした暗殺者なら笑って返り討ちしてたくらいだよ? だからあの人、絶対何があっても死なない認定されてて、暗殺されたって言われた時は、絶対嘘だ~ってみんな最初信じてなかったって。で、死体見て、マジで死んでるって、殺せる人いたのか? って。それに未だに死因不明だし?」
と言われ、慄然とする。
マジか……確か今の俺より若い歳で殺された悲劇の先代王太子……って呼ばれてる人がそんな人だったとは!
引いていた俺が、ますます引くことになったのは次のセリフだった。
「でも、先代陛下はその上をいってて、身体が弱かった幸矢に、薬を飲ませたら元気になるだろうって、食事全部にいろんな効能のハーブや民間療法の薬草とか、あんまり言いたくないけど、ある生物の乾燥させたものをすりつぶして全部混ぜ込んで、食べさせてました! 水にもミルクにも、おやつにも練り込んでだよ? で、過剰反応起こして、食べるの拒否! 見るだけでも湿疹がでたり熱出して、食物アレルギー体質になったんだから!」
俺は遠い目をした。
どっちも親が悪い。
でも、彗兄はちゃんと好き嫌いなくなったんだな。
「僕は、母さんたちが料理を作るのを見せてくれて、食べるものが変な味の闇鍋じゃないって勉強したから。元々アレルギー体質じゃなかったし。極端に辛いものはダメになったけどね。それに、じい様たちと野菜を一緒に育てたり、川で魚釣りとかしてたからね。命の大切さ、食べられることのありがたさを理解したよ。肉はこっちで食べるようになった。向こうは食べられるほど大きくないし、数もいない。狩をして食べられる時はご馳走!」
「おぉ~想像以上にサバイバル生活してたんだね。彗兄たちは」
「セイと蒼記なんてたびたび、完全サバイバル生活してたよ。幸矢は食べ物だけじゃなく、草の汁や樹液だけで肌がかぶれるし、日に当たっただけで日焼けしてたから、六槻とサーヤと見てるだけが多かったかな?」
それは大変だ。
彩映も注意だな。
ともかく、食事だ。
すると、一応ある程度冷ましてくれていたものの、耳が聞こえない彩映が怖がってはいけないので、紙に書いて説明し、俺は膝に乗せ、日向夏がふうふうと息を吹きかけ、食べさせる。
すると、嬉しそうにニコニコ笑い、口を開ける。
小鳥のひなみたいだ。
俺たちは親鳥かな?
彩映が自分で食べられるようになるまで、こうやってしたいものだ。
あ、そうだった……。
千夏と風深になんて説明すればいいだろう……。
ルナが彩映になったことは、理解できると思う。
でも、目が悪くなってしまったこと、今は耳も聞こえない……聞こえるようになるかもしれないがその可能性は低いらしいこと……。
お風呂に二人で入ってくるという、日向夏に預けて、俺は、レクのところに息子たちを迎えに行ったのだった。
発疹も薄くなり、痕が残らないと言われほっとした。
まだ、目や耳の心配もあるが、少しずつ前に進んでいけるだろうと日向夏と二人でホッとした。
二人の息子は、ふぅちゃん夫婦に預けていた。
心配ではあったが、上の千夏は両方かかっていたが、風深はまだ麻疹にかかっていない。
一歳で注射済みとはいえ、かかって重症化は勘弁してほしかったし、今の俺たちにはこれ以上の看病は倒れてしまうだろうと思ったからだ。
現に、アルスさまにも、ヴィク伯父上にも、しばらく仕事も休んで、家族でゆっくりした方がいいと言われている。
本当なら、家族にも手助けをしてもらっても良かったのだが、風疹も麻疹も感染症。
仕事があり忙しい家族や、少々高齢の祖父母たちにはきついだろうとも思ったことも理由だ。
今までは、彩映に重湯に近い薄いスープを飲ませていたが、ベッドから起き上がれるようになり、本人がベッドから出たいと言うので、立たせることにした。
すると、立ち上がることも出来ず、俺たちが手を握っても、握り返す力すら失っていた。
筋力も失われたうえに、体力もないのだろう。
アルスさまに相談して、体力をつけるために固形に近い食事を少しずつ増やし、歩いたり運動をして筋力をつけることにした。
少し形のあるものにしようと思っていたら、レクと彗兄によって、幸矢兄から大きな箱が届いた。
開けてみると、手紙も入っており、
『食物アレルギーのある俺が食べられるものを一応、あるだけ入れてるよ。ちなみに俺は、甘いものも劇物になっちゃうから、それは入ってません。あ、蜂蜜は絶対に食べさせちゃダメだよ? ゼリーもゼラチンが入ってるからダメ。蜂蜜に似た甘いものはメープルシロップと甘葛だね』
と書いてある。
『甘葛』とはなんだ?
申し訳ないが、俺は両親はグランディアの生まれで育っているのだが、俺はこちら生まれで、グランディアの言葉も最低限しか読み書きできない。
言葉というものは難しいのだ。
書くのはともかく読みが複雑……。
首を傾げていると、じーっと顔を寄せて見ていた彩映が、
「パパ、アマヅラって書いてます」
「アマヅラ?」
耳が聞こえない娘のために、横に置いていた画用紙に『アマヅラ?』と書く。
すると、大きく頷いて、
「はい、ツルのしょくぶつで、甘いって。えっと……どこかで……えーと……あ、ツルから液体をとって煮詰めるのです! あ、本に書いてました」
返事をする。
すごいな。
記憶も途切れ途切れだというのに、俺の知らない文字も読めるし、説明までできるなんて!
俺は、手紙を置いて高い高いをすると、頭を撫でた。
『パパもしらない、むつかしいことばを読めるなんて!』
『彩映はかしこいな!』
と、紙にも書いて見せ、もう一度撫でる。
すると、ふわふわと頬を赤くして喜ぶ。
うっわ、可愛いわ~! 俺の娘!
と、頬を緩める。
そして、もう一度手紙を確認すると、
『あ、アマヅラだよ。詳しくはじい様に聞いてね。確か作ってるから。他は普通の砂糖でもいいと思う。でも、加減してね。それよりも注意するのは、酒とミリンの入っている食事と、一部の醤油です。六槻は、アルコールを口にすると性格変わるから、口に入れないように周りがしてるけど、俺はいろはと同じアレルギーなので無理です。ちなみに、なんで醤油も注意かというと、ごく稀に、ミリンを入れている醤油があったからです。ちゃんと何が入っているか、確認して食べさせてあげてください。みりんはお酒の加工品というべきものなので、絶対注意です。この箱の中のものは、育てるときにも注意を払ったものばかりなので大丈夫だと思います』
と、記されている。
幸矢兄の文字はじい様が褒めるほど達筆で、読みやすい。
俺たちのようにカクカクとしたものではなく、柔らかく美しい。
俺も、文字を習おうかな……。
これから書くことも増えるだろうし。
その次の紙からは、箱の中のものに数字を割り振っていること、その食品の名前、量、どういう風に料理するものかなども丁寧に書かれていた。
そう、レシピだ!
これだけでも、ものすごく時間がかかってないか?
幸矢兄……すごいな……忙しい人なのに、ここまでしてくれるんだ。
泣けてくる……彩映の元の親と、比較してしまったじゃないか。
あぁ、幸矢兄、比べてごめん。
幸矢兄は、マジで女神の域に達するほど優しい人だ。
俺は従兄弟として尊敬してるし大好きだが、それだけでなく、臣下として改めて絶対の忠誠を誓うとも!
手紙に手を合わせると、彩映も真似をする。
その仕草も可愛い!
デレデレになる俺に、ちょうどレクとふぅちゃんに話に行っていた日向夏が戻ってきて、笑った。
「なに、二人で同じ格好をしているの? 真似っこ遊びかしら?」
言いながら、紙に、
『パパのマネしてるの?』
と書いて見せている。
「ママ! パパね? お手紙読みながら、笑ったり、困った顔になったの」
嬉しそうに話す彩映に、そんな顔してたかな? と首を傾げる。
「パパ、嬉しくて、ありがとうしたの?」
その言葉に、
『いろはのおじさんも』
『食べられないものがあるんだって』
『でも、これはだいじょうぶだから』
『食べてねってとどけてくれた』
『だから、ありがとうしたよ』
と書くと、目を大きくして、
「わぁ……嬉しいのです。わたくしも、ちゃんと、おじさまにありがとうするのです」
また手を合わせ頭を下げる。
あぁ、いい子だ。
日向夏と顔を見合わせ、ほんわかする。
そして、近くにいた彩映の乳母兼メイド長のノエルさんにも、手紙の内容を簡単に説明する。
いくらなんでも、グランディアの文字は読めないはずだからだ。
すると、エプロンのポケットに入れていた手帳に、俺が説明したことを色々と書き込んでいた。
「後で、書き写した……翻訳したものを、君たちと料理長たちに渡すから、情報を共有して欲しい」
「かしこまりました」
しばらくして、オコメのおかゆが届いた。
しかも、鍋はおおじいさま作の土鍋である。
おおじいさまもじい様も、忙しいのに多趣味なことだ。
その土鍋にはピンクの花柄で、茶碗もスプーンも同じ模様。
彩映専用らしい。
うん……何もいうまい。
言うとすれば、みんな、彩映を全力で溺愛しているのだ。
元々、あの元家族のことを抜きにしても、可愛がっていたくらいだ。
少々過保護でも構うまい。
今回の食事は少し水の多いトロトロのおかゆ。
味は他に足さなくても大丈夫だと、ほんの少量塩を入れてもらった。
これは食事を食べさせると聞きつけた彗兄が、手を握りしめ、宣言していた。
「絶対これがお腹に優しくて、一番美味しいから! ほぼ好き嫌いないから! 偏食だった僕ですら、これだけで、他のもの食べられるようになるまで、生きていけたから!」
……おいおい、普段は自分のことは私呼びじゃなかったか?
元々は、僕が標準装備なのか?
それより突っ込みたいのは、これだけで生きていけた?
向こうで何を食って生きていたんだ?
突っ込みたい! いや突っ込んだ!
すると、
「僕、2、3歳まで肉、魚、貝もカニもエビ、生野菜、芋とか大嫌い人間だったから。食べられるの、蒸したり茹でた野菜に、主食くらい?」
「食べられるもの、ほぼないじゃないですか! それ!」
「だって、仕方ないんだよ。うちの父……あ、死んじゃったほうね? めちゃくちゃ辛い食べ物とか、逆にめちゃくちゃ甘いものとか大好きで、もうどんな色や味って表現していいかわからない、闇鍋のようものを離乳食として僕に食べさせてくれてたから。あの人味覚音痴だったから! 激辛スパイス料理や激甘スイーツを混ぜて食べて、平然だったから! 腐った食べ物もおなか壊さなかったし、どんな毒も効かない体質だったらしいよ?」
と答える。
彗兄、それ実の父親のことだよな?
ものすごく変わった、知らない人じゃないよな?
それに、面白おかしく話を作ったり、盛ってないよな?
「本当だって。それに、ある意味一般人から逸脱した人だったから! 術もそこそこ使えるし、使い方がわからないような世界中の暗器収集して、身につけててちょっとした暗殺者なら笑って返り討ちしてたくらいだよ? だからあの人、絶対何があっても死なない認定されてて、暗殺されたって言われた時は、絶対嘘だ~ってみんな最初信じてなかったって。で、死体見て、マジで死んでるって、殺せる人いたのか? って。それに未だに死因不明だし?」
と言われ、慄然とする。
マジか……確か今の俺より若い歳で殺された悲劇の先代王太子……って呼ばれてる人がそんな人だったとは!
引いていた俺が、ますます引くことになったのは次のセリフだった。
「でも、先代陛下はその上をいってて、身体が弱かった幸矢に、薬を飲ませたら元気になるだろうって、食事全部にいろんな効能のハーブや民間療法の薬草とか、あんまり言いたくないけど、ある生物の乾燥させたものをすりつぶして全部混ぜ込んで、食べさせてました! 水にもミルクにも、おやつにも練り込んでだよ? で、過剰反応起こして、食べるの拒否! 見るだけでも湿疹がでたり熱出して、食物アレルギー体質になったんだから!」
俺は遠い目をした。
どっちも親が悪い。
でも、彗兄はちゃんと好き嫌いなくなったんだな。
「僕は、母さんたちが料理を作るのを見せてくれて、食べるものが変な味の闇鍋じゃないって勉強したから。元々アレルギー体質じゃなかったし。極端に辛いものはダメになったけどね。それに、じい様たちと野菜を一緒に育てたり、川で魚釣りとかしてたからね。命の大切さ、食べられることのありがたさを理解したよ。肉はこっちで食べるようになった。向こうは食べられるほど大きくないし、数もいない。狩をして食べられる時はご馳走!」
「おぉ~想像以上にサバイバル生活してたんだね。彗兄たちは」
「セイと蒼記なんてたびたび、完全サバイバル生活してたよ。幸矢は食べ物だけじゃなく、草の汁や樹液だけで肌がかぶれるし、日に当たっただけで日焼けしてたから、六槻とサーヤと見てるだけが多かったかな?」
それは大変だ。
彩映も注意だな。
ともかく、食事だ。
すると、一応ある程度冷ましてくれていたものの、耳が聞こえない彩映が怖がってはいけないので、紙に書いて説明し、俺は膝に乗せ、日向夏がふうふうと息を吹きかけ、食べさせる。
すると、嬉しそうにニコニコ笑い、口を開ける。
小鳥のひなみたいだ。
俺たちは親鳥かな?
彩映が自分で食べられるようになるまで、こうやってしたいものだ。
あ、そうだった……。
千夏と風深になんて説明すればいいだろう……。
ルナが彩映になったことは、理解できると思う。
でも、目が悪くなってしまったこと、今は耳も聞こえない……聞こえるようになるかもしれないがその可能性は低いらしいこと……。
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