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一、クリームとの思い出
クリームとの思い出1
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かなでが小学五年になって一か月経った五月のある日、いつものようにクリームの頭をなでようとした。
クリームはお父さんとお母さんが結婚したばかりに出会った猫だ。真っ白な体がホイップクリームみたいだから、とお母さんが名づけた。
「あれ、クリーム? クリーム?」
いつもなら「気をつけて行ってきなさいね」とでもいうように「にゃおーん」と鳴くクリームが、なにも言わない。かなではクリームの体を軽くゆさぶった。いつもなら怒るはずなのに、なんの反応もない。
「お母さん、クリームがなんか変」
かなでがそう言うと、お母さんがエプロンで手を拭きながら近づいてきた。そして首や鼻、口の周りに手を当てた。表情が固くなった。
「とりあえず、かなでは学校行きなさい。お母さんが病院に連れて行くから」
「病院って……クリーム、どこが悪いの?」
するとお母さんは「きっとだいじょうぶよ」と言って、かなでの頭をなでて送り出してくれた。かなではその日、クリームのことで頭がいっぱいだった。
学校から帰ってきたかなでを待っていたのは信じたくない結果だった。十五才であるクリームは、もう長くなくて獣医さんが言うにはあと一週間が限界だと言われた。
クリームはゆっくりなら歩けるけれどトイレには行けなくなり、次第に自分で食事をとれなくなっていった。弱っていくクリームを見ているのはつらかったけれど、きっと元気になるという希望をどうしても捨てられなかった。
クリームは一週間すぎてもなんとか命の火を灯していた。
(がんばって、クリーム……。わたし、まだまだクリームといっしょにいたいよ!)
かなではそう思いながらクリームの丸まっている背中をなでた。クリームはちらりとかなでを見ただけだった。
しかしクリームは、天国に旅立ってしまった。朝起きるとクリームは目を閉じたままお父さんに抱かれていた。かなでの目からじんわりとなみだがにじんできて、すぐに洪水のように流れ出てきた。
「クリーム……クリームぅ!」
かなでは目やのどが痛くなっても泣き続けた。五月も終わりに近づいていた日だった。
クリームは火葬された。骨は小さなつぼに入れて持って帰った。
時が流れ十一月が終わりに近づいてくると寒さがぐっと厳しくなった。しかしそれは気温や風のせいだけではないこと、かなではわかっていた。リビングに入るとお母さんがすでに暖房を入れていて温かいはずなのに、かなでの心はまだひんやりとしていた。
毛布はへこんだ形のままで、周りにはクリームの写真がたくさんかざられている。そしてクッションの側にある、小さな木箱の中には、火葬されて残った骨を収められている。
(クリーム……もう一度会いたいよ)
かなではそんな思いで日々をすごしていた。
その日、かなではふと目が覚めた。ふと視界のはしに白いなにかが見えた。それはクリームだった。
「クリームっ」
クリームはすうっと姿を消した。
「待って、クリームっ」
かなではドアを開けて、階段を下りた。玄関を開けるとクリームが歩いていた。かなではその後ろを追いかけた。細い道を通って大きな道路に出た。クリームはその道路を横切ろうとしていた。
「クリーム、あぶないからこっちおいで」
しかしクリームは歩む足をとめない。するとまぶしいライトがクリームを照らした。
「クリームっ」
かなではクリームを道路のむこうに行かせるために、飛び出そうとした。しかし強い力で後ろに引っ張られた。
「かなでっ! なにしてるんだっ」
かなでははっとして後ろを見た。お父さんがかなでを後ろから抱きしめていた。
「トラックがきてたんだぞっ」
「お父さん、クリームがっ」
かなではトラックが通り過ぎた道路を見た。しかしそこにクリームの姿はなかった。道路にはひかれた死体もなく、道路のむこう側にもクリームはいなかった。
「クリームは……クリームはもう死んじゃっただろ? もうこの世にはいないんだよ」
「でもさっきいたんだよっ」
かなではお父さんにうったえた。するとお父さんはかなでに「こっちをむいてごらん」と言って後ろをむかせた。
「そのクリームの姿はね、かなでがクリームに会いたくて会いたくて生み出してしまった、まぼろしなんだ。もしもクリームがいたとして、かなでをあぶない目にあわせたりするかい?」
かなでは首を横にふった。クリームならむしろかみついてでも、かなでをとめるはずだ。
「だろ? だからクリームの姿が見えても追いかけたらだめだよ。……さあ、家に帰ろう」
お父さんはおんぶの体勢になった。かなではようやくはだしだということに気がついた。お父さんのせなかにおぶさってしばらくすると、かなでは眠ってしまった。
かなでがまぼろしのクリームを追った日から二日後。お父さんが帰ってきて三人でばんごはんを食べ終わったあと、お母さんがこう言った。
「ねえ、かなで。きっとこのままじゃ、クリームが安心して天国にいけないわ。だから……一歩進んでみない?」
「一歩進むって? それって、クリームをわすれちゃうってこと?」
お母さんは首を横にふった。
「クリームの家をここから、わたしたちの心の中におひっこししてもらうの。お母さんね、心当たりがあるの。想鳴者って聞いたことない?」
想鳴者。それはこのひびき沢で生まれ育った人ならだれでも一度は聞いたことがある存在だった。大切な思い出を依頼人が持ってきたものにこめることができるそうだ。こめられた思い出は色鮮やかで、まるでかつてのできごとをもう一度体験しているようだという。かなでも聞いたことがあった。
幼稚園のころ、顔は覚えていないが一人の男の子がある日、「おれ、そーめーしゃのいえにいくんだあ」とじまんげに話していた。帰ってからお母さんにそのことを話すと、この町にいる不思議な人のことだと教えてくれた。お母さんもお母さんのお母さん、つまりおばあちゃんに同じように教えてもらったそうだ。
オルゴールにするわけではなく、見た目は持ってきたものは一見変わっていない。しかし確実に思い出がこめられているそうだ。
想鳴者については実は千年も生きている魔女だとか、未来から来ているロボットなど、うわさ話には真実であろうことと明らかにうそだとわかるものが混ざり合っている状態だ。
お母さんの友達にも思い出をこめてもらった人がいるそうだ。その人に想鳴者の電話番号やどこに住んでいるかなどを聞いたらしい。
「どうかしら、かなで」
かなではどう返事をすればいいかわからなかった。想鳴者にたのむのはクリームに対する裏切りではないか、という不安が出てくる。するとお父さんがかなでに尋ねてきた。
「かなでは友達がずっと落ちこんでいたら、どう思う?」
「……悲しい。早く元気になってほしいなって思う」
「だろ? きっとクリームも同じ気持ちだと思う。かなでがずっとしょんぼりしていたら、クリームも悲しいんじゃないかな」
お父さんの言うとおりだ、と頭ではわかっていても、うなずくことができなかった。
その日の夜、かなでがベッドに横になっていると部屋のすみに白いなにかがいることに気がついた。クリームだ。
「クリーム……クリームはわたしが元気なほうがいい?」
まぼろしとわかっていても、かなでは尋ねずにいられなかった。するとまぼろしのクリームが近づいてきた。
『にゃーん』
まぼろしのクリームはまっすぐかなでを見つめて、鳴いた。そしてすうっと消えた。
「クリーム……ありがとう」
かなではゆっくり目を閉じた。
次の日の朝ごはんのとき、かなではお母さんに言った。
「お母さん。わたし、想鳴者のところ行ってみたい」
するとお母さんはほっとした表情で「そう。じゃあ電話しておくわね」とほほえんだ。
クリームはお父さんとお母さんが結婚したばかりに出会った猫だ。真っ白な体がホイップクリームみたいだから、とお母さんが名づけた。
「あれ、クリーム? クリーム?」
いつもなら「気をつけて行ってきなさいね」とでもいうように「にゃおーん」と鳴くクリームが、なにも言わない。かなではクリームの体を軽くゆさぶった。いつもなら怒るはずなのに、なんの反応もない。
「お母さん、クリームがなんか変」
かなでがそう言うと、お母さんがエプロンで手を拭きながら近づいてきた。そして首や鼻、口の周りに手を当てた。表情が固くなった。
「とりあえず、かなでは学校行きなさい。お母さんが病院に連れて行くから」
「病院って……クリーム、どこが悪いの?」
するとお母さんは「きっとだいじょうぶよ」と言って、かなでの頭をなでて送り出してくれた。かなではその日、クリームのことで頭がいっぱいだった。
学校から帰ってきたかなでを待っていたのは信じたくない結果だった。十五才であるクリームは、もう長くなくて獣医さんが言うにはあと一週間が限界だと言われた。
クリームはゆっくりなら歩けるけれどトイレには行けなくなり、次第に自分で食事をとれなくなっていった。弱っていくクリームを見ているのはつらかったけれど、きっと元気になるという希望をどうしても捨てられなかった。
クリームは一週間すぎてもなんとか命の火を灯していた。
(がんばって、クリーム……。わたし、まだまだクリームといっしょにいたいよ!)
かなではそう思いながらクリームの丸まっている背中をなでた。クリームはちらりとかなでを見ただけだった。
しかしクリームは、天国に旅立ってしまった。朝起きるとクリームは目を閉じたままお父さんに抱かれていた。かなでの目からじんわりとなみだがにじんできて、すぐに洪水のように流れ出てきた。
「クリーム……クリームぅ!」
かなでは目やのどが痛くなっても泣き続けた。五月も終わりに近づいていた日だった。
クリームは火葬された。骨は小さなつぼに入れて持って帰った。
時が流れ十一月が終わりに近づいてくると寒さがぐっと厳しくなった。しかしそれは気温や風のせいだけではないこと、かなではわかっていた。リビングに入るとお母さんがすでに暖房を入れていて温かいはずなのに、かなでの心はまだひんやりとしていた。
毛布はへこんだ形のままで、周りにはクリームの写真がたくさんかざられている。そしてクッションの側にある、小さな木箱の中には、火葬されて残った骨を収められている。
(クリーム……もう一度会いたいよ)
かなではそんな思いで日々をすごしていた。
その日、かなではふと目が覚めた。ふと視界のはしに白いなにかが見えた。それはクリームだった。
「クリームっ」
クリームはすうっと姿を消した。
「待って、クリームっ」
かなではドアを開けて、階段を下りた。玄関を開けるとクリームが歩いていた。かなではその後ろを追いかけた。細い道を通って大きな道路に出た。クリームはその道路を横切ろうとしていた。
「クリーム、あぶないからこっちおいで」
しかしクリームは歩む足をとめない。するとまぶしいライトがクリームを照らした。
「クリームっ」
かなではクリームを道路のむこうに行かせるために、飛び出そうとした。しかし強い力で後ろに引っ張られた。
「かなでっ! なにしてるんだっ」
かなでははっとして後ろを見た。お父さんがかなでを後ろから抱きしめていた。
「トラックがきてたんだぞっ」
「お父さん、クリームがっ」
かなではトラックが通り過ぎた道路を見た。しかしそこにクリームの姿はなかった。道路にはひかれた死体もなく、道路のむこう側にもクリームはいなかった。
「クリームは……クリームはもう死んじゃっただろ? もうこの世にはいないんだよ」
「でもさっきいたんだよっ」
かなではお父さんにうったえた。するとお父さんはかなでに「こっちをむいてごらん」と言って後ろをむかせた。
「そのクリームの姿はね、かなでがクリームに会いたくて会いたくて生み出してしまった、まぼろしなんだ。もしもクリームがいたとして、かなでをあぶない目にあわせたりするかい?」
かなでは首を横にふった。クリームならむしろかみついてでも、かなでをとめるはずだ。
「だろ? だからクリームの姿が見えても追いかけたらだめだよ。……さあ、家に帰ろう」
お父さんはおんぶの体勢になった。かなではようやくはだしだということに気がついた。お父さんのせなかにおぶさってしばらくすると、かなでは眠ってしまった。
かなでがまぼろしのクリームを追った日から二日後。お父さんが帰ってきて三人でばんごはんを食べ終わったあと、お母さんがこう言った。
「ねえ、かなで。きっとこのままじゃ、クリームが安心して天国にいけないわ。だから……一歩進んでみない?」
「一歩進むって? それって、クリームをわすれちゃうってこと?」
お母さんは首を横にふった。
「クリームの家をここから、わたしたちの心の中におひっこししてもらうの。お母さんね、心当たりがあるの。想鳴者って聞いたことない?」
想鳴者。それはこのひびき沢で生まれ育った人ならだれでも一度は聞いたことがある存在だった。大切な思い出を依頼人が持ってきたものにこめることができるそうだ。こめられた思い出は色鮮やかで、まるでかつてのできごとをもう一度体験しているようだという。かなでも聞いたことがあった。
幼稚園のころ、顔は覚えていないが一人の男の子がある日、「おれ、そーめーしゃのいえにいくんだあ」とじまんげに話していた。帰ってからお母さんにそのことを話すと、この町にいる不思議な人のことだと教えてくれた。お母さんもお母さんのお母さん、つまりおばあちゃんに同じように教えてもらったそうだ。
オルゴールにするわけではなく、見た目は持ってきたものは一見変わっていない。しかし確実に思い出がこめられているそうだ。
想鳴者については実は千年も生きている魔女だとか、未来から来ているロボットなど、うわさ話には真実であろうことと明らかにうそだとわかるものが混ざり合っている状態だ。
お母さんの友達にも思い出をこめてもらった人がいるそうだ。その人に想鳴者の電話番号やどこに住んでいるかなどを聞いたらしい。
「どうかしら、かなで」
かなではどう返事をすればいいかわからなかった。想鳴者にたのむのはクリームに対する裏切りではないか、という不安が出てくる。するとお父さんがかなでに尋ねてきた。
「かなでは友達がずっと落ちこんでいたら、どう思う?」
「……悲しい。早く元気になってほしいなって思う」
「だろ? きっとクリームも同じ気持ちだと思う。かなでがずっとしょんぼりしていたら、クリームも悲しいんじゃないかな」
お父さんの言うとおりだ、と頭ではわかっていても、うなずくことができなかった。
その日の夜、かなでがベッドに横になっていると部屋のすみに白いなにかがいることに気がついた。クリームだ。
「クリーム……クリームはわたしが元気なほうがいい?」
まぼろしとわかっていても、かなでは尋ねずにいられなかった。するとまぼろしのクリームが近づいてきた。
『にゃーん』
まぼろしのクリームはまっすぐかなでを見つめて、鳴いた。そしてすうっと消えた。
「クリーム……ありがとう」
かなではゆっくり目を閉じた。
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