七不思議と三人の冒険

翼 翔太

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真っ赤な桜と演奏会

真っ赤な桜と演奏会2

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 運動会が近づくにつれて練習の時間は増えた。今年の運動会は九月二十七日だ。あと二日。つまり今日は二十五日。真っ赤な桜の真相を解明する日だ。カオルたちは夜に学校へ忍びこんだ。しかし今回は校内には入らない。ジャングルジムのてっぺんで真っ赤な桜が咲くかどうか様子を見ることにしたのだ。今は十二時だ。
「まだかな?」
 足をぷらぷらと揺らしながらカオルが言った。三人の中でも一番気が短い。まだ来て三十分しか経っていない。
「でも本当に亡霊にとりつかれるのか?」
 レンが言った。今までの七不思議も伝わっていたものとちがう部分もあったが、合っているところもあった。だからもしもとりつかれるのが本当だったら怖いのだ。それでもこうやって解明にきているのは、好奇心のほうが強いからだ。
「だいじょうぶだって」
 カオルが軽い調子で言った。
 二時近くになっても桜の木に変化はない。レンやあすかまで退屈になってきた。そのときだった。北校舎のほうを見ていたあすかが、指をさして言った。
「なあ、あそこでなにか動いてないか?」
 カオルとレンは目をこらした。ひとつの人影の周りにいくつかふわふわとなにか浮いている。人影の腕が左右に揺れた。まるで三人に向かって手をふっているようだ。よく目をこらして人影を見た。
「なあ、あれって……タカミーじゃないか?」
 あすかの言うとおり、タンバリンやトライアングル、アコーディオンなどの楽器たちを連れてきたタカミーだった。しかし楽器たちはどこか元気がなさそうだ。
『やあ、来ていたんだね』
「うん。タカミーって音楽室から出られたんだ」
『そうみたいだ。あまり出たいと思わなかったから』
 ひと呼吸おいてタカミーは言葉を続けた。
『きっとほかの七不思議もそうだと思う。だからたがいに会おうとは思わなかったし、自分のことにしか興味がなかった。いや、もしかすると自分のことすらどうでもいいって七不思議もいるかもしれない』
 カオルは荻野先生のことが思い浮かんだ。恨みと辛さという糸にがんじがらめなっていたころの。きっとあのときの荻野先生は自分のことなんてどうでもよかったのだろう。けれど今はちがう。放課後には生徒の質問にも答えるし、五年六組のみんなに授業をしている。
『それに楽器たちの元気がない理由も知りたいし』
 タカミーはそばにいるトライアングルを指先でやさしくなでた。会話に一区切りつきレンはふと、校庭を見渡した。なんとなくさっきとちがうような気がした。それはすぐにわかった。桜の木がぽつ、ぽつとまるでクリスマスツリーの電飾をとても弱くしたような、淡く赤い光が点滅しているのだ。
「なあ、あれ」
 カオルとあすか、タカミーもレンが指さしたほうを見た。
「これって……」
「もしかしてつぼみ?真っ赤な桜が咲くのか?」
 そのときくすくすと小さな笑い声があすかの耳に入ってきた。ジャングルジムから一番近い桜の木の陰から男の子と女の子が、こちらをうかがっていた。目が合うといたずらっぽい笑みを浮かべたままぱっと姿を消した。あすかはきょろきょろと男の子と女の子を探した。あすかの様子に気がついたカオルは不思議そうな顔で尋ねた。
「おい、どうしたんだよ?」
「今男の子と女の子が……あ!あそこ」
 あすかが指さした先は鉄棒のそばにある桜の木。またぱっと消えた。みんながそちらをむくが、すでに姿はない。
「どこだ?」
『なにをしている?』
『している?』
 足元から声がした。見下ろすと探していた男の子と女の子がいた。二人とも一年生くらいだ。女の子は右、男の子は左の横髪が肩まである。前髪は定規にあてたようにまっすぐだ。顔はそっくりで二人とも着物を着ていて、女の子は満開の桜、男の子は葉桜の柄だ。
「うお!」
 全員驚いて声が出た。どくどくどくと心臓が速く鳴った。
『もしかして』
『桜を見に来たのか?』
 女の子は左に、男の子は右に首をかたむけた。
『君たちは?』
 一番早く落ち着きをとり戻したタカミーが二人に尋ねた。
『われわれは』
『桜の精』
『今夜は』
『年に一度の』
『深紅の桜が咲くとき』
 二人は交互に言った。
「じゃあ、まさか自殺した人の亡霊が出るのか?」
 カオルが尋ねると二人は首を横に振った。
『ちがう』
『彼らの魂を亡霊としないために』
『怨霊としないために』
『子どもたちが穏やかに過ごせるように咲く』
 どうやら亡霊にとりつかれる、というのはちがうらしい。真っ赤な桜は怖いものではないようだ。
 桜の木々の真っ赤なつぼみは大きくなっていた。もうすぐ咲くだろう。そのときカオルはあることを思いついた。自然と口元ににんまりと笑みが浮かんだ。それに気がついたレンとあすかは心の準備をした。カオルがなにを言っても驚かないように。
「なあ、花見しようぜ」
『え?』
 思わぬ提案にタカミーは目を丸くした。レンとあすかは少し困ったように笑った。カオルが予想外のことを言うのはよくあることだ。
「だって桜が咲いたら花見をするだろ?それに真っ赤な桜なんてそうそう見ることできないんだぜ。どうやら呪われるわけでもなさそうだし。
 そうだ!ほかの七不思議も呼ぼうっ」
 続いた一言にはさすがに驚いた。しかしカオルは言ったら聞かない。
「じゃあおれは荻野先生と五年六組のみんなを呼んでくる」
「オレはまいと大鏡を呼んでくる」
「おれ、たかし坊ちゃんとさえこちゃん呼んでくる!あ、タカミーとえっと……桜の精は待っててくれよ」
 三人はそれぞれ夜の校舎へと向かった。
 それぞれに事情を説明した。みんな賛成した。とくに荻野先生は真っ赤な桜の生態に興味を持って、理科室にピンセットやシャーレなどをとりに行った。踊り場の大鏡は図工室にある自画像を書くときに使う、小さな鏡を代わりにまいが持っていく。それを通して花見をすることになった。大鏡そのものは動くことができないからだ。
 しばらくして、つぼみがほころび始めたころに全員そろった。どこからか五年六組の何人かがブルーシートを持ってきた。広げてみんながその上に座った。
「なあ、幽霊だと透けているから直接地面に座っても汚れないんじゃないか?」
『気分だよ、気分』
 レンがそう言うと持ってきた子の一人が答えた。どうやら彼らの中で花見の景色として、ブルーシートはセットらしい。たしかにシートがあったほうがレンたちは汚れなくっていいので、それ以上は言わなかった。
『どうやらそろそろ咲くようだ』
 タカミーが指さした。ゆっくりゆっくり、花が開きはじめた。まるで理科の映像教材のようだ。
「うわあ……!」
 夢中になっているといつのまにか、真っ赤な桜が咲き誇っていた。美しいけれど血を連想させる赤のせいか、少し不気味に思った。しかし荻野先生は桜の木に近づいて持ってきた虫眼鏡で観察していた。
『咲いた』
『咲いた』
 いつのまにか桜の精たちが再び姿を現していた。枝にちょこん、と座っていた。驚いて荻野先生をのぞく全員の肩が大きくはねた。まるで花びらが散るようにふわりと降りてきた。
「なんでこの時期に咲くんだ?そもそも、真っ赤な桜って一体なんだ?」
 あすかの問いに桜の精たちは顔を見合わせてから、話しはじめた。
『この学校の悲しみを、怒りを、恨みを吸いとっている』
『桜の根から、花から、枝から』
『けれどずっと吸っていられない』
『だからそれを吐き出して清める』
『だから花を咲かせる』
 つまり桜の精と木は学校の生徒からマイナスの感情を吸いとっている。そしてそれを浄化するために一年に一度、真っ赤な桜を咲かせるということだ。
 そして桜の精は真っ赤な桜が咲くことになったいきさつを、語りはじめた。

 桜の精は生まれたときから二人だった。いやほかの桜より少し長生きだったため目が覚めた、というほうが正しいかもしれない。つぼみがめいいっぱい膨らみ、もう二、三日中に咲くころだった。学校が建てられたときからずっとそこにいた。満開でもなく、冬の葉もない状態ではなかったため桜の精が二人に分かれたのだ。満開の花のようにかわいい女の子と、春を待つように辛抱強い男の子の二人に。
 二人はずっと子どもたちを見守ってきた。花が咲き乱れているときも、つぼみが固く閉じているときもずっと。そして二人は知った。学校は生徒の笑顔であふれている。そんな風景が大好きだった。
 けれど悲しい気持ち、だれかを恨む気持ち、傷ついた心が混ざっていることに気付いた。その原因はけんかやいじめなどであったのだが、二人は知らなかった。その負の感情は月日が経つにつれ大きく膨らんでいった。そして子どもたちの少しずつ笑顔も消えていった。人間はだれも知らなかったけれど桜の精たちは気がついていた。二人は自分たちになにができるか考えた。考えているあいだにも負の感情は膨らんだ。
 ある日男の子のほうが思いついた。根から水を吸いとるように、負の感情を吸いとるのだ。もちろん女の子も賛成した。大好きな子どもたちを守りたい。
 桜の精たちは負の感情を吸った。空気の薄いところで呼吸するように苦しかった。それでもよかった。子どもたちの笑顔が少しずつ戻った。けれど負の感情が大きすぎると吸いきれないこともあった。そんなとき二人は涙を流した。毎日吸っていると限界があることに気がついた。エネルギーがたまっていく。春を待つときのように。なので二人はどうすればいいかわかっていた。
 エネルギーを解放すればいいのだ。花を咲かせればいいのだ。一年に一度咲かせる桜の花。それは真っ赤だった。

 話をすべて聞いて全員はしばらくなにも言えなかった。大人である荻野先生は自分で命を絶ったとき桜の精たちがどれほど悲しんだか、自分たちを責めたか想像できた。
 ようやくあすかがぽつりとつぶやいた。
「そっか。オレたちはずっと守られていたんだな」
 あすかは立ち上がり桜の精の前でひざをつくと二人をぎゅっと力強く抱きしめた。驚いた二人の目はビー玉のようにまん丸だった。
「ありがとう」
 あすかはいっそう力をこめた。初めて抱きしめられた桜の精は戸惑いながらも、あすかをぎゅっとした。あすかのぬくもりを感じた。
 たくさんの生徒たちの痛みや悲しみを引き受けてきた二人。そんな二人の悲しみは一体だれが受け止めてあげればいい?
 そう思ったあすかは気がつくと二人を抱きしめていたのだ。あすかの考えがなんとなくわかったカオルとレンは、それぞれあすかの頭と背中をぽんぽん、とたたいた。
『ありがとう』
『そのやさしい心があるから』
『われらは生きていられる』
 だれかのために心を痛めることができる。そんなやさしい心のカオルたちを見て大人の幽霊たちは安心していた。世の中には心ない人も多くいるけれど、だれかを思いやることができる人間がいる。そのことがうれしかった。
 ぱんぱんとタカミーが仕切り直すように手をたたいた。
『さて、しめっぽいのはここまで。
 さあお花見の続きをしよう』
 そう言ってタカミーは連れてきたアコーディオンを弾きはじめた。弾きはじめるとアコーディオンも気分がのってきたのか、元気よく音楽を奏ではじめた。三人にはあまり馴染みのない軽やかな音楽だった。弾き終わってからタカミーがアイリッシュという種類の音楽だと教えてくれた。
 みんな自然と体が揺れ五年六組の子どもたちは手をとり踊りはじめた。まいもいっしょだ。
 元気がなかったトライアングルは、だんだん楽しくなってきてあすかのもとにやってきた。あすかは音楽室のときのようにトライアングルを鳴らした。アコーディオンの旋律に合わせて体が動く。
 気がつくとみんな踊っていた。たかしぼっちゃんとさえこちゃん、荻野先生とみわ子先生は手をとり合ってダンスを踊っていた。はらはらと真っ赤な花びらが涙が流れるように舞い散る中、まるでオルゴールの人形のようにくるくると回っている四人は幻想的な絵のようだった。
 楽器たちがただの楽器に戻っても、朝日が昇るまでみんな真っ赤な桜の下で踊ったりおしゃべりをして楽しく時間をすごした。桜の精たちは今までで一番楽しい一日になった。
 こうして時間はすぎ太陽が昇りはじめたころ解散することになった。
「じゃあおれたち帰るね」
『ああ、気をつけてるんだよ。子どもたち』
 たかしぼっちゃんがほほえんで言った。初めて会ったときの恐ろしさはこれっぽっちもなかった。
『あすか、ムロマチによろしくね』
「おう。じゃあな」
 七不思議たちはカオルたちの背中が見えなくなるまで校門で見送っていた。

 たっぷり昼まで眠った次の日。カオルたちは待ち合わせて学校に行った。土曜日だが先生たちが運動会の準備をしている。先生たちは忙しいためか三人に気がついていない。そんな中カオルたちは昨日の桜の木にむかった。そこには真っ赤な花は咲いていなかった。
「そりゃそうか」
 カオルが少し残念そうに頭の後ろで手を組んで言った。そのときあすかの耳にくすくす、と小さな笑い声が聞こえたような気がした。枝の上を見上げると満開の桜と、葉のない桜の木の柄をきた女の子と男の子の桜の精が座っていた。けれどすぐにその場で溶けるように姿を消してしまった。
「今桜の精たちがいたぜ」
「どこだ?」
 レンがたずねた。
「もういないけど」
「おい、あすか。お前だけずるいぞ!」
 カオルがその場でジャンプしながら桜の精を探した。けれど見つからなかった。桜の精たちはこれからも子どもたちを見守るのだろう。
「ありがとう」
 あすかは桜の精たちがいた枝を見つめぽつり、とつぶやいた。カオルとレンも同じところを見つめた。桜の精たちが笑いながら手を振っているような気がした。
 三人は帰ることにした。帰り道でレンが言った。
「これで七不思議を全部解明したことになるのか。終わるとやっぱりさみしいな」
「そうだなあ」
 思えばカオルが退屈だと言いだしたのがきっかけだった。こわい目にもあったけれど七不思議の本当の姿を知ることができてよかったと思っている。
「なあオレたちが七不思議を解明したってこと、卒業したらだれもわからないじゃないか?」
 あすかが言った。たしかにそのとおりだ。それに長い時間が経って七不思議の内容がまた変わって怖がられるかもしれない。三人だけの思い出にしたい気持ちもあるけれど、だれかに知ってもらいたいという気持ちもあった。
「じゃあ本にするっていうのは?」
 レンが言った。あすかとカオルは思わぬアイディアに「それだ!」と同時にさけんだ。
「さっすがレン!」
「よ!この頭脳派っ」
 興奮した二人はレンの背中を手加減せずにたたいた。家が格闘技の道場で、その辺の大人よりも強い二人なりの称賛はとても痛かった。背中も痛いしむせてしまった。そんなレンのことなど気にもとめずカオルが言った。
「よし!書こうぜ、おれたちの冒険と七不思議のこと」
 あすかとレンは力強くうなずいた。少し延びた楽しみから三人はたがいに顔を合わせ、笑った。

 本は学校のパソコン教室で作ることにした。文章を書く前にどんな風に書くか大体決めて、文章はそれぞれ下書きをしてくることにした。
 ひとつの七不思議について三人それぞれの視点を入れることにした。どんな風に思ったか、どんなことがあったか。たがいに見せ合って文章を混ぜることもあれば、それぞれ分けるところもあった。
 三人は七不思議たちの姿も残したいと思った。写真を撮って載せることにした。事情を説明すると七不思議たちは写真を撮らせてくれることになった。今週の土曜日に桜の木の前で撮ることにした。もちろん夜にだ。
 土曜日の深夜。全員お花見をした桜の木に集まっていた。カメラはレンがお父さんに借りてきた。あすかの提案で集合写真にすることにした。もちろんカオルたち三人も一緒に写る。高さを合わせてレンがセルフタイマーをセットして走ってきた。
「はい、チーズ!」
 フラッシュがまたたいた。ちゃんと撮れているか確認した。カオルたちは撮れている。けれどほかは幽霊であるためかぼやけていたりぶれていて、どれもはっきりと写らず心霊写真になってしまった。これでは七不思議たちの顔がわからないので、似顔絵を描くことになった。三人の中で一番絵がうまいカオルが描く。
 ちなみに完成したものを本人たちに見せるとそっくりだ、と評判だった。そのときに集合写真も全員に渡した。
 その似顔絵をスキャナーでとりこんで、絵日記のようにページの上半分に載せた。
 中身を完成させて表紙を作る。どんな表紙にしたいか話し合った。茶色の革表紙に似た雰囲気に決まった。無料でだれでも使える素材のサイトで革表紙の壁紙をプリントアウトした。
 表紙と文章をプリントアウトして一冊の本にする。題名は『古美が丘小学校の七不思議』にした。
 完成までもう少しだ。試しにホッチキスを使ってみたけれど、少し厚いためか留まらなかった。なのでヒモで束ねることにした。束ねかたは昼休みに担任の高瀬先生に教えてもらった。
 作りはじめて一カ月。放課後の教室できゅっ、と黒いひもを結んでようやく完成した。
「おおーっ」
 三人は自然とぱちぱちと拍手をしていた。ページをめくってみる。前置きが一ページ目にあり次のページに目次を載せた。
 柱時計の亡霊。
 職員室の前にある古い柱時計の前に立ち午前二時に「亡霊さん、遊びましょ」と言うと時計の中に吸い込まれてしまう。三人は実際に古時計の中に吸い込まれ亡霊と出会った。その亡霊はかつて別れを告げずに去ってしまった友人を恨んでいた。三人の協力もあり誤解はとけ、友人と再会した亡霊は二人で学校を見守っている。
 幻の五年六組。
 物置部屋となっている五年四組のとなりの教室。だれもいない夜にその物置部屋のとなりに存在しない教室が現れる。そこで幽霊の子どもだちが一人の女性の先生と授業をしていた。その後彼らは校内の署名運動によって自分たちの教室を手に入れ、正式に生徒と認められた。
 飛び回る実験道具。
 理科室で自殺した先生が恨みや悲しみで学校内を歩き回り、理科室内の実験道具を飛びまわしていた。今では心の傷が癒え、放課後にたくさんの生徒から相談される先生になった。
 図書室の女の子。
 図書室の女の子の名前はまい。恥ずかしがり屋で本が大好きだ。本の世界に行くことができるのだ。まいは友達と一年に一回会う約束をしていて、ある日それをすっぽかされたと勘違いしていた。その友達は実はあすかの兄であるムロマチだった。あすかが持ってきたムロマチの手紙で誤解はとけ、三人の新たな友達となった。姿は現さないけれど読む本に迷っていると、こっそりおすすめの本を教えるようになった。
 踊り場の大鏡。
 踊り場にある大鏡を三十秒見つめていると中に吸い込まれ二度と戻ってくることはできないという。しかし実際は図書室の女の子の友達でもある。大鏡はこの学校の鏡すべてとつながっている。具体的にどこの鏡から出たいか念じながら入ればそこに出られるのだ。しかし入ることができるのは大鏡だけだ。またまいの力によって入った本の世界の出口でもある。
 真夜中に聞こえるピアノ。
 真夜中の音楽室で幽霊がピアノを弾いている。その幽霊は元音楽のおちゃめな先生だった。音楽室にある魂の宿った楽器たちと演奏を楽しんでいる。昔カオルたちのように七不思議を確かめにきた子どもたちが暴れたり楽器を乱暴に扱ったのでおどかしたため、恐ろしく言い伝えられたらしい。
 そして真っ赤な桜。
 一年に一度咲く幻の桜。学校の人たちの悲しみや恨み、痛みを身代わりに吸いとっている。その負の感情は溜めこむことはできないので一年に一度解放するために、真っ赤な桜の花を咲かせるのだ。桜には双子の精霊がいて満開の桜の着物を着た女の子と、葉がない桜の木の着物を着た男の子だ。双子の桜の精はいつも子どもたちを見守っている。
 目次を見るだけではっきりと思い出すことができる。怖い目にも合ったけれど楽しかった。
「なんかこう……感動だな」
「うん」
「そうだな」
 感動の海にひたっていると高瀬先生が教室の前を通りかかった。三人に気がついた高瀬先生は声をかけた。
「なにをしているの?」
「あ、高瀬先生。見て見て!おれたちの七不思議解明の本がやっと完成したんだっ」
「まあ、おめでとうっ。その本どうするの?」
 高瀬先生の一言に三人はぽかん、とした。作ることしか頭になく完成したあとのことは深く考えていなかったのだ。それぞれ一冊ずつ持っていればいい、くらいの考えだった。たがいに顔を見合わせてレンが言った。
「考えていませんでした」
 高瀬先生はふふふ、と小さく笑って言った。
「じゃあ一冊、図書室に置いてみない?図書委員会の先生にたのんでみるわ」
「へ?」
「だってせっかく作ったんだもの。束ねかたもしっかりしているしおもしろそうじゃない。それに身内のことが書かれているのは悪い気分じゃないわ」
 高瀬先生のひいおばあさんは柱時計の亡霊の友達だった高木さえこちゃんだ。
 思ってもいない言葉に三人の目はまん丸だった。想像した。自分たちが書いたものがいろんな子たちに読んでもらえるのは、少しむずがゆいけれどうれしいことだ。それに七不思議が正確に伝えられる。三人の思いは同じだった。
「おれたちが書いた本、置いてください」
 高瀬先生は満足そうに笑い完成した本を受けとった。

 後日三人が作った七不思議の本は図書室に置かれた。図書室の中に貼られている『おすすめの本』というポスターに題名が書かれていた。それを見た三人はにんまり笑った。実は図書室の女の子である、まいもそのポスターを見てにやにや、と笑いが止まらなかったけれど、自分のことをたくさんの人に知られるということに気がつくと見つからないように隠れることにした。

 三人それぞれの部屋には七不思議との集合写真が飾られている。
 きっといつか別れる日がくるだろう。けれど三人は変わらない。どれだけ離れても、なかなか会うことができなくても、この毎日や七不思議の本やはきらきら輝く宝石のように大切な思い出になるのだから。

                           終わり
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