メモリーズ・メロディーズ

翼 翔太

文字の大きさ
17 / 26
七、月と星のキーホルダー

月と星のキーホルダー2

しおりを挟む
 それから五日間、かなでたちは天海さんと月滝さんの思い出話をいろんな時間でたくさん聞いた。
「月に二回は近所の天文台に行ってプラネタリウムを観に行ってたんだ。そこでなかよくなった学芸員さんがいてさ。星や宇宙のことをいろいろ話してくれたんだ」
「そらかはクッキーを星型にすると喜ぶんだ。月の形よりも星型のほうがいいみたいなんだ」
「夏には花火をしながら、そらかはたしか『ほら見て、すい星』って言ってたっけ」
 どの思い出を話すときも天海さんはとても楽しそうで、かなででもうらやましくなるほどの笑顔をうかべていた。そういう思い出話を聞いてかなでは心が温かくなった。しかしときどき自分もおしゃべりに参加したくて口がむずむずした。口が開きそうになったらほほをたたいた。
 天海さんが泊まって五日目の夜。ごはんの前に律は彼をリビングに呼んだ。そしてどんな曲で思い出をこめるか確かめた。天海さんは『きらきら星』を指定して、律の提案でゆっくりとした曲調でアレンジすることになった。
「初めて見たプラネタリウムもそうだったそうですから。おれは覚えていないけれど、そらかはそう言っていたんで」
「かしこまりました。あさっては何時にご出立ですか?」
「午後二時にはここを発ちます」
「ならばそれまでに必ずおわたしします。ただ、一つ守っていただきたいことがあります」
 律にそう言われ天海さんは姿勢を正した。律は真剣な眼差しで告げた。
「思い出をこめるとき、わたしがひいている曲以外の音が入ってしまうと失敗してしまいます。同じものにもう一度思い出をこめることはできません。予備がないのでしたら、そのときはどうぞ庭に出ることのないよう」
「わ、わかりました……」
 律の強い目力に天海さんは何度もうなずいた。
(そうなんだ。わたしのときはもう思い出をこめてもらってたもんなあ)
 さらに律は明日アレンジした曲を聴いてもらいたいことをつけくわえた。天海さんは承知した。
 天海さんが部屋にもどったあと、律はかなでのほうを見て言った。
「かなで、あなたもよ」
「えーっ! そんなあ……」
 かなでは大きく肩を落とした。
「見るだけでもだめですか?」
 なんとか食らいつこうとするかなでに対して律は首を横にふった。
「あなたはたしかに修業をしっかりしている。でもまだ基本がぜんぶできているわけじゃない」
「うう」
 かなでがあきらめきれずにうなっていると、意外なところから助け舟が出た。
「いいじゃない。見せてあげなよ、リツ」
「ワタシもイオに賛成だ」
 イオとルゥトがいつの間にかリビングにやってきていた。
「イオ、ルゥト。お客さまがまだいらっしゃるんだから、部屋にいてちょうだい」
 律はイオとルゥトに厳しい目をむけた。しかし二人とも今回はとくに気にしていないようだった。
「だいじょうぶさ。バレないようにこっそりきたから」
 ルゥトはむねを張ってそう言った。律は鋭い眼差しのまま、イオとルゥトを見た。
「思い出は同じ品に二度はこめられない。それがどれだけ大変なことか十分わかっているでしょ?」
「もちろんさ。だからこそ、だよ」
 イオはいっしゅんかなでを見てふっと笑った。
「大切なことならなおさらきちんと知っておくべきだと思うよ。それにカナデはまだ思い出をこめるところを見たことがないじゃない。せっかく夏休みってチャンスがあるんだ。それを生かすのは悪いことじゃないと思うよ」
「大切なことほどはじめに教えておくべきだとワタシは思うけれどね」
 イオとルゥトにそう言われ律はうでを組んで考えた。かなではすがりつくように頭を下げた。
「おねがいします、律さん! 絶対に動いたりしゃべったりしません。なんだったら息もなるべくしませんからっ」
 それを聞いたイオとルゥトはふき出していた。律は一度目を閉じてすぐ開いた。そして微苦笑をうかべた。
「二人の言うとおりかもね。そのかわり部屋のすみにいること。いいわね? あと息はふつうにしてちょうだい」
 かなでの表情はぱっと明るくなり、力強く「はい!」と返事をした。
 まず庭の小屋へ使う楽器を運んだ。といってもそれほどの数はなかった。ルゥトの体であるフルートと音楽室によくある金色のぼうが連なっている楽器、ウィンドチャイムだけだった。ウィンドチャイムは運ばれているあいだ絶え ずシャラシャラと鳴っていた。
 小屋の中ではアノーが待っていた。律、かなで、イオ、ルゥト、アノーの五人で準備をはじめる。今回オッディは楽器部屋で待機らしい。ウィンドチャイムをピアノのはすむかいに置いて、イオたちは体である楽器にもどった。律はいすにこしかけアノーのピアノのふたを開けた。中のワインレッドの布を外す。
「音や音楽っていうのは記憶を呼び覚ますのにとても有効なのよ。そしてそのときの空気、におい、行動、場所なんかを閉じこめている。音は思い出のかたまりなの」
 律はかなでにそう言ってぽーんと一音鳴らした。その直後、律がまとうふんいきががらりと変わった。近づきがたいような、それでも温かみのある、そんな空気だった。律はまずピアノだけで『きらきら星』をひいた。ひき終えると律はあごに手を当ててしばらく考えていた。
「かなで、ルゥトを貸して」
「はいっ」
 かなでは律にルゥトの体であるフルートをわたした。今度はフルートで『きらきら星』が吹かれた。そして納得したようにうなずいた。
「今回はルゥトにするわ。イオ、曲をはじめる前にウィンドチャイムを鳴らして。曲は二回演奏するわ。一回目はルゥトだけで演奏するけれど、二回目のときには時折ウィンドチャイムを鳴らして」
「わかった」
 イオがバイオリンの中から出てきた。
「あのお……イオも楽器を演奏するんですか?」
かなではえんりょがちに尋ねた。その問いに答えたのは律ではなくイオだった。
「まあ楽器の魂がほかの楽器を演奏するっていうのもおかしいかもね。でもこのウィンドチャイムはまだ魂がない。まだつくられて百年も経っていないから」
 イオはシャラン、とウィンドベルを一度鳴らした。
「思い出をこめることができるのは想鳴者だけれど、その思い出を一度曲という形にできるのはボクら楽器の魂。ボクら楽器の魂は人の姿をとっているときは、その力を魂がこもっていない楽器にも分けることができる。だからまだ魂が宿っていない楽器を使うときは、リツが演奏する楽器以外でボクらの内だれかがリツの演奏を手伝うんだ。メインの楽器はリツと思い出をこめることに集中しなくちゃいけない。だから別の楽器のだれかが力を分けるんだ」
 イオの答えを聞くとかなでの中で新しい疑問が生まれた。
「なんでそんな風に力を分けることができるの?」
「そうだなあ……ボクの考えでは音楽ってその場にいるたくさんの人に聴いてもらえるだろう? それって曲や音色をそこにいる人たちに分けるのと似てないかい? いや、分けるっていうか配るっていうほうがわかりやすいのかな? 紙のように音を配ってるって感じ」
「うーん、わかるようなわからないような。なんていうか、とにかく分けられるんだね」
「うん。でもその場だけなんだ。なんでかわからないけどね。まさしく音が消えるように、ボクらの中に力がもどってくるんだ」
 イオはそんな風に説明してくれた。
「思い出をこめるには、わたしたち人間の力だけでも、楽器の魂たちだけでもだめなの。両者が協力してはじめてできることなのよ」
 律はそうつけ加えた。話を終えると律とイオはアイコンタクトをとって演奏をはじめた。イオがウィンドチャイムを鳴らした。それはまるで流れ星のような音だった。その音が完全に消えるとルゥトのやさしい音で『きらきら星』が始まった。時折リズムが変わりながら、天の川でボートに乗っているような、ゆったりとした気持ちになった。最後の『お空の星よ』の部分はさらにテンポを落とし、音をのばした。その後もう一度演奏が始まった。同じようなリズムだが、今度は律の指示通り時折ウィンドチャイムの音が入った。最後のルゥトの音が波紋のようにゆっくり消えていく。かなでは気がつくとため息をつきながら拍手をしていた。律の視線にかなでは、はっとした。
(これ、本番だったら思い出がこめられなくなっちゃってた)
 かなでは自分のほほをつねった。その後細かいところを手直しするなどして、律たちは何回も『きらきら星』を演奏した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

処理中です...