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延長戦。
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「それで、権左先生とはどうなん?」
「どうなんって言われてもなぁ」
なぜか延々と牛タンを焼かされている俺は、目の前にいるニヤついた顔のメガネ男子を睨む。
作家仲間でもある彼……『キノコ王子』は、累計120万部突破の超売れっ子作家であり、作品は軒並みコミカライズ化され、この秋にはその一作品がアニメ化もするという、『小説家をやろう』の中でも頂点に君臨する四天王の一人と言われている。
しかし本人曰く「俺は四天王の中でも最弱やからな」とのことだが、殿上人であることは間違いない。
ちなみに他の四天王の三人は覚えていない、一人は女子高生だった気がする。怖い世界だ。
「土下座までして告白したんやろ? そらもう青春を謳歌しまくりまくりすてぃーって」
「いや、別に今までと変わらねーし」
くりすてぃーって何だよと首を傾げると、ジェネレーションギャップ怖ぁっと叫ぶメガネ男子。いや、そんなにお前と年齢変わらんだろうが。
なぜ作家仲間が集まると焼肉なんだ。そして俺は大体焼く側に回されるんだよな。むしろ焼くのは肉じゃなくて売れっ子作家のエノキ野郎なんじゃなかろうか……などと本気で思うほど、俺は彼を妬んではいない。
なぜなら。
「彼女とはずっとラブラブだから、変わる要素ねーし」
「爆ぜろ」
菌糸野郎は氷点下の目で一声放つと、片手を上げて店員を呼ぶ。
「牛タン追加で二人前で」
どんだけ牛タンスキーなんだよ。
ため息を吐きながら諭吉さんに別れを告げ、キノコ野郎には新幹線乗り場で「次はお前が払え!」と捨て台詞を吐いて見送った。月一回の割合で会ってるけど、ここに住んだ方が良いんじゃないかってくらい東京に来てるな……アイツ……。
そして俺がその足で向かうのは、地元の喫茶店だ。
「お待たせ! ユキちゃん!」
「いえ、大丈夫です。ちょうど今日の更新分を書き終えたところで……」
ノートパソコンとにらめっこしていたユキは、俺に気づくと顔を上げてフワリと微笑んでくれる。そんな彼女に俺の顔面は崩壊の危機を迎えるものの、辛うじて笑顔を過ごすキープして彼女の対面の席に座った。
俺たち『小説家をやろう」で書き手をやっている、通称『やろう作家』の良いところの一つに、待ち合わせなどをした時に何時間でも待てるというのがある。
空き時間が少しでもあれば、その間ひたすら執筆に費やせる。喫茶店などはマンウォッチングも出来るしネタの宝庫だ。無駄な時間を過ごすということは一切ない。
むしろ筆が乗ると「もっと遅くなってもいいぞー」と思ったりするくらいだ。言わないけど。
「そうなんだ。更新分ねぇ……ユキちゃん、初稿の戻し分は終わってるの?」
「…………」
「ユキちゃん?」
「えっと、あの、気分転換……そう、気分転換で連載の方を先にやっちゃおうかと」
「はは、そっか。なら今から直しに入ろうか」
「え? 今日はこれからレイトショーの映画を観に行くって……」
「何を言ってるのユキちゃん。直しが終わったらご褒美に行く予定だったんだよ? 何もしていないのにご褒美だけ先にもらうとか、意味が分からないよ」
「はぅっ! 笑顔で詰め寄るトオヤさんカッコいい……じゃなくて! 連載分投稿したんだから、頑張ったご褒美でいいじゃないですか!」
「ユキちゃん?」
「……ご、ごめんなさい。今やります。すぐやります」
「よろしい」
その場でノートパソコンからデータを取り出し、涙目で原稿を見直すユキの前で、俺は気づかれないようにひっそりと息を吐く。
彼女の気持ちは俺にも分かる。自分が一度生み出したものを見直すのって、すごくすごく嫌な作業だ。ユキみたいにどこもかしこも直したくなる作家もいれば、俺みたいに一切直したくない作家もいる。
生み出した作品が『可愛い赤ちゃん』であるなんて幻想だ。R18作品だからという訳ではなく、俺は自分の作品を読み直すのがとにかく恥ずかしい。ひたすら恥ずかしい。
そこには自分の人生から性癖から、何でもかんでも描かれてるんだから。
俺が直したくない理由は『その時の自分の作品』を捻じ曲げたくないからだ。その時の勢いやテンポの良さを消したくはない。
「トオヤさん」
「どうしたの? 何か分からないところとかあった?」
「このまるっと文章を書き直されているのって、どうすれば良いんでしょう。そのまま差し替えるとか?」
「うーん。日本語の文章として間違ってないのなら、そのままでも良いとは思うけどね」
「トオヤさんならどうします?」
「俺ならイイトコどりする。書かれている言い回しの良い部分を、自分の書く文章に組み込んじゃう」
「なるほど……」
「ほら、俺なんてあまり言葉を知らないから、ついつい同じような言い回しになっちゃうんだよね。だからこういうのって参考になるから嬉しいよね」
「嬉しい? 直されることがですか?」
「最初は落ち込んだりしたよ。直されるってことは自分が未熟だからだし。でも一人じゃ出せなくても数人寄れば文殊の知恵っぽいのが出てくるわけでしょ? このチャンスを逃す手はないよ」
軽い口調で言う俺に、ユキは「そんな簡単なことじゃ……」とブツブツ言っている。どうも上手く伝わらないなと苦笑する俺は、あまり余計なことは言わないようにしようと自分もノートパソコンを開けて、作業に入ることにした。
「……すみません」
「ん? 何が?」
「レイトショーに行けなくなったのは私のせいなのに、トオヤさんからアドバイスもいただいて、それさえもちゃんと生かせなくて……」
パソコンの画面から視線を上げると、悲しげな顔をしたユキがしょんぼりとした様子で作業の手を止めている。艶やかな黒髪がさらりと頬にかかったのを見て、つい俺は彼女の髪に手を伸ばし耳にそっとかけてやる。俺の手が触れた頬がパッと赤くなった彼女は、驚くほど愛らしく見えた
「いや、こっちこそ初めての書籍化作業にいっぱいいっぱいになってるユキに、色々言ってごめんね」
「そんな! トオヤさんは優しくて……」
「優しくないよ。俺さ、目指しているラノベ作家ってのがあって、それは『娯楽を提供する人』なんだよね」
「娯楽を?」
「ん。だから俺の作品を良くしようとしている編集さんや校正さんの直しは、かなり重要なんだ。プロの目から見ても面白い作品にしようとしてくれているってことだから。えーと……」
やっぱりうまく言えないな。けど、ちょっとは伝わってるといいけど。
「つまりトオヤさんは小説を書いていない……あ、すみません!」
「あはは、それが一番近いかも! 媒体はなんでもいいんだ。俺は自分の描く世界で誰かが楽しんでくれたならそれで良いんだから。だからユキちゃんとはちょっと違うかもなぁ。ごめんごめん」
「そんな!!」
慌てたようにユキが身を乗り出し、顔が近くなって俺はジワリと顔が熱くなるのを感じる。この子たまにこういう無防備なところがあるから……くっそ可愛いからいいんだけど。
「あの、それは皆さん同じだと思います! どの作家さんも根底にあるのは『誰かに楽しんでほしい』だと思うんです! 読んで面白いって思ってほしい、そういうのがあると思うんです!」
「あ、あ、ありがと……えっと、近いですよユキさん……」
「トオヤさんは!! 素晴らしい小説家なんです!!」
「はい、分かりました、落ち着いてユキさん、もちついて」
「聞いてますか!! トオヤさんの作品は面白いし感動するし、爽やかでイケメンのリアルチート作家なんですからね!!」
そこから、俺がどれだけ素晴らしい作家かというのを朗々と述べるユキ。小一時間の羞恥プレイを経て、それでも止まらない彼女に対して、最終的に俺は強行手段に出ることにした。
真っ赤に熟れたユキの唇、美味しくいただきました。(キリッ)
「どうなんって言われてもなぁ」
なぜか延々と牛タンを焼かされている俺は、目の前にいるニヤついた顔のメガネ男子を睨む。
作家仲間でもある彼……『キノコ王子』は、累計120万部突破の超売れっ子作家であり、作品は軒並みコミカライズ化され、この秋にはその一作品がアニメ化もするという、『小説家をやろう』の中でも頂点に君臨する四天王の一人と言われている。
しかし本人曰く「俺は四天王の中でも最弱やからな」とのことだが、殿上人であることは間違いない。
ちなみに他の四天王の三人は覚えていない、一人は女子高生だった気がする。怖い世界だ。
「土下座までして告白したんやろ? そらもう青春を謳歌しまくりまくりすてぃーって」
「いや、別に今までと変わらねーし」
くりすてぃーって何だよと首を傾げると、ジェネレーションギャップ怖ぁっと叫ぶメガネ男子。いや、そんなにお前と年齢変わらんだろうが。
なぜ作家仲間が集まると焼肉なんだ。そして俺は大体焼く側に回されるんだよな。むしろ焼くのは肉じゃなくて売れっ子作家のエノキ野郎なんじゃなかろうか……などと本気で思うほど、俺は彼を妬んではいない。
なぜなら。
「彼女とはずっとラブラブだから、変わる要素ねーし」
「爆ぜろ」
菌糸野郎は氷点下の目で一声放つと、片手を上げて店員を呼ぶ。
「牛タン追加で二人前で」
どんだけ牛タンスキーなんだよ。
ため息を吐きながら諭吉さんに別れを告げ、キノコ野郎には新幹線乗り場で「次はお前が払え!」と捨て台詞を吐いて見送った。月一回の割合で会ってるけど、ここに住んだ方が良いんじゃないかってくらい東京に来てるな……アイツ……。
そして俺がその足で向かうのは、地元の喫茶店だ。
「お待たせ! ユキちゃん!」
「いえ、大丈夫です。ちょうど今日の更新分を書き終えたところで……」
ノートパソコンとにらめっこしていたユキは、俺に気づくと顔を上げてフワリと微笑んでくれる。そんな彼女に俺の顔面は崩壊の危機を迎えるものの、辛うじて笑顔を過ごすキープして彼女の対面の席に座った。
俺たち『小説家をやろう」で書き手をやっている、通称『やろう作家』の良いところの一つに、待ち合わせなどをした時に何時間でも待てるというのがある。
空き時間が少しでもあれば、その間ひたすら執筆に費やせる。喫茶店などはマンウォッチングも出来るしネタの宝庫だ。無駄な時間を過ごすということは一切ない。
むしろ筆が乗ると「もっと遅くなってもいいぞー」と思ったりするくらいだ。言わないけど。
「そうなんだ。更新分ねぇ……ユキちゃん、初稿の戻し分は終わってるの?」
「…………」
「ユキちゃん?」
「えっと、あの、気分転換……そう、気分転換で連載の方を先にやっちゃおうかと」
「はは、そっか。なら今から直しに入ろうか」
「え? 今日はこれからレイトショーの映画を観に行くって……」
「何を言ってるのユキちゃん。直しが終わったらご褒美に行く予定だったんだよ? 何もしていないのにご褒美だけ先にもらうとか、意味が分からないよ」
「はぅっ! 笑顔で詰め寄るトオヤさんカッコいい……じゃなくて! 連載分投稿したんだから、頑張ったご褒美でいいじゃないですか!」
「ユキちゃん?」
「……ご、ごめんなさい。今やります。すぐやります」
「よろしい」
その場でノートパソコンからデータを取り出し、涙目で原稿を見直すユキの前で、俺は気づかれないようにひっそりと息を吐く。
彼女の気持ちは俺にも分かる。自分が一度生み出したものを見直すのって、すごくすごく嫌な作業だ。ユキみたいにどこもかしこも直したくなる作家もいれば、俺みたいに一切直したくない作家もいる。
生み出した作品が『可愛い赤ちゃん』であるなんて幻想だ。R18作品だからという訳ではなく、俺は自分の作品を読み直すのがとにかく恥ずかしい。ひたすら恥ずかしい。
そこには自分の人生から性癖から、何でもかんでも描かれてるんだから。
俺が直したくない理由は『その時の自分の作品』を捻じ曲げたくないからだ。その時の勢いやテンポの良さを消したくはない。
「トオヤさん」
「どうしたの? 何か分からないところとかあった?」
「このまるっと文章を書き直されているのって、どうすれば良いんでしょう。そのまま差し替えるとか?」
「うーん。日本語の文章として間違ってないのなら、そのままでも良いとは思うけどね」
「トオヤさんならどうします?」
「俺ならイイトコどりする。書かれている言い回しの良い部分を、自分の書く文章に組み込んじゃう」
「なるほど……」
「ほら、俺なんてあまり言葉を知らないから、ついつい同じような言い回しになっちゃうんだよね。だからこういうのって参考になるから嬉しいよね」
「嬉しい? 直されることがですか?」
「最初は落ち込んだりしたよ。直されるってことは自分が未熟だからだし。でも一人じゃ出せなくても数人寄れば文殊の知恵っぽいのが出てくるわけでしょ? このチャンスを逃す手はないよ」
軽い口調で言う俺に、ユキは「そんな簡単なことじゃ……」とブツブツ言っている。どうも上手く伝わらないなと苦笑する俺は、あまり余計なことは言わないようにしようと自分もノートパソコンを開けて、作業に入ることにした。
「……すみません」
「ん? 何が?」
「レイトショーに行けなくなったのは私のせいなのに、トオヤさんからアドバイスもいただいて、それさえもちゃんと生かせなくて……」
パソコンの画面から視線を上げると、悲しげな顔をしたユキがしょんぼりとした様子で作業の手を止めている。艶やかな黒髪がさらりと頬にかかったのを見て、つい俺は彼女の髪に手を伸ばし耳にそっとかけてやる。俺の手が触れた頬がパッと赤くなった彼女は、驚くほど愛らしく見えた
「いや、こっちこそ初めての書籍化作業にいっぱいいっぱいになってるユキに、色々言ってごめんね」
「そんな! トオヤさんは優しくて……」
「優しくないよ。俺さ、目指しているラノベ作家ってのがあって、それは『娯楽を提供する人』なんだよね」
「娯楽を?」
「ん。だから俺の作品を良くしようとしている編集さんや校正さんの直しは、かなり重要なんだ。プロの目から見ても面白い作品にしようとしてくれているってことだから。えーと……」
やっぱりうまく言えないな。けど、ちょっとは伝わってるといいけど。
「つまりトオヤさんは小説を書いていない……あ、すみません!」
「あはは、それが一番近いかも! 媒体はなんでもいいんだ。俺は自分の描く世界で誰かが楽しんでくれたならそれで良いんだから。だからユキちゃんとはちょっと違うかもなぁ。ごめんごめん」
「そんな!!」
慌てたようにユキが身を乗り出し、顔が近くなって俺はジワリと顔が熱くなるのを感じる。この子たまにこういう無防備なところがあるから……くっそ可愛いからいいんだけど。
「あの、それは皆さん同じだと思います! どの作家さんも根底にあるのは『誰かに楽しんでほしい』だと思うんです! 読んで面白いって思ってほしい、そういうのがあると思うんです!」
「あ、あ、ありがと……えっと、近いですよユキさん……」
「トオヤさんは!! 素晴らしい小説家なんです!!」
「はい、分かりました、落ち着いてユキさん、もちついて」
「聞いてますか!! トオヤさんの作品は面白いし感動するし、爽やかでイケメンのリアルチート作家なんですからね!!」
そこから、俺がどれだけ素晴らしい作家かというのを朗々と述べるユキ。小一時間の羞恥プレイを経て、それでも止まらない彼女に対して、最終的に俺は強行手段に出ることにした。
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