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その後……辺境の医術師の話と《蘇芳プロジェクト》
その後《辺境の医師のその後編3》
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その後、3日ほど脱水症状と微熱が続いていた俺の元に、研修兼試験を受けたイオが見舞いにきてくれた。
「父さん! 大丈夫? あ、僕、騎士の館に入学できるんだって! ほらぁ!」
そう言いながら、合格通知を持って現れた時、本当に泣いてしまった。
「すごいじゃないか!」
「うん! 身長も伸びてたよ! それにね? 持久走二位だった! 一位は千夏だったけど!」
「おぉぉ! 持久走が二位なんて、頑張ったじゃないか!」
「父さん~泣かないでよ!」
言いながら抱きついてきたイオも、泣き顔だった。
「あの時、びっくりしたんだよ……父さんが、倒れたって……どうしようって思って……」
「あぁ、悪かったよ。心配かけちゃったな。えっと、情けなくて言えなかったけど、父さん、乗り物酔いするんだよ。向こうではちょっと馬車に乗るくらいだったけど、あの日、長距離移動しただろう?」
「うん」
「父さん、久しぶりで忘れてたんだろうな……」
「でも、無理しちゃダメだよ?」
わかってるよ……と頭を撫でる。
そして気がつく。
あれ? イオの服が違っている。
持ってきたのは、あちらで当たり前の生成りの布の服。
ズボンは濃い色で染めた厚手の破れにくいものだ。
でも、今着てるのは……。
「そのフード付きの上着は?」
「あ、これ?」
フード付きの腰を隠すサイズの上着。
色はサビ色……ちょっとくすんだ色だが……。
「もらった! 正式な制服じゃないんだけどね? これで運動したり、館の周りで過ごしていいんだって! 2枚もらったんだよ! 色も黒と灰色と茶色とこの色があったからこの色と茶色にしたよ! 千夏とお揃い!」
「おぉぉ! お揃いっていいな!」
「うん! 千夏は僕よりちょっと身長高かったけど、おんなじ大きさのにした!」
見てみて!
とくるっと回るけど……フードにミミがついているのは黙っていよう。
デザイナーはあの人だな。
まぁ、似合うからいいか……。
どこかでレイの分も買って帰ろう。
「あ、それでね? 僕、このあと3日後に入学式なんだって。だからその日から騎士の館に住むけど、父さんはどうするの?」
「あ、確か3日後から研修だった。午前中に団長に言われた」
団長はかなりコッテリ絞られたらしく、やつれていた。
俺はギリギリまで退院させられないと言われた。
イオはどうすればいいのかと聞くと、カルス伯爵の家に預けるからと言われた。
一応、現在のカルス伯爵が団長の遠縁ということと、元騎士団長だったこともあるから。
同年代の子供もいるらしく、自由にいられるだろうと言ってくれた。
うん……ありがたい。
騎士団トップのカズール伯爵家には、色々と迷惑をかけ続けてきたこともあるので……いまだに顔向けできない俺である。
うん……本当は声もかけられないし、顔も見られない。
でも気を遣ってもらってありがたい。
イオを一人で宿に泊めるのも胸が痛む。
そして、こんなになって……あの子を置き去りにしてきたことの大変さ、恐ろしさを知ったのが、こんなになってだと思うと胸が塞がれる。
あぁ、俺は一生、この痛みを重みを背負って生きる。
でも、イオやレイはそんな束縛から解き放たれるよう祈りたい。
まぁ、イオがここで勉強するようになって、俺が向こうに帰ったらネネとレイを制御できるのだろうか……。
不安に思いつつ、よしよし頭を撫でた俺だった。
「父さん! 大丈夫? あ、僕、騎士の館に入学できるんだって! ほらぁ!」
そう言いながら、合格通知を持って現れた時、本当に泣いてしまった。
「すごいじゃないか!」
「うん! 身長も伸びてたよ! それにね? 持久走二位だった! 一位は千夏だったけど!」
「おぉぉ! 持久走が二位なんて、頑張ったじゃないか!」
「父さん~泣かないでよ!」
言いながら抱きついてきたイオも、泣き顔だった。
「あの時、びっくりしたんだよ……父さんが、倒れたって……どうしようって思って……」
「あぁ、悪かったよ。心配かけちゃったな。えっと、情けなくて言えなかったけど、父さん、乗り物酔いするんだよ。向こうではちょっと馬車に乗るくらいだったけど、あの日、長距離移動しただろう?」
「うん」
「父さん、久しぶりで忘れてたんだろうな……」
「でも、無理しちゃダメだよ?」
わかってるよ……と頭を撫でる。
そして気がつく。
あれ? イオの服が違っている。
持ってきたのは、あちらで当たり前の生成りの布の服。
ズボンは濃い色で染めた厚手の破れにくいものだ。
でも、今着てるのは……。
「そのフード付きの上着は?」
「あ、これ?」
フード付きの腰を隠すサイズの上着。
色はサビ色……ちょっとくすんだ色だが……。
「もらった! 正式な制服じゃないんだけどね? これで運動したり、館の周りで過ごしていいんだって! 2枚もらったんだよ! 色も黒と灰色と茶色とこの色があったからこの色と茶色にしたよ! 千夏とお揃い!」
「おぉぉ! お揃いっていいな!」
「うん! 千夏は僕よりちょっと身長高かったけど、おんなじ大きさのにした!」
見てみて!
とくるっと回るけど……フードにミミがついているのは黙っていよう。
デザイナーはあの人だな。
まぁ、似合うからいいか……。
どこかでレイの分も買って帰ろう。
「あ、それでね? 僕、このあと3日後に入学式なんだって。だからその日から騎士の館に住むけど、父さんはどうするの?」
「あ、確か3日後から研修だった。午前中に団長に言われた」
団長はかなりコッテリ絞られたらしく、やつれていた。
俺はギリギリまで退院させられないと言われた。
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一応、現在のカルス伯爵が団長の遠縁ということと、元騎士団長だったこともあるから。
同年代の子供もいるらしく、自由にいられるだろうと言ってくれた。
うん……ありがたい。
騎士団トップのカズール伯爵家には、色々と迷惑をかけ続けてきたこともあるので……いまだに顔向けできない俺である。
うん……本当は声もかけられないし、顔も見られない。
でも気を遣ってもらってありがたい。
イオを一人で宿に泊めるのも胸が痛む。
そして、こんなになって……あの子を置き去りにしてきたことの大変さ、恐ろしさを知ったのが、こんなになってだと思うと胸が塞がれる。
あぁ、俺は一生、この痛みを重みを背負って生きる。
でも、イオやレイはそんな束縛から解き放たれるよう祈りたい。
まぁ、イオがここで勉強するようになって、俺が向こうに帰ったらネネとレイを制御できるのだろうか……。
不安に思いつつ、よしよし頭を撫でた俺だった。
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