歪んで捩れて受け入れて。 《短編シリーズ》

平凪 空

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出会い[3]《千影✕和颯》

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「和颯ぁ、食堂行こう。」

 痴漢騒動ちかんそうどうからなんだかんだ少し経って1ヶ月半。
事情聴取を一通り終えた和颯はなんとか次の電車に乗り込み入学式に間に合った。

『あの日のことは色々ありすぎて、今でもたまに悪い夢だったんじゃないか⋯なんて思っちゃうんだよな~。』

大学で新しく知り合った友人と食堂に向かいながらふと思い返す。
緊張してるのに痴漢騒動に巻き込まれるわ、痴漢加害者ちかんかがいしゃを捕まえるために全力疾走するわ、余裕をもって家を出たはずが入学式にはギリギリに着くわ、キャンパスを見て回ろうとしたらサークル勧誘の嵐にあうわ、ほんともうあの日は⋯と。

確かに踏んだり蹴ったり。
でも困ってる人を放っておくことも出来るはずがなかった。
しかもその困っている人が他でもない自分にしがみつき助けを求めて来たとなれば尚更のこと。
そんな自分の性分を別に厄介やっかいだとは思ったことはない。

『まぁ事を切り抜けるのは下手だし、まだまだ克服こくふくの余地があると思うけど。⋯いや克服の余地しかないか。』

でも、流石に1ヶ月半も経つのに未だにあの日のことを無意識に思い出すのは⋯。

『やっぱり、あの人の事が気になってるのかな⋯。結局お礼出来ずじまいのままだし⋯。』

あの時痴漢を転けさせて助けてくれた男性__。

【また、すぐ会うよ。】

そう言ってたけど、名前も知らないしそう簡単に会えるわけない。
たまに助けられた駅に降り立ち探してみたりしたけど、見つけることは出来なかった。

「_。_い、おい和颯!」

「えっ?」

友人の呼びかけにハッと我に返る。
唇を尖らせながら、むくれる友人に誤魔化すように笑顔を作りびる。

「和颯ってたまにボーっとしてるよな~。」

『ま、いいけど。』と友人は肩をすくめる。

「それより今日何食う?」

食堂に着いて『日替わりもいいけど、肉とかの定番定食もいいよな~!』と目を輝かせながらはしゃぐ友人の様子を見て『ふっ』と微笑む。
が、何やら食堂内が騒がしいことに気がつく。

「なんかやけに騒がしくない?」

「え?和颯って宝城先輩のこと知らねーの?」

「宝城先輩?芸能人か何か?」

おいおいほんとに知らねーのかよ⋯と友人は呆れ顔を浮かべる。

「なーんか女子らが見かける度に騒いでるんだよ。ま、悔し⋯男から見てもあの顔面やスタイルは人目を集めるとは思う。けど、別に芸能活動してるとかではないらしいよ?ただ良い話は聞かないけどな。」

和颯は友人の説明を聞きながら『詳しいな。』と感心する。
友人は慌てながら『ちっげぇ!女子が噂してんのがたまたま聞こえて来るんだよっ!』と弁解する。
慌てる様子を不思議に思いながらも話を戻す。

「良い話は聞かないって?」

「ああ、なんか来るもの拒まずで告らなくても相手してくれるけど何股もしてるとか。パチンカスのヒモだとか。酒飲んだら人が変わってDVしだすとか。ま、要はクズだって噂。」

「それはまた見事な⋯」

友人の話を聞いて自分の顔が引きつるのが分かる。

「嬉しいなぁ~。俺の話してくれてんの?」

「「ぅわあ!?」」

和颯と友人が座っているテーブルの席にいつの間にか、男性が一人頬杖ほおづえをつき笑みを浮かべている。

「あっ!あなたはあの時の!?」

和颯は1ヶ月半前のことを思い出した。

「やほー。久しぶり。」

「あなたが宝城先輩⋯ですか?」

「そだよ~。宝城ほうじょう 千影ちかげ。3年。」

千影はひらひらと手を振り微笑む。
友人は突然の状況を飲み込めない様子で『えなに二人知り合い?え?』と和颯と千影を交互に見ている。

「あのぉ⋯それで宝城先輩は俺達に何か⋯?」

女学生の視線を感じ和颯は恐る恐る千影に尋ねる。

「千影って呼んでよ。君たち二人にって言うよりは和颯に、だよ。」

「え?俺ですか?」

少し目を見開き驚く様子の和颯を見て千影は再び笑みを浮かべ『ちょっと二人で話そう。』と席を立ちスタスタと歩き出す。
友人に『ごめん、また後で。』と理を入れ、置いて行かれまいと慌てて千影の後を追う。


 「さて、と。ここならいいかな~。」

言われるがまま千影の後を付いて行き辿り着いたのは資料保管室しりょうほかんしつだった。
室内は勿論もちろん、廊下も、どこにも人の気配はない。
和颯はなぜこんな人気のないところにわざわざ?と疑問を抱いたが、あの日の恩人がまさか同じ大学の学生だったなんて思いもしていなかった。
入学後、度々人だかりを遠目にしたことはあるが同一人物だとは知るよしもなかったのだ。
特に女性が多い人だかりは避けてきたから。

「あの、あの日は本当にありがとうございました。まさか同じ大学とは知らなくて⋯」

「いいよん。言った通りすぐ会えたっしょ?」

「えぇ、確かに。」

和颯は口元に手を当てながらふふっと小さく笑う。
その様子を見て千影が一瞬優しく微笑んだことには気づかずに。
千影は直ぐに微笑みから含み笑いに表情を変え『ところで⋯』と口を開く。

「お礼のこと忘れてないよね?」

「勿論です!遅くなってすみません。あの日に言ったことは嘘じゃありません。」

「何でもするってやつ?」

そう確認する千影の口角が、心做こころなしか更に上がったように思えた。

「じゃあさ、俺と付き合って?」

胡散臭うさんくさい笑みを浮かべながら首を傾げる。
突拍子とっぴょうしもないことを言われ和颯には直ぐに理解することが出来なかった。
想像していた内容と違いすぎたのだ。

「ええ⋯っとぉ、それは、例えば買い物に付き合えとか⋯合コンに付き合えとか、そういう⋯?」

呆気に取られながら問いかけると千影は一切表情を変えることなく首を横に振る。

「違うよ~。交際。純不純同性交遊じゅんふじゅんどうせいこうゆう。彼氏と彼氏ってこと。」

「ええ!?交際って⋯」

和颯は驚きのあまり目を見開く。

「これはお礼の話だから和颯に拒否権はないし、それに~⋯言ったことを曲げるなんてことしないよね~?」

「うっ⋯確かに何でもすると言いました。でも先輩は女性が好きなんじゃ⋯!?」

千影は納得したようにゆっくりと数回頷く。

「気になってるのはそこかぁ~。女の子ってふわふわむちむちしてて一緒にいて気持ちいけど、色々面倒くさいんだよね~。」

「⋯俺なら面倒くさくないっていうんですか?」

「だって、和颯は困ってる人を見捨てられないっしょ?俺困ってんの~。」

資料保管室の中、無造作に配置された作業用机に浅く腰を掛け千影は『あー』と項垂うなだれる。

「一回ヤッたくらいでみーんな自分が彼女って言い出すしさ~。男共おとこどもからは自分の女に手ぇ出したとかっていきなり喧嘩けんか吹っ掛けられるしぃ~。だからテキトーに来るもの拒まずで相手してたら浮気とかってビンタされたり~。この前なんか怖かったんだよぉ?女の子4人位で俺待ち伏せててみんなして『あたしが一番って言ったじゃん!』って問い詰め放題。俺泣くかと思っちゃったもん~。」

どうやら友人から聞いた通りの人物らしいと和颯は呆れながら小さく息を吐く。

「それは全部、宝城先輩が自分で蒔いた種ですよね?そもそも女性が好きなら女性と付き合うほうが良いと思います。俺には関係ないので、お礼の件はもっと違う内容を考えてください。では友人を待たせているので失礼します。」

そう言い切ると資料保管室を後にすべくきびすを返し出入り口に向かう。
和颯が扉のドアノブに手をかけ少し開けた瞬間__。

バンッ!!!

背後から千影が片腕では和颯の肩を包むようにホールドし、もう片手で勢いよく扉を閉めた。

「言ったじゃん。拒否権はないって。あとさぁ⋯」

ドサ!

「千影って呼んでって。」
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